ヒセミの聖杯
「──『ヒセミの聖杯戦争』」
男が静かに口にした言葉は、誰も知らない、どんな辞書にも載っていない、本来ならば存在し得ぬ概念を意味していた。男は満足したように恍惚の表情でなおも言う。
「素晴らしい。まさかあの聖杯戦争を、この地で再現できるなんて!なんて素晴らしい!」
男は興奮に我を忘れる。聖杯戦争という甘美な幻想は、魔術師の域を越えた彼をも魅了していた。
かつて日本の冬木市で行われた魔術大戦、聖杯戦争。遠坂・マキリ・アインツベルンの御三家によって完成したそれは、霊脈や用意する魔術礼装の都合上、冬木以外の土地では再現が不可能とされてきた。ゆえにこそ聖杯戦争は甘美な幻想なのである。しかし男はこの土地、
「そうだ、聖杯だ。それだけは──」
聖杯戦争を最後まで勝ち残ったマスターとサーヴァントには、優勝賞品として器が与えられる。もちろんただの器ではない。『聖杯』と呼ばれる万能の願望機。どんな願いも一つだけ叶えてくれる器。聖杯戦争を再開するにあたって最も再現が難しいとされる魔術礼装でもある。しかし男は語る。
「──私が作らなくては」
彼に『有り得ない』は禁句だ。なぜなら彼は世界の常識をも書き換える存在──所謂『魔法使い』と噂される人間であるから。
かくしてヒセミの聖杯は完成した。聖杯戦争は影が闇に溶け込むような静けさで氷瀬見市に忍び寄っていた。
いや、違う。
「氷瀬見の聖杯聖杯は行われる運命にあった。この土地は聖杯戦争の開始を待っていた」
戦争終了後に残された書類にはそう書かれていた。
後に聖杯戦争に巻き込まれる少年──
「ヤッバい、遅刻する!てか滑っ──」
凍結した地面に足を滑らせ、後頭部から着地する。目から星が散るような痛みが頭を襲っているが、それどころではない。今年の彼のクラスの担任教師は始業5分前に席に付いていないと烈火のごとく怒るような奴である。完全なるハズレくじを引いたが、引いた後のくじに文句を言ったところで結果が変わるわけでもない。
「うう……今日は甘んじて受け入れますか」
ヨロヨロと高校への道を歩む平凡な少年が何故聖杯戦争などに巻き込まれるのか──それはまた後の話である。
あ、どうも作者です。
先に言っておきますが(既に1ページ終わったのに『先』とはいかに)作者は型月にわかに近いです。
原作であるstay nightは未プレイだし今話題のfgoは4章までしか終わってない。人理修復など全て遠き理想郷。クリアした人はおめでとうございます(歯軋り)。
それでもfateの二次創作はしたいんですよ。
冒頭に出てきた男「(聖杯なんて)自分で作ればいいじゃない」
作者「そうか、なるほど。じゃあ(fateの二次創作を)作ろう」
こんな感じの噛み合わない会話の末に書いているのがfate/tiny ambitionです。
そしてこんなところで大事なことを言うのも何ですが、fate/tiny ambitionは2016年くらいの日本、氷瀬見市が舞台です。第四次聖杯戦争、第五次聖杯戦争を経て、冬木の聖杯は2010年頃に解体されたので、時間軸的にはその後。もう冬木は聖杯戦争してない。どうしてこの都市で聖杯戦争が開催されるかってことは、まあ追々話していきましょう。
また、基本的にはfate/stay nightに準じた世界線であると考えていいと思います。ズレたら解釈とか定義とかをやり直せばいいんだ!あと聖杯のせいにすればいいんだ!
……後書きがとても長くなりましたが。今後ともfate/tiny ambitionをよろしくお願いいたします。