短編小説   作:重複

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神殿対策を考える

帝国内部の勢力。

騎士団

貴族たち

平民たち

神殿勢力

 

属国化に伴い、一番の問題となるであろう神殿勢力。

ここへどのように協議をしたものか、と考えていたジルクニフの元へ訪問者があった。

「現在、帝国には死者を復活させることのできる信仰系魔法詠唱者はおりません」

「そうだな」

それについてはバジウッドも死者蘇生が欲しいと言っていた。

「第五位階にも死者蘇生の魔法がありますが、生命力を大量に奪う為、弱者は灰となり復活が叶わないと聞き及んでおります」

「私もそう聞いている」

フールーダの蘊蓄を思い出す。

「魔導王はそれらを無視し、武王をその場で復活させたと聞き及んでおります」

「ああ、私もこの目で確かに見た」

最初に死んだとの宣言が嘘でなければ、と考えもする。だが、あれだけの攻撃を受けて生きているはずもない。確かに死んで、そして蘇ったとしか言いようがない。

「かの魔導王であれば、更に上位の治癒魔法をお使いになるのではないでしょうか」

「十分あり得るな」

相手は勢いよく頭を下げた。

「伏してお願い申し上げます。どうか魔導王陛下にお目通りを。我が子に温情を賜りたいのです。下位の治癒魔法では治らず、神殿に寄付をし中位の治癒魔法も施しましたが、全く効きません。この上は、上位の治癒魔法に頼るしかありませんが、帝国にも王国にも第六位階の信仰系魔法を修めている者はおりません。法国は自国の情報は出さず、また他国にその手を差し伸べる事は無いと聞きます。この上は絶対者たる魔導王陛下の御手を賜りたく、どうかお力添えください!」

帝国に死者復活の担い手はいない。つまり第五位階の信仰系魔法を使える者がいないという事になる。

第五位階魔法レイズ・デッドより上の第六位階に「大治癒(ヒール)」という、ほぼあらゆる状態異常、欠損、病気等を治せる魔法があるという。

しかしこれが使える者をバハルス帝国皇帝たるジルクニフですら見た事がない。

当たり前だ。

人の最高峰、人類の逸脱者たるフールーダの使える魔法が第六位階。

表立って第六位階が使える者など存在しないのだ。

もしかしたら法国には隠れた使い手が存在するかもしれないが、帝国に縁のない事に変わりはない。

しかし、魔導国なら。

一つの魔法で万を殺し、

一つの魔法で対価を必要とせず死者を蘇らせる、あの魔導王なら?

あの魔導王なら「第六位階程度」と言いかねないのではないか?

 

「ふむ」

これは使えるかもしれない

 

 

一つの大きな建物がある。

広大な敷地面積、荘厳で広く大きな本館に、貴族の本館として使っても遜色のない別館を左右に備え、表には庭園、裏手には木々が植えられ、小さな林といっても支障のない広さを有している。

更に周りの邸宅は取り壊され広さを拡張し、高い塀と広い道路で辺りと区切られている。

ここは魔導国の外交官の使用する邸宅となる。

つまり日本風に言うなら大使館だ。

 

そして広くなった道路、というより広場のように整備された敷地の前面にて竣工式が行われていた。

「我がバハルス帝国は、アインズ・ウール・ゴウン魔導国の属国となった。これに際し魔導国との親睦に力を尽くした者たちへ、魔導王陛下より褒美が与えられる」

そして脇に控える者たちへ声が掛けられる。

「三名、こちらへ」

一人は騎士団から。

もう一人は貴族から。

最後の一人は神殿からだった。

 

騎士団副団長の男は、幼い息子を連れている。その子の両腕は手首から先が無かった。

 

貴族の男は娘を連れている。深く被ったベールの下の皮膚は変色しひきつれている。

 

神官の男は老いた母を連れていた。背を丸め支えらなければ一歩踏み出すのも辛そうだ。支えられた腕も踏み出す足も枯れ木のように細かった。

 

「この三名は魔導国より派遣される使節団の為、館や使用人の準備にことのほか尽力した者たちであり、その働きをもって魔導王より恩寵が与えられるものである」

そして後ろに控えていた存在へ声をかける。

「使者殿、こちらへ」

頭からつま先まで、ローブやフード、更にベールで全身を覆い隠した人物が現れる。

「大治癒(ヒール)」

声からすると若い女だろうか。

三人にそれぞれ掛けられる魔法。

次の瞬間

「手がある!手があるよ!」

「うそ!どこも痛くない!」

「動く…手も足も思い通りに…」

健康な五体満足な健常体となった三人の喜びの声に、付き添っていたそれぞれの家族が嬉し涙を流して抱き合っていた。

「魔導王陛下にこれからもよく仕えるように」

 

 

「陛下、あの治癒魔法を受けるには、どの程度の支払いが必要なのでしょうか」

「あれは魔導王陛下が特にその働きを認められた者への恩寵であるそうだ」

 

大勢の衆目の前で与えられた恩寵。

今までの帝国では決して望むべくもなかった、奇跡といっても差し支えのない「第六位階魔法・大治癒」。

それが目の前にぶら下げられたのだ。

自身が病に苦しむ者。

家族や恋人に治らぬ傷のある者。

これから起こりうる病や怪我に対応出来るかもしれない希望。

アインズ・ウール・ゴウン魔導王の目にとまれば、病や怪我に怯える事の無い未来が手に入るのだ。

 

「我が家の総力をもって魔導王陛下のお役に立つ事をお約束致します。ええ、私の忠誠は魔導王陛下と、属国となる英断を下された皇帝陛下へ捧げます。これからの改革に協力は惜しみませんとも」

現金とも現実的ともとれる変わり身の早さは、身分や勢力圏の違いなどの区別は無かった。

 

そもそものきっかけはアインズが遠隔視の鏡でジルクニフが頻繁にポーションを服用しているのを見た事による。

あまりの頻度に「ジルクニフは何か病気なのか?」と心配し、帝国の神官の能力を調べた所、せいぜい第三位階までしか使える者がいないと知ったのだ。

そこでアインズは魔封じの水晶に「大治癒」を込めて「持病があるなら役立ててほしい」と送ったのだ。

もしかしたら、人には言えない病気かもしれないと思い、こっそりと。

使用法も効能も添えた気遣いである。

 

そしてこれを受け取ったジルクニフはーーー

 

「これは使える」

 

神殿勢力が属国化に異を唱え、国民の治療を放棄するような事態を恐れていたが、魔導国にそれを上回る治癒能力者がいるのなら、それだけで牽制となる。

なにより、帝国内の神官で治せないという事は、帝国内で働く神官自身にも治らない病を抱える者がいるという事なのだ。

ジルクニフからしても第六位階の大治癒を使える者がナザリックという組織に多数存在するとは思っていないが、いるといないとでは、天地ほどの開きがあるのだ。

 

実は、NPC復活は基本的に金貨で行われる為、蘇生魔法はネタキャラのペストーニャやパンドラズ・アクターくらいしか使えないが、戦闘中の仲間の回復の為、治癒魔法を覚えている者はナザリックにはかなりいるのだ。

そして当然だが、レベルとして下位の治癒では回復の割合が低いので上位魔法を修めているのだ。

更に拷問の悪魔(トーチャー)などは、種族として治癒魔法を修得している。

 

つまりこの国には、いや、この世界には、魔導国の恩恵を賜りたい者が溢れている、という事だ。

 

 

それぞれの勢力から、自身や身内に神殿の治癒では治らない難病を患っている者をリストアップする。

その中でも、藁にも縋る思いであろう者を、各勢力から一人ずつ選ぶ。

そして毒を吹き込んだ。

 

信仰系魔法の第六位階に大治癒という魔法があり、あらゆる怪我、病気、欠損を治す事が出来る。そして魔導王はその魔法を行使することができる。と。

 

彼らはジルクニフとの繋がりを求め、その先の魔導王の力を望み、その先駆けとして魔導国への便宜を図った。

 

そして今日、彼らの努力は報われた。

朽ちるしかなかった未来は取り払われ、失っていた夢や希望が与えられたのだ。

 

少年はなくした両手を取り戻した。

娘は大火傷で爛れた皮膚を過去のものとした。

母親は病で消えそうな命を、健康な体と共に再び燃え上がらせた。

 

それを目の前で見た者たちは、どう思うか…

 

我も我もと、目の前にぶら下げられた餌に群がったのだ。

 

 

「第六位階の大治癒を使える者なら、私のメイドにいるので派遣しよう」

アインズからの返事に、ジルクニフは首を傾げた。

メイドが第六位階の魔法を使える、という事がもはや非常識なのだが。

「魔導国だからな」

と、無理矢理納得した。

そしてやってきたのは、かつてナザリック地下大墳墓前のログハウスで出会った五人のメイドの一人だった。

試しに重病人を治してもらい、本物と確認した上で考えを練る。

ローブにフードなどで全身を隠したのは若い女、しかも絶世といってもよい美女が、第六位階魔法の使い手だなどと知れたら事だからだ。

どう考えても厄介事しか思い浮かばない。

バジウッドから、デスナイトより強そうなどと言われており、それを無条件に信じる訳ではないが、並の強さではないだろう。

しかし、それを理解する者ばかりではない。

第六位階の治癒魔法の使い手であれば、媚びを売りすり寄る者が出てくる事は必然であり、更に絶世の美女ともなれば、浚ってでもおのが物としようとする者が出てくるかもしれない。

大人しく浚われるような存在ならまだいいが、どう考えても大惨事の予想しかできない。

 

 

神殿勢力はもはや牙を抜かれたに等しい。

第六位階の大治癒を使う者が、それより下位の治癒魔法を使えないなどという事はないだろう。

つまり神殿が国民の治癒を行わなくなった場合、その跡には魔導国が入るだけ、という事になりかねないのだ。

そうなれば神殿は存在意義を失いかねない。

神殿が治癒を行わないのなら冒険者に、という流れもありうるのだから。

治癒魔法は神殿の専売特許ではないのだ。

そして冒険者は魔導国へ流れつつある。

つまりこのままいけば、治癒の手段は魔導国が一手に掌握する事になりかねないのだ。

神殿は自らの存在意義の確立の為にも、資金獲得の為にも治療を放棄する事は出来ない。

 

そして現在、ジルクニフの元には大量の謁見願いが届いていた。

ジルクニフに、というより魔導国との繋ぎを期待しての事だ。

ジルクニフの目に止まらなければ、魔導王への謁見も叶わない。

最悪、ジルクニフが「この者は魔導国を良く思っていない」などと魔導王に告げれば、その日は永遠にこないだろう。

故にジルクニフの元には、魔導王との繋ぎを得る為、ジルクニフに媚びを売り、なんとか魔導王への紹介を得ようと、贈り物や協力の申し出が引きも切らずにある。

あれほど魔導王を恐れていた騎士団ですら

「魔導王陛下の御手を煩わせるような事態があれば、率先して動きましょう」

と現金なものだ。

 

恩恵に与った三人は見せ餌なので簡単に与えたが、これからの者にまで軽々しく与えるものではない。

「あの者たちより、遙かに私どもの方がお役に立ちます。どうぞ魔導王陛下へよろしくお伝えください」

 

日々ジルクニフの元には、魔導国への属国化への英断を誉め讃え、自らのアピールに余念のない台詞が続く。

 

武力で勝り、財力で勝り、

更に生者の最も恐れる死すら超越する。

 

うまみがある相手と仲良くしない手があるはずが無い。

 

 

 

 

 

 

たとえ本心がどうであろうとも、なのだ。




ナザリックの力は上手く使えば、すごく有り難いんですよね。

まさしく力そのものは正義でも悪でもない。
使う者次第。

ひょっとして一番だめかな。



ペストーニャの性格が知りたいです。
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