堕ちてきた元契約者は何を刻むのか   作:トントン拍子

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 どうもお久しぶりです。
 しばらくエタッていたのですがモチベーションが復活したので約一年越しの投稿となりました。


第二章五節 交流 下

 

 

 

「その会合どうしても出なきゃ駄目なのか?」

 

「…本音を言えばこの様な急を要する時に出たくはない。むしろ増援の(ふみ)を送りたいくらいだ」

 

 ハリガンは苦虫を噛み潰しながら搾り出す様に答えた。

 

「だが、今回の会合の議題が議題なだけにそうも言っておられん」

 

 面白く無さそうに手に持っていた紙を机へと投げ捨てると、

 

「『ついてはそちらで捕獲した男二人の確認と対処の報告を()(たび)の会合でされたし』、まず間違い無くスレイマーヤのマンテラ使い経由でスレイマーヤの長(あの性悪)が長老衆に告げ口したのだろうさ」

 

 忌々しそうに吐き捨てた。

 

ハインドラ一族(あんた等)以外に属する魔女に見られたってことか。しかし何時だ?俺等を観察してたのなんざここのチビ共くらいだぞ。カイム、他に見たか?」

 

 その問いにカイムは首を横に振る。俺以上に周囲の気配に敏感なこの男が気付かないとなると、その魔女は相当な手練れだ。

 

マンテラ使い(あやつ)の魔法は少々厄介でな、いくつか制約があるらしいが【指定した場所へ瞬時に移動できる】魔法だ。それこそ三の砦(ここ)より奥地にある隠れ里から一の砦までの距離なぞ造作無い。おそらくは砦を見渡せる場所へ移動して(えん)(がん)(きょう)で覗き見でもしたのだろう」

 

 そりゃまた便利な魔法の使い手で。

 

「……なら余程注意深く周りを探らにゃ分からんわな。ちなみに会合はどれくらいで終わる?」

 

「砦から隠れ里への行き帰りもあるから大体二日、会合が(こじ)れれば三日程だな。だがこの時間を無為にする訳にはゆかぬ。すまぬが此度の戦の()り様もお主等に任せたいのだが…」

 

「承知した。あんたが帰って来る前に幾らか準備を終わらせておくよ」

 

 俺の返事にハリガンは申し訳なさそうに微笑んだ。

 

「助かる。あと、行くついでに向こうでの()()()も済ませたいのだが思いのほか荷物が多くなりそうでな、お主の馬を一頭借りたい」

 

「いいぜ、(かざ)(ぐも)を連れて行きな。稲妻(いなずま)に比べて気性も大人しいから馬に乗り慣れてないあんたでも大丈夫だろ」

 

「重ね重ね礼を言う」

 

「代わりに、と言っちゃあ何だが幾らか魔女を引っ張ってきてくれ。流石に俺達だけで戦ってはただでは済まん」

 

「…全ての氏族は無理だろうが善処する」

 

 そしてその日の内に荷物を纏めるとハリガンは隠れ里へと出発したのだった。

 

 

 

━━━そんなやり取りをしたのが二日前

 

 

 

「なぁ、ハリガン………もう一度言ってくれ」

 

「………………すまぬ」

 

 帰ってきたハリガンを前に俺は笑みを作りながら顔の肉をヒクヒクと(けい)(れん)させていた。

 

「…会合で口論になったのは、別にいい。あんたの事だ、俺達を庇ってくれたんだろ?」

 

「………………」

 

 ハリガンは何も答えない。

 

「でもな、でもなぁ………()()()()()()()()()ってどうゆうことだぁ!」

 

 そう叫んで両拳を机に叩きつけた。

 

「ナ、ナーガさん落ち着いて!」

 

 アイスがそう言って俺を(なだ)めようとしているが、

 

「落ち着け?落ち着けと?ふ、ふはははは!………増援は無し…借りに増援を申し出たならば送るが勝っても負けてもハリガンを含むハインドラ一族の纏め役全員は魔女を退陣、…俺かカイムと(ちぎ)って子を作れと。んで、俺達はその後【追放】か【処刑】の二択。これを聞いて落ち着けと!?ふざけんなぁ!殺し合い舐めとんのかぁ!?」

 

 怒りのままに感情をぶちまけ、近くにあった椅子を全力で蹴り飛ばす。周りの魔女達がドン引きしているが知ったこっちゃない。

 

「はぁ…はぁ…はぁ~………………、すまん」

 

 一言謝る。

 

「いや、お主怒りはもっともだ。それに、お主が怒らなんだら吾が当たり散らしていただろうよ」

 

 その気遣いにもう一度謝り、俺はハリガンの後ろにいる三人の魔女へと視線をやった。

 

「で?そちらの御三方は?まさか義憤(ぎふん)に駆られて助太刀しに来た、って訳じゃないんだろ?」

 

 まだ怒りが燻っているのか言葉に険が入ってしまう。

 

「…監視が二人、物見遊山の阿呆が一人だ」

 

 そうハリガンが皮肉下に言葉を返して向けた視線の先には、

 

「随分な言い草よな?吾がぬしと御隠居方の間に入って調停してやらねば今よりも状況が悪化していたというのに。今代のハインドラは恩知らずの厚顔無恥(こうがんむち)かの?」

 

 独特の意匠の被り物を頭に載せた(よわい)十程の女童(めのわらわ)が性根の悪そうな笑みを浮かべていた。

 正直場違いな印象を受けるがこの女童、いや、この魔女の今の言葉と所作を見れば外見相応の人物ではないのだろう。

 

「それについては感謝している。だが、会合を必要以上に引っ掻き回して増援の件を潰した事は忘れんぞ」

 

(………なるほど、()()()が原因か)

 

 余計な事をしてくれた。という忌々しさよりも警戒心が上回る。今の情報でこの魔女も何処ぞの一族の長で、()()()()()()()()()()

 

「まったく器量の狭い。その立派な胸の大玉は飾りかの?…ん?なんじゃ童、吾の顔に見惚れたか?」

 

 注意深く観察していた俺と目が合い、鼠を見つけた猫の様な笑みで話しかけてきた。

 

「ああ、いや、何でお前さんみたいな子が此処に居るのか不思議に思ってな」

 

 その雰囲気に少々気圧されながら何とかはぐらかそうとしたが、

 

(つくろ)わなくてよい。吾のような美女が何故このような場所に居るのか不思議なんじゃろ?単純に目付(めつけ)目的が半分、ハインドラが見初めた男共を見に来たのが半分じゃ」

 

 鼠は逃げられなかった様だ。

 

「監視はそこの二人だ。それと、こやつはその(なり)で吾よりも年上だぞ」

 

「………うそぉ」

 

 衝撃の事実である。

 

「これハリガン!そう易々と女の歳を言い触らすでないわ!まったく、おまえはそうやって年上を(うやま)わないから損をするのだ」

 

「敬って欲しければ普段の行き当たりばったりの言動を何とかせよ」

 

 そう捲し立てる魔女をハリガンは素っ気無くいなした。

 「可愛い気のない」と軽くハリガンに悪態を付いた魔女は俺の前まで歩み寄り、

 

「…さて、余計な茶々(ちゃちゃ)が入って名乗り遅れたが吾の名はヴィータ・スールシャール・スレイマーヤ。名の通りスレイマーヤ一族の長をしておる。童、ぬしの名は?」

 

 道化な程慇懃(いんぎん)に名を名乗り、

 可憐な程尊大に名を聞いてきた。

 

「なっ!?スレイマーヤ殿!」

 

 名を告げた魔女、ヴィータに監視の一人が慌てた様に声を上げるが、当の本人は意に介さず目線で俺に(命令)してくる。

 

 

 

━━━名乗れ、と

 

 

 

 呑まれかけている気を落ち着け、一呼吸分だけ間を空ける。

 

「…ナーガ。記憶を無くした俺が唯一持っている名だ」

 

 俺の名を聞いたヴィータは反芻するように一度目を閉じた。

 

「ほう……、龍王(ナーガ)ときたか。良き名じゃ」

 

「…以外だな。馬鹿にされるか(わら)われると思ってたんだが」

 

 今までの反応と違い少し面を食らう。

 

「まさか、(あざけ)などせんよ。親が付けたにせよ、自身で付けたにせよ、名とはぬしを(あらわ)す鏡じゃ。名の通りの者になれるかはそやつの奮励努力(ふんれいどりょく)次第じゃがの」

 

「………肝に命じておくよ」

 

 俺の返しに満足したのかヴィータは俺から視線のを外し、

 

ハインドラ(あやつ)もこれくらい素直なら可愛いんじゃが。…で?そちらの奥で恥ずかしがってる色男は?」

 

 次の獲物(カイム)に狙いを定めた。

 

 

 

 

 

「…カイム・カールレオン」

 

 吾等の(うしろ)で壁に背を預けつまらなそうにこちらを眺めていたカイムはそう一言言い捨てるとそっぽを向いてしまった。

 

「カイム?余り馴染みの無い名じゃな」

 

 ヴィータの方も特に気分を害した訳でもなく近付きながらカイムを観察し始める。

 

「……」

 

 鬱陶しそうにヴィータを睨み付けているが、ナーガの時と同様本人は意にも介さない。

 

「やはり近くで見るとナーガよりぬしの方が好みじゃな。その愛想の無い顔を止めれば(なお)………」

 

 先ず言葉が止まり、次いで驚愕に目を見開いた。

 

()()()()()。さて、どう出る?)

 

 アイスに目配せし、何時でもあの二人を止められる様に身構える。

 

「…な、何じゃ?いや、ありえん………ありえん!ぬし、何者じゃ!?」

 

 先程までの余裕が無くなったヴィータはカイムから距離を取ると魔力を循環させ臨戦態勢となった。その目には一切の隙も油断も無い。

 そこには普段の傍若無人(ぼうじゃくぶじん)な道化ではなく、当世(とうせい)【最強】の魔女が姿を現した。

 

「ハインドラ、会合では聞いておらんぞ!どういう事じゃ!?」

 

 カイムから目を離さず、吾に問いかける。

 

「どう、とは?」

 

(とぼ)けるな!吾は何故この男が()()()()()()()()()()聞いている!」

 

 吾の返しに苛立つ様に怒鳴った。

 ヴィータの言葉に監視の二人も驚いてカイムに目を向け、数舜後、ヴィータ同じ様に驚愕と、そして畏怖を顔に貼り付かせた。

 吾等魔女は魔力が宿っている物を感覚的な視覚で見る。普段は相手の力量を(はか)ったり氏族間の縄張りを確認するなど、応用等を含めればその使い方は多種多様だ。

 向けられる視線の数が増えたことでカイムの眉間の皺が少し深くなる。

 

「…()()()()()()()()()()()()。これで満足か?」

 

「貴様………」

 

 横目で睨み付けてくるヴィータを見てやはり会合でカイムの魔力や魔法について言及しなかったのは正解だった。

 魔女とって魔法とは存在意義と同義である。それを魔女ですらない【男】が行使できると知ったならば、思慮の浅い魔女がどんな行動に出るか火を見るよりも明らかだ。

 事実、吾の一族の娘達もカイムを畏怖し、気味悪がって必要以上に近付かない者の方が多い。

 

「魔力を収めよスレイマーヤ。ここでお主に暴れられては大広間を一から造り直さねばならん。それとカイム。分かっていると思うがその阿呆に手を出すなよ?カサンドラの次にスレイマーヤ一族と争うなど御免蒙(ごめんこうむ)る」

 

「………」

 

 面白く無さそうに一度鼻を鳴らたした後、カイムは視線をヴィータから外した。万が一と事前にナーガ共々剣を取り上げておいた事も項をなしたのかもしれない。

 

「随分この男を買っているのハインドラ?今の言い様、まるでこやつが吾を(くだ)せると言っている様にも聞こえるが?」

 

「どうだろうな?だがその男の実力は本物だ。いくらお主と言えどもただでは済まんぞ」

 

「吹くではないか。その法螺(ほら)の根拠は?」

 

「……そやつを拾った時に一悶着あってな。大人しくさせるのに吾を入れて五人の魔女と一戦交えたし、先日の戦ではカサンドラ相手に一方的に大暴れしておったよ。嘘偽りの無い事をハインドラ一族の長ハリガン・ハリウェイ・ハインドラの名に誓おう」

 

 それを聞いたヴィータの目に好奇心の色が灯る。

 

「ほう…、それはそれは………………」

 

 臨戦態勢を解いたヴィータはそう呟いたあと顎に手を当て思案顔になった。

 

「ハインドラよ、会合での()()()()はまだ有効かの?」

 

 時間にして十数秒程だろうか。吾にそう切り出した。

 

「…どんな風の吹き回しだ?会合でいの一番に反対したのはお主だと記憶しているが?」

 

「あの時と今では話が違う。魔力を有する男が居たとなればあそこまで無下にはせん」

 

 好奇心の他にギラギラとした野心も隠そうとしないヴィータを見て何時もの悪癖が出たなと内心ため息を吐く。

 まあ、一番苦労するのはあやつの一族の娘達なのだから吾には関係無いと軽く現実逃避しながら口を開いた。

 

「一応は有効だ。但し、そちらから手の平を返したのだから一切の譲歩はせんぞ」

 

「分かっておる。じゃが会合での決まりで今回は手を出せん。そこは(ゆる)しておくれ」

 

 そこで一度言葉を区切り、ヴィータは真剣な表情で語りだした。

 

「【結果】じゃ。過程もその内容も意味はない、【結果】を出せ。()()()()()()()()()()()()()()()【結果】を此度の戦で証明せよ」

 

「無論だ。吾とて諦めかけていた夢、……理想が叶うかもしれんのだ。こんな所で終わる気は無い」

 

 吾の啖呵に満足そうに頷くとヴィータは監視の二人に視線を向けた。

 

「話は聞いておったな?この事は内密に頼むぞ。特に御隠居方にはの」

 

「な、何を勝手な」

 

 あまりに一方的な物言いに声を荒らげようとした監視達に、

 

「ほう?では事を構えるか?吾等(スレイマーヤ)と」

 

 そう言い放った。

 

「っ………」

 

 その言に監視の二人は言い返せなかった。

 現状あの娘達の一族では戦力的にスレイマーヤ一族には敵わない。

 

「何、別に共犯になれとは言わぬ。ただ此度の戦が終わるまで黙っていて欲しいだけじゃ。戦が終わったのなら長にも御隠居方にも好きに報告するがいい。吾も吾の一族も戦が終わるまでハインドラには絶対に手を貸さん。スレイマーヤ一族の長ヴィータ・スールシャール・スレイマーヤの名に誓おう」

 

 一族の長ではない二人は答えない。答えられない。

 

「ではその段取りで頼むぞ」

 

 沈黙を肯定と(とら)えたヴィータは悪戯が成功したような笑みで止めを言い放った。

 

「…さてと、そっちの話は終わったか?そろそろこっちも始めたいんだが?」

 

 吾等のやり取りを見ていたナーガが声を上げる。

 

「ああ、待たせてすまなかったな。始めてくれ」

 

「よしきた!ユウキ、セレナ、頼んでた物は出来てるか?」

 

「はいはい出来てるわよ」

 

 ナーガの言葉にユウキとセレナが丸めた大きな紙をもってきた。心なしか二人共気怠げで、目の下に(うっす)ら隈を作っている。

 

「流石に丸一日徹夜は疲れたねユウキ。カイムさんもお疲れ様です」

 

「まったくよ。この馬鹿がハリ姉が帰ってくる前に作れとか無茶言うから」

 

 寝不足で少し高揚しているセレナと不機嫌なユウキがそんな事を言いながら中央の大机にその紙を広げた。

 大広間に居る全員が大机に集まりその紙を覗き込んだ。

 

「…これは、地図か?」

 

 それもただの地図ではない。吾等が持っているどの地図よりも格段に精巧な物だ。

 

「そうです。全体を大まかにわたしが書いて細かい修正をユウキが、()からじゃ見つけ(にく)い空地や小道なんかはカイムさんが調べてくれました」

 

「ほう、良く書けてるものだ。場所は………何処じゃ?この様な地形は覚えが無いぞ?」

 

 地図に書かれている土地は森の中の様だが中央に広い道と川、そして橋があり、その左右に小道や小さな空地、獣道等が(まば)らにあるだけだ。

 似たような地形をあれこれ思い浮かべるが(いず)れも一致しない。

 

(………何故だ?何故地図を見ているだけでこんなにも嫌な予感がするのだ?)

 

 この感じはほら、あれだ。カサンドラ撃退の為にナーガとカイムを一の砦に連れて行った時に感じたアレだ。

 思わず周りを見回す。ユウキ、セレナを筆頭に作戦の内容を知っているであろう数人の娘達がジト目でナーガに「ねぇ、ホントにヤるの?」みたいな視線を送っている。

 蛇足だが「どうでもいい」と言わんばかりのカイムの顔に無性に腹が立った。

 

「知らんのも無理はない。此処に書かれているのはあんた等の住む土地じゃなくて大断崖の下にあるカサンドラ軍が進軍してくる道だからな」

 

 そうドヤ顔で言ってのけるナーガ。

 

「……いや待て、何故そんな所の地図がいる?」

 

 その言葉である程度察してしまったが頭が全力で拒否をしたため、惚けた言葉が出てしまった。

 そんな吾の淡い願いをナーガは、

 

「何故って、決まってるだろ。此度のカサンドラとの戦は平地(ここ)で殺るんだよ」

 

 指先で地図を突きながらバッサリと斬り捨てたのだった。




 一年振りの投稿がテンプレ会話回で申し訳ありません。
 落ち龍原作のヴィータの原形が塵になっていることには目を瞑って下さい。と言うかヴィータに限らず拙作に出ている全ての落ち龍キャラに言える事なんですがね………。
 あと、拙作のオリジナル設定として一族の長同士は公私においてお互いを氏族名で呼び合います(親しい間柄ならプライベートでは名前で呼び合うのですが)。

 では、また次回お会いしましょう。

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