戦艦レ級 カ・ッ・コ・カ・リ(仮タイトル) 作:ジャック・オー・ランタン
土曜も仕事がある中、モチベーションも上がらず、時間を見つけてはちまちまと執筆をつづけていました。
この章からは日常メインになっていきます。
それではどうぞ。
01 ようこそ
もうなにがなんだかわからない
『艦隊これくしょん』の世界に人外の女の子に転生?したと思ったら、今度は『
呆けている自分をどう受け取ったのか、目の前の人物『
「とにかく、みんなもう中に入ってしまおう。いつまでもこの子を外にさらすわけにもいかないからね」
その言葉を皮切りに、皆で大きなレンガ造りの建物、佐世保鎮守府に向かう。
ホテルのようなロビーを通り、自分はそのまま部屋の一室に連れてかれ、二人の女性と一緒にしばらく待機することになった。
何をすればいいのかわからなくて、尻尾についている頭を椅子にして座ることにする。
部屋に沈黙が訪れる、というわけでもなく、ぴゃあとかクマーとかおかしな鳴き声が聞こえるカオスな空間ができている。
ほんとこれからどうなっちゃうの?とお腹の中が重くなる気分のまま、時間を過ごすのであった。
鎮守府 指令室
戦艦レ級の特別な個体を鎮守府に在住する軽巡二人に見張らせ、シノハラの艦隊は一同に集う。
「まずはお疲れ様。よく無事で帰ってきてくれた」
シノハラ提督からのねぎらいの言葉を掛けられ、一同はようやく体に入っていた力を抜いた。これはもう習慣、反射だ。
「もう時雨から伝わってわかっているとは思うが、あの子をこの鎮守府でしばらく預かることになった」
一同に緊張はない。前もって知らされたことであり、あの子の大人しい様子を知っているからこそ一同は冷静に受け入れることができた。
「そして私たちはあの子に対して親しく接してあげようと思う」
シノハラは語る。ドイツから精密検査の為の一団がやってくること。それまであの子をこの鎮守府で預かっていくこと。今後の為人類に協力的になれるよう我々はあの子に対して優しく接してあげてほしいこと。
艦娘たちはシノハラの言に完全に納得はできずとも、理解はした。
深海棲艦であるあの子を、戦艦レ級をこの鎮守府で生活させることがいまここで決まったのであった。
ミーティングを終え、一同は解散する。
褐色肌の女性である戦艦『武蔵』は自室に戻る途中、駆け寄ってくる少女に気付いた。
「武蔵さん!無事に帰ってきたんだ!」
声をかけてきたのは駆逐艦『清霜』だ。灰色に近い銀髪をリボンを使って後ろで二房にくくっている少女。何より目を引くのはその髪だ。髪の内側が深い青色になっている不思議な髪質をしている。
彼女は武蔵を慕っていて、子犬のようにじゃれついてくる。武蔵自身もまんざらに思ってないようで、甘えてくる彼女を受け入れているのだ。
「ああ、ちょっとおかしなことになったが、無事だ」
「もう少ししたら私も武蔵さんと一緒に行けたのに~~ッ!」
彼女、清霜は錬度を十分に高め、ついこの間逸脱級に至れると判断された。後は海軍の開発部から逸脱級の艦娘になるのに必要である特別な指輪が届くのを待つだけだ。
「まだまだこの武蔵は沈まんよ。後でいくらでも一緒に出撃できるようになれるさ」
「ほんとだよ!?約束だからね!?」
「ああ、もちろんさ」
まだ日は高いが、武蔵は自身の部屋に行くのをやめ、彼女と一緒に入渠施設へと赴くのであった。
鎮守府の一室に異形の少女は呆ける。
自身の異形である尻尾の先端にまたがり、足をプラプラさせている。
彼女は二人の見張りを置かれ待ちぼうけを食らっていた。
考えるのはここがどういった世界なのか。
最初はこの世界が『艦隊これくしょん』の世界だと思っていた。だが別作品のキャラクターであるはずの人物と出会い、ここがどういった世界なのか全く見当がつかなくなってしまったのだ。
あれやこれやと考えるが、あまり難しいことを考えるのが得意でない彼女は半場思考を放棄していた。今は状況を動くのを待つばかりである。
そうして待つこと数十分、部屋のドアが開かれ自分の手を引いた三つ編みの女の子がやってきた。
「二人とも見張りご苦労様。後は僕が連れて行くよ」
「ぴゃあ~、緊張した~」
「助かるクマ~。違うってわかってても生きた心地がしないクマ~」
言葉を掛けられた二人は肩の荷が降りてほっとする。違うと分かっていてもこの異形の少女はあの”悪魔”と同一艦なのだ。前任者の印象が強すぎて彼女たちは部屋にいる間、息が詰まりそうなほど緊張していた。それこそ彼女が尻尾を動かしただけでびくつき、珍妙な構えを取って臨戦態勢に移るくらいには。
だがそれからの彼女が大人しいのもあって何とか見張りを続けられることができた。彼女が呆けていたのは結果的に良かったといえる。
それから異形の少女は駆逐艦『時雨』に手を引かれ、ある施設に連れてかれる。
どうやらそこは風呂場のようだ。ただ、規模がとても大きく、お風呂場というよりも銭湯といったほうがいいだろう。
その銭湯施設のリビングに4人の少女が待ち構えていた。
「おまたせ、あとはよろしくね」
「まかされたわ、この暁に任せなさい!」
待っていたのは先ほど喋っていた黒髪の子に銀髪の子、双子だろうか?よく似た顔の茶髪の子が2人だ。
いきなりのことで顔を右往左往していると、三つ編みの子はここ数日ずっと嵌められていた手枷を解いてくれた。そして尻尾の先端に巻きついていた鎖もほどかれる。解いた拘束具を手に、三つ編みの女の子は出口に行ってしまった。
そして残った4人に囲まれてしまう。
「さあ、ついてらっしゃい。レディーである私が案内するわ」
黒髪の子に手を引かれ、更衣室を通り抜けお風呂場に出る。
「ここであなたの体をきれいにするわよ!」
小さな感動で満たされる。今までもっぱら水で洗うだけだったのでお風呂に入れると分かり、つい駆け寄ってしまう。しかし急に腰が引っ張られる感覚がすると後ろから声を掛けられた。
「こらこら!まずは服を脱がなきゃだめよ!」
見ると茶髪の子の気の強そうなほうが自分の尻尾に抱きつき、引っ張っていた。
大人しく更衣室に連れてかれ、籠のあるとこまで案内される。そこで服を脱ぐよう催促されるが、慣れない体でもたついてしまう。服を脱ぐのに苦労していると「もうしょうがないわね」と先ほどの茶髪の子に脱ぐのを手伝わされた。
みんなもう服を脱いで準備ができているようで、茶髪の子に手を引かれ洗い場に案内される。そこで四人の手によって全身を洗われた。尻尾を他人の手で洗われるのはなんだかむず痒い。
そして最後にお湯を頭からかぶり、全身を洗い終わる。
ブルブルと勢いよく頭を振って水気を飛ばした。
それから浴槽に案内されついに入浴することができたのだ。
久しぶりにお風呂に入り、体に温かいものが染み渡りふにゃ、と顔を緩ませる。一緒に入っている4人は生まれて初めてお風呂に入って感動してるのであろうと、顔を見合わせ笑う。
ふと気になって自身の胸元を見ると、その先端を確認する。爪の色と同じく、そこもピンクに近い薄紫色だった。
それから間もなく風呂場に入ってくる者がいた。先ほどの褐色肌の女性と見知らぬ銀髪の女の子だ。
お風呂に入っていた彼女は途端に気恥ずかしくなる。一緒に入っている子たちは小学生くらいなので裸を見ても平気だが、成人した女性の裸はさすがに別だ。今の性別的に問題はないが、どこか罪悪感と背徳感を覚えてしまう。
彼女たちは話に夢中なようでこちらには気付かず、別のお風呂場へと移動した。ほっとしたが、これから慣れないといけないなと考える。
カポン――――――――
異形の少女は湯船に浸かり、気持ちよさに目を細める。途中左手がむずむずとかゆくなり、どうしたのかとお湯から手を出し確認すると欠損していた部分が変化していた。肉が盛り上がり、中で骨が生えてくる感覚。呆けてみてみると瞬く間に指の先端まで再生され、爪まで生えてきた。
ふう、とため息をつく。非現実的なことが自分の体に起きて、現実逃避しそうになる。入浴の気持ちよさにこれまでの疲れが洗われ、眠気がさして頭がゆれる。
カックン――――
カックン――――
瞼が重くなり、何度も頭が湯船に浸かりそうになる。
カックン――――
カックン――――
意識もだんだん薄くなり、体に力が抜けていく。
そして
――――――――トポン
鎮守府 シノハラ提督執務室
無事艦娘たちを迎え、シノハラはこれまで書いた書類をまとめていた。
途中どたどたとあわただしい足音が聞こえ、なんだと身構える。それから間もなくノックをすっ飛ばし4人の少女が入ってきた。シノハラはぎょっとする。彼女たちは碌に体をふかず、濡れたままタオルを巻いているだけだからだ。
しかしその顔を見て注意するのをやめる。彼女たちの顔には焦燥と涙が浮かんでいたからだ。
「いったいどうしたんだ?」
彼女たちに尋ねるがなかなか答えを出さない。しかし間もなく暁がようやく口を開く。
「し、しれい゛がん゛、あの子、あのご死んじゃっだぁ・・・・」
「なッ!?」
思わず立ち上がる。すぐさま4人に連れられ、状況を説明される。
最初はお風呂に入り気持ちよさそうにしていたが、急にお湯の中に倒れてそのまま動かなくなってしまったそうだ。
とにかく急いで確認せねば。艦娘たち用に作られた入渠施設は深海棲艦にとって毒だったのか?シノハラは焦燥に駆られ件の湯船に案内される。
湯船の中を覗き、見てみると異形の少女は体を丸め、尻尾をぐるりと回していた。その姿は有尾種の胎児を思わせ、すやすやと眠っているように見える。湯船に手を突っ込み彼女の体を抱え持ち上げる。思ったより体重があり、体に霊力を纏い身体能力を向上させる。
トク、トクと彼女の鼓動を感じとり、死んでしまったわけではないと分かり安心する。彼女は本当に希少な存在なのだ。もしかするとこの子が深海棲艦との闘争に終止符を打つ可能性を秘めているかもしれない。絶対に失うわけにはいかないのだ。
4人に自分たちと彼女の体を拭くよう指示すると、シノハラはこれからあの子の寝室になる部屋に連れて行かせる指示を出すため、ほかの艦娘を探すのであった。
眠っていた彼女は目が覚める。
入浴の気持ちよさにそのまま寝落ちしてしまったみたいだ。
周りを見渡すと見知らぬ部屋。自分はベッドの横になっていて、どうやらあのあと連れられ運ばれてきたらしい。
ベッドのそばにある窓を見ると、外はもう真っ暗になっていた。
ふといつも着ていた服が変わっているのに気付く。
黒いレインコートから白いワンピースに変わっている。胸元を覗くと何もつけていない。ベッドから降りて立ち上がり、スカートをたくし上げると白い下着を身に着けていた。
姿見の鏡があったので移動し全身を見てみる。
唯でさえ白いのに白いワンピ-スを着ているせいでほぼ真っ白だ。
近くにリュックを見つけた。机の上に置いてあり、周りに誰もいないのを確認すると中を開き、人間だった頃の所持品の入ったクリアケースを確認する。あの女子高生にぶっ飛ばされ、壊れてないかと心配したが、無事なのを確認しほっとした。
これを誰かに見られるのはまずい気がする。クリアケースをベッドの下に隠し、とりあえず一息つく。ベッドに腰掛けこれからどうしようかと考えているとドアを開き、三つ編みの女の子が入ってきた。
「あ、起きてた。丁度良かった」
再び彼女に手を引かれ、今度はいい匂いがするところに連れてかれる。
そこは食堂だ。
規模がとても大きく、何百人もそこで食事がとれそう。
椅子の一つに案内され、座る。彼女の尻尾を考慮され、ほかの背付きの椅子と違って丸椅子である。
自分の向かい側には篠原特等がいる。ついでに隣にも見知った人物が。同じく『
ただ、ジューゾーの見た目だが、赤い目は変わらないが髪色は白ではなく灰色だ。原作では白髪から黒髪に変わっていたのでその途中なのだろう。目が合うと手を振ってきた。思わず手を引いていた女の子の後ろに隠れる。彼は人間なのに頭がおかしいレベルで強いのだ。たとえ今の自分が人外でも勝てる気がしない。
ふたたび椅子に座り待っていると食事が運ばれてくる。
それは人間だった頃でもよく食べていたものだ。
カレー
この体になって初めての料理がそれだ。
鎮守府ではかつての海軍の習慣に則って、週に一度はカレーの日がある。今日がちょうどその日なのだ。
きょろきょろと周りを窺い待っていると、やがて全員集まったのか目の前にいる人物が代表して合図を取る。
「さて、今日も一日お疲れ様。日々の恵みに感謝して、いただきます」
「「「「「いただきます!」」」」」
皆手を合わせ食前の挨拶を取る。いただきますだなんて、そういえば中学生の給食以来やった覚えがほとんど記憶にない。周囲を見て思わず周りに合わせ、自分も手を合わせる。言葉は発せないので心の中で。
そうして皆スプーンを手に取り、食事をとる。
自分もと思いスプーンを取るが、うまく指でつかめない。やっぱり慣れない体で手が不器用になっている。
少し恥ずかしいが、仕方なく掌でむんずとスプーンを掴んで食事をとる。
この体になってものを食べるのは初めてではないが、調理されたものは初めてだ。初めての料理に緊張する。
意を決して一口を口にする。
むぐむぐと口を動かしカレーを味わう。ぎゅっと詰まったうまみが口いっぱいに広がり、無意識に頬をゆるめてしまう。
不器用ながら手を動かし、次のカレーを頬張る。
バナナの時と違って団らんのある食事
それが今はいない
自分しかいない
確かに今楽しい雰囲気なのに
おいしいものを食べているのに
どうして胸がきゅうっとしてるんだろう
カレーを口にしながらも胸からなにかが込み上げ、目に映るものがだんだん
シノハラは今夜の食事に感慨深いものを感じていた。
今目の前にいる白く小さな女の子。
この子は本来人類の敵である深海棲艦だ。
ここには今、人間と艦娘、そして深海棲艦が同じテーブルを囲って同じものを食べている。
本来なら絶対にありえない光景がここにある。
こんな日が来るなんて思ってもみなかった。
かつてアメリカで人種平等と差別の終焉の演説を説いたというキング牧師の言葉を思い出す。
きっとこれは一足早い人類と深海棲艦が共存している一つのカタチだ。
いつかきっとこんな日がやってくるかもしれない。
だからこそ今夜の食事に感慨深いものを感じていた。
食前の挨拶を掛け、皆で手を合わせる。
目の前にいる小さな子はきょろきょろと周りを見て同じように手を合わせる。
意味は分からずとも周りに合わせる姿に少しほほえましさを感じる。
周りを見てスプーンを手に取って食べるのを理解したのだろう、拙いながらも手を使って一生懸命カレーを口にしている。
口に合ったのか、緊張していた顔が緩み手を動かす頻度が多くなる。
どうやらうまくやっていけそうだ。
まだまだ問題はいくつかあるが、この光景を見てシノハラはいくらか胸の荷が降りたような気がした。
だが――――
「!」
周りもそれに気づき動揺が広がる。
「ッ――ッ~~~~!」
急に泣き出したのだ。
くしゃりと顔を歪める。
嗚咽を漏らし、涙が次々頬を伝い顎からぽたぽたと落ちてゆく。
スプーンを手にしたまま、両手で涙を拭っているが涙が止まる様子がない。
「ふッ、グズ・・・・ッ~~~~!」
わんわんと声なき声を張り上げ、感情を爆発させている。
周りにいる艦娘たちは深海棲艦の涙というありえないものを見てしまい、どうすればいいのか分からず行動がただ止まっている。
「ねえ、どうしたの?どこか痛いの?」
隣にいた時雨は何とか立ち直り、ゆっくり泣いている子を抱き寄せ、あやそうと頭を撫でてあげる。
抱き寄せられている子はイヤイヤと頭を振るだけで泣くのをやめない。
食事どころではなくなり、彼女は再び寝室に連れ出されることになった。
みっともなく泣きわめいてしまった。
自分の感情が押さえられない。元のとこに帰れないからか、これからどうすればいいのか。いろんな感情が溢れて押し寄せてくるのだ。
ここには自分にとっての”つながり”が何一つない。
いや、唯一人間だった頃の所持品があった。
でもそれだけだ。
その所持品だって半分はダメになってしまっている。
考えるほど気分が沈むので周りに目を向ける。
食堂にくる前にいた自身が寝ていた部屋にふたたび戻ってきていた。
見張りに四人のおねぇさん達がいる。前に見張りをしていた二人のうち、紫色の髪の人もいる。
彼女ら阿賀野型四姉妹と一緒に待機して10分ほど。
ふと手にスプーンを持ったままなのに気付いた。
カレーは結局半分も食べれなかった。
そのままベッドの上で数分。
部屋の扉が開かれる。
「どう?様子は」
「今はもう落ち着いてるよ」
そう、と阿賀野達の言とベッドの上にいる彼女を見て時雨は胸をなでおろす。急に泣き出した彼女を見て、歴戦の戦士である時雨もさすがに動揺していた。何が原因かも分からないのでどう対処すればいいのか分からず、阿賀野達に見張りを頼んだのも押し付けてしまったようで悪いと思っていたのだ。
時雨はベッドの上にいる彼女の前まで来ると両手を彼女の前に差し出す。
「?」
どういう意味なのか分からず、首をかしげていると急に差し出した両手の間に光が集まった。
「!」
だんだんそれは形を作り、姿を現す。先ほど食べていたのと違う新しいカレーを。
「じゃん!ちゃんと君の分はここにあるから、そんな残念そうな顔しなくていいよ」
驚いた彼女の顔を見て、いたずらが成功したような顔をする時雨。
艦娘には物を魂に収納する”
この特徴により現在物資の輸送効率は深海棲艦の出現以前と比べても遜色ない。むしろ安定してきている現在のほうがいいかもしれない。
何せコンテナに梱包したり、フォークリフトを使ったりする手間がいらなくなり、触れていればいいのだ。何度もトラックで往復する必要だってない。生産する場で直接魂に収納し、直接そのまま海に出れば他所へと届けることができるからだ。
それはともかく、出されたカレーを見て小さな異形の子は目を輝かせる。
先ほど気が沈んでいたのがウソのようだ。
時雨は魂からテーブルも引っ張り出して、ベッドの前に設置し、カレーを差し出した。
早速食べるのかとテーブルに近づいた彼女だが、何を思ったのかベッドから離れて彼女が背負っていたバッグに近づき、むんずと掴み戻ってきた。
おもむろにバッグの中身を取り出す彼女を見て、周りの艦娘は身構える。
が、取り出したものを見てあっけにとられる。
「バナナ?」
「バナナ・・・・」
「バナナだ」
「何でバナナ?」
疑問を口にする阿賀野達を無視し、バナナの皮を剥いていく彼女。
やがて裸になったバナナの実をカレーの上に乗せ、満足そうに見つめる。
やがて十分堪能したのか、持っていたスプーンでカレーを食することに取り掛かるのであった。
召喚?されたカレーを見て先ほど気が沈んでいたのがウソのように立ち直る。
目の前でファンタジーな現象が起きたのもそうだが、先ほどまで意識していたカレーが目の前に現れ、心が躍ってしまったのだ。
我ながら現金だと思う。
さっそく出されたカレーに取り掛かろうとしたが、ふとあることに気付く。
ここには初めて食べた物と初めて食べる料理が存在することに
気付いた時にはもう行動していた。
バッグを取出し、バナナを手に取る。
採取して何日か経っていて
剥いて裸になったバナナを乗せれば完成!『丸ごと一本バナナカレー』!
初めて食べた物と初めて食べる料理の組み合わせに彼女の心は高揚で満たされる。こんなことで気をよくするなんて自分は案外チョロイン属性を持っているのかもしれない。
カレーを頬張り顔が緩むのを感じながら彼女はそう思うのであった。
鎮守府 執務室
「そうか、あの子はもう大丈夫そうか」
「うん、結局何が原因で泣いてたのかは分からずじまいだけどもう平気そうだよ。でも時々寂しそうにしてるみたいだ」
とりあえず問題はなさそうでシノハラは安堵する。
今重要なのは彼女が我々に気を許し、歩み寄ってくれていること。
彼女とコミュニケーションを取り、仲を深めるのが優先事項だ。
そのためにはまず彼女が我々と相互理解できるようにすることが大事だ。
あの時泣き喚いたところを見るに彼女には声を出すことができないことが分かった。
ならば手段は手書きか、できるか分からないが”思考共有”による思念のやり取りくらいか。
シノハラは確実な手段である手書きを選択する。
そのためにはあの子に読み書きを教える必要があるだろう。
それだけでなく幼いあの子には情操教育も必要だと判断する。
シノハラはそれらに必要なものに対する当てを思い出し、さっそくある人物に連絡を取るのであった。
私には夢がある―――
いつの日か黒人の少年少女が白人の少年少女と兄弟姉妹として手をつなげるようになるという夢を―――
A.D.1963 8/28
マーティン・ルーサー・キング・ジュニア
※戦艦レ級の身長体重
『主人公』
身長 137cm
体重 110㎏
『あくまおねぇちゃん』
身長 152cm
体重 200㎏以上
次回の更新は・・・・すまない、現在『艦隊これくしょん』はイベント中なんだ。察してほしい。
潜水艦の双子は是非手に入れたいんです。
3月も土曜出勤、更新滞りそうです。
活動報告でアンケートを取っています。
皆さんは主人公とどんな艦娘を絡ませたいですか?
次話 3月30日 18時00分更新です。