短編小説   作:重複

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八欲王の妄想話。
便宜上名前をつけていますが、あくまで偽名みたいなものということで。


八欲王のその後って

カルマと名乗っている。

まあ、業が深いという事だ。

この世界ではいつの間にか昔話などで「八欲王」とか呼ばれている。

本名やアバター名は、何処でばれるかわからないので使わない事にしている。

ギルド維持資金を稼ぐ為、今日も国から国へ旅をする。

なんでNPCに、そういう機能付けなかったかなあ。

いっそ、すっげー美人作って客取らせれば、すぐに金になった気がする。

 

だが、ひたすらに自分に忠誠を尽くそうと頑張っているNPCを見ていると、さすがに情が湧く。

500年も見ていて飽きてもくるが。

設定も悪かったんだろう。

自分にそっくりな性格になるとか、打ち込んだ設定が思った方向に行かないとか、うっかり裏切り属性とか、嘘つきとか、病んでるのやら、厨二やら、融通利かないとか……

逆に、嘘が付けないとか、おせっかいとか、正義感強すぎてやっかいごと全背負い込みとか、八方美人とか……

設定ってのは、後から直せないからやっかいだ。

 

おかげで連れて歩けるNPCが限られてしょうがない。

楽は出来ないものである。

それに特に外装をいじってない……いじれるほどの技術が自分たちに無かった為、外見が類似している者もちょくちょくいたりする。

ぶっちゃけ、色違いなだけとか。

紛らわしいんだよな。

 

名前も変なのとか、懲りすぎとか、長すぎとか……

 

まあ、全部自業自得な訳だが。

 

とりあえず、ゲームだろうが、異世界リアルだろうが、ただ一つ変わらない事。

 

金がいる。

 

ある意味不変の真理だ。

生きていくのにも、購入にも。

そしてギルドの維持にも……

 

これが一番やっかいだ。

 

ちょっと待ってや、つけといて、という訳にはいかない。

資金が尽きたり足りなくなれば、即終了だ。

しかも再購入不可。

 

てな訳で、全員に月に稼ぐ金額のノルマがある。

最悪他の誰かが足りない可能性も考慮して、多めに稼ぐ。

残れば極力貯金。

次も稼げるとは限らないのだから。

堅実?夢がない?けち?

いや、500年もやりくりしていれば、いい加減学ぶでしょう。

夢じゃ食ってけないって。

 

しかもギルド拠点維持費は、本当に待った無し。

何度か資金が足りずに、手持ちのアイテムやらそこらの鉱石やら手あたり次第にエクスチェンジボックスに放り込んだのもいい思い出だ。

数回やった馬鹿(自分)としては、もうこりごりなのだ。

エクスチェンジボックスは放り込んだ物に応じて金貨に換金できるけれど、入れた物を取り戻す事は出来ない。

まさしくシュレッダー。

泣く泣く入れたアイテムたちは、もう二度と返ってこない。

これがオリジナル一点物だったときの苦痛ときたら……

あの断腸の思いを繰り返さない為にも、ノルマをこなすのは絶対だ。

あとは換金率の高そうな物の購入とか収集とか。

 

ついでにいうなら、悪事はだめだ。

後々さらに厳しくなって、次には事態が悪くなっていたりする。

自分の悪事なら自業自得だが、誰かの悪事の尻拭いは最悪だ。

とある狩り場など、今まで出入り自由だったのに、密猟者が増えたとかで、立ち入り料と身分証明が必須になった。

おかげで出費が増えた。

犯罪者許すまじ。

という訳で、目にあまる悪事はどっかで叩いておかないと、我が身にやってくる。

なんて迷惑な奴らだ。

大抵の奴は自分が生きている間に問題なければそれでいい、とか考えているのかもしれない。

そいつ(元凶)はいいかもしれないが、こっちはそいつが死んだ後まで苦労するのだ。

換金率のいい動植物(毛皮・爪・効能)が絶滅した日には、犯人を蘇らせて殴りつけたくなるほどの損害だ。

金がもったいなくて、やれないが。

 

とにかく誠実(疑われない)、勤勉(ノルマをこなす)、謙虚(目立たない)が大切だ。

 

プレイヤーやらNPCやら、知っているやつは知っている。

特に竜王は生きてるのが、まだいるからなあ。

ああ、めんどくさい。

 

 

溜め息をついた主人(カルマ)に付き従う二人は、心配そうに訪ねた。

「大丈夫ですか?」

「お疲れですか?」

外見のよく似た二人だった。

瓜二つとはこの事だろう。

というのも当然である。

この二人はNPCであり、同じ外装の色違いなのだ。

カルマのギルドのNPCのうち、強いNPCはギルド拠点を守らせる為に残してあるので連れ歩けない。

さらに良い装備は優先的に、そのNPCたちへ振り分けている。

そしてギルド武器や、ワールドアイテムを持ち歩くなど、論外だ。

そして余りにこの世界の常識と懸け離れたアイテムを所持していると、何処にあるかわからない耳目に引っかかる可能性が高くなる。

故にカルマは、目に付く装備品はこの世界の一般的な物で固めている。

もちろんアイテムボックスの中身はその限りではない。

だからといって貴重品は少量だ。

この世界にいないはずのモンスターが、まれに存在する事がある。

おそらくユグドラシルから流れて来たモンスターなのだろう、とカルマたちは考えている。

 

NPC。

ギルド拠点にPOPするモンスター。

ゲームではギルド拠点から出られないはずのこれらは、この異世界ではギルド拠点の外での活動が可能となっている。

さらに傭兵NPC。

召喚モンスター。

こちらで顕現しそうな可能性は、いくらでも考えつく。

ライトフィンガード・デーモン(手癖の悪い悪魔)などに遭遇したら、目もあてられない。

 

「あまり強いモンスターには会いたくないなあ」

カルマのレベルは、現状あまり高くない。

せいぜい85から90レベル程度だ。

レイドボスなどが相手だとかなりきつい。

1ステージの戦闘に複数で出てくるタイプなら、一体一体の力は弱いのだが、一体で出てくるタイプは複数のプレイヤーで挑む事を前提としているので、耐久・攻撃力・技の数・レベルといろいろ規格外になるのだ。

一体で最低六人を倒す事が前提なのだから、当たり前といえば当たり前なのだが。

カルマからすれば70くらいのモンスターと一体ずつ遭遇するのが有り難い。

90からのレベル上げは結構な苦行なのだ。

うっかり死んでレベルダウンなど、目も当てられない事態だ。

付き従っている自分よりレベルの低いNPCの死亡も痛い出費になる。

最悪、当分復活させることが出来なくなってしまうだろう。

だから安全に確実にレベルの上がる方法が望ましいのだ。

 

「確かにそうですね」

「危険であれば、我々が盾になる程度で済めばよいのですが」

基本的にこの二人のNPCは、カルマ(主人)の生存を最優先としている。

金貨があればレベルダウンも無く復活するNPCと、レベルダウンとアイテムドロップのペナルティがある主人(プレイヤー)。

どちらの生存優先度が高いかなど、言うまでも無い。

そしてNPCに、主人を死亡させる選択肢は無い。

とりあえずこの二人のNPCには、と言うべきか。

 

「自分が一番かわいい」

という設定をしたNPCは、主人(プレイヤー)を見捨てて逃げ出したのだ。

そのNPCは、今はギルド拠点を守っている。

「ここ(ギルド)が落とされたら、お前は死ぬ」

と言ってあるので、きっと死に物狂いで戦ってくれるだろう。

希望だが。

 

レベルが低ければ、あのNPCを処分して、ギルド維持費を軽減出来たかもしれないと思うと、カルマは自分の選択を悔やんでしまう。

今、自分に付いて来ている二人は、忠実という面では何の問題も無いのだ。

レベルの高いNPCに凝った設定を付けたせいで、墓穴を掘ってしまった。

コンソールが出ない以上、設定の変更は不可能なのだ。

これも悔やんでも悔やみきれない事態の一つだ。

 

 

カルマ自身は異形種のアバターである。

外見はシルエットなら人間に見えなくもない。

そこでカルマは、カメレオンマスクを着用して、人間の振りをしている。

異形種の国で活動する事もあるが、基本的には人間の国へも必ず行く。

なぜなら、やはり元人間な為か、人間種以外の種族の表情や習慣、飲食物などにどうしても馴染まないのだ。

永い年月によって、動物や爬虫類の種族の表情が多少はわかるようになったが、やはり馴染んだ人間種の顔の方が落ち着く。

 

どこまで行っても、自分の中の人間臭さは抜けないのだろう、とカルマは考えている。

だいぶ慣れたとはいえ、やはり根底にはリアルの頃に培った常識がある。

とりあえず人間種を食料にするのは、自分には無理があった。

200年前の「口だけの賢者」のミノタウロスは大変だっただろうな、とカルマは思う。

これで牛肉好きだったりしたら、お気の毒だ。おそらく一生食べる事はかなわなかっただろう。

人間に擬態出来る分、自分のアバター選択は良かったと思っている。

種族変更は、培ったプレイヤースキルを白紙に戻しかねないので「やってみれば」という仲間はいるが、実際に実行した者はいない。

0か100かを賭けられるほど、この世界は安穏とした情勢ではないのだから。

 

もっと簡単にレベル上げが出来ればよかったのだが、そうそう甘い話は無かった。

自陣営のNPCやPOPは、経験値に入らないのだ。

まあ、自分に反撃しないNPCを倒して経験値が入るのもどうかと思う。

ついでに言えば、NPCでレベル上げが出来るなら、金貨を積めば復活させられるレベルダウンの心配のない相手という、金さえあればレベルが買えるシステムになってしまう。

さすがにそんな裏技は、運営も用意しなかったようだ。

というか反逆したNPCからも経験値が入らないとか、残念仕様だ。

おのれ、糞運営。

異世界でまで、ゲーム仕様を適用しなくてもいいじゃないか、とも思う。

いや、NPC連れ歩けるだけでも、結構な改変だけど。

 

しかし、とカルマは考える。

自分たちが、ゲームの制限を受けるのはまだ分かる。

この体がアバターの状態である以上、ゲームの産物の縛りは必須だろう。

だが、この世界の住人はレベルというゲーム仕様と、この世界の生き物としての、一般としての生活が可能となっている。

料理をするのに、スキルが必要などという縛りは無い。

この異世界がゲームの仕様に縛られ始めたのは、500年前からだが、この世界の住人がゲームとリアルの混在になったのなら、自分たちだってもう少し縛りが緩くなってもいいのではないだろうか。

とりあえず、料理くらいスキル無しでも作れるようになってほしかった。

そうでなければ、新たにスキルが付与出来るとか。

野宿の際、一番の問題は、自分一人では食事を作れないことだ。

作り置きや携帯食料が尽きると、自分で獲物を狩ってその場で調理という事が出来ない。

これ一つで、カルマの旅の難易度は人より上がっていると言ってもよいだろう。

飲食不要の指輪が無かったら危ないところだった。

この指輪(リング・オブ・サステナンス)も、元はNPCに装備させていたものだ。

故に、そのNPCが食べる分稼がなければならない。

 

「あ~、金が欲しい」

「申し訳ありません。努力致します」

「誠心誠意勤めます」

 

しまった。

声に出していた。

こいつらは悪くないのだ。

ここまで切羽詰まったのは、いろいろ有効利用出来たはずのアイテムをシュレッダーに放り込むような事態を作った自分のせいなのだから。

 

因果応報

自業自得

 

金に困った時に、一食抜くのは、指輪をしている俺であるべきなのに、こいつ等が食べないのは間違っている。

 

すまん。本当はわかっている。

俺の、俺たちの女癖の悪さが原因なのだ。

だって抱くなら人間、せめて人間種の女がいいじゃないか。

亜人種や異形種じゃ、その気にもならない。

せっかく人間の敵になりそうな種族を減らしまくって、ここまで増えたのに。

 

「あ~、世の中って上手くいかないなあ」




エクスチェンジボックスが「シュレッダー」って元に戻らないのかな、と思って発展させたらこうなった。
アインズなら、こんな事は絶対にないと思う。

と、5巻幕間で妄想したのでした。

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