The music of mind for twintail .   作:紅鮭

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 吸血鬼の嫌いなものは、日光、十字架、流水、聖水、鏡、心臓への杭、銀の弾丸。
 不老不死という割には吸血鬼には弱点が多い。
 特に周知の弱点といえば──ニンニク。

 何故ニンニクが苦手なのだろうか?
 中世のヨーロッパには火葬はなく。死んだ人間が吸血鬼とならないために死者の口や棺桶にニンニクを詰めたり、吸血鬼が入ってこないために部屋の外や窓際、首にニンニクをぶら下げておくといった(まじな)いがあった。
 吸血鬼の元とも言われている蝙蝠などは不潔で病原菌を運ぶ動物でもある。
 ニンニクには強い抗菌作用があり、そのため『病原菌を退治する=悪いモノを寄せ付けない』に繋がったとされている。


 オレ様はニンニクは平気だぜ。特にニンニクとオリーブオイルたっぷりのペペロンチーノ最高。麺はアルデンテでおねがいします。


オーディエンス/異邦の世界からの邂逅

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 そこで響輔は目を覚ました。

 見知らぬ天井だった。

 

「ここは…」

 

 辺りを見回すもそこは見慣れぬ場所──薄暗く、無駄に広い木造の部屋。

 素人の響輔から見ても豪華と言わしめるような赤い天蓋付きのベッド。

 

「どこなんだここは?」

 

 ベッドから起き上がろと上半身を起こしたその時何か違和感を感じた。

 

「って!何で僕、裸なんだよ!!」

 

 違和感を感じて下を向いてシーツをめくると、一糸纏わぬ自分の裸体がそこにはあった。

 それをを見た瞬間、思わず叫んでしまった。

 なんだこれ?

 生まれてこの方女性に縁の無い自分がまさかの既成事実!?いや、本当に縁がないんだよ。

 ラノベでよくあるような可愛い姉妹や幼馴染、クラスメートもいないのに…!?ふざけんなよな!!記憶も相手もまっったく見当つかないじゃん。

 ええと、確か高校の入学式の後、マクシーム宙果でトカゲの怪人が現れて、ツインテールを我が物にするとか何とか言って、それから…

 

『ようやく目覚めたか…』

「!?」

 

 突然、誰かの声が頭の中に響いてきた。耳から伝わって来たのではない。頭の中で反響してきたとしか思えないほど鮮明に響いてきたのだ。

 

『説明しようという矢先に我が城で熟睡とは随分厚顔な小僧だな』

「誰!?」

 

 辺りを見回したが見晴らしのいいがらんどうな部屋には自分以外の人間はいない。僕の能力にもこんな事態は初めてだ。空耳かと思いかけたが、また声が聞こえてくる。

 

『姿見の前まで来い』

 

 感情を見せないその声に戸惑いを覚えながら、ベッドから立ち上がり、壁に張り付いた姿見の前まで来た。

 そこには当然、見慣れた自分の裸体が映し出されている。

 

「お!何だ何だ?目が覚めたのか?」

 

 と、響輔のすぐ横から剽軽そうな声が聞こえてきた。

 

「うわっ!!」

 

 響輔は再び驚くことになる。

 その声の主は人間ではなかった。

 手の平に収まりそうな鳩くらいの大きさで、赤い爛々とした大きな目に鋭い牙を生やし大きく裂けた口、顔から直接羽や足が生えている。

 まさに『蝙蝠の顔が宙に浮いている』そう体現したような生物だったからだ。

 

「お前はどうだ?起きてるか?」

 

 その謎生物は響輔に向かって話かけてきた。

 起きているかなんてそんなの見れば分かるじゃん。と、響輔は内心不思議に思っていると。

 

「もうすでに起きている。どう切り出せば()いか考えていただけだ。────っっ!!?」

 

 自分の口が勝手に動いた!?

 

(くれない) 響輔(きょうすけ)

 

 なんで僕の名前を…!?

 

『貴様のことは概ね把握させてもらった』

 

「誰!?一体、どこにいるんだ…!?」

 

 見えない相手が自分の頭の中から声を発しているというのは不気味なもので辺りを見回し、声を張り上げる。

 

どこにいる(・・・・・)とは…。異な事をいうな、お前は』

 

 そこから発せられた言葉はなんとも古風で非常に流麗かつ格調高い言葉だった。

 そして上から目線で可笑しそうに言葉を返す声にだんだん腹が立ってきた。

 

「きっ、君は一体何者なんだ!?」

『そうだな。まずは見てもらう方が早いか。もう一度姿見を見ろ』

「?」

 

 すると姿見に映っていた僕の身体は幻の様に消え、代わり別の姿がその姿見に映された。

 それは全裸のツインテールのお姉さん(・・・・・・・・・・・・・・)だった。

 

 

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『なっ!えっ!?』

「驚いたか?」

 

 ええ、驚いた。いろいろと。

 しかしまず…その女性は一言で言って──

 

 

──美しかった。

 

 

 俗な言い方をしてしまったが、ただその一言に尽きる。

 特に今にも香り立ちそうなワインレッドの髪を左右に束ねるツインテールに目がいった。

 房は背中を超えて腰に差し掛かる長さ。

 房同士の中央にあるツインテール独特の分け目は頭頂から項にかけてさながら獣の歯並びみたいに鋭角にジグザグ、鎖で繋がれた枷を象る金属の髪留めで左右の房を結っており、分け目の口を閉ざしているみたいだった。

 一方、房の方は一目見てそれはまるで日本刀の業物が如し、枝毛など一切ないが故に鋭く、癖っ毛すらないが故に地に向かって直線を描き、髪を取り巻くキューティクルが美しい輝きを放っていた。

 いままでツインテールを結いた女性は皆総じて『可愛い』という印象だった。

 だが、目の前の女性は整った目鼻立ちの美貌に加えて、細くて長い腕に指、見事な脚線美から生み出される長身。

 長い睫毛に深く澄んだ瞳と眼差しは見るもの全てを虜にしてしまいそうな艶麗さと射殺す様な鋭き眼光が宿っており、薄い桜の花弁ような艶かしい唇の口内から覗く歯は汚れを知らないみたいな純白、異様に長い犬歯は刃物のように鋭く、まるで吸血鬼を彷彿させた。

 落ち着いた大人の雰囲気、そしてどことなく人を惹きつけるカリスマ性を覗かせた威風堂々たる風格をちらほら醸し出しており、美しいと思わない部位がない位にただ美しい女性だった。

 それらが直線的なツインテールと見事にマッチし、思わず平伏せざるをえない正に『女王』のような気品溢れる女性だった。

 

「どうした?さっきから呆けて……」

 

 彼女は呆けていた響輔に語りかけてきた。

 

「そりゃあ、テナー様。思春期の男の子が一糸纏わぬテナー様の裸体を目の当たりにされちゃあ…──まぁ、見惚れるのも無理もないケドねぇ」

 

 ニヨニヨとからかうみたいに言う蝙蝠モドキ。

 余程彼女のプロポーションに自信があるのだろうが、からかう反面致し方ないという声色も含まれていた。

 まぁ、ただ立って腰に手を当てているそれだけで絵になる芸術的で見事な裸体なのだが、僕の場合彼女のツインテールにまず目が行った。

 

『ああ…いや、素敵なツインテールだなって…思いまして』

 

 それを聞いて彼女は一瞬キョトンと虚を突かれた様な表情になったかと思えば、

 

「あれぇ?まずそっちが気になる系?」

「ほぅ、このツインテールにまず目が行くのか…」

 

 裸よりもツインテールの事を褒められて得意げにツインテールの房をかき上げる彼女に、少し拍子抜けなキバット。

 

『って!そうじゃなくて!!あんたら、一体何者なんだ!!?』

「自己紹介が遅れた。私の名はテナー・オランジュス。ダイモーンのファンガイア族であり、チェックメイトファイブのクィーンだ」

 

 思い出したように混乱する響輔。

 しかし彼女──テナーは専門用語のみの紹介をしただけであり、響輔を余計に混乱させた。

 

『え??──…だいもーん??ふぁんがいあ??』

「ひと月ほど前、私はある指令を受け…──」

「おいおいテナー、お前の話はちょっと急すぎる。アントローポスはオレたちの世界やこの世界の仕組みすら理解できてないんだぞ」

 

 近くを飛んでいた蝙蝠モドキが割って入ってきた。

 

「お前は少し説明下手だからな。オレが説明する──と、その前に服を着てチェーンジ!ハーリー・アップ!」

 

 いつの間にか用意された僕の服を着て、テナーと響輔が入れ替わり、表に出る。

 入れ替わった事を確認するとキバットは口を開く。

 

「よし!え~と…紅…響輔って言ったっけ?オレ様はキバット・バット三世伯爵。まあ、率直に分かりやすく言ってオレたちはこことは違う世界からやってきた」

「…違う世界?」

「そう、お前ら人間(アントローポス)が住むこちらの世界を『ヘリオス』、オレたち魔の者(ダイモーン)の住む世界を『セレーネ』っていうんだぜ。オレたちはある任務のためここ──ヘリオスへとやって来たんだ」

 

 違う世界となるとやはり思いつくのが漫画やアニメによく登場してくるパラレルワールド──響輔はこことは違う全く別次元の世界を想像した。

 

「漫画やアニメみたいなのによくある異世界ってやつ?」

「お!何だよ。分かってんじゃん!概ねその通りだ」

「分かってんじゃん、じゃない!!信じられないよ!そんなバカみたいな妄言!!」

 

 キバットがお気楽そうに説明する手間が省けたと喜ぶのも、僕はキレ気味に怒鳴り返した。

 

『妄言ではない。お前ら人間(アントローポス)はその次元を観測する術を持っていないだけだ。先の怪人どもを見ただろ?』

「さっきの怪人?」

 

 響輔は思い出す。

 マクシーム宙果で暴れていたトカゲの怪人にヒキガエルの怪人。

 あれは確かに現実だった。

 

『あのアルティメギルと名乗っていた謎の生物は間違いなく異次元の存在だ。あのような生物、このセレーネでもヘリオスでも発見された記録がない。さらに彼奴らの出現に伴い次元震も確認した』

「サイコロの面みたいなもんだ。世界っていうのは次元の壁を挟んで複数の世界が存在している。あの怪人達も俺たちの発見していない未知の異次元世界からやってきたんだろうな」

 

 説明を聞いてもいまだに信じられない。

 

「ま、そのことについては後で詳しく説明しといてやるとして、オレ達の世界――セレーネの世界で次元の歪み、次元震を観測してな。ひと月ほど前はこちら側の世界──ヘリオスにやって来てある調査していたってこった」

「調査?」

「で、そのな…困ったことにな。昨晩、さっきのヒキガエルの怪人との戦いで…。お前の肉体は…その──」

 

 キバットが何か言いにくそうに言葉を詰まらせていると、

 

「死んだ」

「ふーん…──はぁ!!?」

 

 新たな声が話に割って入ってきて、今日何度目かわからない驚愕をする響輔。

 声のする方に目をやると5人の男女がこちらに歩み寄って来た。

 

「紅響輔。お前はいま死という状態にあるわけだ」

 

 そこにいたのはタキシードを着た襟髪を一つに纏めた目つきの鋭い男と、

 

「うーん?ねぇねぇ、この場合ってなんて声をかけたらいいの?」

 

 セーラー服を着た短髪(ショートヘア)のあどけない美少年、

 

「ご愁、傷、様でし、た」

 

 燕尾服を着た額出(オールバック)に片言の筋骨隆々の男、

 

「大変お悔やみ申し上げます」

 

 8歳くらいでツーサイドの金髪に黒を基調とした赤いフリルのゴスロリ服に三角帽子を被った幼女、

 

「あんた達、ちょっと失礼じゃないかな?」

 

 白髪をお嬢様結びした黒いローブの20代前半の女性、

 

「誰?」

 

 どの人達も只者じゃない雰囲気を醸し出しており、咄嗟に身構える。

 

『案ずるな。私の仲間だ』

 

 どうやらテナーの仲間らしい。

 

「ちょうど良かった。たった今起きたとこなんだぜ」

 

 キバットが報告すると白髪お嬢様結びの女性が安堵する。

 

「そう。どうやら、精神融合せず無事成功したみたいなようだね。私の名前はマルシル・ホウェイトルブ。よろしく」

 

 お嬢様結びの女性──マルシルの自己紹介に続いて、他の者たちも自己紹介する。

 

藍沢(あいざわ) 次狼(じろう)だ」

 目つきの悪い男──次狼はぶっきらぼうに

 

「ぼくは緑ヶ浜(みどりがはま) ラモン。よろしくね、おにいちゃん♡」

 美少年──ラモンは手を振るって

 

藤咲(ふじさき)(リキ)

 ガタイのいい大男──(リキ)は片言に

 

「ヴェディアルイク・イエロード・スフィールズ・モンタルク。呼びづらかったらヴェディでいいわよ」

 ツーサイドアップの金髪に三角帽子の幼女──ヴェディはこちらを少し警戒するみたいに。

 

「ねぇねぇ、キバット。テナおねえちゃんは大丈夫なの?」

 

 ラモンが心配そうに尋ねてきたのに対し、キバットがなだめるように言う。

 

「ああ、テナーなら無事だ。今この兄ちゃんに説明してるところだ」

「そっか!よかったー!ねぇねぇ、テナおねえちゃん!起きてるー?」

「ちょっ…ちょっと!!さっきからなんなんですか!!いきなり。あなた達僕の身体に一体何したんですか!!」

 

 ラモンが響輔の裾を引っ張り、皆が安堵している中、一人取り残された響輔は声を荒げて説明を求めた。

 

「安心しろ。お前の遺体はマルシルとヴェディの工房で再構成が試みられている」

 

 次狼は落ち着つけと言わんばかりに響輔に返した。

 

「ちょっ…ちょっと!」

「まぁ、今すぐにとはいかないけど。ホムンクルスの技術とフランケン族の細胞を用いれば必ず元に戻るはずだから、ね?」

 

 マルシルが響輔をなだめるみたいに続ける。

 

「それまでの間、君には少しばかり迷惑をかけるかもしれないけど、決して不自由はさせないから。私生活じゃあ主に君を優先させるし、君は紅 響輔としてこれまで通りの暮らしを営む事を約束──…」

「ちょっと待って下さい!!いきなり死んだとか、異世界とか、訳わかんないよ!!大体、僕はこの通り生きてるじゃないか!!」

 

 マルシル達の言動がまるで理解出来なかった。

 意思疎通は出来ても、その話す内容に頭が追いつかないでいた。

 

「んだよ…俺らの言ってることが信じられないってか?」

「言ってること以前に…蝙蝠の顔が飛んでいることが信じられないよ!!」

「蝙蝠の顔!!?」───

 

 響輔の言葉に憤慨するキバット。

 次狼が鼻で笑ったり、ヴェディが思わず吹き出すのが後ろで聞こえる。

 

「…テンメェ!それオレ様の事を言ってんのかぁっ!!!」

「うるさい!!どうせ本当はオモチャか何かだろ!スピーカーはどこだ!」

 

 と、キバットを捕まえ、口を開けたりしてスピーカーを探し出す響輔。

 

「このガキぃ!いい加減にしろ!ガブッ!ガブガブッ!!」

 

 ついに怒ったキバットは響輔の指に噛みついてきた。

 

「痛ってーっ!!!」

「ガブガブガブガブ!!」

「何やってんのよ…」

 

 響輔とキバットのやり取りを見てヴェディや皆は呆れ顔となっていた。

 

『全く、もう少し肝の座った男かと思えば…ネチネチとせせこましい奴だ』

 

 テナーも呆れ気味に吐き捨てる。

 

「コイツを追い出して下さい!!誰だか知らないけど自分の中で他人を飼うなんてまっぴらごめんです!!」

 

 頭の中で囁かれるのはあまり気分がいいモンじゃない。

 自発的に心の音楽が聴こえるのとは違ってむしろ不快でしかない。

 

「響輔君、その言い分には少し誤りがあるね。次狼、(リキ)、工房から例のものを持ってきてくれるかい?」

「おう」

「わかっ…た」

 

 マルシルが次狼と力にお願いすると部屋を出ていく。

 しばらくして次狼と力が持ってきたのは一つの棺桶だった。

 開けてみるとそこに入っていたのは──

 

「うっ…!!」

「これは紛れもなく君の遺体だよ」

 

 水槽みたいにガラスの容器で密閉してあったが、そこに入っていたの紛れもなくホルマリン漬けとなっていた響輔の肉体だった。その顔は生気を帯びておらず、胴体は腹部から胸部にかけて見るも無残に破壊されていた。その惨憺(さんたん)たる状態に嘔吐感がこみ上げてくる。

 

「なっ…、なっ…、何だよコレ!?こんな体じゃ死んじゃうじゃないか!」

「そうだよ。もっと噛み砕いて言うなら──君の意識、記憶、人格をテナーに移植したんだ。君の命はテナーによって維持されている。さらに擬態能力を付加させ、君と同じ姿、服になれるようにしたから。あなたの身体が修復されるまでの間だけ君の精神はテナーの中に仮住まいする形になるわけだ」

「つ…つまり僕の中に彼女がいるんじゃなくて、彼女の中に僕の人格があるってこと?」

「そうだよ」

 

 信じられない。

 今一度自分の肉体を見てみるが何から何まで見慣れた自分の体そのものだった。

 これが他人の体だと言うのか?

 

「───………ちなみに、僕の身体が元通りになるのはいつですか?」

 

 とりあえず今一番気になる事を恐る恐る訪ねた。

 

「そうだねぇ…最低でも500日は掛かるかなぁ?」

「ハァッ!!!??」

 

 つまりなんだ?

 一年半もこの訳の分からない状態でいろと!!?

 人の気も知らずにサラリと口にするマルシル。

 

「何だ、それならすぐだな」

「よかったね♪おにいちゃん」

「ふざけんなぁあっ!!一年半のどこがすぐだ!!!」

 

 憤る響輔に対し、次狼、ラモンはすぐだという。

 彼らの時間感覚はどうなっているのか?

 

「まぁ、気持ちは察するぜ。俺たちもできる限り精一杯フォローするから、そう気をおとすなって。な?」

 

 キバットが宥めようとするが、落ち着けるわけがない。

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 

「ここがリビングだよ」

 

 響輔の寝ていた場所はキャッスルドランという巨大なドラゴンを改造して作られた城──その天守閣だったらしい。

 天守閣は『テナーの間』と『癒しの寝室』があり、マルシルを先頭に一同はキャスルドランを案内され、今いるところはキャッスルドランの大広間のリビングルームである。

 

「はい起動」

 

 マルシルが指を軽く鳴らすとテナーとは別に広間に響輔が実体化した。

 

「あ!僕の体がちゃんとある」

 

 テナーがそこにいるにも関わらず、響輔の身体が実体化した。

 鏡を覗き込んだり、頬を触ったり、着服しているかどうか、ここに実体があることを確認する。

 

「キャッスルドランの城内では(プシュケー)の具現化として、君はテナーの身体を離れ実体化することができる。キャッスルドランの城内全てをスクリーンとした『実体のある立体映像』と考えてくれていい。飲食はできないよ」

「つまり今の僕は幽霊ってこと?」

「まぁ、噛み砕いて言うとね」

「ヘリオスの原住民であるお前からも直接話が聞きたいからな。何か質問があるだろう。俺たちができる限り答えてやる」

 

 ラモンと(リキ)、ヴェディは席を外し、次狼に促されるままにテナー、マルシル、次狼、響輔は中央のテーブルへ着席し、響輔は色々と質問をした。

 

「まず、異世界からやって来たあなた達は何者なのでしょうか?」

 

 彼らの説明を自分なりに噛み砕くと、さっきキバットが説明したように『世界』は並行して無数に存在しており、その殆どは互の世界を知りもせずに生きている。

 だがごく稀に突飛つした技術を持つ世界が存在してしまうらしく、そんな世界でエネルギーとして発見されたのが『心の力』──ちなみに『命の色(ライフエナジー)』『(プシュケー)』『属性力(エレメーラ)』等とさまざまな呼び名が存在する。

 すべての生物はほかの生物の『心の力』を糧として生きており、その種類は大きく二つに分けられる。

 大多数の異世界に存在が確認され、戦う力はなくとも他の種族より強い『心の力』を持っている種族──

 

──『人間(アントローポス)

 

 その『心の力』を自分の力として運用し、姿を変えて戦う事の出来る種族──

 

──『魔の者(ダイモーン)

 

 そして魔の者(ダイモーン)はさらに細かく種族が区分されている。

 

 次狼は『ウルフェン』、ラモンは『マーマン』、(リキ)は『フランケン』、マルシルは『エルフィン』、ヴェディは『シーケット』、テナーは魔の者(ダイモーン)の中で最強と言われる種族『ファンガイア』である。

 しかもテナーはファンガイアの世界を担う5人の重鎮のうちの一人『チェックメイトファイブ』。その中で『クィーン』の称号を持つファンガイアであるらしい。

 

「どっからどう見ても普通の人間にしか見えないんだけどなぁ…」

 

 説明で納得のできない響輔は次狼やマルシルの姿をまじまじと見る。

 

魔の者(ダイモーン)は基本君たちと変わらない姿をして力をセーブしている。けれど、感情が高ぶったり戦う時となればその姿に戻り戦うよ。人間(アントローポス)は戦う事より知能や科学が発展し、長い年月をかけて種としての本能よりも感情や精神が繊細なったから戦う姿を欲しなかったんだろうね」

「じゃあ、テナーも?」

 

 マルシルの説明で恐る恐る訊くも、テナーがそれを否定する。

 

「いや、私は──ファンガイアは例外だ。見た目は人間(アントローポス)とあまり大差ない。だが、特徴として(プシュケー)が増幅し、体から溢れ出る際に下顎から首にかけてステンドグラスの様な模様が浮かび上がったり、私を含め一部のファンガイアは影創造(シャドウ・クラフト)という技を使いこなせる。影創造(シャドウ・クラフト)(プシュケー)を黒い粘土状に具現化し、それを整形、コントロールする力だ。だが運用は困難を極める。(プシュケー)を糧にそれをコントロールするためにも体力と精神力を大きく削る上に、一度に使用できる影創造(シャドウ・クラフト)の量にも限度がある」

 

「あ、後どうして僕の身体がテナーの身体に収納される事になったのでしょうか?」

「私の身体では不服か?」

「い、いや…そうじゃなくて」

 

 何となく疑問に思った響輔は質問してみる。

 テナーは不満を言われているみたいで少し響輔を睨むも響輔は首を横に振って続ける。

 

「そのまま見殺しにしちゃわなかったのかな~と、思いまして」

「どんだけお前はテナーを冷酷な奴だと思ってんだ」

 

 さすがのキバットも呆れ気味に言った。

 

「まぁ、任務に支障をきたさないのなら見殺しもやむなしではなかったな」

「ひどい!」

「そもそも貴様が割って入ってきたのだろう。首を突っ込みその首、斬り落とされても文句は言えまいて」

「じゃあ、どうして?」

 

 響輔も疑問に思った。

 何故自分の体を貸してまで自分を助けてくれたのか?

 

「見殺しにするのも寝覚めが悪いと思ったからだ──なに、ただの気位だ」

「それにテナーの身体でなければ君を生かすことは難しかったみたいだしね」

 

 説明によると、全ての生物の存在は『(プシュケー)』、『生命(プネウマ)』、『身体(ソーマ)』の3つで構成されている。

 今は禁忌とされているが、昔ファンガイアは他の種族──主に人間の(プシュケー)生命(プネウマ)を喰らっていたらしく、魔の者(ダイモーン)は他の生命(プネウマ)を自身の身体に取り込みやすい構造となっているらしい。

 それを応用してファンガイアであるテナーの肉体に響輔の(プシュケー)生命(プネウマ)を生きたまま保管する事に成功したらしい。

 

「かなりの荒技だったが、流石は一流の呪術研究者だなマルシル」

「お褒めいただき光栄でございます。クィーン」

 

 仰々しくお辞儀をするマルシル。

 

「えーと、(プシュケー)生命(プネウマ)って別物なのでしょうか?」

「そうだね。分かりやすく言うならばこのティーカップが生命(プネウマ)、この紅茶が(プシュケー)。つまり、生命(プネウマ)(プシュケー)を収納する器で、さらにそれらを収納する大きな器が身体(ソーマ)だ。今君たちは『一心同体』ではなく一つの体に二つの(プシュケー)を内蔵した『二心同体』といったところかな?」

 

 マルシルはそう言って飲みかけのティーカップに熱い紅茶を注ぎながら説明した。

 響輔は自分も紅茶が飲みたいと思ったが、紅茶の匂いが感じられない。

 今の自分は幽霊なので飲食ができないことを思い出し諦めた。

 

「あのツインテールを欲していた怪物も魔の者(ダイモーン)なのでしょうか?」

「あいつらはセラーネでは記録されていないが、恐らくそうだろうな」

 

 と、次狼はコーヒーを片手に答える。

 

「実際録画したのを見てみようか?」

 

 マルシルが取り出したのは占いなどでよく使う水晶玉だった。

 マルシルが何やらブツブツと日本語ではない言葉で呟くと水晶がまるで電球のように明かりが灯り、水晶の上に昼間の光景が3Dの立体映像として映写した。

 まるでフィギュアで作ったジオラマの様に立体的にテイルファングの戦いを観察できる様になっている。

 リザドギルディとトードギルディ、アルテロイドとテイルレッド、テイルファングが大立ち回りを演じて、必殺技を食らわせるところで映像は切れた。

 

「すごい!まるで3D映画みたいでした」

「映画の鑑賞会ではないわ、たわけ」

魔の者(ダイモーン)だと言っても、こいつらは魔の者(ダイモーン)だとは断言できないね。これはもっと違う生命体なのだと私は思う」

 

マルシルも魔の者(ダイモーン)の一種だとは断言できないらしい。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 ばん!と乱暴にテーブルを叩くバクのような姿をした怪物。

 

「リザドギルディとトードギルディが倒されただと!?ただの人間にか!!」

「馬鹿な、ありえぬ!!」

「油断したというだけでは説明がつかんぞ!!」

 

 一面鈍色の大ホール。

 あたかも企業の会議場のように丸いテーブルが置かれ、個性豊かな怪物一同が集う。

 ここはアルティメギル秘密基地。空と海と大地ともいず知れぬいずこかに存在する、神秘と科学の結晶。

 基地であり、移動母艦。そして、怪物たちの住まうコロニー。

 切り込み隊長として意気揚々とこの世界での属性力(エレメーラ)収集に偵察員のトードギルディを引き連れて出発したリザドギルディの先鋒部隊が一日足らずで壊滅した。

 しかも人間の手によって。

 その報道は大きな衝撃となり、同胞たちに波紋を広げた。

 

「むううう、どういうことだ!この世界の文明レベルは低いが属性レベルはこれまでにないほどの高数値、理想的な環境!そう結論づけたはずではないのか!!」

「そういえば昨晩トードギルディ殿が左目を人間に潰されたと…」

「何ぃ!!?」

「馬鹿な!!人間相手に!?」

「寝耳に水だぞ!何故そのことを早く言わん」

「俺も聞いたが、何かの間違いや冗談の類かと…」

 

 あちらからもこちらからも怒号が広がり、収拾がつかなくなっていった。

 

「静まれぇい!!」

 

 その騒ぎを一体のエレメリアンが一喝する。

 その声で、騒乱が水を打ったように静まる。

 

「ド、ドラグギルディ隊長」

 

 一人のエレメリアンが騒ぎを収めた戦士の名を口にした。

 ただ座っているだけで凄まじい闘気を発散させる。

 

「リザドギルディの力は師である我がよく知っておる。それを打ち負かすほどの戦士が、密かに存在しているということだ」

 

「これを見よ瞬殺されたようだが、映像を記録していた戦闘員(アルテロイド)が転送してきたものだ」

 

 大型モニターに赤いツインテールの幼女──テイルレッドが映し出された。

 

「リアドギルディ殿はこの者に……うむむ、あのツインテールならば頷ける」

「なんという美しさ……麗しさ……こ、これがこの世界の守護者か!」

「神が生み出した偶然としか言い様があるまいて。事前に知れる神の文明レベルなどあくまで表層の物。その世界の理、限界を超越した戦士が一人二人存在したとて、何ら不思議はない。これまでも、我らを脅かす戦士とは何度か相見えたであろう」

「ですが今までの強敵はすべからく我々の手で───むおおこれは!?」

 

 苦境な戦士たちが興奮のあまり、物々しい音を立てて立ち上がる。

 リザドギルディを悼んでいたはずが、完全なツインテール品評会となっていた。

 

「して、隊長!リザドギルディ殿とトードギルディは二人(・・)の人間によって倒されたはず、もう一人は?」

「何ですと!?」

「もう一人!?」

 

 一人のエレメリアンの発言にその場にいたエレメリアンすべてが驚愕の声を上げる。

 こころなしがそれの音量はリザドギルディが倒された時より大きかった。

 

「無論、映像はある。だが……──」

 

 隊長のドラグギルディはどことなく渋った様子を見せる。

 如何なる敵にも臆さない百戦錬磨のドラグギルディには考えられないその様子にその場にいる者は騒然となった

 

「隊長!何を躊躇っているのですか?」

「まさか!あまりにも恐ろしき相手だあったと?」

「我が魂はアルティメギルと共にあり!!」

「戦う戦士としての覚悟は出来ております!!」

「どうか、もう一人の戦士の映像を!!!」

 

 ドラグギルディは止むを得んとなりながら、その映像を流した。

 

「「「「「「こ、これは!?」」」」」」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「この鎧は何なのでしょうか?」

 

 響輔は水晶に映写したテナーを指さして質問する。

 

「アレはファンガイアの中でもごく一部しか知られていない秘宝中の秘宝──『キバの鎧』だ」

「キバの鎧?」

 

「ファンガイアの(プシュケー)を極限まで高め、さらにそのもう一段階上のエネルギー──魔皇力(アクティブフォース)へと昇華し、戦闘能力を向上させる鎧だ。着衣するための(プシュケー)が足らないファンガイアは纏うことさえ叶わず、鎧をコントロールするキバットとも心底信頼され、相性が良くなくてはその鎧の力を発揮することができない」

「基本はチェックメイトファイブの5人に鎧が賜はされ、『キバの鎧』はテナーのを含めて5種類と『サガの鎧』が確認されている。──キングには『運命のサガ』、クィーンであるテナーに『黄金のキバ』、ナイトに『白銀のキバ』、ビショップに『赤銅(せきどう)のキバ』、ルークに『青銅のキバ』、そして現在行方不明の『暗黒のキバ』」

「本来、鎧は貴重品故、本国の守りとして使われる。異世界に持ち出すことなど、余程国に認められ、信頼されていなければ不可能だ」

「キバの鎧はファンガイア以外は着用できないが、もしチェックメイトファイブの一人が他世界の種族と手を組んだりしたら、そのパワーバランスはひっくり返るだろうな。下手をすればひと世界、壊す事も訳はない」

 

「そこまで……!?」

 

 キバットと次狼の説明を聞いて響輔は驚愕した。

 

「鎧っていうのはそんなもんだ。おいそれと外の世界へ持ち出していいもんじゃねぇ」

「そして、何故ファンガイアが魔の者(ダイモーン)の中でとりわけ最強と言われているのか…──なぜだと思う?」

「どうして?」

 

 マルシルの脈絡のない急な質問に答えが思い浮かばず、響輔は逆に質問で返した。

 

「驚かないで聞いてね。ファンガイアの力の源それは──」

「それは…──?」

「ツインテールだ」

「──……はい?」

 

 マルシルの回答に響輔は混乱し、気の抜けた声を出す。

 

「ツインテールだ」

「大丈夫、今のは聞き取れなかったって意味じゃないから」

 

 響輔は頭を抑えた。

 ツインテールとは響輔の知る中で女性の髪型の一つだという事しか知らない。

 それがなぜファンガイアを最強にさせるのだろうか?

 

「ファンガイアの女性は太古の昔から髪を二つに結う習慣があったらしい。起源は不明だが、それらはファンガイア特有の牙を象っているとされている。ファンガイアを最強と言わしめられる理由は本能的に愛していたからだろうな──ツインテールを。それがファンガイアの心の力を高めたのだとされている」

「それがどうしてツインテールなのですか?もっと愛とか友情とか夢とか、そういうほうが現実味があるんだけど」

「さあな、ツインテールは魔の者(ダイモーン)の中で最大のエネルギーと言われる心の力──命の色(ライフエナジー)でな。詳細はあまりわかっていない。無論俺の種族であるウルフェンや他の魔の者(ダイモーン)もしっかり命の色(ライフエナジー)の源である属性は持っている」

 

 マルシルと次狼の説明を聞いていく内に一気に現実味がなくなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 キャッスルドランでの話も終えて、響輔は無事帰宅。母・真夜からも入学式くらいの事位しか聞かれなかった。

 その深夜、響輔が疲れ果てて大の字になり寝入っている響輔の部屋の窓が開き、マルシルが入って来た。

 

「こらこら、無断で姿を変えるんじゃないよ。テナー」

「マルシル」

 

 響輔の姿はいつの間にか消え、テナーの姿が現れる。

 

「任務の最中すまんな。早急にこの小僧の体の修復を任せるぞ」

「そうだね。だけどテナー、君はもっと真剣に彼と共存することを考えなきゃ」

「なっ!何故だ!?」

 

 早く響輔の体を修復し、解放されたいテナーに対し、マルシルは響輔と共存する事を勧める。

 

「昼間の戦いで、君は自分の能力の低下を感じたはずだ。それは気のせいじゃない。黒刃刀(ブラック・ナイフ)の切れ味がいつもより格段と落ちていた」

 

 本来ならトードギルディの目玉同様、黒刃刀(ブラック・ナイフ)でトードギルディの腹をかっ捌く事が出来たはずだった。

 

「私の中にこの小僧の生命(プネウマ)を移植をしたのが原因だろう!」

「いいや違う、そんな事は問題じゃない。君の心には支障をきたさないハズだよ。君と君の中にいる響輔君との共存がうまくいっていないからだ。このままだと最悪──…」

「わかっている!!」

 

 釈迦に説法だった。

 テナーが響輔を取り込んだ理由は気位だと言ったが、実は嘘である。

 本当の理由は他にある。

 強靭な肉体を持つファンガイアのクィーンであるテナーとしても、人間の魂を生きたまま自身に宿すのがどれ程危険な行為かそれはわかっている。

 

「もし精神融合が起こり、私が消えれば。この身体は小僧にくれてやる」

「テナー……」

音也(おとや)だけではなく、その子供を殺してしまったとなっては、私は音也に顔向けができない」

「なんでそんな自虐的な事を言うんだ、テナー。それに音也は君を助けるために──」

「同じだ!!私はただ…音也に受けた恩と償いを少しばかしでも清算したいと思っているだけだ!!他に意味はない」

 

 『音也』という単語が出てきた途端、冷静沈着な普段のテナーからは考えられないくらいにヒステリックとなった。

 

「テナー…」

「いいから貴様は、修復の方に力を注げ!!私は寝る!!」

 

 テナーは布団を被り、響輔の姿に戻る。

 これ以上話したくはないかの様に。

 マルシルは先ほどヒステリックとなったテナーの顔がフラッシュバックする。

 

「テナー、私は信じているよ。音也と同じ様に、響輔君を信頼できるようになれると。その為に私達も協力を惜しまない」

 

 昼間の戦いの最中、ほんの一瞬のみファングの魔皇力(アクティブフォース)が向上したのをマルシルは観測した。

 

「響輔君はきっと、未だに欠けている君の心を埋めてくれる」

 





属性力呼び名

テナー、マルシル、ヴェディ→ (プシュケー)
次狼、ラモン、(リキ)→ 命の色(ライフエナジー)
エレメリアン、トゥアール→ 属性力(エレメーラ)

文化の違いと思ってください。

魔皇力(アクティブフォース)はファンガイアの(プシュケー)がキバの鎧によって昇華されたエネルギーの事を言う。



説明パートでした。
そろそろギャグを盛り込んでいきたいのですが、書ける自信がない。
原作のハッチャケを再現できるのか?
テナーはどこまでついていけるのか?
今回説明されないことも伏線として後々書いていく……予定です。
誤字脱字、感想お待ちしています。
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