彼女が思考に耽っていると。
「えい」
「フギャッ」
耀が黒ウサギの背に忍びよりその可愛らしい耳を引っ張っていた。
「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」
「好奇心の為せる業」
「自由にも程があります!」
「へえ?このウサ耳って本物なのか?」
そう言って、今度は十六夜が右から掴んで引っ張る。
「………じゃあ私も」
「ちょ、ちょっと待―――!」
今度は飛鳥が左から。左右に力一杯引っ張られた黒ウサギは、言葉にならない悲鳴を上げ、その絶叫は近隣に木霊した。
そんな黒ウサギは、考え事をしているエミヤに助けを求めた。
「そ、其処の方、助けて欲しいのです!!」
「……む。ああ、すまない。少し呆けていた。ハァ………君たち、いい加減にしたらどうだ?」
そう言って黒ウサギの耳を掴む手を離して(十六夜と耀はガッチリ掴んでいたのではたき落として)、黒ウサギを抱くと、その場から跳躍して離れた。
「おいおいお姫様。俺たちの耳を横取りするなよ。」
「いつから貴方たちの耳になったんですか!?」
「ふむ。そうは言ってもだね、十六夜。君は仮にも男なのだからもっと丁寧に……というか、異性相手に軽々しく触れるものではないよ」
「やだね」
「そうです。そう、って即答!?こ、この問題児様ぁ!」
黒ウサギは涙眼で叫ぶ。
そんな悠長に突っ込みをいれている彼女に、エミヤは助言をした。
「黒ウサギ、君も早く説明を始めるのお勧めするよ。早くしないとまた襲ってくるぞ。現に耀と飛鳥は既に左右から迫ってきてる。」
「ひっ!言います言いま「貰ったぁ!」「させるか!」うぎゃぁぁぁ。」
黒ウサギの悲鳴を聞きながら突進する十六夜に、回避するエミヤ。
「言いますから!説明しますからハイ、ストップ!!」
そう言って黒ウサギの声が響いた。
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黒ウサギはこの世界のルールなどを説明し始めた。
エミヤは、腕の中にいる黒ウサギの話を聞きながらその説明を簡潔に頭の中で整理していた。
〝ギフトゲーム〟。それは特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた〝恩恵〟を用いて競い合うためのゲーム。
〝箱庭〟の世界とは、強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク(あまり重要ではないが)生活出来るために造られた舞台ステージ。
そしてこの〝箱庭〟で生活するにあたっては、数多とある〝コミュニティ〟に属さなければならない。
〝ギフトゲーム〟の勝者は、ゲームの〝主催者ホスト〟が提示した賞品を手に入れることが出来る単純シンプルな構造というものだった。
その〝主催者〟は様々で、暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもあるらしい。
前者は、自由参加が多いが〝主催者〟が修羅神仏なだけあって凶悪且つ難解なものが多く、命の危険もあるが、その分、見返りは大きく〝主催者〟次第だが、新たな〝恩恵ギフト〟を手にすることも出来るという仕様。
後者は、参加のためにチップを用意する必要があり、参加者が敗退すればそれらは全て〝主催者〟のコミュニティに寄贈される仕組みシステムがあるそうだ。
チップは様々で、金品・土地・利権・名誉・人間………そしてギフトを賭け合うことも可能。但し、ギフトを賭けた戦いに負ければ自身の才能も失ってしまう。 ゲームの始め方は、コミュニティ同士のゲームを除けば、其々の期日内に登録すれば可。商店街でも商品が小規模のゲームを開催しているらしい。
この〝箱庭〟の世界でも強盗や窃盗は禁止、金品による物々交換も存在する。ギフトを用いた犯罪などはNG。そんな不逞な輩は悉く処罰される。
だが、〝ギフトゲーム〟の本質は真逆で、一方の勝者だけが全てを手にする仕組みシステム。店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手にすることも可能。
但し、〝主催者〟は全て自己責任でゲームを開催しており、奪われたくなければゲームに参加しなければいいだけのことと言うわけだ。
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(これだけ聞くと、実に平和的なのだが……多分、あまり強くない恩恵を持つ者や役に立たないと判断される者は、コミュニティに入れて貰えない、又は差別の対象となる実力主義の世界なのだろうな。
現に黒ウサギも何かを隠すように説明しているからな……まあ、それもまたどこも一緒か)
そうエミヤが箱庭のシステムについて思考していると。
「さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界に於ける全ての質問に答える義務が御座います。
が、それら全てを語るには少々御時間が掛かるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。
ここから先は我らのコミュニティで御話させて頂きたいのですが………宜しいです?」
「待てよ。まだ俺が質問してないだろ。」
静聴していた十六夜が威圧的な声を上げて立つ。
「………どういった質問です?ルールですか?ゲームですか?」
「そんなのはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問い質したところで何かが変わるわけじゃねえんだ。
世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。
俺が聞きたいのは………たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」
そう言って、十六夜は視線を黒ウサギから外し、飛鳥・耀・エミヤの順に見回し、巨大な天幕によって覆われた都市に向ける。
そして彼は何もかもを見下すような視線で一言、
「この世界は………面白いか?」
それに黒ウサギは笑顔で答えたのだった。
「―――YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者達だけが参加出来る神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証致します♪」