書籍1巻
嫉妬の魔将は嬉しかった。
アルベドが嬉しそうに報告してきたからだ。
「アインズ様に『清廉な美女』って称して戴けたの。しかも『お前の輝きはその程度の汚れでくすむものではない』ですって。」
きゃあきゃあと、思い出しながら身悶える守護者総括。
残念な姿と言うべきかもしれないが、嫉妬の魔将はそれでよいと思っている。
アルベドは恋しく愛しい相手を想って、こんなにも狂っているのだ。
それは正しい在り方だ、と嫉妬の魔将は肯定していた。
「アルベド様。気を抜いてはいけません。至高の御方の御言葉に『美人は三日で飽きる』という格言が御座います」
嫉妬の魔将のその言葉に、アルベドはびくりと体を震わせた。
「アルベド様の美しさは、三日で飽きる程度のそこらの美人とは格が違いますが、いつもと同じという状態は相手に退屈を覚えさせるものです。普段、玉座の間においでの際の、一点の汚れも無いアルベド様も当然魅力的ですが、今回のように『アインズ様のために走り回っている』お姿が、汚れという分かりやすい視点で強調されたと思われます」
アルベドは、確かにそうかもしれない、と考える。
汚れていたからこそ、走り回っていたとアインズが考えた可能性もある。
これが普段となにも変わっていなければ、最悪、そこまで真面目に熱心に取り組んでいたのか、疑われたのかもしれない。
もちろん、あの聡明な主人が部下の働きに気付かないとは思わないが、汚れがある状態とない状態では評価に多少なりと差が出たのは間違いないだろう。
「そうね、そうよね。マンネリはだめね。刺激って必要よね」
一度相手の提案をのみ、アインズからの評価が相手の予想通りだった事が、アルベドの信頼に繋がっている。
あの瞬間の自分の考えよりも、この嫉妬の魔将の考えの方が、状況に則したものだったのだと考えざるを得ない。
「くふー。あの方の隣には、私が座るのよ」
そして―――
「隣に座るのは大変結構です。でも上に座ってはいけないと思います」
アルベドの謹慎の理由を知った嫉妬の魔将は、そっと小さく呟いたのだった。
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書籍7巻
「すごい」
「すごい!すごい!すごーい!」
「・・・・・・すごい」
三人の元奴隷のエルフの娘たちは感嘆の声を挙げ続けた。
自分たちを買った主人であった、ワーカーのエルヤー・ウズルスが死んで、侵入したナザリックで働く事となった彼女たちは、ひたすらに驚きの声を挙げるだけの存在と成り果てていた。
切り落とされた耳が、メイド長だという犬の頭をした亜人の治癒魔法によって治された。
これだけでも三人にとっては驚きだ。
大治癒(ヒール)は第六位階に位置する魔法なのだから。
更に着替えとして渡されたメイド服は、どう見ても一級品。いや、特級というべきではないだろうか。
布なのにミスリル級の強度とか、どこの世界の話だというのか。
食べる物飲む物全てが、今までに食べた物が家畜の餌だったと思うほどの最高の味。
新しい職場となった第六階層は地下だというのに木々が生い茂り、森林として広大な面積を有している。
そこにいるモンスターたちは、あの死んだ男(エルヤー)をたやすく殺した白銀の魔獣が足下にも及ばす、瞬殺されそうなほどの強さを感じさせる強者ばかり。
更にその地を統べるのは、ダークエルフの双子の姉弟。
それも目の色が左右で異なるオッドアイ。
ここはまさしく神々の住まう、失われたものが今も残された聖地だ。
三人はそう信じた。信じるというより、彼女たちの常識では疑う余地がどこにも無かったのだ。
故に一生懸命、あるいは必死で役に立とうと心がけた。
神々の住まう地に土足で踏み込んだ罪は重い。
それを「自分の意思では無かったから」と慈悲を与えられた。
その状況に甘え、恩を返す努力を怠ってはならないのだ。
そう三人は誓った。
しかし、アウラとマーレには大変不評であると気づいていない。
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書籍10巻
「困ったなあ」
この一言がエ・ランテルでは、よく使われている。
「やめてください、困ります」
しつこく言い寄る男に言った途端に男が逃げ出した。
振り返れば、自分の後ろにデスナイトが立って、相手を威嚇していた。
「困った。手が届かない」
剪定をしていた男が嘆くと、デスナイトがその場に四つん這いになって、足場になった。
「いやー!拾ってー!困るー!」
坂を転がり落ちていく、荷台からこぼれた果物は、数名のデスナイトによって、一つも取りこぼすことなく回収された。
「困っている者がいたら、手助けしてやれ」
主人の言葉に忠実に、デスナイトは「困っている者」の手助けをしている。
無論、デスナイトへの恐怖に逃げ出す者も、少なくは無い。
しかし、助けられた者がその事を話題にし次第に人々の間に浸透すれば、ちょっと頼ってみるかと試す者も出てきたのだ。
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書籍12巻
「あれー、リュラリュースじゃん。どうしたの?」
アウラは久しぶりに見た相手に問いかけた。
どうしたもこうしたもなく、もとトブの大森林の「三大」の一角である、ナーガのリュラリュース・スペニア・アイ・インダルンが魔導国の入国管理官の一人として、城門の砦で働いている事は知っている。
しかし、その「なり」に先の発言が口をついて出ていたのだ。
「アウラ様。まあ、見ての通りですな。」
幾分肩を落とし草臥れた雰囲気で、リュラリュースが応じる。
アウラとの初対面の時には、ただのモンスターらしく何も身に付けていなかったのだが、今のリュラリュースは上半身だけとはいえ、それなりの服を着用し髪も整えられていたのだ。
「いや、砦で働く女どもに『裸で歩き回るとは何事か』と取り囲まれましてな・・・・・・」
「あ~・・・・・・」
アウラは、相手(リュラリュース)のその気持ちが多少ながらわかる気がした。
自分に付けられた森妖精(エルフ)の三人も、何かと世話を焼き自分たちに他の服を着せようとしてくるのだ。
うっとうしいことこの上ないのだが、さすがに殺す訳にもいかない。
リュラリュースも、同じ国同じ職場で働く相手に、強気な態度に出られないのだろう。
ままならない環境に、二人は同様の溜息をもらしたのだった。
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書籍13巻
「さあ、今日も頑張らなくては」
カスポンド・ドッペルゲンガーの一日は、決意と共に始まる。
この国(聖王国)を主人に渡すにふさわしい国にするのだ。
デミウルゴスは自分の上司ではあるが、召喚者にして絶対の主人は、アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下である。
ナザリックに所属する者として、そして召喚され使役される者として、絶対の忠誠を捧げる相手は彼の方なのだ。
彼の方の慈悲深さをつくづく思う。
ナザリックの知恵袋たる上司(デミウルゴス)すら及ばない主人(アインズ)の智謀を思えば、これらも自分達に仕事を与えるための狂言なのではないかと思えてくる。
不要となった女(レメディオス・カストディオ)など、自分には殺す以外の方法など思い付きもしないが、主人や上司ならもっと完璧な有効活用を考えていることだろう。
あんな人間にも、最後まで使い道(供養)を考えるとは、本当に情け深い方だと思わずにはいられない。
至高の御方の為に働くのは、無常の喜びである。
そのためなら、この国の言葉(文字)を覚える事も、よく理解していない貴族社会の仕組みを覚える事にも意欲が沸くというものだ。
自分の働きが、主人の糧となるのだ。
頑張らない理由が存在しないだろう。
この国の人間たちも、いずれ魔導国の属国となる。
その方が、幸せなのだ。
ヤルダバオトの一件はナザリックの自作自演だったが、あのような事態が起きないという保証など無い。
むしろ、あの事態(狂言)のお陰で人間の脆弱さを理解し、魔導王の庇護の必要性を理解したのなら、それは必要な犠牲だったと思うべきだ。
これから自分の仕事の末に、この国が魔導国の庇護下に入る事によって得られる数々の恩恵を思えば、この国は恵まれているとさえ言えるだろう。
アベリオン丘陵では、支配に邪魔となる種族は殲滅とされている。
人間(聖王国)はその殲滅の種族の中に、自分たちが入っていない事を感謝すべきだろう。
ナザリックがわざわざ手間を掛けてまで支配下に置こうとする事を、喜ぶべきなのだ。
「どうぞ御照覧ください。この国をアインズ様にお渡しするにふさわしい国へとさせて戴きます。どうぞその時をお待ちください」
以下言い訳
1巻
階層守護者以外のNPCとして、魔将が随分自分の考えで行動(アドバイス)しているな、と思ったので。
7巻
WEBの設定もまざってます。
10巻
12巻であまり怖がられていないようだったので、意外と役に立っているのでは、と思った話。
特典でも、アインズに「静かにしろ」と言われて、口を押さえて走るくらいには気配りが出来る子(アインズ作製デスナイト)です。
12巻
初登場時、ぼろきれを巻いていて完全な裸ではなかったようですね。
もしかしたら、制服くらい支給されているのかも。
13巻
ドッペルゲンガーは40レベルまでコピー可能なので、POPモンスターではないと予想。
最初からナザリックに(至高の御方によって)配置されていたモンスターだと、死ぬ可能性もあるとしたら出さないと思うので、新たに召喚されたモンスターと予想。
13巻以降は、ギルドメンバーの話が聞けそうなモンスターは、使い潰すのを避けそう。