短編小説   作:重複

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ありえないかもしれない、けど、あるかもしれない。

そんな話(勢い)



分岐の可能性

モモンガことアインズ・ウール・ゴウンは地上の有様に驚いた。

驚愕したと言ってもよいだろう。

 

最初に見た景色とあまりにも変わり果てていたためだ。

 

実に三ヶ月振りの地上は、その様相を一変させていた。

 

 

ユグドラシルという「ゲーム」が「現実」として機能し、ナザリックの外は、何の情報も無い未知の世界へと変わっていた。

 

これにアインズは驚くと共に――

 

 

恐怖した。

 

 

未知とは放置して良いものではない。

 

大抵の「想定外」は無知から来るものだ。

 

既存の情報が当てにならないのなら、きちんと確認することは急務である。

 

そしてアインズにとっての最初の「未知」とは――

 

 

 

「ナザリック」であった。

 

 

 

NPCが自らの考えを持ち、行動する。

 

アインズに忠誠を誓い離反する気配は無いが、本当にそう(大丈夫)だろうか。

 

忠誠が本当だとしても、それは「アインズ」のみに向けられているものなのだろうか。

 

そしてそれは永続的、不変的なものなのか。

 

NPCの行動原理に影響を与えている「設定」や種族特性は、どのようなものなのか。

 

各NPCの「設定」を見ることは、現在コンソールを開けない以上不可能だろう。

 

では、どうするか。

 

 

 

アインズは地道にナザリック内の調査を開始したのだった。

 

 

守護者統括にして防御に優れ、「モモンガを愛している」と変更した設定の通りに、自分(アインズ)に忠誠以上の(行き過ぎた)愛情を向けるアルベドなら、何かあってもそうそう裏切らないだろうという打算を含めて供とし、ナザリック内の全てのギミックが正常に機能するかの確認の為として、戦闘メイドのシズも同行させた。

 

 

そして――

 

あまりにも事細かに確認していた為に、三ヶ月もの月日が経っていたのだった。

 

ささやかな言い訳が許されるならば、ある意味必然ではあったのだ。

 

アインズとて、ナザリックの全ての情報を網羅し把握している訳では無い。

 

なにしろユグドラシルの最終日にはコンソールを開いて設定を確認しなければ、たっち・みーの作成したNPCの名前を思い出すことすらできないほど、ナザリックの細かい情報など覚えていなかったのだから。

 

そして、先のカルネ村での一件。

 

自身の作成したデスナイトさえ、未知の存在として映ったのだ。

 

自分(召喚者)のそばを離れての単独行動。

特定条件(死体利用)での召喚制限時間の無効。

何故か意志疎通のできる、精神的な繋がり。

 

今までの「既知」が全て「未知」へと変わっているのだ。

 

慎重にも慎重を重ね、ついでに自分が知らなかったギルドメンバーの裏話(黒歴史)やいたずらを発見しながら、自らの拠点の確認をしていたのだ。

 

思いがけず、興が乗ってしまったという事もある。

 

アインズはユグドラシルというゲームが、そして仲間と共に作り上げたナザリック大地下墳墓が何よりも好きだったのだから。

 

NPCが喋る事ができるようになったということも大きい。

さらにはナザリックに存在する者のほとんどが、飲食や睡眠を必要としないという事も、そこに拍車をかけた。

 

正しく「時間を忘れて」行動していたのだ。

 

自分の知らないギルドメンバーの話にのめり込んでしまった事は、三ヶ月という時間の示す通りである。

 

 

ついでにパンドラズ・アクターに会ってのダメージが大きかったこともある。

 

そしてナザリック内を精査し終え、問題無しの太鼓判という安心を得て、やっと久し振りの地上へ目を向けたのだ。

 

 

最初の日に、デミウルゴスに「全てを一任する」と言ったまま。

 

 

 

 

デミウルゴスは頑張った。

 

最後に残られた慈悲深き至高の御方に「全権委任」をされたのだ。

 

これは自分の能力を認めてくださったのだと奮起した。

 

そしてこれが最後のチャンスだと、肝に銘じた。

これを逃せば次は無い、と。

 

 

最後に残られた至高の御方。

最も慈悲深き御方。

 

そんな御方の命令なのだ。

 

至高の御方々のどんな困難な命令でも、自分(僕)たちは喜びをもって遂行する。

 

遂行できない僕に価値はあるのか。

 

命令は完遂してこそ、意義があるのだ。

 

「頑張りました」では意味が無い。

 

それは即ち、自分たちの存在の不要を意味する。

 

 

ナザリック大地下墳墓が転移した場所は、人間の支配する国のそばだった。

 

 

しかし――

 

 

何故わざわざ劣等種である人間を、対等に扱わなければならないのか。

 

ナザリックに人間は不要である。

 

家畜か食料、あるいはおもちゃ以上の価値は存在しない。

 

至高の御方がわざわざ自ら出向き救った、カルネ村のような例外を除けば、全ての人間は「ごみ」である。

 

せいぜい「有効活用」してやるくらいしか使い道が存在しない。

 

故にそこに遠慮は存在しなかった。

 

 

 

あらゆる情報は「手段を選ばずに」収集された。

 

 

そこに浅慮や油断、慢心などは存在しない。

 

至高の御方への忠義を示すのに、全身全霊をかけて挑む以外の道など存在しない。

 

 

主人(アインズ)の「世界征服」という覇を顕現させる為にも。

 

そこに失敗や敗退などという無様は晒せない。

 

 

ナザリックという、完璧な計算に基づき運営される楽園。

 

それを地上に――、いや、全世界に展開するのだ。

 

至高の御方が統べる世界が不完全な物であってはならない。

 

 

そして、至高の御方の御手を煩わせてはならない。

 

「全権委任」は「ナザリックの外」を示すのだ。

 

至高の御方の財に手を付けるなど、不敬以外の何物でもない。

 

そも自分には、そうあれと与えられた「卓越した頭脳」と、階層守護者たる「強大な力」が既にある。

 

これらを駆使して職務に当たることこそ、忠義である。

 

 

当然、ナザリックに配置された者(僕)を使うなど論外だ。

 

ナザリックに存在するものは、小石一つ木の葉の一枚に至るまで、至高の御方のもの(所有物)だ。

 

至高の御方(アインズ)の許可無く使用したりナザリックの外へ持ち出すなど、許されることではない。

 

そもそもそんな事をする自分を許せない。

 

 

 

故にデミウルゴスは自身や配下の魔将の能力によって召喚された悪魔たちと、現地で使える者を巧みに使用し、あらゆる情報を微に入り細をうがち、集めに集めた。

 

他にも召喚能力のある仲間から協力をとりつけるなど、ナザリックの損害を徹底的に排除したのだ。

 

当然、恐怖公の召喚した眷族も多用した。

なんといっても、目立たないのが良い。

小さい者は、人間の耳の穴にも入るのだ。

これほど隠密に長け、使い捨てにできる存在はナザリックにも少ない。

 

エントマが、「おやつ」と称して食べてしまうほど数が多く価値が低いのだ。

 

しかも丈夫だ。

その口は簡単に人間の皮膚を食い破り、体の中でも活動して胃壁も食い破る。

当然餌(人間)にも不自由しない。

なにしろ共食いすら辞さないのだから。

 

恐怖公も眷族の犠牲には心を痛めたが、なによりもナザリックの役に立つ事を誇り、喜んでいた。

彼らの誉れ高き犠牲は、ナザリックへの貢献として高い評価を得るだろう。

 

デミウルゴスに協力を惜しむ者など、ナザリックには存在しなかった。

 

 

 

 

そして彼らは違和感を覚える。

何故人間が生き残っているのか。

あまつさえ、複数の国という単位で繁栄していることが出来るのか。

 

弱く愚かな劣等種が、大陸の片隅とはいえ国を構え、同族殺し(戦争)を特に忌避するでもなく行える。

 

それほどの国力(人数)を保持し続けられるその理由。

 

その疑問を宙に浮かせておくような者は、ナザリックには存在しなかった。

 

 

斯くして世界は統一される。

 

人間の国はもとより、近辺に存在する国は一つに統合された。

 

人間種という家畜。

それらの管理をする、労働階級の亜人種。

その上に君臨する異形種。

 

正しくナザリックの支配体系を、世界に復元したのである。

 

いや、世界を「正しい形(ナザリック仕様)」へ改善したというべきか。

 

頭が良いだけの存在など、反乱を企てかねないので不要である。

家畜に知能を求めて何になるというのか。

強いと謳われる存在も、ナザリックの前では等しく「虫けら」だ。

踏みつぶすことに何の問題があろうか。

最強種と呼ばれるドラゴンの中で、現在最強とされるアークランド評議国の永久評議員のドラゴンの一体、ツァインドルクス=ヴァイシオン。

人間(リグリット)に接近を許すような存在を暗殺、或いは無力化する事に、どれほどの労力を必要とするだろうか。

 

ドラゴンは良い材料だ。

人間などとは比べ物にならない。

 

畜産化できるなら、すぐ死ぬ劣等種(人間種)などを残す必要も無い。

 

一定数(最小限)を残せば、後は不要(ごみ)となる。

 

それらは亜人用の家畜として、払い下げられる。

 

七彩の竜王などは、人間(劣等種)とも子供が作れるという汎用性から重宝(酷使)できるだろう。

 

こういった「保護(飼育)」はあらゆる種族に及んでいる。

良い子供(材料)を産む者(家畜)が、優遇(有効利用)されるのは当然だ。

 

勿論、ナザリックに貢献する者には、ふさわしい立場を与えることに問題は無い。

 

亜人種や人間種であっても、ナザリックの役に立つなら、取り立ててやるのも必要なことだ。

 

 

かくして世界はアインズ・ウール・ゴウンへ献上される。

 

本人(アインズ)の預かり知らぬ間に。

 

 

「このままいけば、五年後には大陸を制覇できると試算いたします」

 

(フラグかな)

 




アインズが人間を支配(臣民扱い)する方向に舵を切っているから、アルベドやデミウルゴスもその方針で人間を支配する(家畜・奴隷扱いしない)作戦を立てていると思うのです。

単純に全てを支配するなら、六巻でもデミウルゴスがナザリックの損害を忌避していたので、召喚した者を前面に出して、都合の良い種族だけ残すかと思います。

人間を「虫けら」扱いするならカルネ村は残ると思いますが、ガゼフは1巻でアルベドが言っていたように「露払い」の役目としか思われていないので、あっさり処分されると思いました。


13巻を読むと、ギルド内での行動はそこにNPCがいれば、全て覚えられていそうですね。
至高の御方(ギルドメンバー)の御言葉を忘れるなどあり得ません、という感じで。

理解しているかは、別ですが。

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