The music of mind for twintail .   作:紅鮭

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 現代の楽譜・五線譜が今の形になったのは17世紀後半、音楽の父・バッハが生まれた頃である。
 それまでの楽譜は文や数字、記号、弦楽器においては演奏の指使い、弾く強さ、押さえる場所などが細かく記載されていた。
 ちなみに現存する最古の楽譜はなんと紀元前800年頃の古代バビロニアのもので、この楽譜は未だ解明できていない。

 英雄の王様は一体どんな音楽を聞いていたんだろうな~?


プロローグ/紅 響輔

 僕の名前は紅 響輔。

 

 この春から陽月学園入学予定の15歳。

 メガネがなければとても生活できないほど視力は悪い。

 それだけを除けばどこにでもいる普通の男子。

 

 ──と、言いたいところだったが、どうやら僕は普通ではないらしい。

 物ごころついた頃から『人の心が音楽となって聴こえ、五線譜と音符が人の周囲を取り巻くのを視認できる』変わった体質なのである。

 音楽と言っても人の本心が読める妖怪の様な能力ではない。

 その人の内心に抱く感情───愉快、憤怒、悲壮、恐怖、憎悪、信頼、感謝、恋慕、軽蔑、嫌悪、悔恨、尊敬、敬愛、期待、心配など感情の種類、起伏の大きさによって音楽の音量、音程、音階、音高が大きく異なるを感じる程度。

 何故僕にはこんな力があるのか、それは僕にも分からない。

 その力は空気を読むことに関しては便利かもしれないけど、正直あまり役に立ってない。

 他人にこんな力があるなんて自慢出来る訳がない。馬鹿にされるか、「正気か?」と心配されるか、軽く受け流されるのどれかである。

 もちろん、たった一人の家族である母さんにもこの事は秘密である。

中学卒業後、母さんの仕事の都合でこの街「輝見市」に引っ越してきた。明日から陽月学園へ入学する事になっている。花の高校デビュー。新しく購入した学園の制服、筆記用具、教科書、ワクワク気分が止まらない。

 ──と普通はなるのだが、残念ながら僕にはそうは思えない。

 この能力(ちから)のお陰で僕は人付き合いがすごく苦手だ。

 人の心が奏でる音楽は心地よい時もあれば、内心ひどく不愉快な音楽を奏でている時もあり、その人の音楽に嫌悪感を抱いてしまったり、心を覗いてしまったことに罪悪感を覚えてしまったり、その為本音で話せる友達もいなかった。

 

「よし、明日の準備完了。…って言っても、始業式とHRで終わるんだけどね」

 

 でも高校生活、対人関係が全てじゃない。

 何か楽しい事がある。

 さて、明日は早いのだからさっさと寝てしまおう。

 そう自分に言い聞かせ、すでに風呂に入って寝間着姿になっている僕はメガネを外して布団にもぐりこんだ。

 

 その時である。

 

 

 

~~♪!! ~~♪♪♪♪!!! ~~♪!!

 

 

 

「ッ!!!何だ!?」

 

 聴いたことないような重低音が頭の中に入ってきた。

 聴いているだけで頭の中身が掻き回わされてるみたいにひどく不愉快な音楽だ。

 この家には一階で眠っているはずの僕の母さんがいるだけ。

 だけど、これは母さんの音楽じゃない。

 この家にいない誰か。

 泥棒でも入ったかと思ったがそれはない。誰かがこの家に近づけばだんだんと音は大きくなり、必ず僕が察知する。

 だが、これはまるで再生ボタンを押したみたいに突如として頭の中に響いてきたからだ。

 それにここまで不快な音楽、聴いたことがない。

 僕は気になり、着替えてこっそりと家を抜け出した。

 この音楽の正体を確かめるために。

 

 

 

 

□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 

 本能というのか?

 そこにたどり着いたのは殆ど思考などない。

 自分の能力を頼りに進んで行き、ある雑木林にたどり着いた。

 雑木林の中から五線譜に乗った音符が視認できた。

 間違いなくこの雑木林のどこかにこの不快な音楽を奏でる音源がある。

 響輔は意を決して雑木林の中へ入っていく。

 しばらく進んでいくもこれといって不審な人影はいない。

 だが、音楽は確かにこの辺から聞こえる。

 ほんの興味本位で入ってしまったが故に、睡眠時間を割いてしまった事に少しばかり後悔を感じて引き返そうとしたその時──

 

「おい」

「うおぁ!?」

 

 声が後ろから声がかかる。

 突然のことで驚き、響輔は即座に振り向く。

 変な声も出してしまった。

 そこにいたのは黒いコートにフード付きのケープを目深くかぶった長身の人物。

 背は高いが、細身の体格と声からして恐らく女性だと思う。その女性の顔はフードに覆われて表情を窺うことは出来なかったが、纏う鋭い雰囲気が否応にも響輔の目を引きつけた。フードに隠された視線は正面ではなく、もっと先にある何かを見据えている。

 そんな風にも感じられた。

 

 そして、その女性の心から奏でる音楽は不安と高揚を同時に掻きたてられるような音色だった。

 意志の強さを感じさせる、 異様に研ぎ澄まされた突き刺さるような音楽。

 その音色に響輔は思わず心奪われていた。

 

「な、何でしょうか?」

 

 響輔は萎縮しながら尋ねるもそれを掻き消すように女性が口を開く。

 

「貴様は何者だ?」

「へ?あのぉ…」

 

 自分の正体を尋ねてきた相手に『それはこっちのセリフだよ。』と響輔は内心ツッコむ。

 

「こんな夜分遅く、この雑木林に何の用だ?」

「えっと…その〜…音楽が聞こえまして…」

「音楽?」

 

 しばらく、女性は響輔の事をまじまじと品定めするみたいに見ていたが、興味を失ったかのように視線を逸らす。

 

「フンッ…どうやら、また見当違いのようだな」

「なっ!?」

 

 勝手に呼び止められたのに、その冷めた態度に腹が立ち声を掛けようとしたその時、

 

 

~♪♪♪

「っ!?」

 

 

 再び音楽が聞こえた。

 その先からは(かすみ)がかった五線譜がなびいている。

 響輔はその五線譜の先を目で追っていく。

 一方、響輔を見ていた女性も響輔が何かを察知したのに気が付いたのか再び響輔に声をかける。

 

「おい、どうし──…」

「危ない!!」

「ッ!!?」

 

 響輔は女性を庇うみたいに押し倒す。

 突然の事態で何が何だか理解出来なかった女性は響輔に押し倒され、地面を転がる。

 それと同時に響輔が立っていたすぐ後ろの樹木に鞭が当たったとような空裂音が響いたかと思えば、その樹木がなぎ倒された。

 

「なっ…」

「アレレェ……?あれぇ?外しちまったかぁ?」

 

 聞いているだけで嫌悪感を抱く、その声は響輔達を挟んで倒れた木の反対側の方から聞こえてきた。

 

「何者だ!!」

「ッヒッヒッヒッヒ。中々上物のツインテールじゃねぇかぁーあ。冷や汗すらかいてねぇのが不満だけどなぁ。手土産にはちょうどいいかなぁ?」

「な、何だよ。あいつ…」

 

 それは──怪人だった。

 それしか形容しようのない。

 茶色に相撲取りみたくでっぷりとしたふくよかな体。

 大きな頭には財布のように真横まで裂けた大きな口と鋭く凶暴な赤い双眸。

 聞いているだけで不快になりそうなガラガラ声。

 特撮などの敵役に出てくる様なヒキガエルの怪人だった。

 舌なめずりをしてこちらに狙いを定めていた事は明白だった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 その時女性──テナーは怪人の正体も気になったが、目の前の少年にある疑問を抱いて、思考を巡らせていた。

 

 ──いくら目の前の小僧に気を取られてたといえ、この私がこれ程の距離まで敵が背後に潜んでいる事に気付けなかっただと!?

 

「───馬鹿か、私は…」

 

 自分のあり得ない失態に腹が立ち、呟く。

 だが、それ以上に疑問に思う事がある。

 いくら私といえど常に周囲への警戒は怠らないはずだ。

 なのにこの男、私よりも一瞬早く、あの怪人に気付いた。

 ただのアントローポスなはずなのに、この小僧──何者だ?

 いや、そんな事より今は目の前の怪人だ。

 

「小僧、逃げろ…」

 

 テナーは立ち上がるや否や、傲慢ながらも響輔を逃がそうと下がらせる。

 

「え、いやでも…」

「いいから逃げろ!!」

「ハッ、ハイッ!!」

 

 正体不明の怪人相手にたった一人で立ち向かおうとしているテナーを響輔は放っておくことができなかった。

 しかしテナーは有無を言わさない大きな声で怒鳴りつけ、響輔は思わず竦んで後ろの木の影へと隠れる。

 それを横目で見届けた後、ヒキガエルの怪人へ向き直る。

 

「私の知る限り、貴様の様な珍妙な生物を見るのは初めてだ。とりあえず訊いておく──貴様は何だ?真っ当な生物ではない事は承知済みだが、意思疎通できるならば答えろ」

「俺様が誰かだって!?俺様はアルティメギルの偵察員トードギルディ様だ」

 

 テナーの問いに偵察員とは思えないくらいに堂々と構え答える。

 

「アルティメギル?何処ぞの誰かは知らぬが、わざわざ律儀に姿を現わすとは──偵察員に似合わぬ大した覚悟だ。ならば、こちらは相応な力で応えてやろう」

「到着早々ついてるぜ!偵察みたいな雑用あんま乗り気じゃなかったけどよ。こりゃあ、かなりの上玉だ!!まずはお前のツインテールこちらに寄越してもらおうかなぁ?」

 

 ヒキガエルの怪人──トードギルディはのったりとした動きから一転、口と思わしき部分から長い舌を一瞬の内に伸ばして、テナーを捕らえようとしてきた。

 しかしテナーはそれを紙一重で交わし、トードギルディ目掛けて跳んだ。

 

「どうやらただの蝦蟇畜生か。まともな会話は無駄なようだ──フッ!!」

「ウゲッ!!?」

 

 一瞬の内に距離を縮め、トードギルディの頸椎へローリングソバットを叩き込む。

 その巨体が宙を舞い、地面へと叩きつけられた。

 

「この野郎!痛えぇじゃねぇか!!」

 

 トードギルディは逆上して拳を振るうも、テナーはそれを屈んでやり過ごし、背後に回り込んで振り向きざまにハイキックを食らわせる。

 そして間髪いれずに腹に猛烈なフック、ストレート、エルボーなど流れる様に拳を叩き込み、トードギルディを圧倒する。

 

「鎧を着るまでもないな」

「グヘェ…!アギッ!!オゴォ!!」

 

 トードギルディは殴られた箇所を押さえて距離を取る。

 

「(な、なんだぁ!?この人間。いやそもそも人間なのか、こいつ!?俺らエレメリアン相手に素手で戦うなんてよぉ…これじゃまるで──)」

 

 初めはただの人間の女だと思い油断したが、この戦闘能力から考えを改める必要があると判断したトードギルディは身構え、戦闘態勢に入る。

 グパァと、トードギルディはまた口を開き、舌を弾丸の如く射出した。

 

「む!?」

 

 先程の捕えようとする様な動きでは無く、銃弾みたいに確実に仕留める為の攻撃。

 まさに『舌弾(ぜつだん)

 しかし正面からの攻撃もあってテナーは咄嗟に躱した。

 

「グッ!!」

 

 しかし、右上腕部をわずかに掠ってしまったらしく、苦悶の声を漏らす。だが、テナーは痛みを覚える右腕の傷を一瞥した後、トードギルディに再び視線を向けると視界がぼやけた。

 

「ぐっ…これは!?」

『テナー、どうした?』

 

 

 まるで高熱に冒されたみたいに気分が悪い。

 トードギルディはお返しとばかりにテナーに反撃を開始した。

 テナーは腕で顔を覆いガードする

 

「ハッハハハハ、動けねぇだろ?」

『おい!テナー‼︎』

 

 空烈音を響かせ、テナーをいたぶっていく。

 だが、テナーも何時までも防戦一方でいる訳ではない。

 

「こうなったらキバット!鎧だ」

『よっしゃあ!キバって──』

 

 意を決したテナーはもう一人の声の主・キバットに呼びかける。

 声の主はテナーの元へ舞い降りようとした。

 しかし──

 

『ぐあっ!?』

 

 しかし不運にもトードギルディの舌が当たってしまった。

 

「アレレ?なんか当たったかぁ?」

 

 トードギルディもそれが見えていなかったのか、意外といった反応をした。

 

「キバット!?」

「キエエエェ!!」

 

 テナーがキバットの身を案じる。それでも尚、トードギルディはテナー目掛けて舌弾(ぜつだん)を放つ。

 

「くっ!!(──油断し過ぎたか…)」

 

 舌弾に打ちのめされながら、何とか今の状況を打開しようと思考を巡らせる。

 しかし次の瞬間、目の前に第三者が割り込んできた。

 

「なっ!?」

 

 それは先程逃した少年──響輔だった。

 響輔は両手を広げてテナーをつき飛ばし、我が身を盾として彼女を守った。

 

 

 そして、その舌弾は無情にも響輔の腹部を貫通した。

 

「ぐふっ!!」

「──小僧っ!!」

「なっ…何だテメェ!!」

 

 テナーは今一瞬何が起きたか理解できなかったが、自分を庇い、腹部を貫かれた響輔を再度認識すると声を張り上げた。

 致命傷を負いながら響輔は最後の力を振り絞って、トードギルディの舌を掴む。

 トードギルディの動きが一瞬止まった事を確認するとテナーは渾身の攻撃に移る。

 バチバチッと雷のような黒いエネルギーの奔流がテナーの手の平に収束されたかと思うと、泥のような黒い流動系の物体となり、クレイアニメみたいに形作られる。

 

影創造(シャドウ・クラフト)──黒刃刀(ブラック・ナイフ)

 

 湾曲した脇差程の長さの漆黒の刀身、柄は無く、刀身に空いた楕円形の穴の縁が持ち手となった三日月型短剣──黒刃刀(ブラック・ナイフ)を形成。

 トードギルディ目掛けて投擲した。

 それは一直線に飛び、標的へ突き刺さる。

 

「グギャアアァッ!!」

 

 左目を貫かれてたトードギルディはその場で悶絶した。トードギルディは黒刃刀(ブラック・ナイフ)を引き抜くと負傷した左目を押さえながらも空間を切り裂き、虹色に輝く鏡面みたいなゲートを開いた。

 

「き、今日はこの辺にしといてやる!顔覚えたからなぁテメェ!!」

 

 と、チンピラのような捨て台詞を吐き、虹色に輝くその中へと飛び込んで行った。

 

「明日、俺らの作戦が開始するぜぇ!その時には目にものを見せてやる!!」

 

 空間が閉じるまでトードギルディの遠吠えが雑木林の中へと木霊した。

 

「退却したか」

『みたいだな』

「あの小僧は?」

 

 あのトードギルディの事も気になるが先程自分を庇った響輔を見る。

 腹は滅茶苦茶にかっ(さば)かれ既に事切れていた。

 

「死んだか。可哀想にな」

 

 心配する訳でもなくただの状況確認として呟く。

 滴る血液を味見するみたいにそっと指で取り舐める。

 

「ッッ‼︎?」

 

 しかしその血を舐めた瞬間、テナーの目が驚愕に見開かれた。

 

「そんな!!まさか…──」

『どうした?テナー』

 

 普段のテナーには考えられないその動揺ぶりに声のその声も戸惑いを隠せない。

 

「この男を助ける」

『ハァ!?正気か!オレらは任務の最中だぞ。何だってんだ!?』

 

 急に顔色を変えたテナーに声を掛けたソレはテナーの急な対処に驚いたが、テナーは構わず命令を下す。

 

「ひとまず、この男を連れてキャッスルドランへ帰城する。マルシルとヴェディを呼べ!!」

『……へいへい、わかりましたよ』

 

 声の主は渋々その命令に従った。

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