短編小説   作:重複

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マーレのダンジョン作成

マーレのダンジョン作成

 

第六階層守護者マーレ・ベロ・フィオーレは張り切っていた。

偉大なる至高の御方。

ナザリックに残られた最後の一人。

自分たちをずっと守り導いてくださる、優しく慈悲深き最高の支配者。

かの方から仕事を命じられたのだ。

仕える事こそ存在意義のNPCにとって、仕事を任される事は最高の喜びだ。

故にマーレは仕事に熱中した。

至高の御方は、自分の姉(アウラ)やその喧嘩友達(シャルティア)を供に出かけている。

どのくらいで帰ってくるかは不明だが、出来かけをお見せするのは心苦しい。

だから、マーレは頑張った。

 

ーーー全方向に無駄に力を入れるほどに。

 

 

アインズが帰って来た時、マーレに頼んでおいたダンジョンは大分出来上がっているらしかった。

「ふーむ。無理をさせたか?マーレ」

「いいえ!すごく楽しかったです!」

「?そうか、頑張ってくれて私も嬉しいぞ」

「はい!ありがとうございます!」

なにがそんなに楽しかったのかと疑問に思ったが、

「やっぱり男の子だから、物作りに熱中したのかな。デミウルゴスも日曜大工みたいな事を楽しんでいるようだし…」

ダンジョンの中に入ってみる。

しっかりした造りだ。

広い通路は戦闘もこなせるだろう。

「ふむ」

確認の為、下位アンデッド作成で一体のアンデッド、スケルトンを作り<不死の奴隷・視力>で操る。

自分が入ってもいいが、自分相手ではモンスター役のPOPがどのくらいの攻撃力かわからないのが面倒だ。

スケルトンなら冒険者のかわりになるだろう。

 

少し歩くと道が分かれた。一方の道へ入り更に進む。

ふと曲がり角を曲がったその先はーーー

 

地面が無かった。というか消えた。目に映っていた地面はまやかしだったのだ。

アインズ自身ならめくらましは効かないのだが、下位アンデッドの視点ではそうはいかなかったようだ。

急降下する視界。

衝撃で揺れる視界に鋭く磨かれた金属の穂先が映る。

落とし穴の下に槍襖が作られていたのだ。

アンデッドなので刺突耐性でさほどのダメージは無い。

一番のダメージは床に叩き付けられたものだ。

殴打判定が入ったのだろう。

飛行能力の無いアンデッドなので、落とし穴からよじ登る。

縁に手を掛け、体を半分乗り上げたところでーーー

 

ぐしゃ

 

天井が落ちてきた。

アンデッドの視界は消えた。

あの体勢では上半身が潰されたことだろう。

原型もとどめずに、完膚なきまでに完璧に…

 

「……」

 

「あ、あの、如何ですか?アインズ様」

おずおずとマーレが問いかけてくる。

「あ~、うん。侵入者対策がすごいな…」

「はい!ナザリックをモデルにして、一人も生かして帰さないように頑張りました!ブラックカプセルに似せた部屋も作って、恐怖公の眷族を配置しています」

「え…」

流石にそれはまずい。

ゴキブリはこの世界にもいるらしいが、流石に人を食べない。

しかし、このダンジョンでゴキブリへのトラウマを植え付けられたら街での生活すら困難になりそうだ。

この世界の衛生面は、自然が汚染されてはいないが、人の生活圏が清潔であるという訳ではないのだ。

 

ーーーというより

 

「説明不足だったなぁ…」

 

マーレにとってダンジョンとは侵入者を殺す為のもの、という認識があったようだ。

確かにナザリックは墳墓であり、ダンジョンだった。

そもそもここを攻略したからこそ、自分たちの拠点としたのだ。

千五百人侵攻までは、よく挑戦者がいたものだ。

しかし、運営のように攻略させるつもりはまったく無かった。

つまりゲームによくある、レベル上げ用ダンジョンではないのだ。

アインズにとって、ダンジョンとは攻略するものだった。

しかし守護者たちナザリックに住まう者にとっては、ダンジョンとは我が家であり侵入者を殺す為のものなのだ。

 

そもそも、この世界の通常ーーと言って良いか不明だがーーのダンジョンがどのような物なのか、アインズは知らないのだ。

ここで訓練した事が、そのまま外の世界で通用するかは、まったく不明なのだ。

アインズは鈴木悟としての現実でユグドラシルくらいしかゲームをしたことがない。

しかし、いろいろなゲームをしていた仲間によれば、各ゲームごとに仕様というものが異なるらしい。

スライムというモンスター一つとっても、簡単に倒せる雑魚モンスターとするゲームもあれば、なかなか倒せない難敵とするゲームもあるという。

 

この世界のダンジョンが、ユグドラシルのダンジョンと同じであるはずが無い。

ナザリックも運営の様なダンジョンにはしなかった。

最初の階から必殺で掛かってくるかもしれない。

ナザリックがそうだった。

 

ーーーつまりナザリックを見本にすれば、というよりナザリックしか知らない守護者に任せれば、こうなるのは必然だったということなのだろう。

 

 

ゲームなら復活(再挑戦)すれば済む話だが、この異世界で現実に生きている者にはそうはいかない。

そもそも死なないように技能とレベルを上げる為の訓練なのだ。

モンスターや罠も、瀕死レベルで留めるようにしないと、ダンジョンで死んで、レベルの低い者は復活できずに灰になる、という冒険者が減る事態になりかねない。

そうなっては本末転倒だ。

だいたい訓練でいちいち死んでいたら、魔導国での冒険者のなり手がいなくなってしまうだろう。

ナザリックでハムスケと訓練していたリザードマンたちも、生きるか死ぬかの訓練の方が強くなると思う、とは言っていた。

しかし、死んでしまってはせっかく上げたレベルが無駄になるどころか、マイナスになりかねない。

いや、なるだろう。

絶対に…

 

この世界の住人のレベルは上がりにくいらしいと、アインズも気づいていた。

この世界で初期に会った「漆黒の剣」の魔力系魔法詠唱者ニニャ。

彼女は「生まれ持った異能」によって「人の二倍の早さで魔法を修得する」という能力を持ちながら、第二位階の魔法までしか使えなかった。

それでも、常人より確実に早いのだ。

「ユグドラシル」のように「今日中にちょっとレベル上げておこう」という訳にはいかないのだ。

レベル上げは容易にいかず、下がったレベルを取り戻すには相当な時間と手間が掛かることは必須だ。

更にゲームのように「死んじゃった」では済まされない。

死に際しての痛み、恐怖は確実に精神を痛める。

 

アインズだって嫌なのだ。

即復活の魔法の指輪をしている。

ナザリックの者たちも自分を復活させようとするだろう。

だからといって、ちょっと死んでみようなどという気には絶対にならない。

最低限、プレイヤーの蘇生実験をして安全を確かめてからでなければ、自分が死ぬ事態を受け入れる気にはなれない。

そもそも、蘇生できるとしても、死ぬなどごめんだ。

 

絶対に復活できるNPCたちであろうと同様だ。

「復活できる」ということと「死んでも構わない」ということは、同義では無いのだ。

 

生き返る事ができるのだから、死ぬことは大したことでは無い。

などとアインズは思わない。

 

たとえるなら「「けがは時間で治るのだから、殴られても気にするな」と言われても納得できない」ようなものだろうか。

 

レベルが低くて復活できるかどうかも定かでは無い低レベルの冒険者では更に慎重にならざるを得ない。

 

ここで気付けた事を良かったと思うべきだろう。

冒険者の死体の山など見ずに済んで。

 

「あの…だめでしたか?」

黙ったままのアインズに、マーレが不安そうに尋ねてくる。

「よく出来ているが、このダンジョンは上級者向けだな」

首を傾げるマーレに、アインズは自身にも説明するように話す。

「レベル1がレベル10になるくらいの優しさが必要なのだよ、マーレ。この世界の生き物は、ほとんどが弱い。このダンジョンは、その弱い者を少しでも強く、そうだな、ナザリックにいるリザードマンたちくらいにしてやる為の物なのだ」

 

レベル1で普通の村人レベルだったはずだ。

最初に冒険者になろうとする農民の三男、四男はこのあたりだろう。

レベル10でそれなりの腕のはずだ。

ゴブリン将軍の小笛で出てくるゴブリンが八~十二レベルだったはずだ。

ナザリックで訓練しているリザードマンのレベルを、アウラに確認させたところ15前後だった。

 

リザードマンのザリュース・シャシャやゼンベル・ググーは「旅人」だと言っていた。

つまり、最低限あれくらい強ければ、一応旅は出来るのだろう。

といっても着の身着のまま、最低武器さえあれば主食の魚は生で大丈夫。野宿もさほど苦にならない。身体能力が人間種より上の亜人種を基準にするのは間違っているかもしれない。

しかし、チームを組めば何とかなるだろう。

ガゼフ・ストロノーフが相手であっても、冒険者のチームとしての強さは個人を上回る事ができるはずなのだから。

もっとも、これは一人でも欠けた場合の事態の最悪さを示すものでもあるのだが。

 

人間の旅に荷物はつきものだ。遠出となれば荷は大きく重くなる。

この世界の生物はアイテムボックスなど持っていないのだから。

ダンジョンの探索にしてもそうだ。

もしかしたら、日帰りという発想が無いかもしれない。

 

だが、荷物はなくすかもしれない。奪われるかもしれない。旅先で補給する事が出来ないかもしれない。

戦う強さも大事だが、サバイバル訓練も必要かもしれない。

 

そこでふと、以前に捕まえた陽光聖典の事を思い出す。

確か彼らの持ち物の中に「魔法の背負い袋」なる物があった、と。

収納量はアイテムボックスにも、収納量が五百キログラムという名前負けの「無限の背負い袋」にも遠く及ばず、その他の装備品全てが「ゴミ」判定だったが、この世界の冒険者で「魔法の背負い袋」を使用している者を見たことが無いのだ。

もしかしたら、あれはこの世界では破格のマジックアイテムなのではないだろうか。

重量としてせいぜい二~三十キログラム程度しか入れられないが、普段冒険者がチームで持ち歩く荷物が四十キログラムほどだったはず。

四人チーム一人に一つとすれば八十~百二十キログラム総量を増やせる。

そうなれば旅の距離は上がるかもしれない。

何しろ魔導国の冒険者に望むのは、未知への探索。

当然、行った先に人家や店などがあるのか不明、飲める水や食べる物があるのかも不明な未開の地だ。

治癒魔法が使える者がチームに必ずいるとも限らない上、使用可能回数は少なく、ポーションを持って行こうにも、ポーションは高額な上に、水薬(ポーション)というだけあって液体なので意外と重い。

更に割れないようにと気も使う。

冒険者組合組合長アインザックから冒険者の気を引くアイテムと聞いて、武器防具を考えたが、何日、何ヶ月もの旅をしてもらう事を考えると、こういったアイテムもなかなか価値があるように思えてくる。

 

いや、冒険者だけでなく、商人などにも需要があるかもしれない…と考えて、ふと悩む。

「密輸とか危ないか?」

この辺りは非常に神経質に考えなければならない問題だ。

中身をあらためるという事も必要になるかもしれない。

 

ダンジョン一つでここまでいろいろ考える事が増えるとは思わなかった。

とりあえず、このダンジョンに冒険者を入れる事は出来ない。

ここに入れてしまえば、魔導国は冒険者を駆逐する為に、難攻不落なダンジョンを造ったとふれ回られてしまいそうだ。

アインザックにも見てもらった方がいいだろう。

何事も現場の人間の意見は尊重するものだ。

「実はー」と後から言われても困るし面倒だ。

細かい事なら対応出来ても、大がかりな変更はやっかいな物に決まっている。

どのレベル帯なら入っても問題無いかを考えるべきだろう。

 

 

そもそもNPCは成長しない。

これは強さ、あるいはレベルという意味になる。

NPCは訓練などしない。

レベルによる強さ、種族による弱点などは既に決まっているからだ。

相手の力を測る、自分の技術や精度を上げる。あるいは計画を立てる、能力を把握するという事はあっても、力を伸ばすという事はやらないし、出来ない。

この辺りがNPCの意識の違いの顕著な現れだろう。

いっそハムスケや武王の意見を取り入れてみる方が建設的かもしれない。

 

 

旅立った先で全滅も困る。

帰ってこない者が多くなれば、冒険者を危険な地へ送り出す為の方便だったと言い出す者が出るかもしれない。

最悪の事態には、緊急避難が出来るように、転移のスクロールを持たせるべきだろうか。

更に訪れた先で、この周辺国家で流通している通貨が通用するかも不明だ。

貴金属として金貨や銀貨なら、どこでも通用しそうではあるが、絶対とは言い切れないだろう。

もっと単純に物々交換が基本の国もあるかもしれない。

そうなれば、相手が必要とする物を用意出来なければ商談、あるいは物資の補給が成り立たない。

 

はっきり言ってしまえば、ナザリックに所属する者以外がどうなろうと構わない。

たとえ死んでも心は毛の先ほども動かないだろう。

しかしその過程によって「アインズ・ウール・ゴウン」の名が貶められる事だけは許容できるものではない。

アインズ・ウール・ゴウンの名は、地に落ちて泥にまみれるものではなく天に燦然と輝くものであるべきであり、賞賛と憧憬をもって相手から迎え入れられるべきものなのだ。

アインズ・ウール・ゴウンの名を背負うとは、そういう事なのだ。

それだけの覚悟を持って、名乗っているのだ。

 

もうちょっと楽だといいな…と思う事があっても、投げ出すという事はありえない。

この名には、それだけの重さと責任があるのだ。

 

 

 

「とりあえず、現地と現場の意見を聞いてからにしよう」

 

そう、失敗は問題ではない。

失敗を失敗のままにする事が問題なのだ。

自分が分からないなら、専門家の意見を聞くべきだ。

丸投げは良くない。

今回、自分はそれを知ったのだ。




ユグドラシルゲーム的ダンジョンと、この異世界産のダンジョンの違いが知りたいです。


補足。
下位アンデッド作成・スケルトン(特典小説下巻を参考にしています) 

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