堕ちてきた元契約者は何を刻むのか   作:トントン拍子

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 お久しぶりでございます。

 しばらく振りの投稿なので文脈が雑かもしれません。
 展開も強引な所がありますが何時ものご都合主義と思って下さい。

 それでは気軽にお読み下さい。


第二章三節 苦悩

 

 

 

「どうだ?」

 

 カイムとの講義が終わり昼食を食べ終えた後、俺とハリガンは広場に移動してとある【試しみ】を行っていた。

 

「……慣れないというのもあるが、思った以上に魔力も集中力も削られるな、これは」

 

 顔に一筋の汗を流しながらハリガンは目の前にある二十体の木偶人形へ視線を向けた。

 元の大きさから比べれば(ずい)(ぶん)小さい、俺の背丈の()()程しかないそれらは手に槍に見立てた(なが)(ぼう)を構え、隊列を組んでいる。

 

「現状でも無理をすれば倍の四十、いや、五十は操れるだろうが、どうしても動きが単調になる上、吾自身も身動きが取れなくなるぞ」

 

 この小さな人形達にやらせた事は槍を構えたまま前進し、突く。隊列を二つに分けて別々の動きを幾つかさせた程度である。

 

「魔法も(ばん)()(ばん)(のう)って訳にはいかないか………じゃあ、これが槍でなく弓なら?」

 

「やってみなければ分からんが、槍でこれなら………………おそらく二十が限界だ。矢も飛ばせるだけで狙いをつけるなぞ論外だろうさ」

 

 何故こんな事をハリガンに試させているかといえば、次に来るカサンドラ軍に備えて一の砦の防衛力を何とか底上げ出来ないかと考えた為だ。

 魔女達(こいつ等)の魔法は確かに強力だが、その一方で戦い方は()(せつ)で単純だ。

 先のカサンドラ戦の折りに俺やカイムが来る前はどんな戦い方をしていたのか聞いてみたが、

 

大断崖(地形)のお陰で奴等は正面突破を余儀なくされてるし、それを()()()()を使って蹴散らすのは、まあ、理には(かな)っている。だが、それはあくまで()()()()()()だから可能な戦法だ)

 

 数が百、二百程度ならそれでも良い。討ち漏らしも他の魔女達に狩らせれば問題ない。

 では、数が五百や千ならどうか?相手も手痛い被害を(こうむ)るだろうが、まず間違いなく此方が負ける。

 先の戦で使った策とて奥の手も奥の手、そう何度も使えはしない。

 

(何より砦の外壁が石造りではなく木造なのが痛い)

 

 もしも弓が届く距離まで接近され火矢を放たれたら、その時点で大勢が決する。

 天候の関係でその手の方法が使えない事もあるだろうし、ノノエルの水魔法で外壁を湿らせるなんて手もあるが、それだけに頼る事などできない。

 そも、毎回毎回都合よく雨が降るなど有り得ず、毎度毎度ノノエルを戦場に連れて来れる確証など何処にもないのだ。

 第一、俺自身そんな都合や運任せなど死んでも()(めん)である。

 ならば戦う魔女の数を増やせばいいのではないかと思うが、その数がまったく当てにならない。

 聞けばハリガンの一族は二十そこそこしかおらず、他の氏族もそこまで協力的ではないそうだ。

 敵を捕らえて使わないのかとの問いには、

 

「古くからの習いで戦に男は使えんのだ。…そもそもお主等が吾等と共に戦っている事すら例外も例外でな」

 

 などと苦虫を噛み潰した顔で申し訳なさそうに返してきた。

 思わず「なんだそりゃ!?」と声を荒げそうになったが、俺もめげずに次案として隠れ里にいる()()()()()()()()()者達はどうだと聞いた。

 女手な上、魔法も使えないがそれでもやれることは幾らでもある。

 だが、それに対するハリガンの答えは、

 

「?。あやつ等は隠れ里で狩りや農業に従事しておって戦なぞ出来はせんぞ?それに吾等だけでは賄いきれない物資の調達で手一杯なので連れてくるなど論外だ」

 

 だった。

 駄目だこいつ等、【魔法を使えない】が【戦えない】と同義になってしまっている。

 説き伏せる自信はあるが長らく根付いた考え方を払拭するためにはそれ相応の時間が必要になる。

 今はユウキの報告待ちだがカサンドラと()り合うのは確定しているので、この数日ではどうしても間に合わない。

 

(あれは出来ないこれも駄目………)

 

 腕を組み顎に手を当てて頭の中で幾つかの策を思案する。

 だが、

 

(頭数だ。とにかく頭数が致命的に足りない)

 

 相手と同数などという贅沢は言わない。せめて、せめて魔女の人数があと百あれば確実に勝てる策を打てるのにと唇を噛む。

 

「ところでナーガよ」

 

 いざとなったらハリガンに骨を折ってもらい他の氏族の魔女をかき集めるか、と考えているとハリガンが話を振ってきた。

 

「ん?なんだ?」

 

 思考を中断してハリガンに返す。

 

「お主はあやつみたいに()()()()()()よいのか?」

 

「学ぶ?…ああ、いや、俺はもうちょいゆっくりできる様になってからかねぇ」

 

 その言葉に先日の報酬の件を思い出した。

 俺は(きゅう)(しゃ)を作ってもらったが、カイムの願いは本当に意外なものだった。

 

「たしか『お前等の文字と言葉を教えてくれ』、だったか?あの(ふう)(てい)からそんな言葉が出るとは予想がつかなかったぜ」

 

 ()()を聞けば本人曰く、元いた世界で各地を転々としていた時、言葉も文字も通じない土地へ行ったことがあるらしく互いに意志疎通が出来なかったせいで()()と面倒事に巻き込まれたらしい。

 

「この()()とて万能ではないのだろう?破れたり()くしたりして一々新しいのを貼り付けるなど面倒だ。ついでに文字を読む(たび)にお前等に頼むのもな」

 

 カイム言う通りである。文字はともかく現時点で俺もカイムもレラの札がなければハリガン達と意志疎通を行うことは困難、というかほぼ不可能だ。

 俺自身カイムと初めて出会った時を思い出す。あの時もお互いに言葉が通じていればあんな切った張ったなどする必要はなかったと。

 

「まったくだ。…まあ、女を寄越せと言われなかっただけ良かったが」

 

 そんな事を思い(ふけ)っていると、ハリガンが僅かな安堵を含ませてそんな軽口を言った。

 

「あいつも自分達の現状が分からんほど(もう)(まい)じゃないだろ」

 

「そうなのか?人が書いた書物にはああいう輩は色も同等に強いと書いてあったが?」

 

 いったい何を読んだのだろうか。

 

「否定はしないさ。大体、男が助平じゃなかったら人の数など今の半分だ」

 

 そう自信満々に返してやるとハリガンは呆れた顔をした。

 

「だからと言って、お主の様に()けっ(ぴろ)げもどうかと思うがな」

 

「正直者と言ってほしいね。それだけあんた達が魅力的なのさ」

 

「むぅ……」

 

 頬を赤らめて少し口を尖らせながら唸るハリガンを見て俺は確信した。こいつ、(おだ)てられ馴れてないな。

 

(実は女でなく男の方が、という可能性もあるが………いや待て洒落にならん)

 

 否定したい、否定したいのだが、あの女への興味の無さがその否定を否定する。

 

(じょ、冗談じゃねぇぞ…)

 

 あの剛力で捩じ伏せられたら俺ではどうしようもない。

 ()すのは大好きだが挿されるのは絶対に御免(こうむ)る。

 

「……さてと、時間を取らせて悪かったな」

 

 小さく(かぶり)を振り、そんな最悪の悪夢を滅多斬りに切り捨ててハリガンに礼を言う。

 

「なに、吾も良い気分転換になった」

 

 そんなやり取りを二言三言()わしてこの場をお開きにしようとした直前、

 

「━━━━!」

 

 遠くから、ユウキの叫び声を聞いた。

 ハリガンと共に広場から一の砦に続く道、の上空を見上げる。

 まだ幾らか距離があるが、ユウキは疲弊しながらも必死の形相でこちらへと向かって来ていた。

 

「…(ただ)(ごと)じゃ無さそうだな」

 

 俺の言葉に返事を返さず、ハリガンは目を僅かに険しくしたままユウキを見据えている。

 そして、悪い知らせとは重なるもので、

 

「姉様」

 

 後ろからアイスの声がした。

 振り返ればユウキに負けず劣らず苦々しい顔をしている。

 

「なんじゃ?」

 

 短い問いにアイスは少し顔を伏せ、数瞬後、腹を括った様に顔を上げて口を開いた。

 

「…長老衆から会合の連絡がありました。大至急姉様も来るようにと」

 

 その言葉に今度こそハリガンは顔を(しか)めたのだった。

 

 

 

 

 

「姉様、考え直しては頂けませんか?」

 

 姉様達が一の砦から帰ってきて次の日の夜、わたしはどうしても()()を認められず、アイスを連れて姉様の部屋に押し掛けていた。

 

「またかランジュよ。カイム(あやつ)の何が気に食わんのだ?」

 

 少々うんざりしている姉様を無視して言葉を続ける。

 

「気に食う食わないの問題ではありません。あの男の危険性は貴女もアイスも身をもって知っているのでしょう?」

 

「………」

 

 わたしの返答に姉様は口元を歪め、アイスはその時の事を思い出したのか顔色が優れない。

 

「今すぐにでも(ここ)から、いえ、この黒い森(土地)から追い出すべきです」

 

 そして、もう何度目かわからない進言を口にする。

 

「……吾の決定に異を唱えると?」

 

 姉様の言葉に僅かだが(けん)が入る

 

「わたしが姉様から任された仕事は一族皆の安全、貴女一人の我儘と皆の命、どちらが重いかと聞かれれば答えは決まっています」

 

「ランジュ!言い過ぎよ!」

 

 隣にいるアイスが声を荒げるが、

 

「ならばアイス、お前は信じられるのか?あの男を」

 

「それは…私は………」

 

 目を見据えてそう返してやればアイスは目を泳がせながら言葉を失った。

 わたしと同じく姉様の片腕で有能ではあるのだが、博愛で(ほだ)されやすいその性格は今この時においては欠点でしかない。逆にわたしはよく合理的で冷淡だと言われるが。

 

「…そういえば、お主の口からちゃんと理由を聞いておらんな。この際だ、全て話してみよ」

 

 わたし達のやり取りを黙って聞いていた姉様がそう口を開いた。暗に、ここでわたしの内にある全てを話せと。

 

「………………」

 

 言っていいものかどうか、らしくもなく少し悩んでしまった。

 

「…正直に言えば、わたしは魔女が滅んでも気にはしません。それが運命ならば仕方ないと思っています」

 

 まるで突拍子もないわたしの言葉にアイスは息を呑むが姉様は眉一つ動かさない。

 

「それでも、我々にも【滅び方】というものがあります。人間達に()()()()。数が減り、最後には()()()()()()()()()()。それはいい。現状では遅かれ早かれ()()は必ず起こります」

 

 どうしようもない程の事実だ。

 わたしを含め魔女の誰も彼もが理解し、けれど目を背けている事実。

 ただ一人、目の前の姉様だけはそれを否定して、存続を諦めていない。

 だが、山火事に一杯の水を掛けたところで燃え広がる炎は消えず、濁流に小石を投げ入れても荒れ狂った流れを塞き止めることなど出来ない。

 そういう事なのだ。わたし達の運命(それ)は。

 

「ですが、危険と知りながらもそれを捨て置き、怪物(バケモノ)()()()()()()()()()()滅び方だけは認めることができません」

 

 姉様の表情は動かない、声も発しない。

 ただただ、静かにこちらを見つめている。

 

「姉様はナーガやあの男の目に光を見た、と言ったそうですね?我々が失ってしまった光を」

 

「ああ」

 

「わたしは……闇を見ました。決して人が宿してはならない(それ)を」

 

 そこで、初めて姉様の表情が少し動いた。

 元々それも承知していたのだろう。その上で姉様はその闇よりも己が見た光に希望を賭けたのだ。

 

(それでも限度というものがある)

 

 姉様達がカサンドラを迎撃に向かった日。わたしは所用で二の砦へと向かっており、あの男を、カイムを初めて目にしたのは姉様達が三の砦に帰ってきた時だった。

 目が合ったのは一瞬、だがあの黒く濁りきった青い瞳を見た瞬間、わたしは恐怖した。

 

 

 

━━━コイツをここに置いてはいけない

 

 

 

 あれは一つ扱いを間違えれば我々に害を振り撒く。それも、取り返しのつかない害を。

 

「ご理解ください。あれは(ゆえ)あれば何の(ちゅう)(ちょ)もなく我々に牙を剥き、殺しに来ます」

 

 今ならまだ間に合うのだ。傷が癒えきってない今ならば力尽くでもあの男を追い出せる。

 なのに、

 

()()()()、だろう?そなたの危惧も最もだが、必ずそうなると決まった訳でもあるまい」

 

「……言葉遊びをする気はありません」

 

 冷静に努めているが自身の声に苛立ちが混じってしまう。

 

「吾とて(ほう)けや(すい)(きょう)で言っているのではない。それに、カイムの本心がどうであれ吾はあやつと約定を交わし、十全とは言い難いもののあやつはそれを守っている。ならば吾も魔女である以上、こちらから約定(それ)を反故にはできん」

 

「姉様…」

 

 わたしが何か言う前に少し表情を柔らかくした姉様は、その目に悪戯心を浮かべながら畳み掛けてきた。

 

「だが、そなたの危惧も分からなくはない。そこでだ、ランジュよ。明日よりそなたがカイムを監視せよ」

 

「………は?」

 

 思わず間抜けな声が漏れてしまった。

 

「そして監視ついでにあやつを見極めよ。カイムが本当に吾等の害と成るか否かを。見極めた上で判断が変わらぬのであれば、そなたの言を聞き入れよう」

 

 あやつを監視するのに丁度良い名目もあるしなと姉様は満足そうに一人頷く。

 

「…わたしの一存で決まるのならば姉様の納得がいかない答えが出るかも知れませんよ?」

 

 あの男を幾らか知ることでわたしが絆されるとでも思っているのだろうか。

 ある種の疑心暗鬼に(おちい)っているわたしが軽く脅しを混ぜながらそう問うと、

 

「その辺りは何も心配しておらん」

 

 即答でそう返されてしまった。

 

「ずいぶんあの男を信頼しているのですね」

 

 そして姉様は、

 

「間違っておるぞランジュ、信頼しているのはそなただ。心と情を優先して動く吾やアイスと違ってそなたは頭と理を優先する。であれば多少私情が入ろうとも吾等ほど大きく見誤ることはあるまい?」

 

「………」

 

 いっそ、愚かと言えるほどの言葉を、愚かと言えるほど真っ直ぐな(気持ち)でぶつけてきた。

 

「流石に余裕が無さすぎだぞ。まったく、普段は(たい)(ぜん)()(じゃく)としているくせに(家族)の事となるとこれだ。アイスもそれでよいか?」

 

「はい。私もランジュの判断ならば信じられます」

 

 そして、アイスもまた、姉様と同じ様に()()をぶつけてくる。

 

(ああ、本当に……)

 

 どうしてわたしの周りには、こんなに手の掛かる人しかいないのだろう。これではわたし一人が駄々を捏ねているようではないか。

 でも、

 

「…二対一、ですか。仕方ありません。その任、承りました。期限は?」

 

 そんな馬鹿正直にわたしを信じてくれるなら。

 そんな馬鹿正直にわたしを頼ってくれるなら。

 

「特にない。そなたの見極めが終わった時だ」

 

 わたしが応えない訳にはいくまい。

 

(アイスのことは言えないな。絆されやすいのはどちらだ)

 

 そんな自嘲とため息を胸の内で吐き出す。

 

「では、明日からあの男の監視につきます。で、先程言っていた名目とは?」

 

 その言葉に姉様は本棚から一冊を取り出した。

 幼子の躾に使う絵本だ。

 

「何、そう難しくはない。あやつに吾等の文字と言葉を教えてやれ」

 

 そう言ってわたしにその絵本を差し出してきた。

 

 

 

 

 

 そして昼食を取り終わった現在、

 

「姉様から貴方に文字と言葉を教えるよう任された。いきなり言葉から教えるのはこちらも骨が折れるので、まずは文字を覚えてもらう。何か質問は?」

 

 目の前に座る無愛想で恐ろしい男、カイムは首を横に振る。

 

「最初は一文字ずつ教える。レラの札を外したらわたしの声を復唱して地面に文字を書いていってくれ………………まずは━━━」

 

 こうして互いに信頼も信用もしていない、わたしとこの男の奇妙な腐れ縁は始まった。




 ええ、最後の辺りは本当に強引でしたね。作者の力不足です。

 今回からこの作品を連載から不定期に変える事にしました。
 まあ、最初から連載の体なんて取れてなかったんで今更なのですが………。

 更新速度は今までと変わりありませんので悪しからず。

 では、また次回お会いしましょう。
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