短編小説   作:重複

6 / 45
それぞれのおもい(アルベド・デミウルゴス・ラナー)

アルベド・想う

 

ああ、モモンガ様

 

アルベドは己の体を抱きしめ、体をくねらせて愛しい相手の名前を呼んだ。

この名前を呼んだ時に周りにいたメイドたちから、その後に何のリアクションも無いという事は、モモンガが不問にしたという事だ。

つまり、自分がこの名を呼ぶ事を容認したという事なのだ。

「アインズ・ウール・ゴウン」と名を変えてしまった愛しい相手は、以前の名を完全に捨てた訳ではないのだ。

 

呪わしい名から、きっと解放してさしあげます。「アインズ・ウール・ゴウン」など、なんの価値も無い名なのですから。

 

きっと他の創造主たちを見つけ出す。

そして、モモンガを手酷く裏切らせるのだ。

所詮、ナザリックを見捨てた裏切り者だ。

モモンガを裏切るのも、さほど違和感は無いだろう。

裏切られたモモンガはきっと酷く傷つくだろう。

NPCの中からも、離反する者が出るかもしれない。

 

大丈夫です。私がおります。

 

他の仲間に裏切られ捨てられ傷ついた愛しい相手の下に残るのは自分だけ。

このナザリックに愛しい男と二人きり。

 

パンドラは愛しい男の息子だ。

例外にしてやってもいい。

 

だが、他はだめだ。

モモンガを、ナザリックを捨てた罪人が生み出した存在が、更にモモンガを主人と選ばなかったなら、もはやそれは不要と断じてよい存在だ。

モモンガを主人と崇めない存在など、このナザリックにはいらない存在なのだ。

 

大丈夫です。私がずっとお傍におります。

 

二人きりの愛の巣を、楽園を作る為、その努力を怠らない。

自分だけでもナザリックを管理できる。

パンドラがいれば、十分すぎる。

デミウルゴスは少し惜しいが、あれがいるとモモンガが自分に仕事を振り分ける事が減ってしまう。

モモンガの役に立つのは、自分だけでいいのだ。

 

私を頼って

私を望んで

私だけで世界は完結して

二人だけでずっと

 

このナザリックのものは、すべてあなただけのものです。

モモンガ様。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

デミウルゴス・焦燥

 

もっと頑張らなければ、とデミウルゴスは決意を新たにする。

主人の世界征服の計画を遂行する。

自分がいなくても、あの聡明にして計略に長けた主人なら、行えてしまうのだろう。

いや、もしかしたら一人でも自分の計画以上に簡単に被害少なく、人心も完全に掌握した上で、成し遂げてしまうのかもしれない。

 

いや、絶対にそうなのだろう。

 

フールーダに確認したところ、帝国を綺麗な状態で併呑したい、と仰っていたと言う。

つまり自分の計画を先読みし、被害を鑑みて、計画を修正してみせたのだろう。

しかも自分やアルベドが不在の僅かな間に、全てを終わらせるという深謀で。

自分にはまだまだ到達できない領域だ。

 

あの主人を見ていれば、自分が優れているなど口が裂けても言えるはずがない。

優秀な頭脳を与えられたとしても、所詮自分は被造物なのだ。

主人の高みに到達するには遠く及ばず、遥か頂を望むに過ぎない。

主人を前に、伸びる鼻など存在しない。

足元にも及ばぬ自分を自覚するのみだ。

 

もっと頑張らなければ。

 

アインズが自分を褒める時に感じるもの。

 

それはまるで幼い子供を、頑張ったのだろうな、と労をねぎらうような微笑ましい感覚。

よくできました、と頭を撫でられるようなこそばゆさ。

 

きっと自分達の働きは、主人からすれば、子供のお使いのようなものなのだろう。

 

もっと頑張らなければ。

 

遥かな高みに存在する主人に相応しい僕となる為に。

主人に呆れられないように。

主人に見捨てられないように。

主人に不要と思われないように。

 

最後の主人が、姿を消してしまわないように。

 

もっともっと頑張らなければいけないのだ

 

 

主人の智謀に触れる度、不甲斐ない僕だと思われないか、何度も恐怖する事が少しでも減るように。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ラナー・考察

 

恐ろしい

 

ラナーがアルベドとの会話から感じたのは、恐怖だった。

 

どう考えても、アインズ・ウール・ゴウンという存在は、支配者という器ではない。

どちらかといえば、一人でなんでもこなす冒険者タイプだ。

 

話の端ばしからそう感じるのに、支配者として破綻なく、偉大な指導者として君臨している事が、違和感を大きくする。

 

恐ろしい

 

昔、役者が言っていた事を思い出す。

 

「女役を男が演じると、本物の女性以上に女らしく演じます。もちろん演技力という事もありますが、そこには男が理想とする女性像が反映されているからです。同様に男役を女が演じると、女性の理想を演じます。演技とは相手にその反映した像を共用させる事なのです」

 

自分もそうだ。

愛しいクライムが理想とする「完璧な王女」を演じている。

自分がそう(完璧な王女)でないことは、自分が一番よく知っている。

 

ならば、アインズ・ウール・ゴウンは?

 

彼も「そう」なのだとしたら?

 

それは恐ろしい事だ。

 

彼が「理想の支配者」を演じる才能と自覚を併せ持った存在だとしたなら、それは

 

それは

客観的に自分の行動を見る事ができる。

自身の行動を律する事ができる。

自分の言動の先を考える事ができる。

 

行動原理が「自分のしたい事をする。それが正しい」ではなく、「相手の期待に応え続けることを自らに課している」ということになるのだ。

 

それはまさに「万人の理想とする支配者」となりうる存在だろう。

 

クライムに好かれる為に「完璧な王女」を演じていた自分にはわかる。

彼はある意味、自分の上位版だ。

 

「なんて恐ろしい存在なのでしょう」




みんなで勘違い

特にデミウルゴスはお互いにお互いのハードルを上げまくっている気がするのです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。