といってもエミヤさんはまだ戦いません。
てか、白夜叉の帯どうなってんの!?
「黒ウサギィィィィィィィィィィィィ!!」
クルクルと黒ウサギ共に空中回転ひねりで、店前の道の向こう側を流れる水路に幼女が突入していた。
下がミニスカートになっている黒い着物を纏い、胴を巻く部分の帯は朱色に、余った水色の部分の帯は尻尾のように垂れている。
髪も眉も輝いた白銀色で、ちょこんと白銀の頭から黒い角を生やしていた。将来絶世の美女になるであろう、少しヤンチャさが残った顔は、黒ウサギに抱きつきながらもその豊満な胸に埋まっていた。
その光景に十六夜は眼を輝かせ、店員は頭を抱えた。
「……おい店員。ここの店はドッキリサービスが」
「ありません。」
「何なら有料でも」
「やりません」
「じゃあ、お姫様が「しない。」ちぇ。」
そんなカオスな空間の中、幼女は顔を胸に擦り付ける。
「白夜叉様!どうして貴女様がこんな下層に!?」
「そろそろ黒ウサギが来るだろうと予想してな!!
フフフッ、スーハースーハースリスリ、フホフホ。やはり、ウサギは抱き心地が違うのう!!ほれここかぁここがエエんかぁ!」
親父セリフと共にスリスリと顔を埋める幼女"白夜叉"。
「白夜叉!いい加減離れてくださいッ!!」
頭を掴んだ黒ウサギが、ブオンッ!と音がなりそうな勢いで白夜叉を投げる。クルクルと回転して進むその延長線上には、
エミヤがいた。
錐揉み回転して来た白夜叉を優しく抱き止めるエミヤは、そんな見た目幼女な白夜叉をあやす。
「白夜叉と言ったかな?危ないから人に勢い良く飛び込んではダメだよ。」
完全に子供扱いしていた。
「おお、すまんの。………む。この感触はッ!?」
白夜叉はエミヤの胸にも顔を埋める。
それを見たエミヤは"オカン"が刺激される。
性別も相まって助長され、ヤンチャな子供を相手にする、ある種"母性本能"が開花された。
白夜叉もまた"オヤジ"が再び呼び起こされる。流石に初対面相手に黒ウサギにする態度は表さないが、しかし
「…黒ウサギと同等の大きさかの?……しかぁし!この跳ね返すかのようなハリと、それに相反するかのような本人の包容力……良いのぅ良いのう!!」
しっかり分析する当たりは白夜叉ならではである。
オカンとオヤジ、夢のコラボが実現された瞬間だ。
「よし!この娘も黒ウサギとセットで買ったッ!!!」
「買った!ではありませんこの御馬鹿様ぁ!!!」
上がってきた黒ウサギのハリセンが白夜叉の頭を一閃する。白夜叉を抱いたまま二人を見て、仲が良いのかという思考になり、生前の鈍感ぶりを発揮するエミヤ。
「君はこの店の人なのかな?」
「ムフフ…ああ、そうだとも。サウザンドアイズの幹部の一人である白夜叉様だ。今はおんしのお蔭でとても気分が良い!仕事の依頼なら只で引き受けよう!!」
「オーナー。売上が伸びません。」
釘を刺す店員。
ハリセンを仕舞い、濡れた衣服を悲しそうに絞る黒ウサギ。
「私まで濡れるとは…」
「罰よ黒ウサギ。」
「因果応報かな。」
『お嬢の言うとおりや』
そんな中、白夜叉は名残惜しそうに一度エミヤから離れ、彼女達をーーー特に重点的にエミヤと飛鳥を見回してニヤリと笑う。
「おんしらが黒ウサギに呼ばれた新しい同士か。中々どうして、良い発育をもつ者が現れた者だ………
コレは黒ウサギが私のペットに!!」
「なりません!どんな理由ですか!」
ウサミミを怒天を突くかの如く怒る黒ウサギに、白夜叉は笑いかけながら彼女達を店に招待すると、
「良いんですか、オーナー?規定では"ノーネーム"は」
「良い。意地の悪い性悪店員の詫びだ。責任も私が取るしの。」
その言葉に拗ねる店員だが、悪びれることもなく店に入っていく面々の中、
すまなそうに店員に頭を下げるフォロミヤに溜飲を下げた。
気品の感じる和風の中庭を通り抜け、襖で閉まっている部屋の前で止まる。
「生憎、暖簾は降ろしたのでな。」
ーーー私室で勘弁してくれ。
そう言って襖を開け放ちながら、畳の敷かれた大きな和室に入る。
部屋の中ではお香が焚かれており、落ち着きのある香りがエミヤ達を歓迎する。
白夜叉を上座に、その正面に座り込む五人。
「さて、改めて自己紹介をしようかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えるコミュニティの幹部、白夜叉だ。以前から黒ウサギを弄っていたのでな。コミュニティ崩壊後も、ちょくちょく贔屓してくれる美少女と認識してくれ。」
「ハイハイ。いつもお世話になってるのですよー。」
二人は軽いじゃれあいが出来る程度に仲が良好のようである。最も、弄られる黒ウサギが敬意を払う事がバカらしくなっただけかもしれないが。
その会話の中で気になった事に質問する耀。
「その外門って?」
「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市中心部に迫り、同時に強大な力をもつ者達が、本拠やコミュニティを構えているのです。
箱庭は外壁から数えて七桁・六桁を下層とし、五桁を中層、それ以降の数字の桁を上層と区別して強さを分けているのです。
四桁ともなれば修羅神仏が数多くいる化物の巣窟なのですよ。」
そう言って紙に描いた図を彼らに見せる。
それを見て、各々が感想を述べた。
「……巨大玉ねぎ?」
「いやバームクーヘンだろ。」
「そうね、バームクーヘンね。」
「的を得てはいるけど…情緒の欠片も無いな…」
「ふふ、その例えでいくなら此処七桁の外門は一番薄い部分かの。一つ付け加えると、東西南北四つに別れており、ここは東側に当たる。その外側には世界の果てがあり、黒ウサギが持つ水樹の苗の持ち主もいるぞ。」
その言葉に少し興味を傾ける十六夜。
「なんだ?あいつの知り合いか?」
「そうだのう。そもそも奴に神格を与えたのは私だ。何百年前の話だったか忘れたがな。」
神格とは、生物に与えれば、その種が到達する最高ランクにまで種を底上げるギフトだ。
蛇は蛇神に。
精霊は神霊に。
鬼に与えれば鬼神と化す。
「ってことはお前はあの蛇より強いのか?」
「当然だ。私は"東側階層支配者"。つまり東の四桁以下コミュニティ全ての頂点に立つ者だ。そんじょそこらの神と同レベルに考えてもらっては困る。」
胸を張り宣言する白夜叉。
"最強の支配者"
その言葉に眼を輝かせる、十六夜、耀、飛鳥。
「……そう。つまり貴女に勝てば実質私達が最強になるということかしら?」
「無論そうなるな。」
「いいなそれ。手間が省けたぜ。」
三人は勢いよく立ち上がり、白夜叉に対し不敵な笑みを浮かべる。
「挑戦欲のある童たちだな。だが、面白い。」
白夜叉もそれを受け入れるかのように彼らに見回す。
それに気づいた黒ウサギは焦り始めた。
「ちょっ、白夜叉様!?それに御三方まで!エ、エミヤさんも止めるのを手伝ってください!」
今までのやり取りを傍観していたエミヤは、黒ウサギに苦笑した。
「まあ、まちなさい黒ウサギ。これもまた経験だ。」
オカンに見捨てられた黒ウサギが落ち込む中、彼らの話は進む。
「そうかそうか。私相手に勝負を挑むか。ーーーーーだがその前に一つ聞きたい。」
そう言って立ち上がり、"サウザンドアイズ"の旗が記されたカードを取り出し"壮絶な笑み"を彼らに向け宣言する。
「おんしらが望むのは"挑戦"か?それとも
ーーーーーーーーーー"決闘"か?」
瞬間、景色が様変わりした。
回る視界。様々な景色が視界の端から端へどんどん移っていく。
そして視点が定まる。
ーーーーー一面雪景色に染まった世界。遠くには、巨大な湖畔、その奥は雪で染まった山脈が白夜に照らされ幻想を醸し出す。
余りの現象に呆然とする三人と、驚愕しながらも冷静に考察するエミヤ
(私と同じ…ではないな。これは空間転移に似た力か…
魔法の域に到達する力をこうも軽々と連続でこなすとはな。これは、流石に彼らも分が悪いだろう。)
そんな彼らを尻目に白夜叉は笑みを絶やさず、彼らを圧倒する。
「今一度名乗ろう。私は" 白き夜の魔王"。太陽と白夜の星霊・白夜叉。
おんしらが望むのは試練を受ける"挑戦"か?それとも。対等な"決闘"か?」
そう言って彼女は両手を広げ、君臨していた。
次いで十六夜も意識を戻した。普段とは違った雰囲気で彼もまた冷静に状況を分析する。
「水平に廻る太陽……そうか。"白夜"と"夜叉"。あの廻る太陽やこの土地は、差し詰めお前を表した世界と言うことだな。」
「如何にも。この白夜と湖畔、雪原の世界こそが、私のもつゲーム盤の一つだ。」
星霊と呼ばれる、惑星以上の星に存在する主精霊存在する。妖精、鬼、悪魔などの中でも最上級の種である。
そして"夜叉"のと言う水と大地、鬼神を示す"神霊"。
数多いる英霊の中でも神霊として存在する者は多くない。
そんな二つの面をもつ白夜叉は、箱庭にいる魔王の中で上位の存在だろう。
「さて、そろそろ決めようではないか。」
彼女は笑みを絶やさない。
オカンが進化した。