堕ちてきた元契約者は何を刻むのか   作:トントン拍子

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 今年もよろしくお願いいたします。

 前回、年末中に全話追記修正すると言いましたが、諸事情で大怪我をしてしまい。更には風邪をひくダブルパンチでモチベーションがマリアナ海溝まで落ちていました。
 ですので先に書き上げられるこちらを投稿した次第です。ええ、言い訳ですね。すみません。
 今回、時系列が飛び飛びになっています。簡単に説明すると現在→過去→未来の順です。
 それと、今回序盤でポエマーでセンチメンタルな王子が登場します。お気をつけ下さい。

 では、さらっと読んでください。


第一章十一節 結論 (編集中)

 

 

 

「━━━…」

 

 鼻孔をくすぐる香りに目が覚めた。

 衣服だけを身に付けて薄布と雑多な物で無理矢理仕切られた男用の寝床から出る。

 本来なら寝起きの軽い運動も兼ねて素振りでもするのだが、忌々しいことに剣はハリガン(説教魔)に取り上げられてしまった。

 

(…)

 

 とはいえ傷の完治には今少し時間が掛かるし、無理に体を動かそうものなら確実にあの喧しい小言が飛んでくる。

 

(……)

 

 かといって寝直す気にもなれず、この手持ち無沙汰をどうするかと僅ながら悩む。

 

(………)

 

 まぁ、気晴らしに少し外へ出るくらいならいいだろうと早々に結論付けて寝室の出入口へ足を向けた。

 何とはなしに視線を横に向けると、並べられている寝台に魔女が三人ほど寝入っている。昨夜から監視役をしていた奴等か。

 一人は布にくるまる様に寝ており、残りの二人は寸分違わぬ同じ格好で布を軽く蹴飛ばしている。

 いくら双子とはいえ、ここまで寝相が似るものなのかと一瞬疑問が頭を過ったが、それを振り払い扉の取っ手へと手を掛けた。

 そのまま寝室から広間に出ると鼻孔をくすぐっていた香りの正体を知る。飯を作っていたのか。

 

「あ、えと……その…カイムさん、お、おはようございます」

 

「…おはようございま、す」

 

 外への出入口から少し離れた場所に備えられている小さな厨房で飯の支度をしていたノノエルとレラが俺に気づいて挨拶をしてくる。

 こちらもおざなりに返事を返して外へ向う。

 

「あ、ぁの!姉様から、その、ええと、カイムさんを外へ出すなと言われているんです…」

 

 扉を開ける直前、まるで栗鼠の様におどおどしながらノノエルが俺に制止をかけて、

 

「で、ですから寝室に戻るか、そちらの椅子に座っていただけないでしょうか?」

 

 なんとも申し訳なさそうにそう促してきた。

 

「…少し、外の空気を吸うだけだ。すぐに戻る」

 

「ですけど…」

 

「それなら、ついでに食事の支度が出来たと報告してきてくれませ、んか?望楼にいるセレナに言えば姉様達を呼び戻してくれま、す」

 

 俺とノノエルのやり取りを見兼ねたのか、レラがそう提案してきた。

 

「………わかった」

 

「お願いしま、す」

 

 口調こそ丁寧だが、向けてくる視線には警戒心がありありと宿っていた。

 出会い頭が“ああ”だったのだからこの態度も必然といえるし、俺も関係を改善しようとも好かれようとも思っていない。

 俺と魔女共の関係は利害の一致による共闘だ。それ以上でも、それ以下でもない。

 レラに言われた通り望楼の梯子を登り見張り台まで行くと、端の方に設置されている小さな鳥小屋でセレナが数羽の伝書鳩を世話していた。

 

「カイムさん?おはようございます。どうしたんですか?」

 

「言伝てだ。飯の準備が出来たそうだ」

 

 そう言うと、セレナは太陽の位置を確認して頷いた。

 

「そんな時間でしたか。分かりました。今、姉様達に知らせます」

 

「あいつ等は?」

 

「昨日、と言うか寝る前に話していた通り斜面の麓にいますよ」

 

 それを聞いて見張り台の斜面の見える手摺へと向かう。

 そして、

 

━━━そこから見える景色に暫し目を奪われた

 

 何処までも見透せそうな澄み渡った青空。浮かぶ雲は上質な絹のようで、決して空を汚すことなく更にその青を栄えさせている。

 下を見下ろせば茫洋として少し起伏のある荒野。人の手で荒れたのではなく、自然とこうなったのであろうそれは己の雄大さを誇るように見せつけてくる。

 その先に荒野と同じく広がる森林は、此方の森と同じく青々と繁り、合間を流れる大河は日の光を反射して白く輝くことで大地に華を添えている。

 続く大地の最奥には、残雪を残した高峰が外界を遮るように連なっていた。

 

(あぁ…、違う)

 

 昨夜は月明かりしか無かった為、殆ど何も見えず分からなかったが、ここに来て、初めて、俺は異世界に来たのだと実感させられた。

 違う、違いすぎる。此処は、この世界は【生きている】。病魔に冒されるように、徐々に【死に絶えていった】あの世界ではない。

 

(「あいつ等」もこの世界に来ているのだろうか?)

 

 自分がこうやって来ているのだ。その可能性は十分にある。

 それとも、まだあの赤い世界で竜共と戦っているのだろうか。

 力及ばず竜共に━━━━━━、

 

(………)

 

 目を瞑り、頭の中を全て振り払う。もう、俺には関係の無いことだ。

 今更なにを、

 

「どうしました?」

 

 いつの間にかセレナが一羽の伝書鳩を携えて俺の隣に来ていた。

 

「……何でもない」

 

「?。…ほら、行っておいで」

 

 そう言って伝書鳩をハリガンの下へと送り出す。脚には書簡ではなく色の付いた布切れが巻かれていた。

 鳩が飛んでいった先ではハリガン達が死体の処理をしている。数が数なので焼くよりも幾つかの大穴を掘って埋めているようだが。

 そこには一際大きなモノが穴を掘り、埋めていた。

 

「…【木巨人(ゴーレム)】か」

 

「ゴーレム?……あぁ、木偶人形の事ですか。すごいでしょ!姉様が操っているんですよ」

 

 誇らしげに胸を張るセレナを尻目に、俺の脳裏には耳障りの良い建前を口にする子供(セエレ)と、それを守護する土塊の巨人が過った。

 ただ、細かく指示を出している所を見るに、ダニ共が使役していた自我の無い“それ”に近い様だが。

 

「カイムさんがいた場所でも木偶人形(ああいうの)っていたんですか?」

 

 好奇心を目に宿してセレナが聞いてくる。

 この砦にくる途中でもそうだったが、狭く閉じられた魔女達の世界では“この手の話”は誰もが興味を持っているようだ。

 

「いたな。何体か切り伏せもした」

 

 向こうは木ではなく岩だったが。

 

「………え゛?」

 

 顔を引き攣らせて驚いているセレナを無視して下を観察していると、伝書鳩がハリガンの下へたどり着いたようだった。

 遠目なので分かり難いが、こちらに向けたハリガンの顔は歪んでいるように見える。

 

「カ、カイムさん?キリフセタって、もしかして一人で…「先に戻っている」ちょ!?カイムさん━━━!」

 

 喚く声を背に望楼を後にする。これ以上此処にいても良いことはない。

 ハリガン(あれ)の小言は、あの【妖精(フェアリー)】程ではないにせよ煩わしい。

 それに、この後は忙しくなる。ナーガが提案した【策】を実行するのなら俺も力仕事以外で駆り出されるだろう。

 

(手並み拝見だな)

 

 次の戦闘では“直接戦うことのない”俺はそう思いながら居館へと戻っていった。

 

 

 

「まったく、お主は━━━」

 

「あぁ…」

 

 開いた傷の手当てしているカイムとそれを手伝っているハリガンとケイを見ながら、俺は次に来るカサンドラ軍の事を考えていた。

 

「…だいだい、お主は━━━」

 

「そうだな…」

 

 おそらく次は威嚇だけだ。此方も手を出さなければ向こうも仕掛けては来ないだろう。

 

「そ・も・そ・も、お主は━━━」

 

「悪かった…」

 

 そうすればお互いに被害は出ない。だが、それでは此方が不利になるだけだ。

 

「それなのに!お主は━━━!」

 

「重々承知した…」

 

 奴等の狙いは何だ。(ここ)を落とさないのは何故だ。時間稼ぎをして何の利がある。何かを待って、

 

(ん?何かを“待っている”?………あっ、)

 

━━━やべぇな

 

「~~~~━━━!」

 

「………」

 

「なぁ、もうその辺で許してやれよ」

 

 流石に聞き流すのも疲れてきた。というかカイムの奴、自分の棒読み(言葉)がハリガンを焚き付けていると気づかないのだろうか。

 

「何故だ!?この馬鹿者には今、此処で、きちんと灸をすえてやらねばならぬ!」

 

「カイムとて悪気があってやった訳じゃない。結果だけを見ればそいつの傷が開いただけで、二百もの軍勢を退けたんだ。俺達の完勝だよ、か・ん・し・ょ・う」

 

「ぐっ、しかし…」

 

「ほれ、カイムも」

 

 そう言ってカイムに振る。っておい、何でそんなうんざりした顔してんだ。こちとらお前のために言ってやってるんだぞ。

 

「……すまなかった。勝手に先走ったことは謝る。今後はお前の指示に添うように行動する」

 

(だから棒読み(それ)を何とかしろ!)

 

「………………次は無いぞ?」

 

「………分かっている」

 

 そこは即答しろ馬鹿野郎。っていうか何だ、見せつけやがって。美女と美少女(別嬪達)が甲斐甲斐しくお前の世話をしてんだぞ。少しは鼻の下を伸ばすか嬉しそうにしやがれ。枯れてんのか。女に興味ないのか。まさかおと、

 

(………いや、止そう)

 

 一瞬、頭を過った“最悪の結論”を消すために頭を振ると、気を取り直して口を開いた。

 

「皆、少しいいか?」

 

 俺の一言で全員の視線がこちらに向く。

 

「さっきも言ったように早くて二日後にはカサンドラ軍の本隊がやって来る。奴等の目的は俺達を調子付かせないための威嚇だ。こっちが手を出さなければ、おそらく向こうも出してこない」

 

 まず、再確認も込めて話を切り出す。

 

「そうだったな。吾等も下手に仕掛けて被害を出す必要はない」

 

 ハリガンが頷きながらそう返してくる。

 それに対して俺は、

 

「その上でだ、単刀直入に言う。その本隊を“潰したい”」

 

「………どういうことだ?」

 

 ハリガンの声は低く、目も鋭く細められている。

 

「間違いなく奴等は“何か”を狙っている。その“何か”は時が経てば経つほど俺達にとっては不利になる事柄のはずだ。そうなる前に奴等を撃退して、その企ての芽を摘みたい」

 

「ナーガさんの考えすぎで、は?」

 

 レラがそう口にするが、俺の中ではそれは否だ。

 

「あぁ、これは俺の想像で妄想だ。だが、カサンドラ…っていうか人間は魔女(あんた等)を滅ぼすつもりなんだろ?あれだけ人数を集めてやることが何時もの小競り合いじゃ割に合わん。この戦(これ)はあんた達を滅ぼす為の工程(下準備)だ」

 

「じゃあ、あいつ等の“何か”って何なのよ?」

 

「流石にそこまでは分からん」

 

「…馬っ鹿じゃないの。自信満々に言っといてなによそれ?」

 

「あー…すまん」

 

 こちらを小馬鹿にしてくるユウキに謝るが結論はもう出ている。

 だが口にはしない。今は目の前の事に集中させたいし、二百四百でこの騒ぎなのだ。

 馬鹿正直に話して大騒ぎになったあげく、こっちの話が有耶無耶になるのだけは避けたい。

 

「ハリガン、最後の判断はあんたに任せたい。どうする?」

 

 そう締めくくり、ハリガンを見る。できれば首を縦に振らせたいが向こうがどう出るか。

 暫しの間ハリガンは目を瞑り、開くと厳かに問いかけてきた。

 

「………吾の問いに答えよ。一つ。勝てるか?」

 

「勝てるとも。勝たせてみせる」

 

「ほう、随分な自信だな?」

 

「でなけりゃ言わん。だが、相応の危険は覚悟してくれ」

 

「二つ。どの様に戦う?」

 

「ちょっとした“小細工”と、あんた等の魔法で戦う」

 

「そこは「自分が戦う」と言わんのだな…」

 

「カイムみたいにか?己の分相応は弁えてるつもりだ。俺にはそいつの真似事はできん。…だが」

 

 自分の頭を指で突つき。

 

「そいつが【武】を以て奴等を退けたのなら、俺は【智】を以て奴等を退けてみせよう」

 

「大きく出たな。…三つ。もし失敗して、その上こちらに死者が出たらどうするつもりだ?」

 

「その時は八つ裂きにするなり、谷に落とすなり好きにしてくれ。言い訳も抵抗もしない」

 

「ふむ…。最後だ。何故、そこまでする?」

 

「最初に会った時に言った筈だぞ?右も左も分からんこの世界(場所)であんた達は俺を救ってくれた。ならばその恩に少しでも報いたい」

 

 それを最後に暫く俺とハリガンは見つめ合う。向こうは探るように、俺は嘘偽りないと示すように。

 重苦しい空気の中、カイム以外は不安そうに俺とハリガンを交互に見ている。

 

「……くっ、くくっ」

 

 沈黙を破ったのは向こうだった。

 

「くくくく、あーはっはっはっ!」

 

 突然笑いだしたハリガンにこの場にいた魔女達は目を白黒させる。

 

「あ、姉様?」

 

「ぷっ、くふふふ…。いや、すまぬ。少しでも言葉を濁したり、目を背けるようなら即座に却下していたが、これはこれは。くくく、良いだろう。お主の言う通り、あやつ等と一戦交えようか!」

 

「有り難き幸せ」

 

 頭を下げる。

 

「………ではなかった」

 

「?。何て言ったんだ?」

 

 ぽつりと呟いたその言葉はうまく聞き取れず、聞き返してもハリガンは「何でもない」と濁すばかりだった。

 

「では、お主の策を聞かせよ。吾等は何をすれば良い?」

 

「あーっと、その問いを問い返して悪いんだか」

 

 俺を信じて策を任せてくれたのなら、全身全霊をかけてやってやろう。

 俺は顔に不敵な笑みを浮かべて、

 

「あんた等、何ができる?」

 

 

 

「…はぁ?」

 

 日が傾き、空を赤く染め始めた頃、帰ってきた偵察隊の報告に我ながら素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「あー………すまん。年のせいか、耳が少しおかしくなったようだ。もう一度言ってくれ」

 

 そう促すと偵察隊の隊長は何とも形容しがたい顔つきのまま口を開いた。

 

「心中お察しします。…我等が斜面の麓に到着した時には既に死体は埋葬されていました。その上、魔女共は砦へと繋がる斜面に【防護柵】を建築していたのです。一つや二つではありません」

 

 防護柵は一定の間隔で斜面半ばまで作られていたらしい。できれば幻聴であってほしかったが、どうやら現実は非常なようだ。

 そして、魔女共は偵察隊(こちら)を追い払うこともせずに黙々と柵を作っていたと報告を締めくくった。

 

「それと、遠目ではありましたが男の姿も確認しました」

 

「噂のカイムとやらか。どうだった?」

 

「それが……、ミゲル殿から聞いていた情報とは全く一致していませんでした」

 

「何だと?」

 

 またしても予想外の報告に眉を顰める。

 

「どんな奴だった?」

 

「はっ、遠目からだったので細部までは分かりませんでしたが、十代程の若者で髪の色は黒、身に付けている衣服は何と申しましょうか……色鮮やかな、神官が着る衣のような物を纏っていました」

 

「………」

 

 額に手を当て考える。どういう事だ。男がいるのは間違いない。件の防護柵もそいつの入れ知恵だろう。

 あのミゲルがホラを吹く理由もない。

 だとしたら、男は、

 

「二人いるのか………?」

 

 そんな結論が呟きとともに口から漏れた。

 

「ライバッハ殿?」

 

「…何でもない。ご苦労だった。明日は本陣(ここ)の番を任せたぞ」

 

 部隊を割いて第二中隊の生き残りをエイン砦に送っている第六中隊は、その数を半分まで減らしていた。

 故に、明日は後詰めとして本陣に駐留することになっている。

 

「はっ、お任せください。では失礼します」

 

 偵察隊の隊長が天幕を出ていった後、俺は天井を仰ぎ、本日何度目になるか分からない溜め息を吐き出した。

 

(何もかもが非常事態だ。………嫌な予感がする)

 

 昔から、こういった時の“(それ)”は外れたことがない。

 

(だが今更退けん。やはり第一中隊(俺達)が先陣に立つべきか?)

 

 中隊長になって日の浅いアクレイムでは少々不安が残る。だが、あいつの意気込みや面子を潰しては今後に支障が出るかもしれない。

 主に貴族()からのやっかみで。

 

(まったく、こういう時【外様】は辛い)

 

 クリフ(ボンボン)が死んだことで降格は確定だが、これ以上の失態は下手をしたら物理的に首が落ちかねない。

 答えの無い答えを頭の中で解きつつ、胸に湧いた不安を押し殺す。

 

 

 

 そして翌日、魔女とカサンドラ軍の二度目の開戦が静かに幕を開けた。




 次回はいよいよ第二戦です。
 何度か申し上げていますが、この作品に出てくる。戦術、戦略等は作者の浅い知識を元にしたファンタジー○○です。余りハードルを上げずにお待ちください。
 後、ゴーレムの当て字は作者の弱い頭ではこれが限界でした。

 では、また次回お会いしましょう。
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