例の店員の名前を勝手に決めて良いのかしら?
「ってアホかおんしはぁぁああああ!!!!」
ズパァァァァン!!と白夜叉の扇形ハリセンが十六夜の頭に炸裂する。
叩かれた十六夜は"サウザントアイズ"の門前の敷地でレティシアに正座させられていた。
顔から血を流しているグロテスクな十六夜は、なんとも不満そうな顔を白夜叉に向けていた。
何故なら、叱られるべきはずの二つの影がその場に無いからだ。
「…………なんで俺だけ叱られるんだ。俺が来る前からあんだけ暴れてたのに……………こういうのは連帯責任じゃねえのか?ふつう」
「馬鹿か!!建物関係壊したのは殆どお前だ!」
「レティシアの言うとおりだ大戯け!多少ゲームが白熱して被害が出るのは致し方無いにしてもだ!ここまで壊す奴があるか馬鹿がッ!!」
ぐぅ、と二人に責められて黙るしかない十六夜。
確かに彼女達は路上の石畳や屋根を壊すか、矢を撒き散らしただけであった。大きい被害は逸らした瓦礫が民家に突っ込んだ位だろう。
それらを省みて、今回はやり過ぎたと思うが未だ納得のいかない十六夜。
「たしかにそうだが…………あの二人と暴れて、これだけの被害と怪我人無しで済んだんだから儲けもんじゃね?」
「それはあやつらが被害がでないように行動していたからだアホ!」
「なに?」
十六夜は先程の戦闘を思い出す。自分は瓦礫を集めたりで気付かなかったが、確かに彼女達は瓦礫の散弾をわざわざ上に軌道を変えたり、無人ぽい民家に逸らしたりしていた。
「バカな…………全然接近してこないとは思っていたが、あの状況で周りを気にする余裕があったとは……」
「あれだけ観戦に来た者がいて、巻き込まれない方がおかしいだろ。あの嵐の中を避けて進む事だってあの二人ならできたはずだ」
「そう言うことだ。そういう戦法を自然と取るとは……素晴らしい騎士道精神であったな。…………おんしも良い勉強になっただろう?」
二人にそう言われた十六夜はバツが悪そうに頭を掻いた。
「ハァ………まあ、いいか。次があればもっと上手く闘ってやる」
「そうだな。その時にまたやればいいさ。そんなことより今は…………」
白夜叉が一枚の羊皮紙を袖から取り出し、それを十六夜に渡した。それを訝しげに手に取ると、彼の唇の端がヒクついた。
「…………おい、白夜叉様。なんなんですか、この凄い請求額は」
「今回の弁償金額だ。公道破壊、民家破壊、公共建造物破壊、それと我ら"サウザントアイズ"の門の破壊。耳を揃えて払ってもらおうかの」
「これは払える範囲で私達も払うが…………十六夜はこれから超メイドだ。盛大にこき使ってやる」
「…………マジか。せめて執事だろそこは……」
十六夜は両手を広げて天を仰ぎ、厄日だと呟いた。
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メイン路地から外れた狭い路地裏で、無銘とフェイスレスは忍んでいた。
『…………冷静に考えれば、私は逃げる必要が無かった気がする……』
「良いじゃないですかどうでも」
『投げやりだね』
「私の任務が失敗で終わりましたからね。まあ、いい土産話ができたので良いですが」
『………君はこの後どうするの?』
「時間も差し迫ってるので、付き添いの者と帰ります。それと、帰る前に貴女にこれを」
フェイスレスはギフトカードから何か文字が書かれたカードを取り出して、無銘に渡した。それを受け取った彼女は訝しげに聞く。
『………ルーン文字?このカードがどうかしたの?』
「これは通信用のルーン魔術が施されたカードです。私としか通信できませんが、これを貴女に差し上げます」
『魔術………いいの?こんな最下層の相手と関係を築くなんて……』
「これも何かの縁です。それに貴女とは友達としても好敵手としても好ましいと思ってますから」
『…………ありがとね』
「……用事も済みましたし、私は行きます。また機会があれば会いましょう」
そう言ってフェイスレスは路地を抜けて人だかりに消えていった。
それを見送った無銘は辺りの気配を探り、誰もいないことを確認してからいつものエミヤスタイルに戻った。
そのまま彼女は"サウザントアイズ"に戻るためにに路地裏を出たのだった。
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"サウザントアイズ"門前
エミヤが帰ってくると、壊れた門は綺麗に撤去されていた。店内に続く敷地内がよく見えて、何処か頼り無い感じかする。
そんな野ざらしになった敷地で、点検を行っていた例の店員がエミヤに気付いた。
「ああ、エミヤさん。帰ってきたのね」
「ただいま…………あの後どうなった?」
恐る恐るといった風に店員に話しかける。
店員はため息を一つ吐き、意識を切り替え返答した。
「ハァ………賠償請求は"ノーネーム"宛に送りました。それを受け取ったレティシアさんと、件の問題児は治療を行った後、帰りましたよ。彼の方はまだ足を引きずってましたが」
「あの技を受けてよく平気だったな十六夜は。殺さない様に急所は外したけど、最低でも一日は起きないと思ったのに……………化物だな……」
「まあ、彼の事はいいです。それと、此方で売られた商品の利益は今度渡します。次いでご依頼の報酬ですが……」
「わかってるよ、白夜叉には後で内通するから。………じゃあ、私は戻るね。十六夜が心配だ。」
そう言ってエミヤは"ノーネーム"本拠へと足を向けたのだった。
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祭も終わり、街が夕焼けに染まった頃。
朱色の街道の真ん中で黒ウサギは盛大に泣き叫んだ。
「い、十六夜さんのお馬鹿様お馬鹿様超特大お馬鹿様ああああああああ!!!!」
スパパパパパパァーン!と、軽快な音を立てて十六夜の頭にハリセンが迸った。
「せ、せっかく………せっかく、皆さんで稼いだ復興資金と黄金盤が……………!弁償代で全て没収されてしまったのですよぉ…………!」
というのも、黒ウサギと飛鳥と耀は他の商業コミュニティと契約し、出店代理店として一日中"超メイド"姿で働いていたのだ。
今回、白夜叉主催のゲームの内容はというと、黄金盤を集めつつ売り上げを最も出した商業コミュニティが勝者に選ばれる、というものだった。
三人はそれを逆手にとり、色んなコミュニティの店から商品を代理として売ると契約して、全てを売り捌いたのだった。報酬は利益の二割と黄金盤を貰うこと。
彼女達はその可憐な容姿を生かして、スカートの丈が短く露出の多い超メイドとなり、客を集めてそれらをやりきった。
特に、飛鳥は花も恥じらう財閥の元令嬢にして昭和女子代表。
普段はロングスカートを着てガードが固い。そんな彼女が衆人環視の中、太腿を晒して羞恥に顔を染めながらその偉業をやりきったのだ。
三人は十六夜に極寒の目線を向ける。
その視線を受けた十六夜が針の筵の状態でいると、ここで
「まあまあ三人とも。それぐらいにしてあげなよ」
「いいえ、だめよ。こういうのはちゃんと責任を取らせないと。……それに大変だったのよ!あんなは恥ずかしい格好させられるし…………というか、エミヤさんは今まで何処行ってたのよ!!」
「そうだよ。エミヤはいないしレティシアは探しに行っちゃうし。…………せっかく今日のご飯は豪勢にしようと思ったのに…………」
「うぐっ!」
二人の言を聞き地味に心のダメージを受ける十六夜。
「い、いや……私も剣を売っててね………それはそうと今まで私が剣を売って稼いだお金が余ってるから、それを復興資金に使えば良いしご飯も食べれば良い」
「…………ですがそれはエミヤさん個人のお金では…………」
「大丈夫だよ黒ウサギ。また貯めればいいし、今回は知り合いのせいでもあるからね。謝礼金として受け取って欲しい」
そうエミヤが言い、納得いかないながらも黙る黒ウサギ。残る二人は納得いかない顔していたが、レティシアもエミヤの加勢に入る。
「エミヤの言うとおりだ。私も途中から抜けたので強く言えないが、所詮はあぶく銭。容易い儲けは容易く消えるし、それを復興に割り当ててもありがたみが無いだろう?」
そう言われて二人も矛を納める。
「………わかったわ。でも、これは貸しよ?十六夜君から私達全員に、ね」
黙って成り行きを見守っていた十六夜も顔をあげる。
「ああ。何時か埋め合わせは必ずする」
「…………なら良し。じゃあ早くご飯食べに行こ。働いてお腹すいた」
「そうね。おすすめはあるかしら黒ウサギ?」
「そうですねー…………」
そう会話をしながら、彼女達は日が沈む方向に足を進めたのだった。
次回アンダーウッド編
前半の物語がすごく面倒です。