スルシャーナ
光る杖を携えて彼は歩く。
後ろには自分に従うNPCーー法国で呼ぶところの従属神ーーが数体従ってついてきている。
そして目的地に着く。
そこには既に相手が自分を待っていた。
「すまない。待たせてしまっただろうか」
「いや、さほど待ってはいない。問題はない」
八人の中から代表して一人が答える。
アンデッドである自分と同じ異形種である彼らのレベルはだいぶ下がってしまっている。
当然だ。彼らはこの異世界で最強の存在である竜王と戦い続けていたのだから。
だが、おかげで竜王たちをかなりの数を減らす事が出来た。
さすがにこれ以上のレベルが下がれば、竜王一体も倒せなくなる。
だからこその自分。
竜王たちを殺すことを依頼した自分の最後の務め。
「さあ、私を殺せ」
人類は滅亡しそうだった。
それが辛い。悲しい。許せない。
それが自分と一緒に、この異世界へ来ていた五人の仲間の総意だった。
異形種だった自分と異なり人間種だった仲間は、この世界の在り方を許容できなかったのだ。
人を守り、国を造り、後に法国と呼ばれるこの国で、自分たちは神と崇められ、六大神と呼ばれた。
ささやかに、でも確実に人間の生活圏を増やしていく。
一進一退を繰り返し、持っていたアイテムをすり減らし、尽くしてくれるNPCと協力しながら、人間を守ってきた。
しかし仲間の五人は死んでしまった。
一人残された自分は、NPCたちと共に国の維持に務めたが、たかが百年程度で減ってしまった人類の立場はそうそう変わらなかった。
もっと大きな変革が必要だ。
人間種以外を大きく減らすような…
そう考えていた自分の前に、彼らは現れた。
巨大な空に浮かぶ城というギルド拠点と共に、自分たちがこの世界に来た時から百年後に。
彼らは強かった。
この世界に来た時の自分たちよりも。
彼は彼らと接触し、情報と共に彼らへ依頼をした。
この世界の強者である種族を狩ってほしい、と。
彼らはーー最終的には承諾してくれた。
たとえ現在、異形種の姿をしていようと元は人間。
美醜も元の人間のものに連なっている。
あえて言うなら、彼らは人間種の女を好んだのだ。
異形種と人間種の間なら、子はよほどの事が無い限り生まれない。
さほど生態系を崩す事も無いだろう。
彼らは強く強欲で高い戦闘能力と、それを操る術に長けていた。
竜王たちはその数を減らし、その余波で強い種族もかなり減った。
そして彼らは私の目の前にいる。
レベル百の自分を殺せば、レベルの下がった彼らのレベルもそこそこに戻るだろう。
一回死ぬごとに五レベルのダウンとしても、十回以上殺されれば彼らのレベルは上がるはずだ。
「しかし…いいのか?」
少し気まずそうに彼らの一人が聞いてくる。
私は気負うことなく答えた。
「もちろんだ。なぶり殺しにされるのなら断るが、そんな事はしないだろう?」
だったら何の問題も無い。
「私が出来ない事を君たちに頼んだんだ。これくらいは必要な事だと理解しているさ」
六大神の一柱として、そしてかつての仲間との約束を守る手段として、これ以上の方法が思いつかなかったのだ。
後ろで自分につき従うNPCたちに振り返る。
「私はここで死ぬ。お前たちは以前に話した通りに行動しろ」
「ーーはい」
涙ぐみ嗚咽混じりの返事が、沈黙の後に小さく聞こえた。
「そいつらは俺たちのギルド拠点を守らせよう。俺たちのNPCもいるからな。一番安全な役だと思うぞ」
「よろしく頼む」
深く頭を下げる。
これで憂いは無い。
彼らのレベルアップに必要な回数までは復活して殺される。
彼らが必要無くなったら、もう蘇生魔法はかけない。応えない。
そして自分は死ぬ。
やっと死ねる。
仲間と同じ処へ行ける。
「ああ、これで解放だ」
万感の思いで呟いた。
ここに法国の祖、六大神の一柱、死の神はその存在を断った。