窓際の席につくと道中の焦りから解き放たれ大きな溜め息をついた。一気に肩の力が抜けたことで今までの緊張が解れたのを感じる。と、前の席に座る少年が自分を見て笑っていた。
「スイート、寝癖ついてんぞ。さては寝坊したな?」
スイートとは僕のあだ名である。降都粋人、すなわち
「ときに、スイートよ……貴殿はこの学級に迫る影に気がついていような?」
ただこの友人は自分の主張にいちいち芝居を絡めてくるので、クラスの大部分から厄介者扱いを受けている。現在も例外なく、案の定顔の前で両手を組み、計算したかのように逆光に眼鏡を光らせていた。作られた雰囲気に気圧されそうになる僕は、なんとか踏みとどまって誠に言葉を返す。
「すまん、全く分からない。なんだその影ってのは」
「分からない?甘いぞスイート、名が体を表すとはまさにこのことだな。後ろを見たまえ!」
僕は言われた通りに後ろを見る。昨日までは存在していなかった一対の椅子と机が置いてある。誠に向き直る。
「全く分からない」
「その年で耄碌か、情けない。現れた椅子と机!誰も座っていないという事実!珍しく遅れている時間に厳しい担任!つまり!」
誠が僕に人差し指を突き付ける。つまり。
「……転校生か」
その時教室の前の扉が開いた。例の教師が味気ない顔で教壇に上がる。僕はおとなしく寝癖を撫で付けながら着席し、周囲の沈黙に混ざった。
「──今日は新しいクラスメイトを紹介します」
一瞬にして騒がしくなる教室。それもそうだろう、高校生活においては滅多にないイベントだ。視線が集まる教室前扉──開く音と共に現れたのは華奢な少女。美しく整えられた長髪は絹のように背中に流れ、線の細い横顔はほんのりと赤みがさしている。彼女は自己紹介のために教壇の前に立った。
「
にこりともしない。緊張している様子もない。彼女は堂々たる眼差しで一度教室を見渡す。教室はしんと静まりかえっていた。彼女の美しさに心を奪われた者もいたのだろう。突然の転校生に驚いた者もいたのだろう。だが多くの人間は思考の読めない新参者に、多少なりとも畏怖の念を覚えたはずだ。
それはあまりにも、常人とはかけ離れていて。
それはあまりにも、凡人にはほど遠いもので。
僕は彼女が椅子に座るまでの一挙一動に意識を向けた。なんの変哲もない少女の動作である。ただ表情の変化が乏しいことが唯一奇妙なだけの少女。特別興味を引いたわけではないが──席が近いだけあって関わることは多くなりそうだ、と思った。