短編小説   作:重複

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スレイン法国より、はじめました

その顔を見た瞬間に浮かんだ思いは「自分は選ばれた」というものだった。

 

大勢の仲間が死んだ。

生き残ったのは、自分を入れてわずか四人だけ。

それさえも奇跡のような数だ。

あのアンデッドの騎士なら、自分達を全滅させられただろう。

今、自分が生きているのはまさに「奇跡」だ。

そして自分達を壊滅させた存在を操る存在。

ローブをまとい、仮面で顔を隠した男の素顔。

 

神に救いを求めても、無駄だった訳を悟る。

 

神の怒りを買った自分達に、神の救いがある訳がない。

 

それでも自分達は生き残った。

それは何故か。

答えは「神」自身によって与えられる。

 

「この村より北東に2キロ進んだところに草原に囲まれた、ナザリック大地下墳墓という場所がある。私はその主人だ。ゆえにこの辺り一体は私の支配下だ。騒がしくしたら今度は虐殺を行いに貴様らの国まで行くと伝えろ。・・・理解したか?」

「行け。そして確実に主人に伝えろよ?」

 

自分はこれを伝える為に生かされたのだ。

神の怒りをこれ以上買わない為に、「神の言葉」を正確に本国へ伝えなければならない。

いわば自分は神の言葉を伝える、伝導師だ。

神の怒りを買ってしまった本国の過ちを正さなければならない。

 

王国に帝国の騎士を装って、近隣の村村の住民を適度に殺して、幾人か逃がす。

 

そんな「任務」が神の怒りを買ってしまった。

しかも本国に「虐殺を行う」という明確な罰を提示された。

 

王国に出向いたのが悪かったのか。

帝国の騎士を装ったのが悪かったのか。

王国と帝国の仲の悪化を画策したのが悪かったのか。

村人を殺したのが悪かったのか。

同種族たる人間を欺こうとしたのが悪かったのか。

支配下で騒がしくしたのが悪かったのか。

 

神の怒りを解かなければならない。

 

六大神最強の神の怒りを買って、無事で済む訳がない。

 

この近くの草原には何も無かったはずだ。

調査はきちんとされていた。

今まで発見されなかったなんて事があるわけがない。

なら突然沸いて出たのか。

 

ありえない。

 

ーーと言えるのだろうか。

 

神の御業なら可能だろう。

 

先ほどのアンデッド。

あんな物を操るのだ。

 

命あるものに永遠の安らぎ、そして久遠の絶望を与える神。

死の神ーースルシャーナ。

 

それ以外のどんな存在に、国に虐殺を行えるというのか。

 

生き残った四人。

その中で神の素顔を見たのは自分一人。

神の声を賜ったのも自分一人。

 

口元がわずかに上がる。

 

生き残った喜び。

選ばれた優越感。

 

 

そう、自分は「選ばれた」のだ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ゆっくりと自分達の元へ近付いてくる存在。

 

顔を奇妙な仮面で隠しているが、その姿は先程見た闇よりなお黒いローブを纏い、神々しくも恐ろしい美しく輝く杖を持っている。

 

そんな相手は仮面で顔を隠していても、一人しか知らない。

 

「ゴウン様」

 

呼ばれた名にアインズは少し違和感を覚えた。

 

ギルド名である「アインズ・ウール・ゴウン」は組織名でもあり、省略して呼ぶ事はなかった。

なので「ゴウン」だけで呼ばれると、何とも奇妙な感じがするのだ。

それくらいなら・・・

 

「アインズで構わない」

 

呼ばれるなら「ゴウン」よりも「アインズ」の方が、最初の違和感が薄く思えた。

 

「・・・あの、アインズ様。村は・・・」

 

守りのドームの中から覚悟と希望のない交ぜになった表情で確認される。

 

「ああ。村を襲った騎士達は片付いた。かなりの数の村人が殺されたようだが、それなりの数が生き残っている。もう村に戻っても大丈夫だ」

 

アインズの言葉にエンリの顔のこわばりがほどけた。

 

「ありがとうございます」

 

深々と頭を下げる。

そして促されるまま、ドームの中から出てきた。

 

「アインズ様。その仮面は・・・」

 

アインズは仮面に軽く触れると、頷いた。

 

「ああ、これか。私の顔は怖いだろう?」

「いいえ!」

 

とっさにエンリは否定していたが、これはあまりにも信憑性の無い発言だと気付く。

 

「いえ、お顔は怖いです。人間じゃありませんから・・・

でも、私達を助けて下さったアインズ様が怖い訳ではないです!」

 

「私もアインズ様、怖くないです」

 

姉に倣い必死に言葉を連ねるネムの姿に、アインズの中に少し意地悪な感情が湧く。

 

「私が怖くないのか?」

 

ひょいと顔を近付け、仮面を少しずらして骸骨の素顔を曝す。

 

「ひ!」

 

ネムの怯えた顔に、大人げなかったかとアインズは反省する。

村人がかなり助かったとはいえ、この姉妹の家族が無事という保証は無いのだ。

ここで意地の悪い言質の押しつけは、大人として情けない。

それにこの姉妹には、お願いがあるのだから。

 

「私の顔は怖いだろう。だから覚えていてもうなされるだけだ。忘れてくれないか」

 

ふと、自分の言葉に自らの魔力とも呼べるような力の行使を感じる。

 

適切な魔法を使えば、思った通りの効果が発揮されるという確信が生まれる。

 

「記憶操作」

 

ゆっくりとネムの頭に手を乗せる。

 

「お前は私の顔を見ていない。私と初めて会った時、私は最初からこの仮面とガントレットを付けていた」

 

自分の言葉と共に魔力が流れて行くのを感じる。

それはすさまじい魔力の喪失だった。

ごっそりと失われた何か。

その対価として、ネムは首を傾げ、アインズを見上げている。

そこにそれまであった、人間以外に対するおびえは無い。

 

「私の素顔は怖いだろう?」

「見てないから、わかりません」

 

ネムの答えに、エンリがぎょっとした顔をすると、慌ててアインズに向き合う。

 

「何をしたんですか?いえ、何をしたかわかります。でも私にはしないで下さい」

 

きっぱりとした拒絶。

それを「忘れた」ネムが不思議そうに見上げる。

 

「何故だ。私の顔を覚えていることは、お前にも私にも不利益な事だと思うが?」

 

人間では無い事を吹聴される事は、アインズにとって好ましい事態では無いと、エンリにも理解できる。

しかし、自分の中に芽生えた覚悟は話しておかなければならないのだ。

 

「私達の村を襲った騎士は「人間」です。そしてアインズ様は私達の「恩人」です。恩人の顔を忘れたくないんです。お願いします!」

 

エンリはアインズに向かって深々と頭を下げる。

相手の動きはこれで見えない。

相手に差し出した頭に、先程のネムの時のように手が乗せられて、記憶が消されるかもしれないともエンリは思った。

しかし、忘れたくないのだ。

 

 

騎士に襲われ、家族を殺され、逃げる最中に誰に助けを求める事も出来なかった。

父も母も、村中の誰も、騎士に勝てる存在などいないとわかっていたからだ。

そしてそれ以外に助けてくれる存在を何も思い付かなかった。

 

それこそ神様に願う事すら、考えもしなかった。

 

それなのに、助けてくれる存在が現れた。

 

その存在は人間では無かった。

助けてもらいながら、礼の一つも言えず、怖がるばかりの自分達の怪我まで治し、村のみんなも助けてくれた。

 

ここまでしてもらっておいて、相手が「私の顔は怖いだろう」という言葉に甘えてはいけないのだ。

自分達を助けてくれたのは「人間では無い」。

それを忘れる事は、人間以外に助けられる事を否定しているような気がしたのだ。

 

今、恩人が仮面を付けているのは間違いなく自分達が怖がったせいだ。

恩人に気を使わせているのだ。

 

なんて不甲斐ないのだろう。

 

エンリは自分に腹が立った。

先程騎士に追いかけられた時以上の怒りだ。

 

アインズの作ったドームの中で、妹と抱き合いながら思っていた事がある。

 

それは申し訳なさだ。

 

人間では無い相手が、自分たちに何をしてくれたか。

 

殺されそうな所を救ってくれた。

怪我を治す薬をくれた。

助けてくれた相手を疑うような言動を取った自分を見捨てる事無く、辛抱強く薬を渡してくれた。

まだ殺されている村のみんなを、助けに行ってくれた。

他の騎士に殺されないように、安全な場所を作って匿ってくれた。

 

それに対して、自分のした事といったら。

 

会って怖がり、

薬を渡されても、疑って受け取らず、

薬を飲んで傷が治っても、にわかには信じられず、

村のみんなを助けに行こうとした相手を引き留め、

名を聞きながら自分は名乗らず、

更にお礼の一言さえも口にしていない。

 

恥ずかしさと情けなさ、己の身勝手さに、目が眩むような思いがした。

 

それら全てを「相手が人間ではなかったから」を言い訳にする訳にはいかないのだ。

 

 

「助けなんてない、だから自分は死んでも妹だけでも助かればって思ってました」

 

「でも本当は二人とも殺されるだろうって判ってました」

 

「アインズ様が助けてくださったから、私達は生きています。それを間違えたくないんです」

 

「誰に助けられたか。忘れたくないんです」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「神はこう仰られたそうだ。「この村より北東に十キロ進んだところに草原に囲まれた、ナザリック大地下墳墓という場所がある。私はそこの主人だ。ゆえにこの辺り一帯は私の支配下だ。騒がしくしたら今度は虐殺を行いに貴様等の国まで行くと伝えろ」と」

 

「それはつまり、あの辺り一帯は神の支配する土地。聖地ということか」

 

「王国のカルネ村は百年ほど前に開拓された村だそうだ。行動範囲が神の御座所に近づきすぎたのか?」

 

「あるいは神のお膝元で死を生産する行為が、神の怒りに触れたか」

 

「カルネ村は助けられて、我らの配下が殺された。これが神の領域で騒がしくした行いによる罰とするなら、神の仰る「騒がしく」は、やはり殺戮を禁じると言うことなのでは?」

 

「だが今まで、近隣に発生したモンスターの討伐に神がお怒りになったことはないはすだ」

 

「では「同族殺し」が問題なのでは?」

 

室内が静まり返る。

 

 

六大神は劣等種族たる人間を哀れに思い、他の種族によって滅ぼされかけた人間を救ったとされる、人類の守護神だ。

 

だが、せっかく守ってやった種族が身内殺しーー神の目からみれば、人間は国が違えど同じ種族だろうーーを行っていれば不愉快にもなるだろう。

ましてや弱者救済ではなく弱者殺害では、神の前で堂々と言えるような褒められた行為では無い。

 

「しかし、王国の中に神のお住まいがあったとは」

 

「なぜ我らスレイン法国ではないのか」

 

「神のおわす聖なる地が他国にあってよいものか」

 

「聖地奪還こそ我らの成すべき事ではないのか?」

 

「そして神の支配下で騒がしくしたと神の怒りを買い、我ら法国は滅ぼされるのか?」

 

静まり返った室内で恐る恐る発言が再開される。

 

「エ・ランテルではなく、あの草原地帯だけでも取り戻せないものだろうか」

 

「神のお住まいが、他国の地にあるなど、屈辱だ」

 

「しかも四大信仰の地ではないか」

 

「むしろ、だからこそではないのか?敢えて自らを信仰しない国に降臨し、自らの威を示そうとなされておいでなのではないか?」

 

「かもしれん」

 

「しかし、死の神が他国に現れた。となると、他の神々も他の国に居住を構えている可能性があるということではないか?」

 

「迂闊に他国に攻め入り、そこが神の支配下だった場合を考えなければならないという訳か」

 

「謀略よりも地域調査が最優先事項となりそうだな」

 

「神もそうだが、神に従う小神はどうなのだ?経典には邪悪な権能を持つとされているが」

 

「まだ小神の情報はない」

 

「つまりこれから強者の情報があった場合、神の小神である可能性も考慮しなければならない訳か」

 

「やはり更なる情報の収集に努めるべきだろう」

 

「それしかないか」

 

「他の神の小神と違い、地上に下落し、邪悪を振りまく魔神となる存在はいないとある。それは死の神の支配下から離れないということだろう。つまり、死の神の小神は、死の神の命令で動いているということになる」

 

「他の神の下落した魔神のように、討伐対象とはならないという事だな」

 

「そういうことだ。敵対すれば、最悪の場合、死の神からの罰を覚悟せねばなるまい」

 

「ますます情報が欲しい」

 

「だが急いて神の行動の阻害となっては、本末転倒だろう。ここは慎重にも慎重を重ねるべきだ」

 

「意義は無い」

 

「その意見に同意しよう」

 

「では情報収集を主に行う。他国への諜報は継続するが、人間主体の国への武力行使、特に弱者と呼べるような平民への殺害行動は極力禁止とする」

 

「了解した」

 

 

これよりスレイン法国による、死の神奪還が始まる。




WEBの頃に書いていたものです。
WEBが帝国編
書籍が王国編
となるときいたので、法国編はないものかと思って書き始めて止まりました。
WEBの設定なので。
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