(アルカディアの感想から想像)
クライムが八本指から助けた女性の話。
(別名、セバスのハーレムに入らなかった女性の話)
自分は恵まれている。
そう思っていた。
・・・ついさっきまでは・・・
自分は不幸だった。
さらわれ、女として、人間として最低限の扱いさえされず、使い物にならなくなったとして「廃棄」される寸前だった。
自分をそんな風に扱った「ディーヴァーナークの8本指」。
彼らは王国で自分のような女を多数「商品」として、消費していた。
そんな奴らは、王国のラナー王女によって組織を潰され、自分を含めた何人かの女が救出された。
そこで働かされていた女はもっといたはずだ。しかし助けれられた者は自分が知っている数よりずっと少なかった。
それを知った時、助けられていない女達はみんな殺されてしまったのだと思った。
自分は死ぬ前に助け出された、幸運な一人なのだと。
そう思っていた。
「助けられた」
ただ「それだけ」だった。
回復魔法をかける費用。
かけても回復させることの出来ない人間。
助けた後、どうするのかという問題。
助けた後には、これらの問題があったのだ。
自分達は助けられた後、回復魔法はかけてもらえた。
それにより、性病等の病気、打ち身や裂傷等の外傷は癒えた。
しかし、逃げられないように、抵抗出来ないように、あるいはただ単に苦痛を与える為に。
そういった目的でなされた、腱の切断や強引に抜かれた歯などの古傷は治らなかった。
それも仕方が無いのだと、その時は考えた。
そこまで治せるような治癒魔法を使える存在は、王国にも近隣諸国にもいないらしいからだ。
唯一の例外はスレイン法国らしいが、それとてそこらの一般市民にまで恩恵があるはずがない。
自分達は王国で受けられる治療を受けられた。
それに感謝している。
体に傷が残っても、あそこで「廃棄処分」という名の殺害にならなかっただけでも幸運だ。
でも、治療は「体の傷」は癒しても、「心の傷」までは癒してくれなかった。
毎夜悪夢にうなされて悲鳴を上げる等、まだ可愛い方だ。
起きていても人に怯え、拒絶する。
錯乱状態から戻れない。
そんな女も複数いた。
「助けられた」事も理解出来ないほどに、精神を病んでいた者もいたのだ。
そしてそんな女達の身の処し方など、どうすれば良いというのか。
片手片足が動かず、食事も満足に出来ない。
然したる教養も無い。
そんな存在に、これから生きていく為の仕事等あるだろうか。
そんな都合の良い仕事があるはずがない。
そして「助け」は永遠では無い。
働けない。
片手片足が不自由。
読み書きが出来る訳でもない。
そんな存在に誰がずっと面倒をみてくれるというのか。
いるはずがない。
助けられた後、しばらく保護された家。
厄介者。
お荷物。
穀潰し。
役立たず。
邪魔者。
etcetc・・・
そんな陰口と冷たい視線。
蔑みと侮蔑。
いやがらせの数々。
そんな境遇の中に、いつまでもいられるものではない。
姿を消す者。
精神を病む者。
自ら命を絶つ者。
私は王国を出た。
王都といえども、治安は良くない。
保護という名の厄介者扱いは辛かった。
でも、王国では何処に行っても、人が私を見る目は変わらないだろう。
それくらいなら、いっそ誰も自分を知らない国に行く事にしたのだ。
「女」を商品にしてでも、旅の商隊に混ぜてもらい、旅をした。
結局自分にはこれしかないのか、と笑うしか無かった。
とても惨めな思いを、今更何をと考える事で押し込めた。
扱いが「人間の女」であるだけ、ましじゃないか。
ついこの間まで、人間扱い等されなかったじゃないか。
今の状況が、どれだけ「最悪よりまし」か自分に言い聞かせた。
そして着いた帝国。
何も変わらない。
みすぼらしい体の不自由な女に職などあるはずが無かった。
いくらでももっといい働き手がいるのに、何をわざわざ「役立たず」の「王国から来た人間」を雇う必要があるというのか。
そして物乞いとして、道に座り込んでいた自分の視界に「彼女」が映った。
「嘘だ」
それが最初の思いだった。
「彼女」とはあの娼館で一緒だった。
自分と同じかそれ以上にひどい目にあっていた。
だから「彼女」はとっくに「廃棄処分」にされてしまったのだと、だから助け出された女達の中にいなかったのだと、そう思っていた。
それなのに・・・
髪は艶やかに風に流れている。
皮膚に荒れも、傷も無い。
肉付きも良く、健康的な肌の色だ。
小綺麗な服に身を包み、健脚な足取りで視界を横切って行く。
体に不自由そうな箇所も、動作も見あたらない。
その動きと同じく、表情も軽やかで穏やかなものだ。
「嘘だ」
この差は何?
「彼女」は死んだはずだ。
だって助けられた女達の中に「彼女」はいなかったのだから。
だから「助けられた」のは自分のはずだ。
それなのに、どうして「助けられた」自分より、その中にいなかった「彼女」の方が幸せそうなのか。
「嘘だ」
だってこの体を完全に癒す方法なんて「無い」って言っていたのに。
だってこれ以上「助けられない」状態だったはずなのに。
この差は何?
どうして「彼女」は、あんなに健康そうで幸せそうなの?
王国は私を助けてくれたんじゃないの?
どうして?
私はこんなに「不幸」なのに・・・
涙が溢れた。
考えないようにしていた事。
助けられたのだから。
あんな地獄から抜け出せたのだから。
こんな不自由な体でも、生きているのだから。
たくさん考えていた。
自分は不幸ではない。
恵まれている。
助けてもらえず、死んでいった女達だって大勢いた。
こんな状態、状況でも、あそこよりはずっとましだ。
自分を慰める言葉を、たくさん考えていた。
自分は「助けられた」と。
自分は「恵まれている」と。
でも、やっぱり自分は「不幸」だった。
同じ場所にいて「助けられた」事は同じはずなのに。
何が違うんだろう。
何がいけなかったんだろう。
どうして「自分」と「彼女」は、こんなに違うんだろう。
今の「彼女」と「自分」は、こんなにも違う。
「彼女」は「幸せ」で、「自分」は「不幸」なのだ。
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして・・・・・・・・・・・
溢れる涙でぼやける視界の中の「彼女」が、どんどん遠ざかっていく。
それを「私」は、ただ見送るしか出来なかった。
あまりにも違う「差」を感じながら。
どう考えても不幸しか思いつかない。
だれかハッピーエンドにしてあげてください。