インフィニット・ストラトス 慟哭の白銀少女 作:アブソリュート
なるべく早く書けるように頑張りますのでよろしくお願いします
あれから一週間が経ちついにセシリアとの戦いの日なのだが―――。
「……なあ、箒」
「なんだ、一夏」
あれから一週間、お前が剣道の稽古に付き合ってくれたお陰で昔の感覚をある程度取り戻せたことには感謝している。だがな―――。
「箒、俺に何か言うことがあるんじゃないか?」
「さあな。私が一夏に何を言えというのだ?」
……そうか。わからないのか。なら言ってやる。
「稽古ばかりしてISのこと一つも教えてくれなかったことだよ!」
そう、一週間剣道の稽古しかしないで終わった。しかも肝心のISの知識とか基本的なことを教わってないのだ。
「………………」
「おい! 目をそらすな!」
……完全に忘れてたな箒の奴。
「そ、そんなことは頼まれていない! それぐらい自分で何とかしろ!」
うわー……逆ギレしてきたよ。
「ならエリスに教えてもらえば良かっただろうが!」
「ああー……知識については少ししか教えてもらってない」
しかも授業でいくつかエリスにもらった要点まとめノートのわからなかった部分だけだ。
「はぁ……。しかし、なあ?」
……来ないなあ。何が来ないかというと俺専用のISがなにやらごたついたせいで結局来なかったのだ。しかも未だにな。
「………………」
「………………」
俺と箒しばらく沈黙状態が続いた。その空気を壊したのがクラスの副担任の山田先生だった。
「織斑くん織斑くん織斑く~ん!」
転びそうになりながらも第三アリーナ・Aピットに駆け足でやってくる山田先生。危なっかしくドキドキしながら見守っていると息を切らしながらこちらにやってくる。
「はぁ……はぁ……お、織斑くん!」
「山田先生、落ち着いてください。まずは深呼吸」
「は、はいっ。ヒッヒフー、ヒッヒフー」
それ違う! あんたは子供を産むつもりか!?
「それ、深呼吸じゃないですよ……」
「あ、あれ?おかしいですね?」
山田先生は首を傾げて自分がやったことに疑問を抱く。誰もそんなこといってないんだけどな。
パァンッ!
「貴様は私に何回叩かせれば気が済むんだ?」
今日は比較的優しい打撃を繰り出す千冬姉。その後ろにはエリスがいた。
(……? エリス?)
千冬姉の後ろにいるエリスの顔が悲しそうに見える。あまり月日が経ってない人にはわからないだろうが長年過ごしてきたからわかる。なんでそんな顔をするんだ?
「あ、あのですね!来ましたよ!織斑くんの専用IS!」
――えっ?
「織斑、早くしろ。もたもたするな。時間は限られているんだ」
――あの?
「この程度の障害、男子たるもの軽く乗り越えてみせろ。一夏」
「ちょ、ま……」
「「「早く!」」」
山田先生、千冬姉、箒の声が重なった。少しは話を聞いてくれてもいいような……。
ごごんっ、と鈍い音がして、ピット搬入口が開く。斜めに噛み合うタイプの防御扉は、重い駆動音を響かせながらゆっくりと向こう側を晒していく。
―――そこには『白』が、いた。
白、真っ白。飾り気のない、無の色。眩しいほどの純白を纏ったISが、その装甲を解放して操縦者を待っていた。
「これが……」
「はい!織斑くんの専用IS『白式』です!』
真っ白のそれ。無機質なそれは、けれど俺を待っていたかのように見えた。そう、こうなることをずっと前から待っていたかのように。
「時間がない。フォーマットとフィッティングは実践で何とかしろ。いいな?」
エリスからもらったノートのお陰で千冬姉の言ってることがわかる。俺は『白式』に触れる。
「………………」
何だろうな、この感覚。こいつと初めて会った筈なのにどこか馴染んだ感じがする。それでいて理解できる。こいつが何なのか。
「背中を預けるようにしろ、そうだ、それでいい。後の事はシステムが勝手に最適化してくれる」
千冬姉の言葉通り、装甲を開いているIS―――白式に体を任せる。すると俺の体に合わせて装甲が閉じる。白式から俺へと情報が伝わってくる。
―――戦闘待機状態のISを感知。操縦者セシリア・オルコット。ISネーム『ブルー・ティアーズ』。戦闘タイプ中距離射撃型。特殊装備有り―――。
「どうやら正常に動いているらしいな。気分はどうだ、一夏」
淡々とした口調で話しかけてくる千冬姉。だが、口調は淡々としているがどことなく心配しているようにも感じられる。……本当に素直じゃないんだから。
「ああ、平気だよ。いけるよ、千冬姉」
「そうか」
ほっとしたような声。けれどそれは、ISのハイパーセンサーだからこそわかる事だった。
「………………」
俺の後ろで箒が何か言いたそうな表情が見えた。実際、俺は前を向いているがシステムのおかげで自分の周りが見えているから後ろを向く必要性がない。だから俺は前を向いたまま箒に告げる。
「箒」
「な、なんだ?」
「行ってくる」
「……ああ、行ってこい」
それ以上、箒は何か口にすることはなかった。最後にエリスの様子を確認すると案の定悲しそうな顔をしている。
「エリス」
「………………」
呼びかけるが返事が返ってこない。それでも言わないといけない。
「勝って帰ってくるから。だから、見ていてくれ」
「……………」
俺はそれだけエリスに言って対戦相手セシリア・オルコットが待ち受けている場所へと向かうのであった。
「……………」
本当は兄に行ってらっしゃいの一言だけでも言わなければいけないとは思う。けれど、私にはその一言がどうしても言えなかった。
(なんで?なんで、兄さんはISに乗るハメになってしまったの?)
きっと兄さんのことだ。空を飛べる感覚、戦うことが出来る力を得たこと。そして、何よりISの力でみんなのことが護れると思っているに違いない。
(そんなものを手に入ったって―――)
エリスは考えるのを止め、兄である一夏の試合に目を向けるのであった。
「あら、逃げずに来ましたのね」
セシリアはふふんと鼻を鳴らす。だが、そんな小馬鹿にされたことよりもセシリアの機体に関心が向いていた。
それは、鮮やかな青色で埋め尽くされていた。手には長大な銃器、レーザーライフルが握られている。
「最後のチャンスをあげますわ」
腰を当てた手を俺の方に、びっと人差し指を突きだした状態で向けてくる。左手の銃は余裕なのかまだ銃口が下がったままだ。
「チャンスって?」
「わたくしと貴方の力量差は明白ですわ。一方的な戦いなんて興醒めにしかなりませんわ。ですから、今この場で許しを請うのなら許して差し上げてもよろしくってよ」
その言葉を聞いた瞬間、頭の中で何かが切れた気がする。大体、許しを請うぐらいならこんなことなんてしていない。それよりも男がそう簡単に頭を下げるとでも思っているのか、コイツは。
「頭を下げるなら位なら戦って負けた方がよっぽどマシだと思うんだけどな」
「あら、そこまで申し上げるんでしたら―――」
―――警告。敵IS攻撃大勢を確認。銃口からエネルギーを装填確認。
「地面に這いつくばらせて差し上げますわ!!」
キュインッ!耳をつんざくような独特の音。それと同時に走った閃光が刹那、俺の体を掠める。
「うおっ!?」
いきなりの射撃に対応出来ず勢いで横に避ける。避けたものはいいが何か腑に落ちなかった。
あっちと違って俺はほとんど初心者みたいなもんだ。なら直撃をさせることも造作もないことなはずだ。
……まさか。
「お前……わざと」
外しやがったな。
「あら、よくお分かりになりましたわね」
くそ! 完全に舐められてる!!
「どうやらただの能無しというわけではないのですね。……いいですわ。わたくしを楽しませてくださいな!!」
上空からレーザーの雨が降り注ぐ。段雨の中を無我夢中で避けるものの肩やら腕にかする度にシールドエネルギーの残量が減っていく。
「さあ、踊りなさい。わたくしの奏でる円舞曲(ワルツ)の中を!」
反撃の余地を与えようとしないセシリア。その中で俺は白式の展開可能な装備を探し具現化するが……。
「―――って、ブレード一個だけかよ!?」
中距離型に対し相性が悪いブレード一本しか搭載されていなかった。
「どのみち俺はこれしか使えないんだけどな!」
銃を扱ったことなんてない。けれど、これは違う。幼い頃に手にしていたものと同じだ。最近ではずっとこれしか触ってなかったしな。
「中距離射撃型のわたくしに、たったブレード一本で挑もうとは……馬鹿にしていますの?」
「言ってろ!」
とにかくやるしかないのだ。ブレード一本だけなら無い成りに戦うだけだ。そして、激戦が始まった。
「……よく、頑張ったほうですわ。この、わたくしを相手にして」
「はぁ……はぁ……ま、まだ、負けてないぜ」
あれからどれくらい時間が経ったのだろう。さっきまで大口を叩いていたのにも関わらずこの様だ。俺の中で悔しさが込み上げてくる。
「では、褒美として―――勇ましく負かして上げましょう」
「……へっ」
そんな褒美なんていらねぇよ。セシリアは笑みと共に右腕を横にかざす。すぐさま、命令を受けた特殊装備『ブルー・ティアーズ』、四機がそれぞれ指示された配置に付こうとする。 だが、セシリアは知らない。俺がこの瞬間を待ち望んでいたことを―――。
「うらあぁぁぁぁっ!!」
「なあっ!?」
俺はセシリアが指示した一機に目掛けてブレードを振り落とす。斬られた『ブルー・ティアーズ』は派手な爆発音を鳴らし機材が弾ける。
セシリアは一夏の行動に驚きを隠せなかった。何故、自分の手の内が読まれたのだと。
「お前……俺が何も出来ないと思ったのか?」
「あら、違いましたの?」
強がって見せるセシリアに一夏はブレードの切っ先を相手に向ける。
「……あれ、お前が毎回命令しないと動かない。それに動かしている間、それ以外の攻撃ができない。……違うか?」
「………………」
ひくひくとセシリアの頬が引きつっているのが見える。どうやら図星のようだ。操作も慣れてきたことだし、あとは残りのビットを一機ずつ落としていけば勝てる。そう勝利を確信した俺は再びブレードを強く握る。
(これならいける!!)
そして、敵に向かって突撃するのであった。
「……ちっ、あの馬鹿者」
「ど、どうしたんですか? 織斑先生?」
山田真耶は隣で弟に対し舌打ちをしている千冬に疑問をかける。その問いに対し千冬は忌々しげな顔で答える。
「見ろ、あいつの左手が閉じたり開いたりしているだろう」
「確かに……それがどうしたんですか?」
「あいつがあれをするときは浮かれている証拠だ。昔からの癖であれをするときは大抵簡単なことでも失敗する」
「へえぇぇ……よく見ていますね。さすがご姉弟ですねー」
その言葉に千冬は頬を赤く染めるが平然を装う。
「……まあな」
「あれ、照れてます? 顔が赤いですよー?」
「………………」
ギリギリッ!!
千冬は真耶の足元を靴で踏みつける。
「あいたたたたたたっっ!!?」
「うるさいぞ。今、試合中だ。教師として騒ぐとは何事だ」
「い、痛い。地味に痛いです!!そう言うなら止めてくださいよ!?」
「はて……なんのことだ?」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ真耶を知らん振りする千冬。そんな様子に気にもかけないで、ずっとモニターに映っている人物を見ているのは箒とエリスだった。エリスは兄の試合を見ていて思うことがあった。
(……兄さんが笑ってる)
兄が何に対して笑っているのかが分からない。空を飛べること。力を手にしたから。或いは両方なのかもしれない。どちらにしても私には理解し難いものだ。
私は仕方なく通っているに過ぎない。力を得るために。知識を学ぶために。でなければ『あいつ』の事を殺すことが出来ない。そう―――何が何でも『あいつ』を殺さなければ。
エリスがそんなことを思っていると試合は大きく動いた。
「―――くっ!!」
(油断しましたわ。流石はブリュンヒルデの弟ではありますわね)
セシリアは内心、一夏に対する評価が変わろうとしていた。自分でさえ動かすのに相当苦労してきたと言うのに、目の前の男は僅か三十分足らずで操っていることに少し羨ましく思うのであった。
(ですが……貴方には決定的な差が私たちの中でありますわ)
そう、一夏とセシリアとの間には決定的な差があった。それは実践における経験。セシリアは代表候補生になるために血の滲むような努力をしたのに対し一夏は今日、初めて動かすのだ。つまり、セシリアはこの状況は予想通りであると言うこと。
(わたくしの『切り札』はまだ見せてなくってよ!)
最後のビットを破壊され、こちらに向かってくる一夏。その表情は勝利を確信した顔であった。思わず顔をにやけてしまう。すると、一夏は急に顔を青ざめる。だが―――もう遅い。
「おあいにく様、ブルー・ティアーズは六機あってよ!」
腰部に広がるスカート状のアーマーの突起が外れて動き出す。レーザー射撃を行うビットではない。今、攻撃したのは『弾道型(ミサイル)』だ。刹那、一夏の体は白い閃光に包まれた。
「………………」
終わり……ましたの? 『弾道型』に当たった一夏を確認するため、セシリアは煙が晴れるのを待っていた。まだかすかに漂っていた煙が、弾けるように吹き飛ばされる。
「な、なんですの!?」
その中心には吹き飛ばしたはずの純白の機体が浮いていた。最初の工業的な凹凸は消え、滑らかな曲線とシャープなラインが特徴的などこか中世の鎧を思わせるデザインへと変わり果てていた。
「ま、まさか……一次移行!? あ、あなた、今まで初期設定だけの機体で戦っていたって言うの!?」
セシリアは叫ばずにはいられなかった。まさか、戦っている相手が今まで初期設定だとは思いもしなかったのだ。一夏はセシリアの叫び声が聞こえていないのか新しく生まれ変わったブレード『雪片弐型』を構え呟く。
「……ああ、俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」
「あ、あの……あなたは一体何を言って―――」
「俺も、俺の家族を守ってみせる」
「ですから、話を聞いていま―――」
話についていけないセシリアに気づいていないのか一夏は『雪片弐型』を構え向かってくる。
「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
「くっ―――!!」
セシリアは再装填したビットを飛ばし、瞬時に命令を下す。命令を受けたビットは一夏に向かって飛んでいく。一夏は『雪片弐型』を横一閃、振るだけでその場で爆ぜる。
「う、そ……ですわよね」
目の前の事実を受け止めきれないセシリア。呆然としている合間に一夏はセシリアとの距離を零距離まで近づき、高密度の刀身を上段から下段へと振り下ろそうとしていた。
「これで―――終わりだああぁぁぁぁ!!」
(―――負けるっ!?)
そう思ったが刹那、終了のブザーが鳴り響く。
『試合終了。勝者―――セシリア・オルコット』
「……あら?」
何事だろうと一夏の顔を見ると当の本人も唖然とした顔をしていた。まるで、何で自分が負けたんだろうという顔を。
こうして訳の分からないまま、試合が終了するのであった。