短編小説   作:重複

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リアルを知る者

アインズは悩んでいた。

 

それはこの世界の職業構成についてだ。

 

知り合ったドワーフのゴンドが、ルーン工匠としてレベルが足りず、見習い程度の技能しか持っていないことは理解できた。

 

しかし、それがゴンド自身には分かっていないように感じたのだ。

単純に「自分の技術が伸びない、才能が無い」としか、考えていなかったように思われた。

 

これは、どういう事か。

 

想像するに、この世界の人間、あるいは存在は、自分の成長限界レベルを知らず、更に自身の職業構成も理解していないのではないかという可能性が浮かんできたのだ。

 

最たる存在は、カルネ村のエンリだ。

 

彼女は、使役するゴブリン軍団の能力を底上げする、ユグドラシルでいう所の、指揮官系の能力を持っているらしい。

 

しかし、彼女は自称「ただの村娘」であり、長じても「村長」か「族長」といった呼称を使うのみである。

 

つまり、彼女は自身の職業クラスを把握していないのではないか、という予想が成り立つのではないだろうか。

 

ユグドラシルでは「この職業を取れば、この技術が使える」といった、先に取得する魔法やスキルを目標に、職業を選択していた。

 

しかし、この世界では、その職業を生業にしているのでもなければ、行動の末に得た能力を使う事はあっても、その能力の職業を名乗る事はしない。

 

更に、ユグドラシル基準のレベルに達していなくとも、レベルより上位の職業を選択する事を可能とする者もいるのだ。

 

これは、この世界特有の職業を開発しているという事なのだろうか。

 

 

例えば、ポーション。

 

ユグドラシルに、青いポーションは存在しない。

全てのポーションの色は、赤と相場が決まっていた。

 

にも関わらず、この世界には青いポーションが存在する。

これはユグドラシルの技術ではない。

この世界特有の、ユグドラシルのポーションと同じ効能を持つ、ユグドラシルのポーションに似せて作った物だ。

これを「偽物」と考えるか、「この世界のオリジナル商品」と考えるかは、意見の分かれる所ではあるかもしれない。

 

 

同様に、かの蒼の薔薇の忍者姉妹は、ユグドラシルの基準のレベルに足りずとも、忍者としての技術と能力を有していた。

 

ユグドラシルでは、レベルが足りない=その職業に付けない=その技術が使えない、という結果しかなかった事を考えれば、この世界は能力やレベルに、かなりの融通が利くという事になる。

 

うらやましい話であり、同時に警戒すべき事案だ。

 

レベルが低くとも、百レベルの自分と同じ能力を、劣化版とはいえ会得している可能性が有り得るのだから。

 

 

ユグドラシルでも、自分のステータスは自分でしか確認できなかった。

当たり前だ。

自分の保有する能力を、敵対する可能性がある対象に晒す訳がない。

 

ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」にはいなかったが、同じギルド内に裏切り者がいても不思議のなかったユグドラシルにおいて、同じギルドメンバーでもそうそう自分の情報を開示するような真似はできなかった。

 

なにしろ、話した相手が悪意無く他者にその情報を話してしまう可能性も考慮しなければならなかったからだ。

 

ユグドラシルは、基本的にプレイは無料だ。

課金をしなくても遊べる以上、接続できる機械さえあれば誰でも参加する事ができた。

そして大気汚染から、外で遊ぶという選択肢がないリアルにおいて、ゲーム機を持っていないという世帯は、仕事に就けない最下層である。

 

よって、ユグドラシルのプレイヤーは、上から下まで幅広い年齢層が参加していたのだ。

 

しかし、ゲームの中で会うのはアバターである。作られたアバターを見て、その相手の年齢など分かるはずがない。

 

年齢に関わらず、信用がおけるかも、それなりの付き合いを経なければ、分かろうはずもない。

 

自分が知った情報を他者に簡単に話してしまう、年齢の幼い者や道徳心や警戒心の低い者も一定数は存在したのだ。

 

ユグドラシルという、ゲームの法則に支配された中ですら、不確定要素は事欠かなかった。

 

 

 

 

「警戒しろ。情報は力だ。不明な点がある以上、油断は禁物だぞ」

 

改めて自分を戒める言葉を呟いていた。




映画観てきました。
あの最初の注意(アルベド出演)も、DVDに入らないかな。

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