短編小説   作:重複

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14巻で考えた話の詰め合わせです。


書籍14巻 小話集

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prologue

 

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【ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ】

 

ラナーは思う。

 

八本指の動向だ。

 

そもそも、八本指が魔導国の益にならないことをするはずがない。

八本指の問題というより、これは王国の問題なのだろう。

 

麻薬の禁断症状で暴れる者が出てきているという情報。

 

なんとも厄介だ。

 

麻薬を買うお金を持たない者が増えている。

麻薬を売る者が減っている。

麻薬の生産量が減っている。

 

ぱっと理由を考えただけでも、ろくでもない状況だとわかる。

 

つまり市場の破綻だ。

 

王国内の経済がふるわないのだろう。

 

といっても、兄に話した通り問題はない。

 

戦力の低下。

国民の不満。

王家への不信。

 

これから魔導国に併呑されるのだ。

それらは自分にとって都合の良い状況なだけだ。

わざわざ改善する意味がない。

 

もちろん、クライムが理想とする第三王女としての対応はたとえ振りだけだとしても行うが、できもしないことをする意味はない。

 

もっとも魔導国なら、今自分の手元にある問題など全て解決してしまいそうだ。

 

アルベドが王都に来訪した時の天気を考えれば、どれだけ高位の魔法を使用しているのか。

 

魔導王の魔法は、あの大虐殺の時に使用した魔法の印象が強すぎる。

そのせいで、攻撃魔法ばかりに目が行きがちだ。

だが、その他の魔法も多様性があるのだろう。

 

なので、「厄介」と考えたのは、魔導国がどこまでの国力低下を是とするかである。

 

帝国ほど問題なく併呑されるとは思ってはいないが、あまりにも魅力の無い国にまで成り下がっても問題なのだ。

 

 

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1章

 

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【エ・ランテルの農民】

 

「一雨ほしいところだな」

「そうだな」

 

農業に従事して、この手の会話はことかかない。

天候は農作物の育成には必要不可欠であり、一喜一憂するものだからだ。

 

だが、今この会話をする者たちには一欠片の悲壮感もない。

 

なぜなら、彼らの畑は魔導国の支配下にあるのだから。

 

「上に連絡しておこう」

「そうだな」

 

それだけで済むのだ。

きっと近日中に雨が降るだろう。

 

雨不足も日照不足も、連絡すれば解決する問題でしかない。

 

「魔法ってのは凄いもんだなあ」

「まったくだ」

 

作物に適した天候をもたらしてくれるのだ。

こんなにありがたいことはない。

 

 

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2章

 

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【ネイア・バラハ】

 

ネイア・バラハは苦悩する。

 

心が、いや心臓が物理的に握られたかのような痛みさえ感じるほどの苦しさだ。

 

アインズ・ウール・ゴウン魔導国がリ・エスティーゼ王国に宣戦布告をするという。

 

なんということだろう。

 

あの優しい魔導王がそんな判断を下さなければならないほど、あの王国が救いのない国だったとは思わなかったのだ。

 

きっと、苦渋の決断だったのだろうと察するにあまりある。

 

自国の民を「子供たち」と呼ぶほどに大切に慈しむ御方だ。

聖王国でも、ただの民兵の死をあれほど悼んでおいでだった。

 

それほどに慈悲深い御方なのだから。

 

それでも、彼の方に救われた大恩ある聖王国として、そして正義を目指す者として、その判断を肯定しなければならない。

 

そもそものことの始まりは、我が聖王国への支援物資を運んでいた馬車が王国内で襲われたことによるものなのだ。

 

しかも、襲ったのは金目当ての野盗でも、飢えた民衆でもなく、治安を守るべき王国貴族だというではないか。

 

王国貴族が率先して隣国の馬車を、しかも他国への支援を行っている馬車を襲い物資を奪う。

 

なんというおぞましい行為だろう。

 

苟も、人の上に立つべく教育を受けた者が、他国への暴虐を率先して行うとは、恥ずべき行為だと断言できる。

 

ましてや、その貴族を王国は拘束もしていないという。

 

もしや、この行為は国の黙認のもとに行われたことだったのかもしれないとさえ思えてくる。

 

いや、そうなのかもしれない。

 

魔導国の馬車を襲うなど、そこらの少々腕が立つという程度の者では不可能だろう。

 

荷を奪ったということは、護衛についていた者たちを排除したということだ。

 

そんな集団を、たかだか一貴族が用意できるだろうか。

 

不可能だ。

 

それを可能にしたという時点で、国の関与が疑える。

 

あの慈悲深く聡明な魔導王が、その貴族個人ではなく国を相手に宣戦布告も辞さないという態度を表明したのだ。

 

おそらく王国は、魔導王から見てもはや手遅れともいうべき状態なのかもしれない。

 

だからこそ、自分たち聖王国があの大悪魔ヤルダバオトに襲われた時も、王国は何一つ支援する気もなかったのかもしれない。

 

そう考えれば思い至ることはいくつもあった。

 

ヤルダバオトに襲われたことのある王国だ。

聖王国の事情を鑑みれば、藁にも縋る思いで来たとわかるはずだ。

なのに、まったく会おうとしなかった王家の対応。

国を侵略されているのだ。

あの時、自分(聖騎士)たちは一刻を争いながら、故郷を偲んでいた。

 

王国で支援を頼んでまわっている間にも、多くの民が苦しみ死んでいくのだと焦燥にかられていた。

 

まったく相手にされない対応。

何の救いの手も、一欠片の援助も示さなかった王国の態度。

 

あの当時は、王国もヤルダバオトに暴れられ、さらに魔導国との戦争に負けてと大変なのだろうと考えていた。

 

しかし、もしかしたら、あの時の隊長(レメディオス)のように、他国が酷い目にあっていても自国に影響がないなら見捨てればいい。

 

さらには国力が落ちれば、仮想敵国として安心できると。

 

いっそヤルダバオトが聖王国だけで満足すれば王国は安泰だと。

 

そんな風に考えていたから、聖王国への援助を渋っていたのではないだろうか。

 

援助をしてしまえば、そのままずるずると関係は深まり、聖王国を支援するだけでなく、そのままヤルダバオトと戦うことになるかもしれない。

そうならないようにするために、関わりを持たないように貴族たちに周知していたのではないだろうか。

 

そして、それはリ・エスティーゼ王国全ての総意だったのかもしれない。

 

自分たちに火の粉を振りかけるなと、最初から見捨てることを徹底していたのかもしれない。

 

そう考えれば、あの蒼の薔薇があそこまで協力を拒んだのも納得できる。

 

なにしろ、蒼の薔薇のリーダーであるラキュース・アインベルン・デイル・アインドラは、魔導国の馬車を襲った者と同じ「王国貴族」なのだから。

 

なんてことだろう。

 

魔導国は、そんな非人道的な国と接しながらも、聖王国への援助を惜しむことはなかったのだ。

 

どちらに非があり、どちらに正義があるかは明白だ。

 

聖王国の現状では、魔導国への支援など夢のまた夢だ。

 

それでも――

 

いやだからこそ、魔導国の行いを間違っていないと表明するのだ。

 

 

 

それにしても――

 

魔導王が、聖王国から離れた別れの日の言葉が蘇る。

 

「君ならきっとこの国を立て直せる」

 

そう、あの「期待している」という思いのこめられた言葉。

 

きっと王国にはそんな人間はいなかったのだろう。

 

もしくは、魔導王に初めて会った頃の自分のように、小さく弱く、正義とは何かを理解していないのかもしれない。

 

もしかしたら、魔導王ならそういった国に抵抗できない正しい人を助けているかもしれない。

 

彼の王は、本当に慈悲深い方なのだから。

 

だからこそ、いつまでもその慈悲に縋っていてはいけないのだ。

 

強くなり、正義を示さねばならない。

 

たとえ相手が聖王国の二倍の国土を有する大国であっても、魔導国が正しいと声を上げるのだ。

 

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【アインズ・ウール・ゴウン】

 

考えてみよう。

 

例えば「空気を遮断し対象を窒息させる魔法」があったなら、肺機能を持つ生物を基本的に殺せるだろう。

しかしこれが「酸素を遮断する魔法」だった場合は、どうなるのか。

この世界の空気が「酸素」を含むものなのか、確認がとれている訳ではないのだ。

もしかしたら、「限りなく酸素と同じ性質を持つ別の物質」である可能性もある。

そうなれば、「酸素を遮断する魔法」は、発動しても何の効果も発揮しないという可能性も有り得るのだ。

 

この世界には青いポーションが存在する。

効能はユグドラシルの赤いポーションと「ほぼ同じ」だろう。

しかし、生成方法も材料も異なるポーションを「ユグドラシルと同じポーション」と言えるだろうか。

 

アインズは「否」だと考えている。

 

この世界のあらゆる法則や物質の構成を把握した訳ではないのだ。

 

重力も、体感として地球(リアル)と変わらないが、どこかで明確な差として現れるかもしれない。

 

例えば、「リアル」なら、鉄とコンクリートの膨張率は同一に近く、故に「鉄筋コンクリート造」の建物が存在しえた。

こちらではどうか。

もし膨張率が異なれば、温度が変わる季節ごとに立て直さなければならないほど、破損してしまうだろう。

 

そもそも「鉄」と変換されて聞こえるが、地球(リアル)と寸分変わらない物質だとは限らない。

なにしろ、この世界には地球(リアル)には存在しない、ミスリルやアダマンタイトといった金属が存在するのだから。

 

ましてや、自分が基準としているのは「ユグドラシルのゲームの知識」だ。

 

現実でもバグの一つでも起きれば、どうなるか分からない。

それがこの「異世界」でどう効果が変わるかなど、想像も付かないことだ。

 

 

デスナイトの例だけでも、差異は発生している。

 

・自分の傍を離れた、単独行動が可能

・現地の死体を利用すれば、存在が固定され、召喚時間の無効化

・存在との主従関係の意識共有

・デスナイトの装備変更可能

 

気付いただけでも、これだけの差異があるのだ。

検証すれば、さらに多くの差が見えてくるだろう。

「ゲームと同じ」と盲信するのは、危険と考えざるを得ない。

 

ポーションも、ユグドラシルでは誰が作っても効果も性能も同じだった。

この世界では、材料の鮮度や採取地、更には作り手の才能によって、効能が上下する。

 

そして、この世界の法則を把握した訳でもない。

海の水は塩辛くはなく、音速を突破してもソニックブームは出ない。

香辛料は栽培ではなく、魔法で生み出す。

 

帝国の魔法学院は「魔法を学ぶ場」ではなく、「魔法によって何ができて何ができないかを学ぶ場」だ。

 

例えば、剣を振る。

敵に当たるかどうかは、使い手の技量だろう。

だが、魔法で命中率(クリティカル)を上げればどうなるか。

 

工事もそうだ。

人足が不足し手が足りない時、金額よりも工期の方が優先されるなら、人足に筋力増大の魔法をかけたり荷物に軽量化の魔法を使うことも可能だ。

 

地球世界の科学知識など、何の役にも立たない。

そもそも、この世界の今自分が立っている大地。

地球と同様の球体の惑星なのか、地球の神話のごとく平らな大地なのか、はたまた形は不確定だったり、歪だったりするのか。

 

地球と同じ現象だからといって、原理まで同じとは限らないのだ。

 

 

更に忘れてはならないのは、シャルティアを洗脳した者を含めた、見えざる敵の存在。

 

過去のプレイヤーが存命している可能性や、その子孫や遺産(アイテム)の存在。

あるいは、これからやって来るかもしれないプレイヤー達。

そして、この世界に在る既存の強者。

更に不確定で多種多様な「生まれながらの異能(タレント)」を持つ者たち。

 

もしかしたら、「相手の能力を奪う異能」や「相手の能力を複写(コピー)する異能」、更には記憶操作(コントロールアムネジア)のように「対象の記憶を読む異能」や「記憶を改竄する異能」も存在するかもしれない。

そんな力があったなら、ナザリックの情報は丸裸にされてしまうだろう。

 

そこまで破格ではなくとも、「相手の嘘を見抜く異能」や「相手が自分に好意的か悪意があるか分かる異能」というだけでも、厄介だろう。

 

そして、この魔法のある世界で「手術」という治療法が存在する。

何故か。

単純に考えるなら、治癒魔法を受ける事のできない、金の無い者達への対策なのかもしれない。

だが、もしかしたら「魔法をまったく受け付けない異能」を持つ者がいて、それらへの対処療法として広まったのだとしたら?

つまり「魔法が一切効かない異能」が存在したら?

 

当然、相手がその能力を隠している可能性もある。

 

 

魔法自体も注意が必要だ。

 

自分が「知っている」魔法は、ユグドラシルの魔法だ。

これは増える事が無い。

 

しかし、この世界では、日々新しい魔法が開発されているのだ。

しかも、個人のオリジナル魔法も存在している。

 

「蒼の薔薇」のイビルアイの使った、殺虫魔法や水晶魔法。

 

当然、オリジナル(流通していない)の魔法を使う者は他にもいるだろう。

 

原理さえ分からない、この世界の「ゲームでは存在しない」魔法。

竜が使うという始原の魔法。

効果がユグドラシルの基準に当てはまらない武器。

 

 

どれほど臆病と言われるほどに慎重に行動しても、したりないはずだ。

 

そもそも、何処まで対策をとれば「絶対に大丈夫」などという不確実な言葉が使えるというのか。

 

 

現実(リアル)でも「危機管理」だ「安全装置」だと対策をとっても、それが完全に機能し、問題を消しさることができたためしなど無いのだ。

ある意味、この世界の存在ですら、全てが未だに手探りの世界の法則なのだ。

 

そして、五百か六百年前かに改竄されたという魔法の法則。

それと同じ事が、また起きないとは言いきれない。

 

 

最初の慎重さを失ってはいけない。

それでも足りないと思うべきだ。

 

自分達が強者だという驕りが何を引き起こしたのか、忘れてはならない。

 

 

シャルティアを単独行動させなければ。

複数の監視体制を敷いていれば。

もっと世界情勢を調べてから、行動していれば。

各守護者に、アルベドに言ったように、様々な諸注意を行っていれば。

最初の活動は、もっと低位の見つかりにくいシモベを使っていれば。

 

 

後悔は字のごとく、後から後から、いくらでも湧いてくる。

 

だから、もう失敗は許されない。

失敗は成功の糧となるような、取り返しがつくようなもののみしか許容できないのだ。

 

あらゆる事態を想定しても、絶対はない。

 

ならば、避難訓練と同じだ。

 

備えるのだ。

あらゆることに。

 

それが他人からどれほど極悪非道と言われようとも。

 

 

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【スカマ・エルベロ】

 

スカマ・エルベロは思い出す。

 

ピンク色に髪を染めている冒険者を。

 

あれは衝撃だった。

 

厳ついむくつけき男が長い髪をきらびやかなピンク色に染め、頭の両脇で結んでいるのだ。

 

しかも着ている物も、なかなか派手な装いだった。

 

あれほど、一目見ただけで忘れられない存在もないだろう。

 

 

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【エ・ランテルのメイド】

 

彼女は呆然と立ちすくんだ。

そこは彼女の職場。

彼女がメイドとして勤める、とある貴族の屋敷である。

珍しい休み明けにいつものように出勤してみると、門扉は固く閉ざされ屋敷には誰もおらず、もぬけの空だった。

このエ・ランテルにおいて、最近では珍しくない光景だ。

それなりに裕福な者が、エ・ランテルを捨てて夜逃げ同然にリ・エスティーゼ王国へと逃げ去るのは。

このエ・ランテルが魔導王を名乗るアンデッドの支配下におかれてから、逃げ出す者は後を絶たない。

もちろん逃げない、あるいは逃げられない、逃げる先の無い者も多い。

それでも逃げる者は皆無ではない。

 

結果、置き去りとされる者がでてくるのは、必然というものだろう。

 

彼女はその事実に呆然としていた。

 

 

それでも、その時間は長くはなかった。

 

自分が働かなければ、誰が働いて家族を養うというのか。

 

ここでの働きの給金はまだ先で、この状況では「踏み倒された」と考えるべきだろう。

 

ならば家の中の物を、給金の代わりに持ち出したいところだが、門扉にはしっかりと鍵がかけられている。

 

破壊して入って良いのか?

 

いや、まずいだろう。

 

それをしても問題の無い存在は、このエ・ランテルにおいて、一人しかいない。

 

故に――

 

「お願いします!!」

 

エ・ランテルをリ・エスティーゼ王国から割譲され、アインズ・ウール・ゴウン魔導国となったこの都市の行政機関。

そこで働くエルダーリッチに、直談判した。

 

「雇い主が給金を払わずに、エ・ランテルから逃げてしまいました。逃げたことは仕方がないと思いますが、給金の未払いだけは、なんとかなりませんか!」

 

ほとんどやけのような行動だ。

しかし、給金の未払いは何とかしてもらわなくては、死活問題となるのだ。

 

屋敷に住み込みで働いていたときは、寝床も食事も最低限は保証されていた。

今はそれが無いのだ。

今日から毎日三食の食事代は自腹となる。

 

急いで次の仕事先を見つけなければならないが、メイドを雇えるほどの富裕層は、ほとんどがこのエ・ランテルから逃げ出してしまっている。

今、残っている家には、前からのメイドがいるだろう。

そうそう空きが出るとは思えない。

 

とんだ就職難である。

 

 

「職業の斡旋場所も、滞っています。どこかに働き口はありませんか?」

 

必死の形相で頼み込む娘に、エルダーリッチは考えた。

 

「一つある」

「是非!」

 

即答であった。

 

 

メイド服を支給された彼女は、呆然と立ち尽くしていた。

 

メイド服。

それ自体は珍しい物ではない。

 

しかし、着用してすぐに体に合うように自動的に調整されるとなれば、それは「魔法が込められた物(マジックアイテム)」ということだ。

 

支給品にそんな価値を付けて何になるというのか。

もちろん、サイズを考えず複数用意する手間が省けるというメリットがあることは理解できる。

 

しかしそれが価値に見合うものかといえば、彼女の常識からすれば「否」だ。

 

それくらいなら、同じような体型の者を雇えばよいだけのことなのだから。

 

 

「はじめまして、メイド長を勤めるツアレといいます。どうぞよろしく」

 

同じメイド服を身につける眼前の女性は、どう見ても自分より年下に見えた。

 

 

「貴女が新しいメイドですか」

 

執事だというセバス・チャンという男性に挨拶をした。

 

男性として、とても魅力溢れる方だと思わず顔が赤くなるのを止めることはできなかった。

 

これは、新しく入ったメイドの反応として「当たり前」だそうなので、不問にされた。

 

しかし、この挨拶からの流れがほぼ全員の反応として疑問に思われないほどに、セバス・チャンの魅力は絶大ということになる。

 

多少でも野心的なメイドなら主人の寵愛を狙うところだろうが、ここの主人は「アインズ・ウール・ゴウン魔導王」。

つまり、アンデッドだ。

 

とても対象にはならない。

 

いや、する者もいるのかもしれないが、自分には無理だ。

 

 

 

そこに上司として存在するのが、執事のセバス・チャンである。

 

少々年長ではあるが、珍しい歳の差ではない。

 

むしろ魅力ある存在に、年齢は関係ないだろう。

 

 

 

「だめよ」

 

自分を諭すように言った相手を、不審を込めて見つめる。

 

お世辞にも美人とは言えない相手だ。

確かにメイドとしては、完璧な技能を持っているのだろう。

そこまでの技術を備えているからこそ、魔導国となったこのエ・ランテルの要所で、メイド長という立場にいるのだろうと理解はしている。

 

しかし――

 

美醜というのなら、大したことのない顔立ちだ。

愛嬌のある顔ではある。

しかしそれだけだ。

 

自分には遠く及ばないと胸を張って言える。

 

もちろん、宰相位に在る存在(アルベド)と自分を比べようなどと思い上がってはいない。

 

あれは人外の美だ。

 

種族が悪魔なのも頷ける。

あれは相手を堕とすための美だ。

 

比べる方が、正気を疑う。

 

故に――

 

「何故でしょう。失礼ですが、そのような事を仰る権限はないのではありませんか?」

 

疑問の形をとってはいるが、これは拒絶だ。

 

何の権利でもって、自分の行動を差し止めようというのか。

自分だって同じような事をしているのだろうに。

 

見ていればわかる。

 

彼女(メイド長)は恋をしている。

 

自分が狙っている相手に。

 

「セバス様が誰を相手にしようと、ツアレ様には関係ありませんよね?」

 

そうだ。

今まで観察していて、メイド長(ツアレ)がセバスに想いを寄せているのは十分にわかった。

しかし、それが受け入れられているかというと、それは否だ。

 

セバスはツアレを慈しんではいるが、恋愛対象としては見ていない。

 

ついでにいうなら、肉体関係があるようにも見えなかった。

 

であるなら、メイド長(ツアレ)の立場とメイド(自分)の立場は、仕事の立ち位置以外は同等のはずだ。

 

気になる相手に対してモーションをかけることを、とやかく言われる筋合いはないはずだ。

 

 

 

このメイド長は少し変わっている。

名前が「ツアレ」としか知られていない。

貴族なら名前は四つ。平民でも二つの名を持つのが普通だ。

それが「ツアレ」という一つの名しか名乗らない。

まるで冒険者か貧民のように思えるが、この国の宰相位たる存在も「アルベド」としか名乗っていないので、もしかしたら、そういった国の出なのか、あるいは国の流儀なのかもしれない。

たかが平民風情とは思えぬメイドとしての作法・技量は完璧で本物の業だ。

卑しい身分の出身とは思えない以上、「訳あり」と考えるべきなのだろう。

実際、ほとんど交易の無い、遠く離れたローブル聖王国では、王族であっても名は二つだという。

これは実家が貿易もしていた商家だったからこそ知っていることだ。

リ・エスティーゼ王国から出たことも、他国へ目を向けたこともない人間は、知りもしないだろう。

 

ゆえに、目の前の存在は油断がならない。

 

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3章

 

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【ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ】

 

ザナックは笑ってしまった。

 

この人生最期の時に、自分が最も強そうだと思い浮かべるのが、馬鹿にしていた兄の姿だったからだ。

 

兄より強い存在など、いくらでもいた。

 

そう自分は知っていた。

 

だが、自分は戦場に立つこともなく、せいぜい兵の訓練を遠目に見たことがある程度だ。

 

王国最強。

周辺国家最強。

 

そう謳われるガゼフ・ストロノーフの武勇も、人伝に聞くばかりで実際に目にしたことなどなかった。

 

だからだろうか。

 

自分が、この襲撃者たち。

最期に対応する相手に対して、兄を模倣しようとする。

 

それくらい、自分には他に人がいなかったのだ。

 

兄(バルブロ)には威風があった。

妹(ラナー)には美貌があった。

 

自分(ザナック)には、外見で誇れるところなど何もない。

 

人は外見ではない。

中身だという者がいる。

 

それは間違ってはいないだろう。

 

だが「一目惚れ」や「第一印象」などは、どこに比重を置くかと問われたなら、やはり外見だろう。

 

第二王子という立場も、期待を持たせるようなものが何も無かった。

 

 

それでも、王国をなんとかしたかった。

 

そんな自分が、最期に模倣する相手が「あの兄」だとは。

 

自分は王になりたかったわけではない。

 

国を良くしたかった。

 

幸せになりたかった。

 

そうだ――

 

「幸せ」だ。

 

ここで自分を殺そうとしている者たちも、幸せになりたいのだ。

生きたいのだ。

 

そのためには、仕える王家の人間を殺すことも辞さないほどに。

 

なるほど。

 

魔導王は正しい。

 

民を、国を幸せにするのは、上に立つ者の義務だ。

 

それができなければ、こうして討たれてしまう。

 

民が幸せを掴むための犠牲として。

 

幸せになり(生き)たければ、誰かの幸せを奪って(殺して)も良い。

 

そうだ。

 

帝国との戦争も。

貴族同士の派閥抗争も。

犯罪組織の台頭も。

 

誰もが、幸せになりたいのだ。

 

自分は兄を嫌って王にしたくなかったわけではない。

 

あの兄が王になったら、国が皆が不幸になると思ったから、兄を王にしたくなかったのだ。

 

 

もし、王国が魔導国にとって益になる国だったなら、降伏を受け入れられたのだろうか。

属国になる道が残されていたのだろうか。

 

魔導国に組する方が「魔導国にとって」幸せな状況をもたらすことができたなら。

 

帝国の様に。

聖王国の様に。

 

 

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4章

 

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【アズス・アインドラ】

 

アズスは考える。

 

魔導王を殺す。

 

それは、最強の竜王と呼ばれるツアーにも難しいことだという。

 

魔導王に仕掛ける前に、宿で多くの女と情を交わした。

 

もしかしたら生きては帰れないかもしれない、と思えば多少の羽目を外すくらいは許されるだろう。

 

ああいった女たちは、子供を産まなくする薬が使われているのが一般的だ。

 

それでも、どこかで自分の子を産んでくれる女がいるかもしれないと思うくらいは自由だろう。

 

ツアーが自分に頼んできたのは、魔導王を一人にするための囮。

 

はっきり言えば、死ねと言われたに等しいと思っている。

 

 

それでも、今回は生き延びた。

だが、ツアーは魔導王を殺せなかった。

 

特に今回は強敵なのだろう。

 

魔導王一人に対して、自分と二人で挑みたいと言ったのだ。

 

それはつまり、ツアー一人では絶対の勝利が無いということだ。

 

最強の竜王をもってしても、倒すのが難しい相手。

 

そんな存在が王国を攻める。

 

理不尽は理解している。

 

世界とはそういうものだ。

 

ツアーとて、無条件に自分(人間)たちに力を貸しはしない。

 

そもそもドラゴンは人間を対等の存在とはみなしていないのだ。

 

程度の差はあれど、ツアーとてそうだろう。

 

たかが人間。

地を這う生き物。

永い時を生きることもできない脆弱な種族。

 

放っておいても、いずれ死んでしまう。

それが人間だ。

 

それでもドラゴンが、特にこの目の前の鎧を操るツアーは最強の竜王だ。

 

お互いに打算含みであろうとも、双方が友好関係を維持する方が都合が良いのだ。

 

だから、魔導王を討てなかった無念も飲み込む。

王国が滅びることを止められないことも我慢する。

ツアーの言う「次」という言葉の意味にも理解を示す。

 

それが、弱い種族である「人間の処世術」というものだ。

 

「倒せなかったのか」

「何が最強の竜王だ」

「魔導王一人倒せないのに」

 

そんな言葉は飲み込むだけだ。

協力を得られなくなるだけで、何の益もないのだから。

 

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【ツァインドルクス=ヴァイシオン】

 

ツアーは考える。

 

アズスの提案は、自分にとって渡りに船だった。

 

魔導王の力量をはかるために、一対一の状況に持ち込みたかったが、その手段が見つからなかったからだ。

 

アズスには囮の役目を頼んだ。

 

もともと、魔導王を倒す話を持ってきたのはアズスなのだから、危険なことは百も承知であっても了承してくれた。

 

それでも、アズスが一人で魔導王に挑むよりも勝算は高い。

 

それで、アズスが死んでしまったとしても、魔導王を殺せたなら本望だろう。

 

アズス一人、あるいは他に何人集まったとしても、魔導王の側近一人にもかなわないのだから。

 

他の竜王などが犠牲になるより、アズス一人の犠牲の方が傷が少なくて済む。

 

パワードスーツさえ無事なら、戦力の低下にはならないのだから。

 

 

頭を下げる行為も、どんな返答を返せばいいのかも、相手の好感度を上げるためならば本心でなくとも行える。

 

今回は他者の目が無い状態で戦えた。

「リク・アガネイアと名乗る白銀の鎧を纏う者」が魔導王と事を構えたと知る者は、魔導王とあの配下の女悪魔、そしてアズスだけだ。

 

事情を知らない者に、これから何かある度に頼られても迷惑だ。

そもそも、自分は人間を助けるために魔導王を殺したいのではない。

 

「ぷれいやー」を殺す。

これから何度も現れる彼らを殺す。

 

「良い」も「悪い」もない。

 

「ぷれいやーだから殺す」

 

ただそれだけなのだ。

 

 

 

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【クライム】

 

クライムは苦悩する。

 

今の状態は自分のせいなのではないかと考えてしまったからだ。

 

ラナーが悪魔に変えられ、自分が復活させられた。

 

あの最後の瞬間、魔導王が「物語ではない」と語った言葉。

 

都合のよい話は存在しない。

 

ラナーが悪魔に変えられてしまったこと。

 

これは自分にそうしらしめるための行いなのではないだろうか。

 

そう考えてしまう。

 

自分の罪深さを感じる。

 

ラナーの人間としての尊厳は奪われた。

 

王族としての気高い死も、もはや望めない。

 

王宮からろくに外に出られなかった以前(人間)だったころよりも不自由な暮らしだ。

 

この造りだけは豪華な部屋から一歩も出ることができないのだから。

 

もちろん、平民の一部屋などという広さではない。

 

一区画と言っても過言ではない広さがあり、快適に暮らせる状態が保たれている。

 

まるで、人間の王族の暮らしなどとるに足らない物とでも言わんばかりだ。

 

そこで暮らす。

 

たった二人だけで。

 

それを――

 

喜んでしまっている自分がいる。

 

自分の了見の狭さ。

自分の性根の卑しさ。

自分の心根の浅ましさ。

 

それらが浮き彫りにされるかのようだ。

 

今まで自分(クライム)にはラナーしかいなかった。

だが、ラナーにはたくさんの人がいた。

 

家族

友人

臣下

国民

 

今のラナーには自分しかいない。

 

これが魔導王に楯突いた自分に与えられた罰なのではないかと勘ぐってしまいそうなほどに、この状況はクライムの心から平穏を奪っていく。

 

ラナーが自分だけの存在であることを、喜んでしまっている自分が情けなく、いとわしく、救いがない。

それが隠しようもない正直な想いだった。

 

そんな生活の中でも、ラナーは魔導王から与えられた仕事をこなしている。

 

「少しでも私の考えが国の運営に反映されれば、生き残った王国の民に報いることができるかもしれませんから」

 

ラナーの政策が実行され、それが国を潤しても、その栄誉や賞賛は魔導王へ向かうだろう。

 

ラナーには何の見返りもない。

 

ただ、自分の救えなかった民への献身。

 

そんなラナーの行動に、自分という存在は不釣り合いなのではないだろうか。

 

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【ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ】

 

「領域守護者」

 

これが自分の新しい役割だ。

 

なんと恵まれた状況だろう。

 

この「部屋(領域)」は自分の空間。

 

自分だけの世界。

 

自分はこの部屋を「守護」するためだけに存在するのだ。

 

 

だからこそ、アインズ・ウール・ゴウンには健在で永劫に繁栄してもらわなければならない。

 

ここが失われる(ナザリック陥落)という事態は、アインズ・ウール・ゴウンが倒れたときとなるからだ。

 

自分のこの楽園を維持するためにも、アインズ・ウール・ゴウンに永久の栄華をもたらすのだ。

 

外の世界がどうなろうと構わない。

 

自分はこの「領域(二人きりの世界)」を守るために存在するのだから。

 

ラキュースたち蒼の薔薇の行き先も判明している。

 

ブレインの育てていた子供たちの行方も、自分が手配したのだから把握している。

 

孤児院の子供たちも、あの建物の中にいれば自分の「所有物」として扱われるだろう。

 

それに、クライムを馬鹿にしたり罵倒していた者たち。

 

すべて把握している。

 

「みんな死ねばいいのよ」

 

王国が滅んだから何だというのか。

 

自分の計画通りに動かない愚か者(馬鹿)のせいでこうなった。

 

そんな存在を貴族(特権階級)にしていた王国のつけだ。

 

これが帝国なら「無能はいらない」と、さっさと未来の不安の芽を摘んでいただろう。

 

そもそも、家を継がせないか、家を取り潰していただろう。

 

そんな決断も予防もできない国となっていた王国だから滅んだのだ。

 

結局は自業自得だ。

 

ここまで来るのに不安だった。

 

悪魔は人間の希望を打ち砕く。

アンデッドは生者を憎む。

 

そんな集団が、自分(人間)を本当に迎え入れてくれるのか、完全な信頼関係があったわけではないのだから。

 

だからこそ、王国を滅ぼす案は自分が率先して提案した。

 

自分には生まれた国も、血の繋がった家族も不要だと証明するために。

その案をもって、自分の優秀さを証明するために。

自分にはクライムだけだと証明するために。

 

ようやく手にしたこの地位。

 

 

「囚われの身」の自分はここに「閉じ込められている」のだ。

 

外のことなど気にしなくてもよい。

 

それにクライムが部屋の外に出るには問題がある。

 

ナザリックの存在にどう接するか不安なのだ。

 

そもそも、自分は外様で元人間だ。

 

そんな存在がこのナザリックで要職につくなど、快く思わない者がいてもおかしくはない。

 

いや、いて当然だろう。

 

アルベドが何度も釘を刺したように、役に立つからこそ自分は生かされているのだ。

 

それでも、自分を不愉快に思う者は必ずいる。

そういった者に対して、不用意にクライムが接触すればどうなるか。

 

ナザリックには人間の姿をした者もそれなりにいるようだ。

 

特にメイドたちは、普通の人間の姿に見えた。

 

そんな相手にクライムが善意から

 

「攫われてきたのか」

「無理やり働かされているのか」

「ずっと働き詰めなど、酷い待遇だ」

 

などと会話をする可能性は否定できない。

 

クライムはとても優しいのだから。

 

そこがクライムの良いところだが、このナザリック地下大墳墓(人外の地)で人間の価値観や倫理観など侮辱に等しい。

 

人間の(価値の無い)正義感で、自分(人間)が正しいと思う言葉を口にしかねないのは問題になる。

 

クライムの身の安全も自分の守護の一つだ。

 

ペットの躾は飼い主の義務なのだから。

 

だから――

 

「可哀想な囚われの身の私の為に、貴方には私だけでいいのよ」

 

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おまけ

 

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【マーレ・ベロ・フィオーレ】

 

「マーレ。モモンガさんを殺しなさい」

 

マーレはその言葉に驚いた。

 

どうしてそんなことを言われたのかわからない。

 

だから、一生懸命考えた。

 

そして――

 

「大丈夫です。ぶくぶく茶釜様!」

 

逃げられないように何重にも植物で拘束し、作った地割れの中に落とし込んで逃げられないようにして圧殺する。

 

周りから何重にも加重すれば、ぶくぶく茶釜が原型を留めるどころか数十に引きちぎられ擦り潰されている状態が確認できた。

 

「大丈夫です。ぶくぶく茶釜様!」

 

マーレは一生懸命考えたのだ。

 

自分を創造した存在。

 

ナザリック地下大墳墓を支配する、偉大なる至高の四一人の一人であるぶくぶく茶釜がそんなことを言うなんておかしい、と。

 

もしかしたら、以前のシャルティアのように洗脳されているのかもしれない。

 

いや、きっとそうに違いない。

 

至高の四一人のまとめ役であるアインズを殺せというなんて、絶対におかしいのだから。

 

シャルティアは一度死んだら元に戻った。

 

ぶくぶく茶釜も一度死ねば、きっと元に戻るに違いない。

 

そして、シャルティアをアインズが殺したとき、これは「けじめ」なのだと言っていた。

 

だとしたら、ぶくぶく茶釜を殺すのは、ぶくぶく茶釜に創造された自分の役目だろう。

 

それに――

 

アインズならきっと何とかしてくれる。

 

アインズなら間違いなど起こさない。

 

だからきっとぶくぶく茶釜も、広範囲の敵を殲滅できるようになった自分を褒めてくれるぶくぶく茶釜に戻してくれるに違いない。

 

自分は、ぶくぶく茶釜の求めた存在(大量殺戮者)になるべく努力し頑張ってきたのだから。

 

自分を創った時のぶくぶく茶釜に戻ってもらうのだ。

 

「洗脳されていたから、ナザリックにお戻りにならなかったんですよね。元のぶくぶく茶釜様に戻られたら、ずっとナザリックにいてくださいますよね」

 

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prologue

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【ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ】

この頃のラナーは、まだ王国が属国、あるいは併呑されるだけだと考えていたらしいこと。
八本指が魔導国の傘下であることは、知っていないと対立しかねないので教えられていると思いました。


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1章

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【エ・ランテルの農民】

マーレが支配下の土地の天候管理をしている。とあったので、プロローグの王国の悩みを蹴とばす話でした。

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2章

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【ネイア・バラハ】

「襲われて荷を奪われた」と聞いたら、武力が使われたと考えると思います。
王国でも、「輸送隊を蹴散らせることが可能な戦力」を想定していたので、他国もそう考えると思いました。

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【アインズ・ウール・ゴウン】

シャルティアの洗脳の事件さえ無かったら、書籍もWEBのようにどこかの国に入る方策を変更しなくて済んだのだろうかとも思います。

書籍のアインズの目的の一つ。

シャルティアを洗脳した相手に報いを受けさせること。

どこかの国に帰属して、その国が犯人だった。あるいは犯人と懇意だった場合、復讐を断念させられる可能性が出てしまうでしょうし。

もともとWEBでも、ナザリックの者は仲間が利用されたら犯人を必ず見つけだす。
そのためなら国単位で滅ぼすことも厭わない、とありました。

書籍の今のナザリックは、その方向に進んでいるのかなあと考えました。

犯人がわからないからこそ、この慎重かつ過激な対応なんだろうなと思っています。

引っ越してきたばかりの、知り合いが誰もいない土地鑑もない知らない土地。
そこで殺人事件が近所で発生して犯人が不明の場合、自分以外の全てが怪しく思えるような。

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【スカマ・エルベロ】

なぜか、ピンク色に髪を染めた冒険者という言葉に、

「北斗の拳風の厳めしい男性が、魔法少女風の衣装を着ている」
と想像しました。

6巻ではそんな風には思わなかったのに、二度も出てくると変な想像をしてしまいました。


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【エ・ランテルのメイド】

書籍の十二巻で、エ・ランテルのアインズの居城には、ホムンクルスのメイドたちがいなかったように感じられたので、だったら人間のメイドがいるのでは、と思った話。

セバスは普段はエ・ランテルに詰めているそうなので、こんなこともあるのではないかと。

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3章

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【ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ】

ザナックが王になっていれば、ここまで拗れることはなかったかもしれない。

そう考えると、9巻でレエブン侯が「王がザナック王子を推していれば」と言っていた台詞が辛い。

やっぱりランポッサ三世の決断力の無さが原因な気がしてくる。

ヴィアネとイーグも、幸せになりたいからフィリップを殺す計画を立てていましたし。
自分の幸せのためなら他人を犠牲にすることを厭わないのは、人間も異種族も同じかもしれません。

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4章

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【アズス・アインドラ】

ある意味、アズスは11巻でフロスト・ドラゴンに頭を下げるクアゴアのような立場なのかなと思いました。
自分たちでは解決できないことがある。
頼む相手は自分たちを下等と見下す相手だ。
本当は悔しくて嫌でも、そんな相手に頭を下げて頼むしかない。

あるいは、12巻のレメディオス。
おだてて気分よくしてやって、都合よく使ってやる。

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【ツアーツァインドルクス=ヴァイシオン】

殺すことにためらいはあっても、利用することに問題を感じてはいないように思えたので。

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【クライム】

クライムの立場は「ラナー(領域守護者)の人質(おまけ)」だと考えています。
四巻で、シャルティアが「いやね、薄汚い(ナザリック生まれではない)者たちが闊歩する様は」と嫌悪し、副料理長も同意しています。
「我慢しましょう」とは言っていますが。

さらに、メイドたちも、アインズが「共にナザリックで働く者だ」と言っても、外から入ってきたツアレをあまり良く思っていないようです。

WEBで、外様のブレインは吸血鬼になっていても立場が弱く、肩身が狭い思いをしています。
WEBのアルシェはシャルティアのペットで、ブレインに教えられるまで、シャルティア以外の階層守護者のことも知らされていませんでした。
ペットなどのおまけは、基本的に外に出さないのではないかと考えました。
他の者の守護領域に入ったら、殺されても仕方が無いのかも。
(会社にペットを連れて行って、もし誰かに踏まれて死んでしまっても、連れてくる方が悪い)

エントマなどは、恐怖公の眷族を食べてしまっていますが。

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【ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ】

第五階層の領域守護者のニグレドも建物から出ないらしいこと。
くがねちゃんの雑感「たった一部屋の領域守護者」とあったこと。

から考えた話です。

クライムは五巻でも、ザナック(王族)にラナーのことで反論してしまうくらいには黙っていられない性格だと思ったので。

それに、デミウルゴスの配下の魔将より一般メイドの方が立場が上とか、ナザリックの上下関係はわかりづらいと思うので。

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【マーレ・ベロ・フィオーレ】

くがねちゃんのTwitterから妄想。

マーレは躊躇いなくモモンガを殺すのか。
それともぶくぶく茶釜を殺すのか。

14巻で「モモンガに強い感謝と敬意を抱いている」とあること。
「ぶくぶく茶釜に叱られる」と考えていること。

よって、この話ではぶくぶく茶釜が犠牲になりました。

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