戦艦レ級 カ・ッ・コ・カ・リ(仮タイトル)   作:ジャック・オー・ランタン

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05 鹵獲(ろかく)

無人の廃島で人類との思わぬ邂逅を果たしたが、あれよあれよととっ捕まった。現在押さえられ、たくさんの女性たちに武器を向けられています。

 

どうしてこうなった。

 

何がいけなかったんだ。こんな状況、およそ考えられる限りの最悪じゃないか。慎重にファーストコンタクトを取るつもりが、出会った瞬間殺しにかかるとかどうなってるんだよ。

 

先ほどの女子高生には首根っこを掴まれ、首筋に刀を当てられている。先ほどから左手がすごく熱い。この女子高生に襲われ、左手の三分の一が無くなった。左手の小指と薬指が欠損しているのだ。

右手で押さえている左手を見てみる。もう血が止まったのか、流血はしていない。ワインみたいな赤紫色の血液は、空気に触れ時間が経ち、青ざめた色に変わっている。

やっぱり、人間じゃないんだよな。この世界では自分のような人外は狩られる立場なんだろうか。それでこの人たちは自分を狩るために存在していると?

確かに、昨日自分の肉体スペックを検証したとき、明らかにただの人間なんて簡単に殺せてしまうスペックを持っていたことが分かった。そして今自分を取り押さえている女子高生は、そんな自分をあっという間に無力化して見せた。ここにいる人たちはきっと特別な力を持っていて、自分のような人外相手に戦う組織の人間。たぶんそんなところだろう。

だとしたらファーストコンタクトなんて望むべくもなかったってことか。

彼女はこの絶望的な状況を前に、項垂れるしかない。痛みと暗い気持ちに、その顔を悲痛に歪ませていた。

 

 

 

 

 

鎮守府の会議室

 

出席している各鎮守府の提督たちは、それぞれの旗艦から伝えられた状況に戸惑いを隠せないでいた。

それはそうだ、艦隊を出撃させた提督たちは最悪犠牲者が出るのを覚悟していたのだ。だというのに結果は予想の斜め上を行く展開だったのだから。

 

「これは・・・・どういうことなんでしょう?」

 

ホウジ少将はこの場にある全員の疑問を代表して口を切った。

 

「つまり・・・・なんだ、奴は碌に抵抗できないくらい弱ってたってことか?うちの天龍一人で片が付いちまったぞ。」

 

自身の艦隊の成果にマルデ中将は戸惑いを隠せない。

 

「少なくとも一週間近くは奴に回復の猶予は与えていたはず、ありえない。」

 

「フゥーーーム、分からぬ・・・・。」

 

目の前の結果を受け止めきれていないアウラ中将とタナカマル中将。

 

「やはりこれは”悪魔”ではない、新たな個体か?シノハラ、君の旗艦なら()()()()()()()()?どうなんだ?」

 

「もうすでに確認させてるよ。けどこれは・・・・。」

 

 

 

 

 

ソロモン諸島

 

「うん・・・・やっぱり、何度も確認したけど間違いないみたいだ。」

 

シノハラの艦隊旗艦である時雨は(つぶや)く。彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()。スン、スンと匂いを嗅いでいるようで、その結果を自身の司令官に伝えていた。

 

「なぁ、いったいなんなんだ?」

 

異形の少女を取り押さえている天龍は苛立ちを(にじ)ませる。

 

「率直にいうよ。その子は”悪魔”じゃない、恐らく新しく生まれてきた別の個体だ。」

 

「「「「!?」」」」

 

時雨からそう告げられ、皆に衝撃が走る。

 

「んな馬鹿な!仮に奴が沈んだとしても1か月どころか1週間も経ってないんだぞ!?そんな早く生まれるはずないだろ!」

 

「でも、確かなんだ。長門さんも、感付いてはいたよね?」

 

「うむ・・・・。」

 

「僕の固有能力は皆知ってるよね?()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

駆逐艦『時雨』の固有能力は嗅覚による識別能力である。深海棲艦が近づけばそれを感知し、鎮守府にいる複数人の同一艦を個別に識別できるのだ。地味だが優秀な能力と言える。”梟”の捜索にもこの能力は大いに活躍していた。時雨の力をよく理解している者たちはその言葉を信じるしかない。

 

「だったら、だったらコイツは違うってか?俺は勘違いして圧倒してた気になった間抜けってことかよ・・・・ッ。」

 

異形の子を押さえている天龍は項垂れる。言葉には先ほどの覇気はない。

 

「しかし、だったらどうするんですか?その子は。」

 

ホウジ提督の旗艦、赤城は今話題になっている異形の子の処遇を求める。

 

「そのことについてだが、うちの提督から提案があった。」

 

それに応えたのはマド提督の艦隊旗艦、那智。

 

「それはいったい・・・・?」

 

「ああ、それはだな――――――――

 

 

 

 

 

 

鎮守府 会議室

 

「連れて帰るだぁ!?」

 

マド小将からの提案に皆戸惑う。マルデ中将は思わず問い詰める。

 

「どういうことだマド!」

 

「どうもこうもない、言った通りだ。」

 

「マド・・・・分かるように言ってくれ、さすがに意味不明だぞ。」

 

シノハラはマドにそう問う。

 

「クク、つまりだね、一体しかない戦艦レ級の発生をここで止めようというわけだよ。こういっては悪いが、君のとこの天龍は逸脱級の艦娘としては決して強い方ではない。間違っても戦艦レ級の普通の個体を単独で倒せるような力はない。」

 

「・・・・・・・・。」

 

「続けるぞ、今この状況から察せるだろうが、この個体は我々が知る中でも間違いなく最弱の個体だ。ならばここで駆逐してまた次の個体を発生させるより、連れて帰り、飼い殺しにしようというわけだよ。」

 

ここにいる全員が考えもしなかったあまりに大胆な提案に言葉をなくす。

 

「それは、何と言いますか、目からうろこというか・・・・。」

 

「うむ・・・・。」

 

ホウジ少将の言葉に皆同意する。過去に深海棲艦の鹵獲行為がなかったわけではない。だがその試みはどれも失敗に終わっているからだ。大抵は深手を負い途中で力尽きるか、暴れて結局始末するかに終わる。あまり現実的ではない。

 

「飼い殺しって、向こうが大人しくしてる根拠がどこにあるんだ、マド。」

 

「勘・・・・だよ。」

 

マド小将はマルデ中将の問いにそう簡潔に答えた。だがそれで納得するはずもなく、マルデ中将の目が続きを催促している。

 

「旗艦を(とお)して見えるだろう?奴の表情を。今まであのような顔をする深海棲艦がいたかね?」

 

「「「「・・・・・・・・」」」」

 

シノハラは時雨の視界を(とお)して件の少女を見る。フードが外れてその顔を見ることができる。

 

 

 

怯えた表情だ

 

 

 

世間を知らない子供が急な暴力にさらされてしまい、どうすればいいのかわからない。

 

そんな顔だ。

 

少なくともシノハラには彼女が無垢に見えた。

 

この子はどこか違う。

 

そう感じるのだ。

 

「それにだね――――――――

 

 

マド少将は

 

 

 

 

 

 

 

ソロモン諸島

 

「それにだな・・・・こいつの次に現れる個体が逸脱級特異個体(スーパービルド)でないという保証がどこにある?」

 

逸脱級特異個体(スーパービルド)、それは数多ある深海棲艦の中であまりにも常軌を逸した個体に、SSSレート級の潜在能力を持つ可能性の存在を示唆する単語だ。

次なる”悪魔”の可能性を示され、皆は開きかけた口をつぐむ。

絶対にないとは言えない。現にここにいる戦艦レ級は1か月というインターバルを大きく逸脱して発生している。この個体を初めて捕捉した時期を考えれば、前任を駆逐した次の日に誕生していることになる。

ひっきりなしに変わっていく展開に皆ついてこられなくなりつつある。

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

「!・・・・そうですか、了解しました。」

 

「そうか、やはりそうなったか。」

 

「そう・・・・命令なら僕はそれに従うよ。」

 

「展開についてこれねぇ。わかったよ。」

 

「うむ。」

 

赤城、那智、時雨、摩耶、長門。

それぞれの旗艦が各鎮守府から指令を受ける。

 

「全員聞け、本部からの通達だ。」

 

艦隊を代表して摩耶が口を切る。

 

 

 

 

 

鎮守府 会議室

 

沈黙を破り、海軍本部の大将、ワシュウ ヨシトキは告げる。

 

「これより、全艦隊は――――――――

 

 

 

 

 

ソロモン諸島

 

「対象である戦艦レ級を拘束、連れ帰り日本へともに帰還。鹵獲する。」

 

今、前代未聞の試みが行われようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小型のボートが艦娘に()かれ、海をかき分け進む。

 

乗っているのは一人、その身に異形を持つ小さな女の子。

 

物々しい尻尾の先端は鎖でがんじがらめに巻きつかれ、その顎を開くことはできない。

 

両手は金属の枷で拘束され、戦車をも凹ませる彼女の膂力をもってしてもびくともしない。

 

 

 

 

 

どうしてこうなった

 

 

 

 

 

武器を向けた女性たちに囲まれ、絶体絶命といったところでまさかの展開である。拘束され、現在どこかへと連れてかれてます。

これは・・・・人体実験ルートか?

話を聞くに、自分は人外たちの中でも特に弱いらしい。それで、なんかよくわからないが連れて帰るそうだ。少なくとも殺されるということはなさそう。

そう認識した途端ドッと疲労が押し寄せてきた。

生きるか死ぬかの瀬戸際だったのだ。緊張が解けて一気に疲れた。

 

運が良かった・・・・といえるのか?これは。

殺されることはないにしろ。これからどうなるのかわからない。

歪ながら人とふれあい、今まで考えてこなかったことを意識してしまう。

 

 

 

 

 

 

家に帰りたい

 

 

 

 

 

聞こえてきた砲撃音に目を向ける。

 

視線の先には()()()()()()()()が海の上を走り、こちらに攻撃している。

しかしこちら側の数と強さに間もなく轟沈される。

あの怪物たちに先ほどの女子高生を見てようやく頭に結びついた。

 

 

 

 

 

『艦隊これくしょん』

 

 

 

 

 

確かそんなタイトルのPCゲームだ。

弟がやっていたゲームにあれらとそっくりな敵がいる。人型の人外にも見覚えがある。

空母ヲ級、だったか。自身が暇で弟が手が離せない時に少しだけプレイしたことがある。そこであの敵を見かけたのだ。

プレイしたといっても特定のステージをスク水を着た娘を三人選び、ひたすらローテーション組んで出撃させた記憶しかない。

だがそれでもこれまでに集めた少ない情報でもわかる。

よく見ると周りの女性たちにもなんとなく見覚えがあるような気がする。

 

きっとそうなのだ。

 

 

 

 

 

ここは『艦隊これくしょん』の世界だ

 

 

 

 

 

恐らく自分はそれのまだ知らない敵の一種なんだろう。

 

 

 

船の上で考える時間が彼女に残酷な事実を突き付ける

 

元居たところに帰るのが絶望的だということを

 

 

 

彼女は疲れ、ぐったりと体を横たえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女たちは海を渡る

 

時折見かける遭難者のため用意していた救命ボートに、犯罪者を捕えるための手枷を用意し一行は日本に向けて帰投する。

ふと救命ボートから対象が見当たらず、一人船の中を確認する。

皆いったん足を止め、ボートの傍で手招きしている駆逐艦『夕立』に近づく。

ボートを確認した艦娘たちにそれが映った。

異形の女の子は体を丸め、尻尾を抱いて眠っている。口には右手の親指を銜え、起きる様子がない。

 

「なんか赤ちゃんっぽーい。」

 

「実際生まれて1週間も経ってないしね。」

 

「本当にこの子があの”悪魔”と同じ深海棲艦なのが信じられません。」

 

「うむ。」

 

夕立、時雨、赤城、長門は各々呟く。これまでに見たどの深海棲艦とも違う一面を見て彼女に対する警戒心が薄くなる。ほかの艦娘たちも彼女の大人しい様子を見て、それぞれ複雑な想いを抱くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮守府 会議室

 

「全く抵抗しませんでしたね。」

 

ホウジ少将の言葉を聞き、嫌でも現実を直視することになった一同。

深海戦艦は基本、人類に対して敵意と憎悪を持ち、ぶつかってくる。それは全人類の共通認識で常識なのだ。だが今拘束している深海棲艦はその枠から外れ、敵意どころかおとなしくされるがままである。あまりにも我々が認識している常識から外れたこの小さな異形の子供を今後どう扱うべきか、議論はそう移ろいつつあった。

 

「やはり今までの深海棲艦とは違うようだな、今後このまま大人しいようであれば、今までにできなかった深海棲艦についての精密な検査が期待できる。」

 

そう言ってワシュウ大将は早速今後の展開に思いを馳せる。

 

「となると、検査についてはドイツの力を借りますか?」

 

マルデ中将は深海棲艦についての調査や、妖精に関する技術に力を入れている国に要請するか窺う。

 

「そうだな、それがいいだろう。あの国なら希少な大人しい深海棲艦に対して、本腰を入れて事に当たってくれるはずだ。ただ、要請するとしても機材などの用意やら人材の検討などで時間を取ることになるだろう。」

 

直接ドイツに赴くのもいいが、この深海棲艦は本当に希少な存在なのだ。渡航中に万が一の可能性は少しでも避けたい。

 

「そうなると、その間にどこでイレギュラーを預かるかだが。」

 

ドイツからの人員がやってくるまでの間に誰が自身の鎮守府に預けておくのか、タナカマル中将の言葉に皆頭を悩ませる。

違うと頭では分かっていても彼女はあの”悪魔”と同一の深海棲艦である。奴に被害を出されたものは少なくない。預けたとしても”悪魔”に関する空気がまだ冷めるほど時間がたっていないのだ。天龍を代表するように、”悪魔”を憎む艦娘は少なくない。預かる鎮守府の雰囲気は確実に悪くなるだろう。

しかし、そこで話を割り込ませる者がいた。

 

「それなんだが・・・・あの子は私の鎮守府で預かろうと思う。」

 

シノハラの提案に皆注目する。

 

「うちの鎮守府は”悪魔”への被害も少ないし、穏やかな性格の艦娘も多い。あの子には我々に対する警戒心をなくして、積極的に協力できるよう、教育するのがいいんじゃないかな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ある青年がいた。

 

彼は特段、何かに秀でているわけでもなく、悪く言えば凡人である。

ゲームを趣味にしている割に買った物をなかなか消化できず、結局弟がプレイしているのを横目にネット小説を読むことになる。

一端の社会人だが、親元で暮らしていて特に親仲も悪くなく、日常に刺激を求めず緩やかでのんびりとした日常を満喫していた。

 

そんな彼だが、密かに憧れているものがある。

 

彼の幼いころ、父は怪我が元で転職していた。一緒に遊ぶにも大きな制限があり、甘えたい盛りの子供には父との交遊が少ないのは小さくないストレスになっていた。

ある日、近くにある父の昔からの知り合いのいる店に一緒に行った。そこは小さめのレストランで、店の従業員はほとんどが外国人の老人たちであった。彼らは定年を迎え、知り合いが経営しているこの店で残りの人生をのんびりと暮らそうと治安のいい、この国に移住してきた。

当時幼い彼を爺さん婆さんたちは、親しい父の子である彼をよくかわいがってくれた。彼らは長い年月を重ねてきた者特有の深みがあり、優しく、静かながら感じる大らかさは圧倒的な父性や母性としてにじみ出ていた。

そんな者たちに囲まれ甘え、愛情を感じた彼は少なくない衝撃を受けた。体を動かすだけじゃない楽しみというものをそこで知った。すぐに彼はこの店が大好きになった。彼の父も老後はここで働くと分かってからは少ない交友によるストレスなど吹き飛び、外国人が働く物珍しさと、近くにあるのもあって、幼少時は時間があればこの店にお手伝いに(あそびに)来ていた。

彼らに甘える毎日は本当に楽しかった。それこそ、自分も歳を取ったらこの店で、と考えるくらいにはここを気に入っていたのだ。彼が青年になり、かわいがってくれた老人たちが歳であの店を辞めても、彼にとってあの店は特別であることに変わりはない。

あの店の従業員には一緒に来た彼らの子もいた。老人の子である彼らは自身の父と同じくらいの年齢であり、彼らもまた老人たちに及ばないながらも人としての深みを感じた。好きな人の真似をしたがる年頃の彼は、いつか自分の子供がいて、あの老人たちのような素敵で魅力あふれる大人になることが密かな憧れになったのだ。

まあ、現実は女性との交際こそあれど、伴侶になるほどの深い仲になるほどの出会いはなかったのだが。

それでも彼らのような素敵な大人に対する憧れは消えてはいない。

 

そう・・・・

 

 

いつかは・・・・

 

 

 

あんな・・・・

 

 

 

 

すてきな・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――」

 

ふと目が覚める

 

眠りこそしたが、緊張で疲れは抜けきってないみたいだ

 

なんだか楽しい夢を見たような気がする

 

おかげか、幾分心は落ち着いてきた。起き上がり周りを見てみる。しかし眠る前と大して変わらず、すぐ退屈になってきた。

 

「あ、目覚めたッぽーい。」

 

「ずいぶんとお寝坊さんだね。丸一日眠ってたよ。」

 

声を掛けられ、振り向く。

 

「もうすぐ僕たちの所の泊地に着くからね。暴れちゃだめだよ?」

 

やさしくそう声を掛けられ、無碍な扱いはされなさそうなのを感じ、ふにゃ、と緊張による余計な力が体から抜けてくる。

大人しくしてたことで、彼女達からの警戒はだいぶ薄くなったようだ。

”遠視”を使いながら海を見ていると、先ほど言われた通り彼女たちの拠点らしき島影が見えてきた。

 

 

 

町が見える・・・・ッ!

 

 

 

壊されていない、人のぬくもりを感じるそれを見て、興奮してきた。

遂にはっきりとそれが見え、港に着く。ようやく陸地かぁ・・・・

 

「さぁ、降りてきて。」

 

女の子の一人が手を出し、催促する。彼女の手を取り、興奮から思わずピョンと飛び――――

 

あれ、ここまだ海の「ドポォン!」

 

 

「――――――――」

 

 

「「「「「――――――――」」」」」

 

 

気まずい雰囲気が漂う。

手を取った彼女のいるところが陸地だと勘違いし、海に飛び込んでしまった。手を取ってくれた三つ編みの女の子はつられて前屈みになり、何とも言えない顔をさらしてしまっている。

 

どうしよう、この空気

 

どうすればいいのかわからず呆けていると、後ろから脇に手を通され、海面から引き揚げられた。

 

「まったく、何やってるんだか。」

 

ぶらん、とぶら下げられながら後ろを向くと、褐色肌の女性。眼鏡をしていて、髪色は銀髪かと思いきや、よく見ると薄い金髪である。非常に大きく物々しい装備を背負っているが、何より目を引くのは上半身がほぼサラシだけである。おなかや胸に巻いていて、胸の真ん中で絞めている。ちょっと激しく動いたらこぼれちゃいそう。痴女かッ!

自分の格好を棚に上げているうちに、持ち上げている女性はゆっくり自分を海面に降ろす。

 

チャプン

 

しかし先ほどと同じく海の中に沈んでしまう。

 

「――――この子、もしかして。」

 

「海の上、立てないっぽい?」

 

周りに動揺が走る。

なんだろう、水の上に立つくらいここじゃ常識なの?きょろきょろと周りを窺うと、ハァ、と後ろの女性からため息をつかれる。そのままさらに持ち上げられ、再び船の中に。今まで海に沈んでいた尻尾も顔を出した。

 

「このまま陸まで行くぞ。」

 

皆無言で粛々と港に向かう。何とも言えない空気のまま、一同はようやく死地(そう思い込んでいた)から日本への帰還を果たすのであった。

 

 

 

 

 

 

今度こそ陸に着き、三つ編みの女の子に手を引かれながら目的地に進む。

周りに数人、念のための警戒で付いている。さらに周りには民間人に見られないよう、ぐるりと取り囲まれ移動している。ちょっと周りを見ると、コンビニとか料理店など普通にあるようだった。

しばらく歩き、やがて赤いレンガ造りの大きな建物が見えてくる。あれが目的地かぁ。

門の前に誰か立っている。多分この集団の上司とか代表とかそんなところだろう。

だんだんと近づき、その姿をはっきりとらえられる距離まで近づくと、驚きで頭が真っ白になる。

門の前に立っている人の姿を見てそうなった。

嘘、と思っていても近づくたびに確信してしまう。

やがて件の人物の目の前までやってくる。

今自分はぼーっと口を開けたまま呆けて、その人のことを見上げているだろう。目の前にいる人物がそれだけ意外だからだ。

 

「みんな、よく無事で帰ってきてくれたね。ほかの艦隊も今日はここで身を休めるといい。――――そして。」

 

周りにそう声を掛けながら、今度はこちらを向き、目線を合わせるためしゃがむ。

 

「はじめまして、だね。私は今日からしばらく君が暮らすとこの司令官であるシノハラだ。って、言葉、わかるかな?」

 

言われてもうまく反応ができない。

話しかけている相手は良く鍛え上げられた体に海軍の白い軍服を纏い、頭の側面は刈り上げ、顎にはひげを生やしている。

そんな大柄な人物だが、その顔は精悍ながらも柔和な印象を持つ。

 

知っている

 

自分はこの人を知っている

 

いや、このキャラクターを知っている

 

 

なぜ

 

 

なんで

 

 

 

 

 

なんで『篠原特等捜査官(しのはらとくとうそうさかん)』がここにいるの!?

 

『艦隊これくしょん』ではなく、『東京喰種(トーキョーグール)』のキャラクターがここにいることに彼女の脳内キャパがオーバーフローしそうになる。

 

 

これは先が思いやられそうだ

 

 

彼女の冷静な部分が無慈悲にそう下すのであった。

 

 

 

 

 




※艦娘の能力について
艦娘は霊力を使うことで“肉体強化”やダメージの軽減ができる“障壁”を強化できる。
霊力を多く注ぎ込むことで通常より速く航行できる。逸脱級ならより顕著。

これで第一章は終わりです。
次回の更新は未定。二月は仕事が忙しいのです。
土曜も仕事だと執筆時間取れないのです。
2月中には出せるようにしたいですね。

投稿の目途が立ったら追記でお知らせします。


追記
お待たせしました
次回更新は2月20日の朝6時00分です。

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