既にキャラ崩壊してる感じですが御容赦を。一巻分書き終えたら全体的に追記修正するかもしれません。
周りが全て黒に塗り潰されたと思ったら、今度はいきなり水面に叩きつけられ鼻と口に水が流し込まれる。
水面に出ようともがくと、
数度咳き込んだ後、何が起こったのか確認するため周囲を見回し、数瞬思考が止まる。
小高い丘。
木造の簡素な屋根と柱ある素通しの建物。
緩やかな
その周りを囲む青々と
最初は血が流れすぎていて分からなかったが、水だと思っていたソレは温かく、微かに
ここは
いや、それよりも、
(
それだ、あの血のような赤ではない。
フリアエ、【封印の女神】であった妹が死ぬ前の色だ。新たに女神を探し出せたのか。否、ドラゴンの襲来でそれどころではなかったはずだ。それにここは
「…っ」
湯が傷に
体を引き
大きく呼吸を一つ、二つ、三つ。
現状は分らない事だらけだが危機を脱し命を
ならば傷の応急処置をしようとした時、人の気配を感じてそちらに視線を送る。
その先には四、五人ほどの若い男女がこちらへ向かって来るのが見えた。
まず、目に入ったのが女共の格好だ。
踊り子にしては
次に男。こちらは額に呪符のような物を貼り付け、見たこともない衣装を着ていた。
おそらくは女共と同じ民族衣装なのだろうが、見比べると何処と無く場違いな印象がある。
念のため剣を持ち、警戒しながら立ち上がる。
「¢£、%#&*?」
「………§∃∬∇∋∝∠∑¢¥§◎⊂∧⊥」
「∋⇔≡℃@%☆〒∧⊂⊇▲」
「☆§@*&#%£¢$¥℃⊇∋∩⊆、∨」
「≦¢§∝∵‡Å◆$&¥℃*!∈¬∀∂¢@△§§¢!」
こちらに問いかけたり話し合ったりしているが内容が分からない。
連合の共通言語ではないし、帝国のダニ共を殺すために各地を転々としていた時に聞いた原住民の言語とも響きが
眉を
(ああ…そうか………
それを認識した瞬間、意識が、思考が、
元々ごちゃごちゃ考えるのは好きではない。
ならば単純な方を選ぶ。
全快にはほど遠いものの、ほぼ
両手で剣を握り、何時ものように構える。
こいつ等が俺に害を成そうとするのなら、殺し終えてから傷の治療をするとしよう。
━━━
両者にとってこの時は本当に
カイム側は相手との意志疎通が出来ない上、つい先程までドラゴンと己の生存を賭けた【殺し合い】をしていた。
ハリガン側、もといユウキ側も
その脳裏に
出会い頭に敬愛しているハリガンの胸を揉みし抱き、自分の触れられたくない部分にズカズカと踏み込んできたナーガという【男】。
さっさと殺すか森の外へ追い出したかったが、何を思ったのかハリガンはこの男を
先の集まりでも真っ先に、そして最後まで反対していたのだが結局はハリガンに押しきられてしまい失意の底へと落とされてしまう。
そして出会った時から胸の内に溜まり続けている
その直後に
この時は本当に、
(ふむ………とりあえず、レラに通訳の呪符を作ってもらうか)
そう判断を下し、あらためて男を見る。
ナーガの同郷の者かと思っていたが、
年の頃は吾と同じか少し上くらいで鎧も衣服もボロボロ、体の至るところに裂傷と火傷を負っていた。
試しに話しかけてみたが反応が無いところを見るに通じてはおらんのだろう。
仕方なくレラに指示を出そうと思い視線を男から外そうとした時。
(ん?…今、笑った?)
男の口が一瞬、弧を
すると男は剣を両手に持ち右脇へと構えた。
「まて、妙な真似をするな」
警告とともに手で制止をかけるが止まらず、男が一歩を踏み出した瞬間。
━━━身が
後ろから娘達のか細い悲鳴があがり、ナーガも「おいおい…」と平静を
(無理もない)
頭の片隅でまるで他人事のように思考する。
吾自身も十年近く前線でカサンドラ軍や教会の討伐隊と戦い続けており、奴等から敵意や殺意、
慣れきっているはずの
ここまで純粋に、ここまで真っ直ぐに、殺意を向けられたのは初めてだった。
体が竦み、内側から恐怖が全身に
前髪の隙間から見える青い瞳は、その色彩とは真逆に泥沼のように
決してナーガの瞳にあるような
だが、確かにその光は、
(…しまった!)
意識を
降り下ろしてきた剣に対し、瞬時に髪の一束に魔力を通して【鞭】のように振るい、
(なに!?)
弾くどころか、当たらない様に
吾の髪は魔力を通せば一本でも鉄並みの強度となり、質の悪い剣ならば今の攻防でへし折ることも容易である。
余程良い素材を使っているのか、それともこの男の技量か、あるいはその両方か。
男が舌打ちをしながら流れた剣を斬り返そうとした瞬間、
「姉様!」
男も斬り返すのを止め剣の腹で蹴りを受け止め、きれず
この娘の魔法は肉体の劇的な【強化】。
魔力で強化されたアイスの肉体はもはや人外に
男は2ヤルド(約5.4メートル)程飛ばされ
アイスの怪力を見れば恐怖の内に
「…っ!」
「やめよアイス!
剣を構え直した男に言い様の無い危機感が
首を断とうと男が剣を薙ぐが、アイスは身を屈めて剣を掻い潜った。
「ぁが!?」
だが、避けた先で待っていたのは膝蹴りの強襲だった。
肉体の
そして、死に体となり無防備になった腹へ先の仕返しとばかりに蹴りが打ち込まれた。
先程とは逆にアイスが吹き飛ばされる。
受け身をとり咳き込みながら立ち上がろうとするが、頭を揺らされ酔ってしまったのか蹴られた所を押さえながら膝立ちになった。
「アイス!」
「アイス!この、死ねぇ!」
「加勢しま、す!」
ユウキが【風刃】で、レラが【呪符の炎】で攻撃を加える。
男は剣を盾に直撃を防ぐも、防ぎきれなかった肩や脚は切り裂かれ焼け焦げた。
(…?)
妙だ、直撃ではないにせよ二人の魔法を受けたにしては傷や被害が
何故と、それを見極めようとした直後、男の片膝が落ち地面に手をつく。
殺意に気圧されていて忘れていた。吾等がここに着いた時には男はすでに満身創痍だった。
元の傷に加え、新しくできた傷からも血が
荒くなっている呼吸からも男に限界が来ているのが見てとれた。
「これで!」
止めとばかりにユウキが風刃を放つ。男の方も最後の悪あがきをするかのように掌を前へ突き出した。
何を、と訝しむのもつかの間、掌から【魔力】が漏れ出し火が灯る。
それは瞬く間に歪な【火球】となり射ち出した瞬間、風刃を相殺した。
『………』
ここにいる全員が絶句していた。
なぜ男が。魔力を有するのも魔法を行使出来るのも、血を継ぎ、力に目覚めた
(……いや、この男もナーガと同じく異世界から来たのならこちらの常識など
まだ混乱している頭を無理矢理納得させ男に近寄る。
至近距離で相殺したせいで剣を離し後ろに倒れてはいるが意識はあるらしく、頭だけを
こんな
(こやつは…)
そんな男に呆れを通り越して、
「本来なら殺しているところだが……お主には聞きたいことがある。寝ておれ」
そう呟き、歯を食い縛り体を動かそうとしている男の側頭部を拳程の大きさに束ねた髪で強打する。
今度こそ意識を失った男を尻目にアイスに問いかけた。
「アイス、立てるか?」
「はい、もう大丈夫です」
無事を確認し、次の言葉を告げるより早くユウキが口を開いた。
「ハリ姉!はやくこいつを殺さないと!」
「その事なのだがな………このままこやつを捕縛する」
それを告げた瞬間、娘達から
「なに…言ってるの?わたし達こいつに殺されそうになったんだよ!?」
「今回はユウキが正しいで、す!」
感情をせき止められなくなったのかユウキは怒鳴り散らすように反論し、レラもそれに同意する。
アイスは何も告げはしなかったが眉間に皺を寄せて睨むようにこちらを見つめてきた。
「そなた達の気持ちは分かる。しかし吾もこやつに幾つか聞く事ができた」
「目を覚ましてまた襲ってきたらどうするのよ!?」
「その時は吾が責任を持って殺す」
「だからって…」
そう言って
「すまない、だが「…らない」ユウキ?」
言葉を遮り、ユウキが顔を上げた。
目尻に涙を浮かべ、怒りと悲しみが
「もうしらない!ハリ姉のことも!そいつ等のことも!全部どうなってもしらない!」
そう言うと吾の手を払い、砦に向かって走り出す。
「わたしも失礼しま、す」
レラも短く拒絶の言葉を残すとユウキの後に続いて去って行った。
「追わなくていいのか?」
「…今の吾にあの娘等を追う資格は有りはせんよ。それより、そうやって石を持っているのなら加勢くらいしてくれても良かったのではないか?」
そう問いかけると、ナーガは手の中で
「ヤバくなりそうなら使ってたさ。お前さん等に取り上げられた得物でもあれば話しは別だが、下手に首突っ込んで標的にされたくなかったしな」
「なるほど。…アイス、これは吾の
最後に残ったアイスにそう問いかける。
今回の件は全て吾に非がある。魔女としても、一族の長としても。
それでも勘が
一人は吾等の存在をありのまま受け入れ。もう一人は吾等に最後の最後まで諦めず抗い続けた。
そして、何より両者とも魔女を欠片も恐れてはいない。
この男等をこちらに引き込めたのなら、ただ緩やかに滅んでゆくだけだった今の現状を打破し、魔女の未来を掴む切っ掛けになるやもしれないと直感したからだ。
(それも叶わず、こやつ等が吾等の害となるのなら………)
殺す。どんな手を使ってでも。
そう覚悟を決め、改めてアイスを見る。
未だ
「姉様、正直に答えてください」
嘘も誤魔化しも許さないと、その声色は伝えてくる。
「彼等は【必要】なのですね?」
「そうだ、とははっきり言えぬ。強いて言うなら【勘】だ。こやつ等が吾等魔女の何かしらの切っ掛けになるやもしれない。ただ、そう思っただけだ」
こちらも目を
見つめ合い、先程よりも間を置いて、
「………分かりました。とりあえず空き部屋に彼を運んで傷の治療をしましょう。姉様は剣をお願いします」
折れたのはアイスだった。
目を伏せ息を吐き出し、気持ちを切り替えて男を担ぎ運び出した。
「すまぬ」
一度だけそう謝り、落ちている男の剣を拾おうとして、手が止まる。
こうやって近くでまじまじと観察してみるとその
(これは……呪いか?)
もしくはそれに準ずる【ナニか】が憑いているのだろうか。
まるで、
(まさかな…)
小さく
あちらこちらに血糊がつき
「ハリガンまだか?アイスが行っちまうぞ」
「あぁ、いま行く」
ナーガに
その後は空き部屋に男を放り込んで治療を施すと目が覚めるのを待った。
そして、次に男が目を覚ましたのは日が落ちた夜更け前の事だった。
カイムがあっさり負けた事には話の都合上仕方なしと思って下さい。
次話は恐らく来月になると思います。
また次回お会いしましょう。