短編小説   作:重複

31 / 45
魔導国のフロスト・ドラゴン

見上げた空、その上空に白く輝く鱗を日の光に煌めかせながら飛行する存在があった。

 

「魔導国から御使者が来たらしいぞ」

 

空を飛行する存在の正体は、ここ最近では月に数度の頻度でやってくる魔導国の使者を乗せたフロスト・ドラゴンだ。

この存在は、もはやドラゴンという脅威ではなく、魔導国からの国際便として認識されている。

 

世界最強種と謳われるドラゴンを、退治ではなく使役しているという段階で、魔導国の規格外さがわかるというものだ。

 

最強種の誉れももはや形無しの状況だが、フロスト・ドラゴンたちに他の選択肢は存在しない。

一族の長として最強を誇っていた父が瞬殺された事実と、その遺骸の末路を知って、服従以外の道などあるはずがない。

 

アインズ・ウール・ゴウン魔導国の属国、バハルス帝国の帝都アーウィンタールの帝城には、ヘリポートのごとくドラゴンの着陸地点が設営されている。

 

魔導国、というよりナザリックの面々からは空飛ぶ配達人扱いのドラゴンだが、その脅威は人間には変わらない。

ドラゴンを相手にして、牛馬のように世話をすれば良いと考えられるような者は人間の国には存在しない。

本来なら伝説に謳われ、力も知能も人間の上をいくと言われる存在なのだ。

最も怒らせてはならない存在は、そんな存在(ドラゴン)を複数使役する魔導国だが、その下に位置するとはいえ、そこに所属するドラゴンもまた上位者として、丁重にもてなす対象である。

 

ドラゴンが魔導国に使役される立場である以上、帝国で暴れる心配は皆無だが、機嫌を損ねて良い訳もなく、さらにお互いの得にもならない。

 

そして、魔導国からやって来るドラゴンがフロスト・ドラゴンである事は、帝国としてもありがたかったのだ。

最初に帝城に乗り込んで来た、ダークエルフの連れたドラゴンに比べれば、まだフロスト・ドラゴンの方が気安かったのだ。

というより、可愛げがあった。

 

ドラゴンに可愛げを語るのも、おかしな話ではあるが、帝城において、アインズ・ウール・ゴウン魔導王の側近直属のドラゴンと比較すれば、フロスト・ドラゴンの方が心と精神に優しい存在だった。

 

比べるなら、戦闘で都市を破壊するドラゴンと、遊びで国を滅ぼせるドラゴンでは、どちらが「まし」かという話だ。

これはミサイルと核兵器を比べたようなものかもしれない。

この世界に当てはめるならば、ファイヤーボールと魔導王のカッツェ平野の魔法だろうか。

大雑把ではあるが、対応する人間から見た威力の差の認識としては、そのような認識だった。

 

 

さらには魔導王直轄の、あらゆる存在は踏みつぶされて当然といった対応よりは、同じ従属する者同士、といった共感の持てる相手として認識されたのだ。

そしてそれは双方共にという、人間とドラゴンという種族の垣根を越えた共感だった。

 

故に―――

 

「おや、今日は前回と異なる方が御使者のお付きですか。前に来られた方(ドラゴン)は寝床に御希望があったのですが、貴方様は御滞在中に何か御要望がありますか?」

 

ドラゴンと会話によって、円滑な関係を結ぼうとする世話係も存在した。

 

 

故に、他国への使者として赴くのは、フロスト・ドラゴンたちにとって人気の仕事だった。

 

他国に行くなら、ドラゴンとして本来あるべき扱い、つまり相手が自分を上位者として接してくるのだ。

 

気分が良いことこの上なかったといえる。

 

ナザリック地下大墳墓では味わえぬ、下に置かれない扱いだ。

ナザリックでは「弱い」「雑魚」「アインズ様に逆らっておきながら温情で生きながらえた愚者」という扱いが散見するのだ。

 

永く最強種のドラゴンとして、クアゴアに傅かれてきたフロスト・ドラゴンたちからすれば、居心地が悪かった。

 

これと無縁なのは、真っ先に頭を下げ慈悲を乞うたヘジンマールくらいだろう。

 

ヘジンマールの立場が「アウラの配下」であり、その他のフロスト・ドラゴンたちが「シャルティアの配下」であることもその一因かもしれない。

 

誰の配下になるかで、待遇は天と地ほどの差が存在する。

 

第六階層でリザードマンと話をする機会があったヘジンマールなどは、少々不敬ながら「コキュートス様が良かったなぁ」などと思ってしまったものだ。

 

もちろん、声に出して言うなど、恐ろしくてしたことなど一度もない。

 

こういった自己防衛が通常運転なところが、余計な諍いに巻き込まれずにいられる所以だろう。

 

引きこもりの際の、父親に対して機嫌を伺う能力が最大限に発揮されている可能性もなきにしもあらずだが。

 

 

 

 

「魔導王陛下に敵対するのは究極の愚者であり、即座に足元にその身を投げ出し慈悲を乞う者こそが賢者よね」

 

キーリストラン=デンシュシュアの言葉に肯かないフロスト・ドラゴンは、魔導国においては存在しない。

 

自分たち家族が、「最も弱い」と侮っていたヘジンマールの的確な対応があればこそ、彼ら彼女らは全滅せずにすんでいるのだ。

 

ドラゴン(自分たち)が最強などという幻想に囚われていた愚かさのつけが、どのような事態を招くのか十分に理解していた。

 

ドラゴンは強い。例外無く「強者」に分類されるだろう。

 

一族で「弱い」とされるヘジンマールでも、他種族から見れば十分に「強い」のだ。

 

しかし「最強」ではない。

 

その事に思い至らず驕った結果が、父と兄弟の死なのだ。

 

自分たちが誇る強い肉体によるパワーもスピードも、更なる上位者の前では、避ける必要すらない子供の児戯でしかなかった事実。

 

もしも魔導王に最初に対応したドラゴンがヘジンマールでなかったら、生き残ったフロスト・ドラゴンは一匹もいないか、家畜のごとき扱いになっていただろう事は疑いようが無い。

まがりなりにも「仕える」という立場を獲得したのは、ヘジンマールの最初の対応があればこそである。

彼の至高の存在が、最初はフロスト・ドラゴンに「素材」以上の価値を見い出していなかったことは、ここにいる全てのフロスト・ドラゴンが共有する認識だ。

 

◆◆◆

 

フロスト・ドラゴンにとって至福の時間の一つは、仕事に向かう前に、その日の装備品を選ぶ為にマジックアイテムが納められている部屋に入る時だ。

 

そこには、ありとあらゆる種類のマジックアイテムが並べられ、その日の配達地区にあわせて装備を選ぶのだ。

 

行動阻害対策は基本装備だ。

熱い地帯への移動の際は、炎耐性のマジックアイテムが貸し出される。

状態異常対策用のアイテムも豊富だ。

そのように、その日の仕事内容に合わせて、マジックアイテムが貸し出されている。

 

特にフロスト・ドラゴンに仕事用として貸し出されているアイテム。

飲食不要の指輪(リング・オブ・サステナンス)。

フロスト・ドラゴンの食料まで運ぶなど無駄。

炎完全耐性、行動阻害防止、各種耐性。

荷物を安全に運ぶため。

 

フロスト・ドラゴン、オラサーダルク=ヘイリリアルが貯め込んだ財宝はかなりの物だった。

それらは全て、アインズ・ウール・ゴウン魔導王の物として没収されている。

しかし、それらの大半は所詮は力と時間があれば集められるありふれた物だ。

 

今、「仕事道具」として貸し出されるマジックアイテムは、あの財宝の全てを差し出しても購えないだけの価値があった。

それを仕事用の備品として貸し出される。

 

格が、質が、存在の有りようが、桁外れに異なるのだ。

 

 

さらに、彼らが驚き戸惑いながらも、有り難いと思っていること。

 

それは、それなりの権利を与えられていることだ。

 

奴隷として、昼も夜も無く、馬車馬の様に扱き使われると覚悟していたのだ。

 

それが――

 

まず、住む場所が与えられた。

食事も出る。

 

そして、驚いたことに、仕事をしなくても良い休日という日がある。

 

キーリストラン=デンシュシュアなどは、仕事仲間とお茶をすることもあるらしい。

 

 

その「休日」に何処かに出かけても、休日内に帰ってくれば問題無い。

申請すれば、遠方へも出かけられる。

その上、休日に得た物も基本的に所有が認められるのだ。

 

盗んだり強奪したりといった行為は禁止されているが、所有者のいない土地や人の手の入っていない場所の自然金。

あるいは宝石の原石。

または行き倒れやモンスターとの戦闘で敗北した者の所持品。

 

ドラゴンに問題無くても他の種族に悪影響があるかもしれない可能性や、危険を秘めている可能性などがあるため、どんな物を持ち帰ったかを申告し、確認を受ける必要がある。

そして「取得物」に関しては、「盗品」や「遺族の申し出」など、引き渡しの請求があった場合は「対応」することが求められている。

 

もっとも、これは有名無実化されている。

 

冒険者でも、依頼の際に入手した所有者不明のアイテム類の取得は認められているのだ。

種族の垣根を取り払った魔導国で、ドラゴンだから認められないということはない。

 

という訳で、休日には「宝探し」に行くドラゴンもいるのだ。

 

他国に不用意に侵入しないことが求められるが、そもそも人間がいる地域の方が少なく、縄張りはあっても国境は無いに等しいのがこの世界だ。

 

デミウルゴスなどは、ドラゴンの見つけた鉱脈をナザリックの物としているようだ。

 

そして――

 

「宝探し」という、実質「冒険」へ出かけるドラゴンに、密かにハンカチをくわえて唸るオーバーロードが居るとか居ないとか――

 

 




ドラゴンが金貨に埋もれているシーンを見ると、「パタリロ」の「小銭風呂」を思い出す。

「札束風呂」や「札束のシャワー」もある。
アイドルの写真を部屋中に張ったり、鉄道模型で部屋が半分以上埋もれていたり。
人間でもドラゴンでも好きな物に囲まれていたいのは一緒なのかもしれません。



ドラゴンの待遇

リザードマンとほぼ一緒ではないかと考えています。
アゼルリシア山脈にそのまま住んでいるなら「自活しろ」となると思うのですが、ナザリックで配送の仕事をしているのなら、「住み込みの従業員」的な扱いではないかと思いました。
WEBのメイドたちのような立ち位置で、ナザリックでの待遇に驚いてほしいです。

そして、給料が出るのか知りたいところです。

買い物に行くドラゴン。
ヘジンマールは、本を買いに行くのかな。
でも、街の中に入れないので、ゴブリンとかに「買ってきて」とお願いするとか。

ナザリックの中に住めるのかは不明ですが、どちらかというとアウラの造った「偽ナザリック」に住んでいそう。
下手に第六階層に住むと、アウラの魔獣たちと会うことになるので、心が砕けそうで心配です。

アインズが優しいかは人によると思いますが、自分に仕える者への待遇は「ホワイト企業」を目指しているだけあって、理不尽や酷使はないように気を使っていると思います。
その対応が相手には優しく映るのかも、と考えています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。