The music of mind for twintail .   作:紅鮭

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 みんな、ツインテールって知っているか?

 女子の髪型の一つでその名称が定着したのは1980年代とごく最近なんだぜ。
 それ以前は「おさげ」「二つ結い」というネーミングが主流だったが、とある同人作家が光の巨人と戦った怪獣の名前から付けたことが始まりとされている。

 え?オレ様は10年くらい前はポニーテール萌えじゃなかったかって?
 さ~て、何のことやら。


1章/運命のツインテール
プロローグ/テナー・オランジュス


【輝見市繁華街】

 

 

 

 丈の長い漆黒のロングコート、フード付きのケープを目深く被り、インナーは血のように赤いタンクトップ、黒のショートパンツ、レザー製のフィンガーレスグローブ、編み上げブーツのヒールをカッカッと鳴らし、長身の女性は人混みの中を闊歩する。

 目深くかぶったフード、そこにある二つの穴から出た二束の深紅色の髪の毛が風になびく。

 

 肩が触れ合う程に混雑した街。

 それでも群衆は誰一人として足を止めようとはしない。

 こんなに近くにいながらも、誰も行き交う他人の顔など見ていない。

 きっと障害物と同じなのだ。

 道行く人はその女性に気付いていないみたいにその横を通り過ぎていく。

 いや、気付いてはいるのだが気にも止めていないのだろう。

 普通あんな、異様に真っ黒な衣装を身に纏っていれば振り返る者もいるはずなのに。

 それは溶け込むと言うよりも、むしろ一人だけ存在する世界がずれているようでもある。

 そんな中その彼女に声がかけられる。

 

『おーい、妙なのが…──あ、もう気付いてるか』

「……そろそろ、聞き出すか」

 

 周囲に気配すらないというのに、彼女は淡々と何者かと言葉を交わしていた。

 その『声の主』は彼女が尾行されていることに気付いたのだろう。

 しかし教える必要はなかった。

 すでに彼女はその尾行者にいち早く気付き、地下鉄の駅へと入っていく。

 その尾行者の男も慌てて地下鉄へと入っていく。

 ワザと追いつくスピードで地下鉄の人気のない場所に誘い込む。

 ターゲットを見失い辺りを見回していると壁の死角に隠れていた彼女が尾行者である男の袖を引っ張り、胸ぐらを締め上げる。

 

「女の後を付けるのはスリか痴漢か…──とりあえず、貴様は何者だ?」

 

 見た目が華奢な女の力とは思えない万力のような握力、大の男を軽々と持ち上げるその腕力。

 尾行していた男は僅かに恐怖を掻き立てられながらも弁明する。

 

「あ、怪しい者じゃない……」

「十分に怪しいぞ。公僕の厄介になるか?」

 

 眉間にしわを寄せ、締め上げる力に一層力が入る。

 すると男は懐から一枚の名刺を取り出す。

 

「き、君。タレントに興味ない?凄く魅力的だよ」

 

 そこに書いてあったのは、

 

「…芸能プロダクション?」

 

 怪訝そうな顔をして、名刺を読む。

 

『テナー、どうやら勘違いだったみてぇだな』

「そのようだな」

 

 どうやらこの男はただのスカウトマンみたいで、取り越し苦労に終わったようだ。

 

「生憎私は忙しい身だ。暇な人間を当たるが()い」

 

 男を開放すると彼女──テナーは歯牙にもかけずスタスタと行ってしまった。

 

「お、おーい!待ってよ、君!スターになりたくないのかーっ!?モデルやアイドルも夢じゃないよーっ!!」

 

 後ろからスカウトマンの声が掛かってくるが、一向に構わず地下鉄からでる。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「時間を無駄にしたな」

『ハハッ。まぁ、テナーはスゲー美人だからなぁ。気持ちも分からなく無い』

「それにしてもこのケープは私の事を目立たせなくする魔道具(・・・)なのだが、何故あの男に効かなかったのだ?」

 

 テナーの羽織っているケープは人間の目に留まりにくくする効力を持つ。

 そう人間(・・)の目には──

 だから先ほどの男を怪しいと睨んだのだ。

 

『さっきの喫茶店でケープを外した事が原因だな』

「……あの店で目をつけられたのか。いかんともしがたい道具だ」

 

 あのケープを装着したままでは店員からも目を外され、注文もロクに取れないからしかたなかったのだ。

 

「そんな事より、どうだ?」

『ん~、近い事は近い事は確かなんだけどな~。何て言うんだろうか…』

「どうした?お前らしくない。もっと明確に答えろ」

 

 答えを渋らせるその声にテナーは苛立つ。

 

『まるで見えない力に妨害されてるみたいな、フィルターをかけられている様な──』

「妨害?ジャミングのようなものか?」

『いや、ジャミング…なのか?──けどよ。オレ様の感知精度はお前様のお墨付きのハズだ。それを妨害できるとなると──』

「──只者ではないということか」

 

 テナーと声の主に緊張が走る。

 

「まあいい。ここいらに人間とは違う者が紛れているのは確かだ。そいつを見つけて確保する」

 

 

 そう言うとテナーは再び歩みを始める。

 

 

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 とっぷりと日が暮れて深夜、テナーはまだ街を彷徨っていた。

 目的も行く当てもなく、ただ歩き続ける。

 徐々に郊外に向かっているのか、人影はまばら、街灯の光を浴び、住宅街を闊歩する。

 人混みも辟易して向こうに雑木林が見えてきた。

 

『テナー、あっちの方から何かいやーな気配がするぜ』

「そうか──ん?」

 

 しばらく歩いていると、遠くに10代中頃のメガネを掛けた男が雑木林へと入って行くのが見えた。

 

「今の男……」

『こんな夜更けに人気のない雑木林に…──怪しいな』

 

 一人歩くテナーはその少年に狙いをつける。

 

「確かめてみるか」

 

 言い終わるより早く、テナーのコートがはためき、夜の雑木林に吸い込まれるように溶けていく。




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