短編小説   作:重複

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IF フロスト・ドラゴン 未来の可能性 

アゼルリシア山脈。

そこで放棄された山小人(ドワーフ)の王城跡に、フロスト・ドラゴンたちは塒を構えていた。

 

そんなある日、支配下に置いていたクアゴアたちからの要請があった。

 

曰く、クアゴア(奴隷)の住み処を狙う輩がいるので、それらの排除の申し入れだ。

 

クアゴア(奴隷)ごときの願いに自分(オラサーダルク)が動くなどあり得ない。

 

しかし、誰かがこれに対処しなければならないのも事実。

 

 

そこで――

 

「ムンウィニアの子、トランジェリットを呼んで来い」

 

最初に意見を聞いたキーリストランが提案したヘジンマールよりはましな人(ドラゴン)選に思えた。

 

オラサーダルクから見ても、ヘジンマールは弱く頼りない。

 

頭はいいのかもしれないが、何の役にも立っていないとしか言いようがない。

 

強くなるなら、まず物事に当たるべきだ。

何もせず、部屋に引きこもっているヘジンマールは、成長以外に強くなることを何もしていないのだ。

 

何の為に生きているのか、さっぱり不明だ。

 

強くなければ、生き残れない。

強くなれば、不安は減る。

強さこそ、全てだ。

 

そんな事も理解できないのなら、その頭は飾りでしかない。

そんなものは、賢いとは言えないだろう。

 

それくらいなら、強さに不安の無いトランジェリットの方がよいだろう。

 

それに、あの体型。

デブゴンと言った方がふさわしい姿を、自分の代わりとして晒すのも恥に思えた。

 

そうした判断から、トランジェリットを送り出す。

 

なにより、わざわざ部屋に行ってまで呼びつける手間が省ける。

 

オラサーダルクに命じられたトランジェリットは、意気揚々と出かけていった。

 

自分が負けるとも、苦戦するともまるで考えていない、最強種であるドラゴンとして正しいあり方だ。

 

きっとすぐに戻ってくるだろう。

やりすぎないようにとだけ注意しておく。

 

建物を壊しては本末転倒なのだから。

 

そんな風に暢気に構えていた。

 

 

そして――

 

軽々と投げ込まれる息子(トランジェリット)の巨体。

 

その姿は、一瞬息子(トランジェリット)と判断が付かないほどに、酷く損傷していた。

 

驚く自分たちに加えられる暴力の限り。

 

集められる子供たち。

 

「てめえ、アインズ様に舐めた口きいてんじゃねえぞ」

 

男か女か臭いでは区別が付かない赤い固まりのような人間らしき存在が、ドスの利いた声で自分たちを蹂躙する。

 

全てのドラゴンが瀕死となった頃にやっと暴虐は止み、虚空に黒い穴が出現した。

 

その中へと、乱雑に放り込まれる。

 

 

その先で治癒魔法がかけられた。

 

助かったと思い、自分たちを治すなど思い上がった行動をとった相手に思い知らせてやろうと ――

 

そこから新たな蹂躙が始まる。

 

自慢の固い鱗はまるで自分の体を守らない。

生きたまま腹を割かれ、皮を剥がされていく。

牙も爪も、相手をまるで傷つけられない。

 

ドラゴン特有の無駄に強い生命力と、相手の適切な解体処置で、死ぬことも意識を失うこともできない。

頭を残して体がバラバラに解体され、最後に弱々しく脈打っていた心臓が握られ――

 

そこでオラサーダルクの意識は途切れた。

 

 

目の前で繰り広げられる、自分たちにとって夫、あるいは父であるオラサーダルクの切開処刑に、残った全てのフロスト・ドラゴンが恐怖に戦慄する。

 

解体され、首から下がほとんど無い「死にかけ」の長(オラサ―ダルク)が吊るされたままになっている。

 

そこにさらなる恐怖が、言葉でやってくる。

 

「次は、生きたまま脳を取り出してください。心臓のみでどれくらい生きていられるか試してみたいので」

「畏まりました」

「遠慮は無用です。アインズ様に無礼を働いた愚か者ですし、何よりアインズ様から無駄無く使うようにとお言葉を戴いていますからね。きちんと有効活用しなくては」

「仰るとおりです」

「長(オラサ―ダルク)と無礼者(トランジェリット)は死(慈悲)は不要です。他のドラゴンは死ぬまでは実験に。死んでからは素材に。ナザリックの役に立ってもらいましょう。霜の巨人(フロスト・ジャイアント)に捕まっているフロスト・ドラゴンがいるそうですから、ここにいる身の程知らずのドラゴンたちは全て殺して構いませんよ」

 

 

「貴女のせいよ!貴女がトランジェリットなんかを向かわせるから、こんなことになったのよ!」

 

自分の番が来たミアナタロンの泣き叫ぶ声が虚しく響く。

 

残ったのは、ミアナタロンの罵声を浴びたムンウィニアとキーリストランだけだ。

 

他は全て殺されてしまった。

 

次は自分たちのどちらかの番だ。

 

「どうしてこんなことになったの」

 

 

「この文字の意味は『固い』です」

 

「ふむ」

 

ナザリック地下大墳墓。

最古図書館で翻訳を担当する死の大魔法使い(エルダーリッチ)は、目の前に広げられた本の単語を書き移していた。

 

この度、大量に運び込まれた本の翻訳に忙しい日々が続いている。

今までは、リ・エスティーゼ王国やバハルス帝国、市井に出回る程度のスレイン法国の文字の翻訳が主なものだったが、これに山小人(ドワーフ)の文字が加わったのだ。

 

国交を結ぶ以上、相手国の文字の解析は急務だ。

 

しかし、ドワーフの国から引き抜いたルーン工匠たちは鍛冶で忙しい。

せっかくのやる気に水を差してはまずいだろう。

そしてナザリックに余所者を入れる事を厭う者も多い。

 

そこにこのドラゴン(予備素材)だ。

 

解体作業(処刑)の際に、「まだ全部の本を読んでないのに」と泣き言を言ったのだ。

 

何の本かと問えば、運び込まれた本の殆どがこの「デブゴン」の持ち物だったらしい。

 

これ幸いと、翻訳に重宝している。

 

「本が好きです。教えてもらえれば他の国や他種族の文字も覚えます」

 

積極的に翻訳の合間に他国の本や、図書館の本を理解しようとする。

 

なにより態度が通常運転で腰が低い。

よって「なんとなく」生き残らせてしまったドラゴンだ。

 

 

自分以外の家族は殺されてしまったのだろうか。

 

何となく思い出しながらも、デブゴンことヘジンマールは考える。

 

ドラゴンの特性として、肉親への情は強くない。

死ねばいいとまでは思わない。

必死に助けようとも思わないが。

 

そもそも、殺される順番で「こいつ(ヘジンマール)からどうです」と押し出されれば、その相手への情など木っ端微塵だ。

 

ただ自分のように助かっていれば、「よかったね」とくらいは思うだろう。

 

特に、食事を運んでくれていた弟妹たちが助かっていれば、自分だって素直に喜ぶ。

 

それくらいだ。

 

むしろ、余計なことを言って機嫌を損ねる方が怖い。

 

現状、自分が生き残っているのは「温情」ではなく「猶予」なのだと、ヘジンマールは理解していた。

 

役に立たないと判断されれば、すぐに自分の命はかき消されてしまうだろう。

 

故に――

 

ドラゴンの皮が欲しいと言われた時には、すぐに「命の危険が無く、痛くなければ」と同意したのだ。

 

最初の時などは、次に目を覚ますことが無いのではと心配と不安で心臓がうるさいほどだったが、今では眠っている間に済んでいるので、そういうものと考え受け入れている。

 

なにより、あのアンデッドが「アインズ・ウール・ゴウンの名にかけて」と言った以上は余程のことが無い限り、殺されることは無いだろう。

 

だからといって、ヘジンマールは油断する気も調子に乗る気もない。

 

強者とは気紛れなものだ。

 

気に入らなければ、簡単に殺されてしまう。

 

だからヘジンマールは、今日も必死に生きている。

 

もっとも、ヘジンマールが「素材の提供」を申し出たので、他のドラゴンを特に生かしておく必要がなくなったという因果があった。

 

ナザリック地下大墳墓には、三匹のフロスト・ドラゴンが生きている。

 

 

 

 




原作と逆転。(BAD END)
生きている(死んだ方がましな)のは、オラサ―ダルクとトランジェリット。
他はヘジンマール以外は解体かアインズの考えた畜産(多分牧場行き)です。

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