無銘とジャックは、お互いに牽制しながらも会話を続ける。
『ごめんね。此方としても白夜叉に優れた剣を紹介しつつ、優勝してくれと頼まれているんだ。悪く思わないでくれ』
「YAHOHO…………それは別に構いませんよ。しかし解せません…………なぜアーシャを人質に獲らないのですか?」
『それは騎士道に反すると思わないかい?それに私は剣を紹介しないといけないんだ。つまり、この中で強い君を倒して優勝しないといけないんだよ』
「………なるほど。いいでしょう!!
いざ来たれ、名も無き騎士よ。聖人ぺテロに烙印を押されし不死の怪物―――このジャック・オー・ランタンがお相手しましょう!」
そうジャックが宣言すると、轟々と燃え盛る炎を背に作り出し、大炎上する樹の根の空洞。
『ふむ、不死の怪物か…………でも知っているかい?怪物は騎士に討たれるのが物語の筋書きなんだよッ!』
無銘はギフトカードから白銀に輝く剣を取り出してジャックに迫る。
ジャックは、先程のアーシャとは比べ物にならない程の圧倒的な熱量と密度を持つ、"地獄の業火"を右手のランタンから召喚し、無銘に浴びせようとする。
それを無銘は取り出した剣で切り払う。
先も見たような光景だが、ジャックは驚いた。
(地獄の炎を切った!?バカな!)
そう考えてる暇もなく、無銘は射程範囲に届いた距離で剣を振るう。ジャックはランタンでそれを防ごうとするも、ランタンごと右腕を切り飛ばされた。
「くっ!」
更に返す刃を、ジャックは素早く逆手で持ったナイフで防ぐ。
キュインッと響く刃物同士の衝突音と火花。
無銘は止まらずに斬撃を浴びせ続ける。ジャックもナイフで応戦するが、数が増す度に押されていくのはジャックだった。炎を召喚する隙を与えない猛攻がジャックをを窮地に立たせる。
剣とナイフが振るわれる度に大気が震える。その合間に少しずつカボチャが切られ、破片が飛ぶ。
『ふっ!』
「ぐっ…!」
無銘が重い一撃をジャックに叩き込みジャックも負けじとその一撃を止めた。
そのまま鍔迫り合いになる。力押しでは互角のようだが、ジャックのナイフを見れば、幾度と剣の嵐を防いだナイフが刃こぼれを起こしていた。ナイフは既に使い物にならない状態だろう。
「なるほど、切れ味は相当良いようですねッ………!」
『どうした?不死の怪物もその程度かな?』
「世迷い事を……私はそんなに優しい怪物ではないですよ!」
そう言って力を込めて無銘を吹き飛ばし、復活した右腕と左手を広げる。空中で体制を戻して、着地した無銘の回りに、大炎上する七つの炎柱が召喚された。
「食らいなさい!『
宣言した瞬間、無銘の回りを取り囲んでいた燃え盛る炎の柱は、密度を増し無銘に迫る。
直後、回りを取り囲んでいた炎の前方が吹き飛ばされた。剣圧で吹き飛ばされて細かくなった炎は辺りの樹の根に燃え移る。
「なぁ!?」
今度こそ声を出して驚くジャックの目の前に、炎から飛び出してきた無銘は剣先をジャックに向ける。
『どうやら君は私との相性が最悪の様だね』
「くっ…………」
(地獄の炎を切る剣と、それを十全に扱う持ち主の剣技…………私本来の力を出せないとは言え、まさかこれ程に格差が出るとは……)
ジャックは相手の力量を考えて決断を下した。
「……私の負けです。素晴らしい剣と剣技でした…………」
そう言ってジャックは手を上げて降参の意を示した後、アーシャのところに飛んでいった。
それを見届けた無銘は、動けない耀にも視線を向ける。
『"ノーネーム"の君はどうする?………と言っても、その状態じゃ動けないだろうけどね』
そう無銘に言われて耀は悔しそうな顔をする。
この状況を抜けることも、無茶をすれば可能ではあった。が、あの騎士の底が未だ見えない上、体術では敵わないとわかった。
「……私も降参する」
そう耀が宣言すると、世界が元のコロシアムのような舞台に戻った。
観客席が静まり唖然とする中、黒ウサギは宣言する。
『勝者、無銘!!』
それを聞いた観客席から、割れんばかりの歓声が会場を包んだのだった。
「いやはや、お見事でした」
ジャックは落ち込んでるアーシャを連れて無銘の前に来た。
『そうでもないよ。力量差はあっても君の本質は不死だからね。君一人であったなら、わからなかったかもしれない』
「それでも、ですよ。それにその剣は……貴方が造ったのですか?」
ジャックは無銘が持つ『無銘』と側面に書かれた剣を見る。それに対して無銘は肩を竦めて言った。
『いや、この剣は君の連れと話している"ノーネーム"のメンバーが造った剣でね。私は白夜叉に箔付けを任されて出たに過ぎないよ』
「ほう、そうですか……」
ジャックは耀に眼を向ける。
そこでは、耀に向かってライバル宣言するアーシャと、首を傾げる耀が映った。
ジャックは微笑んでいるような雰囲気を出して、その光景を見守った後、最後に無銘に言った。
「いつかこの借りは返させて貰いますよ。貴方程の相手と相対して、アーシャが無傷でいられたのは正直ホッとしましたしね」
『そうか……楽しみにしているよ』
そう言ってジャックはアーシャのところに戻り、無銘は白夜叉の元に戻った。
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「春日部さん………負けてしまったわね……」
「そういう事もあるさ。後で励ましてやれよ」
気落ちする飛鳥と、軽快に笑う十六夜。
それをみたサンドラと白夜叉も励ます。
「シンプルなゲーム盤なのに、とても見応えのあるゲーム。貴方達が恥じることは何もない」
「うむ。シンプルなゲームはどうしてもパワーゲームに成りがちだが、中々堂に入ったゲームメイクだったぞ。
"ウィル・オ・ウィスプ"は六桁の中でも最上位の一角。その主力であるジャックは業火と不死の烙印を持つ幽鬼。
あの騎士も、エミヤが造った剣を十全に使いこなしていたからの。今回は敵が悪すぎたな」
「やっぱりあの剣はお姫様のだったか。…………まあ、お姫様は剣を矢として使うトリッキーな戦法だからな。創作ギフトの名前を売るためのゲームでは、剣の紹介に使えないか」
「そうだ。だから今回は"サウザントアイズ"のツテで呼んだ騎士に出てもらった」
その時、舞台から飛び上がってバルコニーに着地した無銘が、白夜叉の後ろに控えた。
そんな騎士に十六夜は声をかける。
「よう無銘とやら。あんた中々強いな」
『そうでもないさ。今回は君達の仲間の剣が良かったお陰だ。礼を言う』
「いやいや。それを使いこなすおんしも素晴らしかったぞ。私が目を付けただけはある」
そう白夜叉も労いの言葉を無銘にかける。無銘はそれに返答しようとしたが、
『…………白夜叉。どうやら最悪の事態が起こったぞ』
「なに?」
無銘が空に眼を向けて白夜叉に呼び掛けると、白夜叉も空を見上げる。
遥か上空から、雨のようにばら撒かれる黒い封書。観客の中からも異変に気付き、空を見上げる。
傍に落ちてきた紙を、黒ウサギはすかさず手に取る。
「黒く輝く"
笛を吹く道化師の印が入った封蝋を開封した。
『ギフトゲーム名〝The PIED PIPER of HAMELIN〟
・プレイヤー一覧
・現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ。
・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター
・太陽の運行者・星霊 白夜叉。
・ホストマスター側 勝利条件
・全プレイヤーの屈服・及び殺害。
・プレイヤー側 勝利条件
一、ゲームマスターを打倒。
二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
〝グリムグリモワール・ハーメルン〟印』
観客の中から一人、弾けるように叫び声を上げた。
「魔王が………魔王が現れたぞオオオォォォォ――――!!!」
____________________
境界壁・上空2000メートル
「プレイヤー側で相手になるのは………〝サラマンドラ〟のお嬢ちゃんを含めて五人ってところかしらね、ヴェーザー?」
「いや、四人だな。あのカボチャは参加資格がねえ。特にヤバイのは吸血鬼と火龍のフロアマスター、それと黄金の騎士だ。―――あと事のついでに、偽りの"ラッテンフェンガー"も潰さねえと」
露出が多く、布の少ない白装束の女―――ラッテンの問いに、ヴェーザーと呼ばれた男が答える。
ラッテンは白髪の二十代半ば程に見える女。二の腕程の長さのフルートを右手で弄んで舞台会場を見下ろしていた。
ヴェーザーは短髪黒髪の黒い軍服を着た男。長身の男と同等の長さがある笛を握っていた。
陶器の様な材質で造られた滑らかなフォルムと、全身に空いた風穴。全長五十尺はあろうという巨兵―――シュトロム。
その三体に挟まれる形で佇む、白黒の斑模様のワンピースを着た少女―――ペスト。
ペストは三体の顔を一度ずつ見比べ、無機質な声で、
「―――ギフトゲームを始めるわ。貴方達は手筈通り御願い」
「おう、邪魔する奴は?」
「殺していいよ」
「イエス、マイマスター♪」
____________________
「な、何ッ!?」
『っ!?白夜叉!』
「白夜叉様!?」
突如黒い球体に包み込まれる白夜叉。咄嗟にサンドラと無銘が白夜叉に手を伸ばすが、吹き荒れる黒い風はそれを許さない。
黒い風は勢いを増すと、白夜叉と剣で風を切り飛ばした無銘以外の人間をバルコニーから押し出す。
「きゃ………!」
「お嬢様、掴まれ!」
空中に投げ出された十六夜はすかさず飛鳥を抱き抱えて着地。さらに遥か上空の人影を睨んだ。
「ちっ。〝サラマンドラ〟の連中は観客席に飛ばされたか」
十六夜は舞台袖から出てきたジン達を確認、黒ウサギに振り向く。
「魔王が現れた。………そういうことでいいんだな?」
「はい」
黒ウサギが真剣な表情で頷き、メンバー全員に緊張が走った。
観客席が大混乱。我先にと蜘蛛の子を散らすように散開。
阿鼻叫喚する最中、十六夜は軽薄な笑みを浮かべる。だが瞳に余裕が見られない。真剣な瞳の視線を黒ウサギに向ける。
「白夜叉の"主催者権限"が破られた様子は無いんだな?」
「はい。黒ウサギがジャッジマスターを務めている以上、誤魔化しは利きません」
「なら連中は、ルールに則った上でゲーム盤に現れているわけだ。………ハハ、流石は本物の魔王様。期待を裏切らねえぜ」
バルコニーにて、無銘は白夜叉を解放しようと剣を振るっていた
『白夜叉大丈夫か!?』
「ああ…………エミヤよ。おんしの言うとおりになってしまったな。どうやら私はここから出られんらしい」
そう言って白夜叉は、自分を包む黒い風の球体に触れるが、弾かれてしまう。
無銘も剣で切り飛ばすが、すぐに新たな風が白夜叉を包むため手の施しようがなかった。
『ダメか…………白夜叉。私はこれから敵主力を叩きに行く。何かわかれば"会話"をして』
「わかった。おんしも気を付けるのだぞ」
無銘が他の面々を見ると、十六夜は敵に突っ込んでいき、レティシアもそれに続くように飛び立っていた。
無銘は、十六夜は大丈夫だと思いレティシアの後を追う。
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レティシアは落下してきた陶器の巨兵と斑模様のワンピースを着た少女と対峙していた。
二対一という構成だが、
「シュトロム!」
「BRUUUUUUUUM!!!」
迫る危機に気付いた少女がその巨兵に呼び掛ける。シュトロムと呼ばれた陶器の怪物は、乱気流を発生させ周囲の瓦礫を吸収、圧縮して散弾を地上に放った。
その進行方向には、唐突に二人目掛けて様々な剣群が向かって来ていた。
しかし、地上から降ってくる大剣の束が次々と瓦礫の散弾を貫通・吹き飛ばし、シュトロムを襲った。
「Buuu…………」
そのまま串刺しにされ動かなくなる。
「ちっ。やっぱり粒が揃ってるわね。…………中々どうして、強いじゃない。念力のギフトかしら?」
斑模様のワンピースを着た少女ーーーーーーーー"
その方向には、黄金の甲冑に紅い腰マントを靡かせた騎士ーーーー無銘が胸の前で腕を組み立たずんでいた。
注意が無銘に向いている隙に、レティシアはペストの懐に入る。
「あれ?」
「謝らないからな。注意を怠った自分を恨め」
レティシアはギフトカードから取り出した"
ペストはその剣に危機感を感じとり、黒い風の塊を自分の前に発生させるも、レティシアは風ごとペストを切り裂く。
「やったか!?」
「いいえ。やってないわ」
ペストの切り裂かれた部分が瞬時に癒されていく。
そのまま手をレティシアに翳し、黒い風が彼女を捕縛せんと迫る。
レティシアは一度下がり、剣を一閃させて黒い風を吹き飛ばした。
「その剣…………かなり良い得物を持ってるようね」
ペストはレティシアが持つ剣を見つめて感想を溢した。
「バカな…………効いてないだと?」
「いいえ。痛かった。凄く痛かったわ。…………貴女もあそこの騎士も良い手駒になりそうね」
微笑み、両手から黒い風を更に発生させるがーーーーー紅い閃光がペストを襲う。
「ふっ!」
風で防ぐペスト。
そのまま襲ってきた上空を見上げれば、轟々と燃え盛る炎の龍紋を掲げた北側の"階層支配者"ーーーーーサンドラが、炎を身に纏い見下していた。
「待っていたわ。逃げられたのではないかと心配してしたところよ」
「…………目的は何ですか、ハーメルンの魔王」
「それ間違いよ。私のキブトネーム正式名称は"黒死病の魔王"・ブラック・パーチャーよ。それに目的なんて言わずともわかるでしょ?太陽の主催者・白夜叉の身柄と星海龍王の遺骨、貴女の龍角が欲しいの」
だから頂戴?とばかり軽い口調でサンドラの角を指差す。
「魔王と名乗るだけある、ふてぶてしい態度。だけど、秩序の守護者として見過ごせない。我らの御旗の下、必ず誅してみせる」
「素敵ね。フロアマスター」
荒ぶる火龍の炎と、黒い風が辺りに撒き散らされる。直後、
『《審判権限》の発動が受理されました! これよりギフトゲーム《The PIED PIPER of HAMELIN》は一時中断し、審議決議を執り行います。プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中断し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください! 繰り返します』
雷鳴と共に拡張された黒ウサギの声が響き渡った。
今回はちょい少なめだったけど、まあ……ね
てか明日の更新できないかも