『堕ちてきた元契約者は何を刻むのか』
第二章開幕です。
今年も拙作をよろしくお願いいたします。
第二章からは冒頭の視点がカイムからナーガへと変わります。
だらだらとした日常回ですが気軽にお読み下さい。
あと武器物語にも書きましたが活動報告に人物紹介を書きました。
気が向いて時間があればお読み下さい。
『…聞いたか?また___がまたやらかしたらしいぞ』
『___は
声が聞こえる。
(…誰だ?)
『__何をなさっているのですか!貴方様は将来この___を背負うのですぞ!恥ずかしくないのですか!?』
『__……その様な
また聞こえた。これは、
(俺に、言っているのか?)
『ああ…この子は大きくなるにつれ、何故あの様な
『
いくつも声が聞こえてくる。そのどれもが、
(俺への悪態…か?)
滝のように様々な声が耳に流れ込んでくる。
しかもその全てが俺への悪態だ。
嘆き、侮蔑、不快、困惑、軽視、
(………耳障りったらありゃしねぇ)
途中で耳を塞いでみたが、そんなことで声が遮られることもなく頭の中にまで響いてくる始末だ。
『あの_つ_では__家は衰退するだけだ!やはり__様こそが…』
『しっ、声が大き過ぎるぞ。ああ見えて
誰も彼もが似たような事ばかり、次第に頭や体の中が
(黙れ、_つ_はお前らの方だ。積もった埃を払うことも出来ない物置共め)
『_様、__様は_様に期待しておられるのです。どうか、どうかその様な言動は……』
『家格とは礼節と品位を持ってこそ
疑問に思って何かを言う度に、
疑問に思って何かを行う度に、
(あーあー
『_つ_』
別に俺は先祖方が積み上げてきた
『__け』
ただ、時代は変わる。
それに適応出来ないモノは
『う__』
埃は払わなくてはならない。
それなのに、まるでそれを至宝とでも言うように積み上げて行く。
『_つけ』
馬鹿らしいバカらしいばからしい。
だから
だから
『う_け』
奴等の反応は皆同じだ。
そして陰で俺を馬鹿にする。
『うつ_』
お前等が俺を理解出来ない様に、俺にはお前等が理解出来ない。
何故だ、何故なんだ。
『
もういい、聞き飽きたし疲れた。
誰も耳を貸さないのなら、誰も信じてくれないのなら。
(もう、
「ほう、___よ、その話、もう少し詳しく言ってみろ」
いや、
「…くく、はははは!そうかそうか古臭いか!これは一本取られた。はっはっはっはっはっ!」
__殿だけは聞いて、笑ってくれた。
「決めたぞ吉__。お前が継げ、お前がこの_田家を大きくしてみせろ」
あの時の__殿の顔が今でも目に焼き付いている。
(ああ、ああ!任せろ
歪みそうになる視界を同じ様な
認めてくれた親父殿のために、
信じてくれた親父殿のために、
(その為ならば、俺は━━━━)
「んっ………んん~…朝か」
床から起き上がり伸びをする。
妙な夢を見た気がした。ずいぶん胸糞悪かったが不思議と不快ではない。
嫌な夢だったが忘れようとは思えない、そんな夢。
「………」
初夏のせいか寝汗で少し気持ち悪い。
洗い流そうと
「………」
数度水を頭からかぶると、程よく
(たぶんアレは……俺が忘れた【過去】だ)
もう
あまり良い扱いはされてなかったのだろう。
うつけうつけと蔑まれて、馬鹿にされて。
(だけど___だけは………………
思い出そうとするが、もはや
(駄目だ……思い出せ。きっと、それだけは忘れちゃ駄目だ)
必死に頭の中の霧をかき分けるが、大切なそれは煙の如く消えてしまった。
(陰口だけはしっかりと覚えているくせによ)
ああ、我ながら腹が立つ。一番忘れてはならないものを忘れてしまう己に腹が立つ。
「……くそっ」
気付けば唇を噛み切っていた。
口の中に鉛の味が広がっていく。
「………」
落ち着け、思い出せないものは思い出せない。
そんなものに時を
そう自分に言い聞かせて大きく息を吐きだし、水気を払うように髪をかきあげで意識を切り替える。
「
持ってきた上着と
俺達がカサンドラを追い払い、本拠地である三の砦に戻って2日。
一の砦にはクゥ、リンネ、リンナと入れ替わりで今はレラ、ケイ、セレナ、ユウキが詰めている。
本来ならユウキまで残る必要はなかったのだが、とある
(そういやケイも
ケイに関しては又聞きなのだが、どうやらカイムに用向きがあったらしい。
しかし、こちらはユウキと違って長であるハリガンからの
「……ん?」
あれこれ
カイムだ。
「朝っぱらから元気だねぇ」
そう呟きながら素振りをしているカイムを少しだけ見学することにした。
上着を脱ぎ、まだ幾らか包帯が取れていない上半身と
(しっかしアレだけの大怪我がもう
中段から
あの傷の深さは治療してから5日6日程度で治るような代物ではなかった。
しかし、現に深手だった箇所以外の傷は癒え、
袈裟、逆袈裟、
もはや俺達とは【別種】の生き物だと言われても納得してしまいそうだ。
右斬り上げ、逆袈裟、払い、払い、唐竹、中段。
(これで一通りか。すげぇな、あれだけ速く激しく振り回してるのに剣筋も体の芯もまったくブレてねぇ)
淡々としているが作業になっておらず、一太刀一太刀全てに必殺の意気が込められている。
やっているのは基礎振りだけだが、これだけでカイムの技量の高さが分かる。
初めて会った時は実践仕込みの荒っぽい剣術だと思っていたが、真実はその逆。
今観ている極限まで練られた基礎こそがこの男の剣術の
「さてと」
見学を中断して、馬の方へと歩き出す。
広場の片隅に急造で作られた簡易の
「おはよう風雲、稲妻。ちょっと待ってな」
挨拶返して広場の近くに流れている小川から水を酌んでくる。
酌んできた水を布に含ませ絞る。
「飯の前に
そうして風雲の顔を拭こうとすると、
━━━カプリ
「痛ぇ!?いってぇ!?い、稲妻、頭を噛むな!痛い痛い痛い!わかった、わかったから!お前からな!だから噛むな!」
稲妻に頭を噛まれた上、髪を唾液まみれにされた。
これが
のんびりした風雲とは反対に
互いに仲が悪い訳でもないのに稲妻が一方的に風雲と張り合っている。
餌はより多く食べ。
走ればより速く、長く走ろうとする。
今の手入れにしても自分の方が優れているのだから
「ったく、この
軽く悪態ついて目ヤニ取りから始める。
それが終わると顔を拭き、そのまま首、
次に倉庫で埃を被っていた古びた
仕上げに
「ふう…」
およそ半刻(約一時間)かけて二頭の世話が終わる。餌はハリガン達がまだ起きてこないので後回しだ。
唾液が乾いてとんでもないことになっている髪を小川でせっせと洗い、広場に戻ってくるとカイムはまだ訓練を行っていた。
(まだやってんのかよ?あそこまで行くと気狂いだな……)
流れる落ちる汗と共に包帯から血が滲んでいるが、それをまったく意に介していない。
もはや執念すら生易しい程の気迫だ。
今は素振りを終え、一人稽古へと移っている。
(…さっきと違って
素振りの時は完成した、ある種の美しささえ見せていたカイムの剣術は、見違えるほど荒々しいモノへと変貌している。
けっして
その証拠に先程と同じく剣筋も体の芯もブレていない。
「………」
少し、
「………」
俺には気づいているだろうが、眼中に入れていないカイムの死角を突くようにゆっくり移動する。
「………」
ついでに親指程の小石をさり気無く拾う。
「………」
そして、カイムが俺に真後ろを向けた瞬間。
(そら!)
小石を
「…!」
しかし、小石が頭に当たるより先にカイムが振り向き様にそれを両断する。
「
拍手と共に喝采を送る。
対して邪魔をするなと言わんばかりにカイムは睨みつけてきた。
「おはようさん。精を出すのも良いがそろそろ終いだ。またハリガンの
そう言ってやるとカイムは別の形に顔を歪め、剣を下ろす。
そのまま近くの木に立て掛けてあった鞘へ剣を戻し、代わりに用意していた布を手に取ると汗を拭き始めた。
「もうすぐ朝飯だ。一緒に戻ろうぜ」
「……先に行け」
こちらの提案をバッサリ斬り捨てるが、
「んなつれないこと言うなよ。どうせ飯食った後も俺やハリガンと
そんな俺の返しに盛大に舌打ちをすると、
「厄日だ」
そう呟いた。
「馬鹿言え、ユウキが戻ってくるまでは
ユウキに頼んである用事の
この
「何をしていようと俺の勝手だ」
汗を拭き終わり、上着を着るとカイムはそう言い捨てて歩き出した。
「ったく……あんた絶っ対友達少なかっただろ?顔は悪くないんだからもう少し愛想ってものをだな━━━」
呆れながら後を追うように俺も続く。
雲一つない晴天の下、次の戦いに向けた安息の日が始まった。
DODとのクロスなのに全然戦闘シーンがなくて、落ち龍とのクロスなのに女っ気が全然ない………。
野郎二人がただ駄弁ってるだけ………。
やめて!石投げないで!
これから!これから敵も味方も大暴れさせるから!
ホントダヨ?ホントダカラネ?
では、また次回お会いしましょう。