「そんな都合の良い展開があるか」=これが「ご都合主義」というものだ、と続く。
と書こうかと思っていましたが、流石に場にそぐわないかと思ってやめました。
つまり、ここからは「ご都合主義」展開ありきです。
まあ、甘くも優しくも無い展開ですが。
「アシッド・アロー!」
第二位階の魔法を唱え、襲ってきたモンスターを撃退する。
止めをさせるほどの威力は無いので、最後は前衛を担当するゴブリンの剣が相手の息の根を止めた。
クーデのチームは六人編成だ。
物理火力 ゴブリン聖騎士隊より出向
魔法火力 クーデ
防御担当 ゴブリン重装甲歩兵団より出向
治療担当 ゴブリン医療団より出向
探索担当 ネム・エモット
全支援役 ゴブリン暗殺隊より出向
魔導国以外では四人一組が多いが、魔導国では基本は六人一組だ。
一人一人に役割が振り分けられている以上、一人でも欠ければ大惨事となりかねない。
全体をカバーする役も必要なのだ。
あるいは、戦力に余裕を持たせて、一人の負担を減らすなどの工夫が求められていた。
そして、そんなチームの中でクーデリカことクーデは落ち込んでいた。
侮っていた。
自分は魔法を使える。
しかも第二位階魔法が使え、もうすぐ第三位階の魔法にも手が届くかもしれないとみんなが言う。
それはすごい事で、このチームの誰よりも役に立つに違いない、と。
どこかでそんな風に自惚れていた。
そんな都合のいい話は、なかった。
魔法を使えないネムの、レンジャーとしての能力がなければ、今頃自分は死んでいただろう。
近づく敵に気付かないという事は、そういう未来をたやすく呼び寄せるものなのだ。
ネムにはレンジャーとして、ゴブリンたちに鍛えられた技術があり、それを生業として活動してきた実績がある。
かえして自分は魔法が使えるというだけで、敵を発見する事も、動き回る敵に攻撃を当てる事も、味方の援護さえも満足に行えなかった。
才能のある者の到達地点とされる第三位階魔法ですら、実戦では対応策が存在する。
敵が避けられる火球(ファイヤーボール)。
敵に当たらない雷撃(ライトニング)。
敵も馬鹿ではない。
火球であれば着弾点を推測し、当たらないように散解する。
一直線に進む雷撃ならば、横に飛んだり伏せたり、あるいは壁となる障害物を利用する。
魔法詠唱者が活躍するには、敵を素早く発見する野伏。
敵の攻撃を防いでくれ、足止めしてくれる盾役となる戦士。
そういった連携が、必要不可欠なのだ。
チームを組むという事は、そういった役割分担をきちんと行える事が必要だった。
敵の投げた石で、目を潰される事もありえるし、頭上から石や矢が降ってきて当たれば、簡単に死ぬだろう。
前方や目に見える範囲だけに敵がいるなどという事は、あり得ない事だ。
戦闘とは命のやり取りであり、自分の命が掛かっている以上、いくらでも真剣にそして狡猾に対応してしかるべきなのだ。
そしてそれは相手も同様だ。
こちらの裏をかこうと画策し、あらゆる手段を模索してくる。
相手が死んだと思って近づけば、死んだふりだったという事も珍しくは無い。
クーデは杖をきつく握り締める。
今日一日で、何回死にかけただろう。
役に立つどころか、足手まといはまさしく自分一人だ。
こんなはずじゃ無かった。
どこかでそんな思いが沸き上がる。
自分はもっと役に立つ。
自分はもっといろいろな事ができる。
自分はもっと・・・
甘かったのだろう。
どう考えても。
自分は魔法が使える。
護身用に剣も習った。
だから?
実戦経験が無いという事は、初心者と同義だ。
相手(敵)が自分に合わせてくれるはずも無い。
隙を狙い、隙を作るように誘導し、だめなら不得手な方向から突いてくる。
実戦経験の無さは、とっさの反応にも出る。
敵を前にした時、竦むことなく相手を観察し効果的な魔法の選択ができるか。あるいは逃げるか戦うか、さらには交渉するか等、臨機応変な対応が求められるのだ。
ここが魔導国の訓練用ダンジョンでなければ、自分は遺体さえ残るまい。
「何事も経験だよ。本で読んだり、人に聞いたりするのも大切だけど、体験しなければ、ただの『知識』なの。それが解った分、経験を積んだっていえるんだって」
自分に語りかけてくるネムの言葉が、嬉しくも情けない。
つまり、自分はやっと一歩目の足を出したばかりだという事なのだから。
それでもこの体験を、経験として蓄積しなければならない。
まさしく「言うは易し、行うは難し」だ。
冒険者組合での注意が思い起こされる。
「魔導国の冒険者は、国の機関に所属しているという自覚を持ってください。くれぐれも他国で、魔導国の評判を落とすような言動は慎んでください」
国から資金を提供されているのだから、国の看板となる行動をするように求められたのだ。
しかし、知らない人に話しかけるだけでも、気が重くなる。
カルネでは、どこの馬の骨ともわからない、拾われ者の自分は、嫌われないように気を使う日々だった。
自分の行動が、恩人であり育ての親代わりをしてくれた、エモット家やバレアレ家の迷惑になるかもしれないのだから。
だからこそ、冒険者になりたかったのかもしれない。
自分を知らない人々の中でなら、自分を変えられるかもしれない、という思いもあったのだ。
無論、そんな都合良く簡単に行く訳がない。
自分の先の見通しの甘さに、自己嫌悪に陥らないように気を張るのがせいぜいだ。
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懐かしい夢だ。
部屋に姉(アルシェ)と手をつないだ双子の片割れ(ウレイリカ)が入ってくる。
久しぶりに会えた姉の姿が嬉しくて。
自分より先に会っている、もう一人が羨ましくて。
つないだ手が悔しくて、自分もと駆け寄って、もう片方の手を握りしめる。
硬い手。
でも、優しい手。
二人で姉を部屋の中に引っ張り、一緒に腰掛ける。
自分たちの頭を撫でてくれる。
姉は自分たちを並べて座らせると、正面に屈み込む。
そして
「大事な話があるの」
ふと、目が覚める。
引っ越しの話をした後、姉に会った記憶は無い。
あれが最後に会った姉の姿だ。
「お姉さま」
久しく口にしていなかった呼び名を、声に出して呟いていた。
ゴブリン軍団は、例え勝手に名前を付けてもオリジナルのキャラクターではない。
(どこかで出したらすみません)と思っている。