戦艦レ級 カ・ッ・コ・カ・リ(仮タイトル)   作:ジャック・オー・ランタン

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残った休日で力を振り絞りました。

今話から他作品のキャラが出てきます。今の自分の実力では、オリジナルのキャラを作って海軍の人間関係を作るなんてできないからです。なので他作品のキャラをモデルにしています。


政府の上層部や裏社会の重鎮とかが集まって主人公のことについて討論したり、脅威に感じたりするシチュエーションが大好きです。そういう意味では『オーバーロード』10巻は完璧でした。


03 迫りくる海軍の追撃

 

 

てっち、てっち、てっち、てっち

 

異形を持つ少女が歩いている。

 

てっち、てっち、てっち、てっち

 

彼女が歩いている姿は・・・・その・・・・陸に上がったペンギンを思わせる。

 

バランスを取るためか、尻尾の先端は彼女の頭上に位置しているようだ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・歩きづらい・・・・・・・・

 

分かってはいたけどこの体、陸上活動にはあまり向いてないのかもしれない

水中では割と自由に動けていたけど陸はねぇ・・・・

慣れない体だから、だといいんだけど・・・・

でかい尻尾がある分、こうなるのは当たり前だったんだ。それを考慮しなかった自分の落ち度としか言いようがない。

さっそく躓いて心がくじけそう・・・・

 

今自分は島にある森の中を歩いている。

歩いてすぐに整備された、アスファルトで舗装された道に出会った。少なくともここは無人島ではないと分かったのには安心した。

これなら人とコンタクトができるだろう。

それでここがどこかを何とか聞き出して・・・・。

 

 

聞き出して・・・・・・・・

 

 

今の自分はなんだ・・・・?

 

この姿を見てまともにコミュニケーションが取れるのか?

 

少なく見積もっても同じ人間だと思われるなんて万に一つの希望もなさそうなんですけど。

この白い肌、異形の足、何よりこの尻尾・・・・ッ!

ついでにこの格好ッ、客観的に観たらなんだこれ・・・・痴女かッ!

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・どうしよう・・・・・・・・

 

こ、この見た目幼女の姿でプラマイゼロにならないかなぁ(震え声)

 

駄目だ・・・・考えるほどネガティブな方向にもっていかれる・・・・

 

逃走、迫害、捕縛、人体実験・・・・

 

ポジティブな発想が出てこない。

異星人とか、生物兵器とか、そのあたりだと思われるのが関の山なんじゃ・・・・

 

いったいどうすれば・・・・

 

う~~~む・・・・

 

あまり難しいことを考えるのは苦手だ。とにかく行動しなければ何も始まらない。

「なんくるないさー(なんとかなるさ)」って”我那覇響(がなはひびき)”も言うじゃないか。

とにかく、ファーストコンタクトは慎重に、最悪なものは絶対避けなければならない。

いざとなれば海に逃げればいいんだ。

さすがに深海に逃げればそうそう捕まらないだろう。

あらためて出発だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長崎県 佐世保鎮守府

 

廊下を歩く男性がいる。

 

良く鍛え上げられた体に海軍の白い軍服を纏い、頭の側面は刈り上げ、顎にはひげを生やしている。

そんな大柄な人物だが、その顔は精悍ながらも柔和な印象を持つ。

 

彼の名はシノハラ、この佐世保鎮守府の司令官である。

 

彼は緊急の会議に出席するため、とある部屋に移動している。

やがてそこにたどり着き、中に入る。そこは近未来なデザインの部屋だ。円卓の大きなテーブルには椅子が一つしかない。その代わり、テーブルを囲うように等間隔に何らかの装置が地面についている。

席に着き、しばらく待機していると部屋が暗くなる。

そしてテーブルの傍にある装置から立体映像が映りだし、各鎮守府の提督たちがそろってきた。

 

―――――相変わらず凝ってるよなぁ―――――

 

この部屋は妖精によって作られた。

彼?(彼女?)等は独自の技術や異能を持つ。

 

いまだに妖精についてはわからないことが多い。

掌に乗る程度の大きさで、二頭身の人型の生き物。楽しいことが好きでその場のノリと勢いで行動することが多い。そのせいか、昔は見えない人たちにちょっとしたイタズラをしでかしていたとか。

妖精たちには”個”というものがなく、死という概念も薄い。生殖などはせず、自然と発生しているだとか。

”思考共有”という異能があり、想いや知識などを共有しているそうだ。

そのような異能があるからか、妖精たちが持つ技術力と生産力は我々人類には到底真似できないような水準にある。

このように大してよく知らず、未知で溢れている存在である。

だが人類の危機に対して多大な貢献をしてくれているのは確かで、艦娘という深海棲艦に対する対抗手段を我々にもたらしてくれた。

そして我々のような霊力を持ち妖精を認識できる人間達に協力してくれる。そのことに関しては本当に頭が上がらない。

 

ただ。

 

さっきも言った通り、妖精たちは楽しいことが好きでその場のノリと勢いで行動することが多い。

その制作意欲についてもムラがあり、無駄としか思えない発明から大変に時代錯誤な、平たく言えばSF映画に出てきそうな代物が創造されている。

この部屋にしてもそうで、おそらくは『スターウォーズ』に影響されたんだろう。実に妖精らしい理由だと思う。

だが、遠距離にいる者たちとこうして本当にそこにいるような感覚で話し合いができるのはありがたいと思う。人類もテレビ電話のような手段を持っているが、生身で話し合うような”これ”とは比較にならない。

 

 

 

 

 

「さて・・・・始めようか。」

 

言葉を切ったのは今会議の代表である海軍本部のワシュウ大将である。

 

「今会議の議題は駆逐されたと思われた戦艦レ級特異個体”悪魔”の生存についてだ。」

 

出席している全員の空気が張り詰める。

 

「事の始まりはシノハラ中将率いる佐世保鎮守府所属の遠征組の旗艦、軽巡洋艦『那珂』が南方海域に”悪魔”討伐後の海域調査に遠征、後にソロモン諸島南部の島の海岸線にて”悪魔”の発見に至った。」

 

信じたくなかった事実を突き付けられ、全員の顔色は思わしくない。

 

「本当にソレは”悪魔”なのでしょうか?新しく生まれた個体では?」

 

異を唱えたのは最近少将になったホウジ少将である。

 

「可能性がないとは言わないが、低いだろう。だとしても駆逐されて3日しかたっていない。」

 

だがその意見を切って捨てるのはマルデ中将。

 

「戦艦レ級、奴についてはその個体の強さもあって幾度も調査がなされた。そして統計して奴が駆逐されてから再び現れるのに約1か月のスパンがかかると分かっている。」

 

「しかし統計でそう判断するのは早計じゃあないかね?」

 

そう割り込むのはマド少将、最近までとある理由から中佐の位で止まっていたが、一気に階級を上げ少将に昇格したやせぎすの中年だ。白髪で猫背の不健康そうな印象を持つ。その顔には笑みを浮かべており、より不気味さが際立つ。

 

「どういうことだ?マド。」

 

「行ってしまえば”勘”だよ。たしかにあのときは大混戦だったがね、たしかに駆逐されたはずなんだ。」

 

「・・・・・・・・。」

 

「”悪魔”については私も見ている。」

 

「うむ。」

 

シノハラ中将に続き、クロイワ中将も肯定する。

二人とも”悪魔”討伐作戦の後半戦に参加し、その最後を見届けた。

 

「フーーム、しかし仮にソレが生還(サバイブ)した”悪魔”であれば大事だ。」

 

「あぁ、奴に回復の機会を与えることになる。」

 

タナカマル中将の言葉に唯一の女性提督アウラ中将が続く。

 

「よし、とにかく此度発見された戦艦レ級は”悪魔”と仮定する。あの戦いから生還したとしても瀕死だったはずだ。回復しきっていない今叩く。現在出せる逸脱級の艦娘は?」

 

「自分といわっちょは大丈夫、機動部隊が出せるよ。」

 

「うむ。」

 

ワシュウ大将の質問にシノハラ、クロイワ両提督は答える。

 

「私は先の作戦でだいぶ消耗した。出せるのは1艦隊分だけだ。」

 

「私も同じです。」

 

続いてマド、ホウジ両提督も答える。

 

「こちらは我が主力の『金剛4姉妹』の傷が癒えていない。艦隊は出せそうにもないよ。」

 

「こちらもだいぶ轟沈したものがいる。悪いが参加は無理だ。」

 

タナカマル、アウラ両提督は戦力の不安により参加を断念する。

 

そして。

 

「・・・・俺も1艦隊分だけだ。」

 

マルデ中将の戦力が明かされた。

 

「全部で42か・・・・”悪魔”相手には不安が残るが、少数精鋭での強襲が望ましい。」

 

「下手に数出しても無駄死にですもんね・・・・。」

 

 

 

”悪魔”

 

 

 

過去、深海棲艦の出現から30年以上が経つ中、SSS(トリプルエス)レートの認定を受けたのは”悪魔”を含めたった3体のみ、”カニバル”、”(フクロウ)”、そして”悪魔”。

 

最初のSSSレート”カニバル”、ハワイ近海を中心に猛威を振るった深海棲艦だ。

当時まだ艦娘も誕生して数年ほどしかたっておらず、運用方法も模索中であり、錬度も高くはなかった。

故に奴の成長を止めることができず、史上初のSSSレート認定を受けることになる。

艦種はもともと駆逐艦だったと思われる。艦娘の捕食や共食いなどで魂を取り込み、自身を急速に強化する特性を持っていた。

そのせいで醜く肥え太り、見る者を不快にさせる、外宇宙的恐怖を呼び起こしそうな姿を取っていた。

 

最終的に倒すことができず、南アメリカ大陸に上陸、あたりを蹂躙し北上、北アメリカに渡ろうとしたところをアメリカ軍が費用度外視した爆撃機による飽和爆撃を敢行、しかしそれでも倒しきれず、最終手段の核弾頭ミサイルの使用に至り、ついに駆逐に成功する。

この一連により、世界は深海棲艦の脅威を再認識するに至ったのだ。

 

2体目のSSSレートである”梟”もしくは”隻眼の梟”と呼ぶ。

 

今から10年以上も前にその存在が確認され、世界各地を襲った深海棲艦。

空母ヲ級の特異個体。

奴から溢れる出る霊力の気炎が梟の羽毛に見えたとこから”梟”というネームドになった。

かつてクロイワ提督の艦隊により一度深手を負わせ、撃退することに成功。その際左目に修復不可能な損傷を受けたのか、隻眼となり失った眼孔から気炎を発することから”隻眼の梟”とも呼ばれる。

その強さはまさに一騎当千で艦載機の数と強さは他の追随を許さなかった。頭部の艤装に付いている触手はブレード状になり、振り回し近距離にも対応している。それだけでなく、奴は長年の成長により霊力で弾丸を形成し、自由に弾幕を作り飛ばす特性を得ていた。遠、中、近距離に対応できる隙のない強敵だ。

それだけでなく、奴はSS(ダブルエス)レート級の特異個体(ネームド)を、戦艦ル級の特異個体(ネームド)である”黒狗(クロイヌ)”を始めとした複数の強力な深海棲艦たちを従えていた。

その被害規模や危険度から第二のSSSレート認定を受けることになる。

 

最終的に奴らの潜伏先を発見し、大規模作戦を決行、SSレート級の特異個体(ネームド)を切り離し確固撃破、鍛え抜かれたマルデ提督の旗艦『摩耶』率いる対空要員たちによって”梟”の艦載機を削り、シノハラ、クロイワ、マドの3提督の機動艦隊によって追いつめたが、当時最近になって話題になっていた重巡ネ級特異個体(ネームド)”ムカデ”が乱入、混戦になったが”梟”が消耗したところをホウジ提督の機動艦隊によって止めを刺し、約10年にわたる戦いに終止符が打たれ遂に駆逐された。

この功績によりマド、ホウジ両提督は少将へと昇進した。

 

そして最後のSSSレート”悪魔”

 

戦艦レ級の特異個体である深海棲艦。

 

ソロモン海北部を中心にしか生息しないはずの戦艦レ級だが、この個体はその例から外れ積極的にその近海を蹂躙し暴れまわった。その際、トラックやラバウルなど複数の泊地が落とされる。

その脅威にオーストラリアに在住するすべての機動艦隊がたった一体に向けられたが、そのあまりの強さにオーストラリアの艦娘はその四割以上が轟沈することになった。

日本はオーストラリアと一か月以上にわたって戦い続けた戦艦レ級の消耗を機に、一気に畳み掛けるため大規模討伐作戦を敢行。

そうして日本の上位戦力の機動艦隊と支援艦隊、合計して一千人近い数の艦娘たちが二週間以上にわたって奴を追い詰め、遂に駆逐に成功したと思われた。

艦娘の所有数、錬度ともに最高であるはずの日本ですら奴に二割近い艦娘を殺され、半数以上を中大破に追いやられたのである。

たった2か月で”梟”の10年分に及ぶ被害と同格の損害を、たった一体によってもたらした奴には満場一致でSSSレートの烙印を押され、そのおぞましいほどの強さから”悪魔”というネームドが付いた。

 

上記の3体から分かるようにSSSレートとはほかの深海棲艦とは本当に格が違う。

 

”悪魔”とは先の大戦によって日本もその戦力を大きく削られてしまった。

2か月も戦い続けることができた奴が傷を完全に癒し、その猛威を再び振るうことになれば今度こそ日本は敗北するであろう。

そのようなことはあってはならない。故にこの少数精鋭による迅速な追撃作戦は決行された。

そして少将以上による会議は終わり、対”悪魔”への追撃が整おうとしている・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

てち、てち、てち、てち

 

異形を持つ少女が歩いている。

 

てち、てち、てち、てち

 

慣れない体で歩くのに慣れたのか、ぎこちなくも先ほどよりかはスムーズに歩けている。

 

「♪~~~♪~~~~」

 

それがうれしいのか、思わず鼻歌を歌っている。

そう、歌っているのである。

声を発することはできないが、鼻歌は声帯を使わないので出すのに問題なかった。

鼻歌とはいえ歌うことができたのも上機嫌の一つである。

 

それに道の横を見ればその目に映るもの。

近づいて見てみれば、それはかつて第二次世界大戦時に用いられたのであろう戦争の遺物がそこにあった。

戦闘機だろうか、錆びて朽ちたその機体を横たわされている。少し離れているところには移動できる砲台が。

これを見て彼女はますますここが地球、それも中世ではなく近代以降であることに確信を持ったのだ。

前話で艦載機を発見していたことを突っ込んではいけない。

 

こういったものは昔の写真で見たことがある。

確か歴史の教科書にこんな感じのものがあった記憶がある。どこだっただろう、ベトナムとかその辺だったか。昔から歴史関係は壊滅だからいまいち信用できない。

一時期クイズゲームに(はま)ってた時期があって雑学には少しだけ明るい程度。

そう思いながら操縦席の中を覗きつつかつての戦跡に思いを馳せる。

 

このように整備された道があるなら町とかあってもおかしくない。

そこに行き慎重にファーストコンタクトを終えて現在地を知りたい。

そしてできれば日本に帰りたい。

さらにできるならなぜこのような姿になったのかも知りたい。

 

目的ができたことで気持ちに張りができてくる。

いざゆかんと(いさ)み歩みを再開する。

しかし彼女の思惑はしばらくして頓挫することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長崎県 佐世保鎮守府

 

会議を終え、急ぎ自身の艦娘たちに作戦の通達のため指令室に移動するシノハラ提督。

その途中、彼を呼び止める者がいた。

 

「シノハラさん、会議は終わったです?」

 

振り返るとそこには自分の部下が駆け寄っていた。

 

中性的な見た目をしているが、男性である。

彼の名はスズヤ、この鎮守府の司令官代行である。

まだ幼さの残る顔立ちだが彼はちょうど20歳になる。

 

「スズヤか、ああ、ちょうど終わったところだよ」

 

「そうですかー。出撃です?」

 

「・・・・ああ、それも飛び切りやばいやつね。」

 

「ふーん・・・・”悪魔”ですか?」

 

「ッ、察しがいいね、そうだよ。」

 

今でこそこうして穏やかな関係を築いているが、ここに配属された当初は本当に手を焼かされたものだ。

霊力の才能がずば抜けているが、論理感に問題がありたびたび問題行動を起こしていた。

警察とはいえ、民間人にも被害を出したりと頭を抱えることになったのは一つや二つではない。

 

「僕も出れますか?」

 

「いや、今回は少将以上の艦娘たちで行く。残念だけど待機ね。」

 

「ちぇ~~。」

 

「なに、今回は相手が相手だ。我慢してくれ。」

 

「・・・・は~~い。」

 

ふう・・・・と内心安堵する。

半年前の”梟”討伐戦時からだいぶ態度が柔らかくなり扱いやすくなってきているが、今までの問題行動がシノハラに何かしでかすんじゃないかという先入観を作っていた。

もう落ち着いてきてるんだからと今後の付き合い方を見直そうと気をとりなす。

 

「さて、こうしちゃいられない。さっそく艦娘たちに通達だ。ジューゾーも自分の艦娘たちに待機命令ね。」

 

「りょーかいですー♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐世保鎮守府 港湾

 

「みんな、準備はいい?」

 

この艦隊の旗艦である少女は最後の確認をする。

黒い三つ編みを前に垂らし、その青い目で残りの残りの艦娘たちを見つめる。

 

「もう準備オーケーっぽ~い。」

 

それに応えるのは彼女の姉妹である艦娘。

髪の先端が桜色に染まったクリーム色、血のような真っ赤な瞳は快活と狂気を不思議と両立させている。

 

「うん、旗艦『時雨』抜錨する!」

 

その一言を皮切りに、残りの艦娘たちがきれいな隊列を組み発艦していく。

そうして彼女たちは強敵のいる水平線へとその姿を小さくしていった。

 

その姿を不安そうに見つめていた艦娘が一人。

遠征任務から帰ってきた『那珂』である。

 

今出撃した彼女たちは強い。

現在活躍している艦娘たちの中でも上から数えたほうが早いぐらいだろう。彼女たちを率いている提督は海軍の中でも上位の大ベテランで”不屈のシノハラ”と呼ばれている。

さらにシノハラ提督の艦隊にも勝るとも劣らない精鋭たちも参加しているのだ。

きっとうまくいく。そのはずだ。

だが、それでも彼女は不安を(ぬぐ)えない。

 

彼女は3日前の”悪魔”討伐作戦に支援艦隊として参加していた。

2か月も奴を消耗させ続け、彼女が参加するころはすでに最終局面を迎えていた。

だが奴は2か月も戦い続けているにもかかわらず、その勢いはまるで衰えているようには見えなかった。

もうほとんど兵装も底をついているにもかかわらず、奴はその圧倒的なパワーで艦娘たちを蹂躙していた。

砲撃などお構いなしに突っ込み、艦娘の体を引きちぎり、盾にし、ほかの艦娘に放り投げ、その尻尾で艤装ごと噛む砕く。

あの惨劇を思い出し、思わず体を掻き抱く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日前 ソロモン海北部

 

 

 

ドォンッッ!!    ドドォンッッ!!!

 

夕暮れの中、絶えず砲撃音が鳴り響く。

 

ガガッ!  ガガガガガガガガガッッ!!

 

その日の海は本来青いはずの海面が赤黒く染まっていた。

それは夕日によるものではない。あたりには何かの機械の部品らしきものと一緒に人の体の一部であろう肉片が数えきれないほど散らばっていた。艤装をつかんでいる手は、本来繋がっているはずの体から分断され、プカプカと浮いている。

海に染まっているのは血かオイルかわからないほどで、この惨状がいかに凄惨なものなのかを教えてくれた。

 

「こっちを見ているッ!態勢を整えろ!!」

 

艦娘たちがまとまって機銃を放ち、弾幕を作る。だが、機銃を向けられた相手は意に介さず突っ込んでゆく。

弾丸が次々奴に吸い込まれ、勢いが緩む。

その機を逃さず、戦艦たちがその主砲をぶちこんだ。

 

「チャンスネ!!全員、一斉斉射ッ!バァーーニングラァァァァァヴッッ!!!!」

 

「「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!」」」

 

金剛姉妹を代表し、名だたる猛者たちがその圧倒的な質量の弾丸を繰り出した。

肉眼で目視できる距離からの一斉射撃、世界でも最高の錬度を誇る彼女たちは勢いの緩んだ標的を外すことはない。次々着弾し、飛沫で目標の姿が見えなくなる。

 

 

「・・・・やったんですか?」

 

「これで終わり(フィニッシュ)?ンなわけないでしょ・・・・ッ」

 

戦艦『金剛』は苦い顔を隠さず呟く。

2か月も補給なしで艦娘たちを蹂躙したあの化け物がこの程度で墜ちるはずがない。せいぜい多く見積もってもダメージにはなったといったところだろう。急ぎ近くの泊地を突貫で復興させ、何度も出撃と撤退を繰り返した者たちはあの怪物の異常ぶりを嫌というほど知っている。

複数の機動艦隊を奴にぶつけ、消耗すれば控えていた艦隊と交代し補給に向かう。艤装をまともに出せなくなっている奴に有効な戦術で確かにあの化け物の命を削っているはずなのだ。だというのに奴は凶笑をその顔に浮かべ、向ってくる。一向に倒せる様子がないこともあり艦娘たちの士気は日に日に下がっていた。

 

ドバァッッ!!!

 

海面が爆発し、飛沫をかき分け、怪物がやってきた。

油断はしていなかったはずなのに反応が遅れた。度重なる戦闘で入渠では誤魔化せない精神的な疲労が、彼女たちの反応速度を鈍らせていたのだ。

 

ビュッ!  ガヂュッッ!!

 

「ぎぃッぃ・・・・ぃがぁぁぁぁぁっァァァァァッッ!!!!」

 

「榛名ァァァァァッッ!!!」

 

奴から伸びた尾顎が戦艦『榛名』の左半身に食らいつき、メチメチ・・・・と嫌な音が響いてくる。

 

「姉さんを・・・・離しやがれェぇぇぇぇぇぇッッ!!!!」

 

眼鏡をかけたその妹が目を剥き、突っ込む。

砲弾を装填してからでは遅い、霊力を拳に全振りし、奴の体に打ち込もうと振りかぶる。

戦艦『霧島』の接近に気づき、奴にその拳が撃ち込まれようとしたとき奴の腕がぶれた。

 

グヂャァッッ!!

 

「――――――――」

 

一瞬、何が起きたのかわからなかった。しかしすぐに殴ったはずの右腕に激痛が走る。

見ると拳がひしゃげて指が折れ曲がり、肩は脱臼していた。肘に至っては腕の肉を突き破り、骨が飛び出している。

 

「~~~~~~~~ッッ!!!」

 

激痛のあまり体は硬直し、汗が噴き出る。

奴はこちらが殴るのを合わせて同じく殴ったのだ。拳同士がぶつかり合い、結果はみての通り。しかもこちらはフルパワーで殴ったのにもかかわらず、向こうはとっさに腕を突き出しただけ。整っていない体勢で碌に腰も入っていないはずなのにこれとは・・・・

 

「こッの―――化け物がぁ・・・・」

 

だがほんの一瞬でも時間は稼げた。奴の頭部に直接砲身が突き付けられる。

 

「いきますッッ!!!」

 

ズガァァンッッ!!!!

 

奴の頭部が視界からぶれ、勢いよく吹っ飛ぶ。霧島が注意を引いている隙に戦艦『比叡』の主砲が装填を終え、奴に一撃を喰らわせたのだ。

そして奴に噛みつかれた榛名は衝撃で解き放たれ、海面にへたり込む。

 

「榛名ッ!!無事デスか!?」

 

「は・・・・ぃ・・・は・・るな・・・は・・・・だ・・ぃ・・・じょ・・・・ぶ・・・で・・す・・・。」

 

どう見ても無事ではない。左腕ごと脇を喰いちぎられ、砕けた肋骨と肺が露出している。人間なら確実に致命傷だ。ひゅー、ひゅー、と息が浅く目がうつろなのを見て、早く入渠しなければ危険だと判断する。

 

「比叡!!霧島を連れて撤退デス!!・・・・比叡?」

 

呼びかけた妹を確認すると彼女はおなかを抱えてうずくまっていた。

 

「お・・・・ねぇ・・・ざま・・・・ガブゥッ!」

 

「比叡?!」

 

榛名を抱えたまま比叡に近づくと、彼女は大量に吐血したままおなかを抱えていた。腹部を見ると艤装の破片だろう物が比叡のお腹に深々と突き刺さっていた。

 

「あい・・・つ・・・吹き飛ぶ、さいッ、榛名のをッ。」

 

それを聞き愕然とする。奴はあの一瞬、榛名の艤装を引きちぎり、鋭くなった部分を比叡に突き刺していたのだ。

けがの具合から確実に内臓を損傷している。比叡もこのままでは危ない。

 

「霧島!!重症なところ悪いですが比叡を頼みマス!撤退しますヨッ!!」

 

さすがのアイツも頭に直接戦艦の主砲を受けてふらついているようだ。この隙に後方に控えているものと交代する。

タナカマル提督率いる艦隊は残りの二航戦が奴を牽制し、撤退する。

 

そして

 

「僕たちの出番、だね。」

 

「今度こそ、終わりっぽい。」

 

「クロイワ提督のところの長門さんも、頼みましたよ。」

 

「うむ・・・・ッ!。」

 

シノハラ、クロイワ両提督の艦隊は、奴との最終局面を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽巡洋艦『那珂』は奴に怯える。

彼女は支援艦隊として後方から奴に攻撃を加える。だが奴はしっちゃかめっちゃかに動き回り、攻撃が当たらない。それどころかこちらに近づいており、那珂の顔に焦燥が浮かぶ。

逸脱した艦娘でない自分では奴の一撃に耐えられない。一瞬で肉片になるだろう。

肉眼ではっきり見えるほど近づくと、奴の思念が伝わってくる。

 

 

タノシイ

 

 

モット・・・・

 

 

モット・・・・ッ!

 

 

これだ。

これが艦娘たちの士気を大きく下げているのだ。

わざとなのか無意識か知らないが、奴は”思考共有”で周りにいる者に自分の思考を振りまいている。

攻撃を与えて追いつめているはずなのにこれのせいで挫けそうになる。2か月も削り続けているはずなのに、永遠に動き続けるんじゃないかと錯覚してしまう。

そんなはずはない、そんなはずはないのだ。

そう自分に言い聞かせながら那珂は砲を撃ち続ける。今自分は酷い顔をしているだろう。視界にはクロイワ提督の支援艦隊たちが奴に鎧袖一触でバラバラにされている。ふと空が暗くなるのに気付き、次の瞬間、何かにぶつかり後ろに倒れる。奴から目を逸らしてはいけないと焦り、覆いかぶさっているものをどかそうと()()を見てしまった。

()()は艦娘だったものだ。下あごから上が喰いちぎられ、歯は剥き出し、ベロとのど奥が見えてしまい、那珂に向かってあかんべーをしていた。

思考が止まり、支えていた手が緩み那珂の胸に被さる。ずり落ち、断面から溢れる血液が那珂の服を汚し、滲ませた。

 

そこまでだった

 

「ヴァァァァァァァァァッッッ!!!!」

 

遂に那珂の何かが切れ、半狂乱になってむちゃくちゃに撃ちまくる。

もう当たることなど考えてない、アンナフウニナリタクナイ。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァッッ!!!!」

 

顔を醜く歪ませ、いろんな体液で汚していた。

 

 

 

 

 

気付けば自分はもう弾の出ない砲の引き金を引き続けていた。

あたりがやけに静かだ。

思考の鈍った頭で周りを見てみるとほとんどの艦娘が海面にへたり込んでいる。

あいつは・・・・あいつはどこにいった?

逃げたのか?

あいつが?

見るとお互いを抱き合いむせび泣いている艦娘がいる。海の上で大の字になり浮かんでいる艦娘がいる。どの艦娘を見てもその顔には喜色が読み取れた。

ここまで来るとまさか、と勘づく。

自分の艦隊の旗艦を捜し、見つけ近づく。ふらふらとおぼつかずに彼女に、駆逐艦『時雨』に近づいた。近づく那珂に気付いた時雨は彼女の言葉を聞く。

 

「・・・・・・・・終わったの?」

 

その顔には信じられないという表情が張り付いていた。

時雨はその質問に満面(まんめん)の笑みで答える。

 

「ああ、終わったよ・・・・終わったんだ・・・・ッ!」

 

その言葉を聞いたところで那珂の意識はフ、と途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時の光景が那珂の脳裏にこびりついて離れないのだ。

那珂は皆の無事を祈る。

 

 

それしかできない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの、”悪魔”の双眸からこぼれる()()()()()()

 

 

那珂の脳裏にこびりついて離れないのだ

 

 

 




『東京喰種』のキャラは基本人間側が出る予定です。この世界ではグールはいないので芳村さんたちとかは人間として生きています。なので“V”とかもいない。有馬さんもいません。有馬さんは自身が戦う者だというイメージがあるので。いたらいたで深海棲艦が滅びますのでやっぱりNGです。

“カニバル”の元ネタ知ってる人いるかなぁ。ヒントは『東京喰種』の作者の作品。
“梟”ですが、顔は芳村店長の奥さん憂那(うきな)さんをクールビューティーにした感じをイメージしています。やっぱフクロウですからね、容姿はそっち関係を意識しますよ。

追記
次話 1月14日の06:00に投稿予定です。

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