「短編」ほど長くならなかったので。
1、異種族交流
リ・エスティーゼ王国、城塞都市エ・ランテルの冒険者組合組合長。
改め。
アインズ・ウール・ゴウン魔導国冒険者組合、プルトン・アインザック組合長。
アインザックは驚いていた。
それは魔導王によって、エ・ランテルへやってきたゴブリンたちとの会見によって起こされた、自身の常識の崩壊によるものだ。
魔導王に引き合わされたゴブリンたちは、自分が今まで知り得たゴブリンとは、まったく異なる存在だった。
礼儀正しく衛生的。
言葉も流暢で、意志疎通に問題など何も無い。
さらには高い戦闘能力を持ち、故ガゼフ戦士長の育てた戦士たち並には強いだろうと感じられた。
いや、ゴブリン特有の子供と変わらない背丈を考えれば、あのゴブリンたちの戦闘能力は上回るかもしれない。
子供程度の背丈からくる、リーチの差や降り下ろしの速度や高さが、成人男性より不利にも関わらず、一廉(ひとかど)の戦士と同等の戦闘能力を持つなど、その鍛えられた筋肉に覆われた身体だとしても、非常に優秀だと判断できる。
そもそも、あれだけ外見が自分の知るゴブリンと異なると、いっそ違う種族だと言われた方が納得できるという気がしてくる。
確かに彼らのような存在であれば、言葉の通じない倒す以外に選択肢の無いモンスターとして扱うのは、何か違うような気がしてくる。
しかも、人喰いの代名詞ともいえるオーガが、食料を提供すればゴブリンの言うことを聞いて一緒に戦うなど、まさに常識とは何かと問いたくなるほどの衝撃だ。
それどころか、開墾の手伝いさえもしているという。
確かに頭は良くなさそうだが、上下関係をしっかりと把握し、愚直に働く様は好感が持てる。
むしろ、上下関係も信頼関係も、隙あらば覆そうと暗躍する人間の方が、問題があるようにさえ感じてくるほどだ。
なるほど。
確かに彼らには彼らなりの常識や規則(ルール)があり、それに準じた文明を持っているのかもしれない。
そんな風に考えるくらいには、彼らゴブリンの存在はアインザックのゴブリン像を壊した。
まさしく、魔導王の言葉通りだったのだ。
アインザックはしみじみと呟いた。
「本当に世の中とは、未知に満ち溢れているのだな」
◆◆◆
2、二百年
リ・エスティーゼ王国 城塞都市エ・ランテル、改め、アインズ・ウール・ゴウン魔導国の冒険者組合組合長プルトン・アインザックは、己の手の中にある物を、うっとりと眺める。
美しい造りだ。
滑らかな曲線。
けぶるような姿。
透き通るようでありながら、一級品の硬度を保有した強さを秘めている。
神秘的な青さは、まさに至高と呼ぶべきだろう。
「はあ」
これはまさしく英雄の装備。
アダマンタイトの冒険者が、探求の果てにやっと手に入れる事ができるような、まさに秘宝と呼ぶべき究極の一品。
それが、今、自分の手の中にある。
そして、それは自分の物なのだ。
沸き上がる歓喜を押さえる術など、アインザックは持ち合わせてはいなかった。
「素晴らしい」
この青く揺らめく靄を纏う刀身を持つ短剣を下賜してくれた、魔導王への感謝は、いくらしても足りるものではない。
過去、冒険者として望んでも到達できなかった願いの一つが、ここに具現したのだから。
そして、魔導王の行動に自分なりの解釈が生まれていた。
魔導王はこの短剣を「大したものではない」と言ったのだ。
つまり、魔導王にとって、この短剣はありふれた物なのだろう。
そこから考えれば、おのずと想像できる事がある。
世界中に残される遺跡。
そこから発掘されるアーティファクト。
そして長く生きているという魔導王。
つまり、魔導王は「そういった遺跡が栄えていた頃から存在していた」のかもしれないという可能性だ。
それならば、魔導王が優れた武器や道具を複数所持している事にも納得できる。
魔導王にしてみれば、今の世界は随分と退化してしまって見えるのだろう。
そしてエ・ランテルを領土とした事。
もしかしたら、もともとこの一帯は、魔導王の支配地だったのかも知れないと言うことだ。
王国の歴史は、せいぜい二百年だ。
魔導王が、それよりも以前から存在していた可能性は、十分にありえる。
つまり魔導王からすれば、「家を留守にしていたら庭にいつの間にかテントを張って生活している者がいた」状態だったのかもしれないのだ。
それなら魔導王が、豊かな帝国ではなく、わざわざエ・ランテルを自領にした理由も理解できる。
魔導王の視点からすれば、奪ったのではなく、自分の物を取り戻したという感覚なのかもしれない。
二百年も前の事、というのは人間の理屈なのだろう。
魔導王からすれば、「たった二百年」という尺度なのかも知れないのだ。
だから、魔導王は「私はお前たちとは違う存在。だからこそ人間の反応に間違ったことをするかもしれない」と仰ったのではないだろうか。
永い時を存在するアンデッドたる魔導王からすれば、二百年前の所有権は当然の権利で、人間がそれを理解できないとは思わなかったのかもしれない。
ゆえに、リ・エスティーゼ王国が領土を明け渡さない事に腹を立てたのではないだろうか。
あの「カッツェ平野の大虐殺」は、そうして起こったのかも知れない。
そんな風に、アインザックは魔導王の言動を自分の理解の範疇で想像していた。
むろん、これは妄想の類であり、事実とは異なる可能性は十分に理解している。
しかし、完全に間違っていると否定できる材料も存在しないのも、また事実なのだ。
アインザックの想像が、ここまで飛躍したのには一応の訳があった。
開戦前にバハルス帝国が、わざわざ宣言文に記した事が、完全な虚偽と思えなくしていたのだった。
1、10巻で考えて、12巻でゴブリンたちがエ・ランテルに滞在している記述があったので。
2、アインズがアインザックに簡単に(現地勢にとっては)レベルの高い武器を渡したことで、アインザックが想像できて、アインズに都合がよい理由。というこじつけです。
現地勢は、アインズが永く存在しているとみんな思っているようなので、こういう考えも有かな、と。