実は七節八節にて初歩的な間違いをしてしまいました。変更点は以下になります。
小隊長→中隊長
簡単な話、二百人編成でそのトップが小隊長な訳がないんです。やめて!石投げないで!
そのため、七節八節の小隊長ならぬ中隊長の下りを軽く書き直しました。ご注意下さい。
あと今回、中隊長、副官、補佐の名前が出てきます。そうしないと文章に違和感が出てしまったため泣く泣くつけることにしました。だから石を投げないで!
指揮官の頭から胴体半ばまでを断ち斬り、剣を引き抜く。頬に付いた返り血の生温かさ、臓腑の異臭が殺しの余韻を更に引き立たせてくれる。
最後に何かをするような素振りをしていたが、死んだのならどうでもいい。
剣に付いた血糊を払いながら逃げていった兵士達の方向へと視線を向けた。
(「本隊へ撤退しろ」と言っていたな…)
その言葉通りなら逃げていった兵士共の先には今以上の数がいるのだろう。
この指揮官と先程の若い士官は“それなりに”楽しめたが、全体的にはやはり物足りない。
総合的に見てダニ共どころか連合の兵士にすら劣っている。
(まぁいい)
この際、質の低さには目を瞑り、数で我慢しよう。もしかしたら、こいつ等よりは楽しむことが出来るかもしれない。
ほんの僅に頬肉がつり上がる。そうだ、まだ足りない。この程度では酔えない、狂えない、━━━━ない。
体のズレなど、どうでもいい。開いた傷も、重くなってきた体も、全て、どうでもいい。
もっと殺さなければ、もっと血を流さなければ、もっと戦わなければ、
━━━たとえ、━━ことになろうとも
奴等の本隊がいるであろう場所へ歩き始めた。殺すために、狂うために、━━━ために。
「まって!」
後ろから声がした。
高揚に水を刺され、苛立ちと共に首だけ振り返る。そこには魔女が三人、アイスにケイ、あとは双子の片割れがこちらを警戒しながら見ている。
「カイムさん、もう敵はいないよ。何処に行くんだ?」
俺を心配するように、何か焦るようにケイが口を開いた。
「近くにこいつ等の本隊がいるらしい。逃げた奴共々、それもまとめて潰してくる」
無視してもよかったのだが、騒がれるのも面倒なので簡潔に事情を話す。
「っ!…それは本当ですか?」
アイスが驚愕と困惑を表しながら聞き返してきた。
「そこの男が言っていた」
「危険です。一人で行くのはお待ちください」
「この程度が幾らいようと何か問題があるのか?」
そう言葉を吐き捨て、再び歩き始めた。後から魔女共の声がするが今度は無視する。
が突如、進路前の地面が吹き飛んだ。
「あんた、待てって言ってるでしょ!それとも逃げる気!?」
上から怒鳴り声が降ってくる。二度も邪魔をされ、殺意を宿しながら夜空へ振り向くと、会った時からギャアギャアと小喧しい風使いの魔女が木で作られた板に乗っていた。
「ぅ……っ何よ?ヤろうっての?」
俺の視線に一瞬怯んだものの、すぐさま両手に風を纏わせて威嚇してきた。
こちらも剣を握り直そうとして、
「ちょ、ちょっと二人とも落ち着けって!」
「そうですよ、こんなことをしても無意味です」
アイスとケイが割って入った。
「好き勝手やろうとしてるのはそいつじゃない!」
「それでもよ。これ以上は取り返しがつかなくなるわ。⋅⋅⋅カイムさん、姉様から許可されたのは此処にいた者達との戦闘だけです。それ以上は約定に反します」
「⋅⋅⋅」
アイスのとりなしに俺と女は矛を納める。女は低く唸りながらも風を解き、俺も興が削がれたので剣を降ろした。
「い、今姉様に確認を取るからちょっと待ってて」
見計らっていたのか双子の片割れがそう言うと目を閉じて少し俯いた。おそらく念話でもしているのだろう。
しばらくして、
「やっぱり、一度戻ってこいって」
言い難そうにそれを口にした。
舌打ちを一つ、剣を鞘に納めて踵を返した。此処にはもう用がないし、ハリガンに確認したい事もある。
「待って」
砦に足を進めていると、そんな言葉と共に片腕を引っ張られる。今度は何だと煩わしそうに視線をやると、ケイが両手で腕を掴んでいた。
「ナーガさんに残ってる物資を持ってこいって頼まれてるんだ。カイムさんも手伝ってよ」
口調は軽いものの、妙に真剣な目で懇願してくる。
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅荷馬車が残っているか探してこい」
その目に拒否する気力も失せ、両手を振りほどきながら言葉を返す。手当たり次第焼き払ったので馬ごと燃えたり、逃げ出したりしているだろうが一つ二つは残っているだろう。
「ありがと!すぐに見つけてくる」
そう言って駆け出したケイを見送りつつ気持ちを切り替えるため、溜め息を吐き出しながら手近な物資へと歩み寄った。
『お父さん!お帰りなさい!』
『あなた、お怪我はありませんでしたか?』
扉を開けると幼い娘が腕の中に飛び込んできた。最近病を患った妻も椅子に腰掛けながらこちらの安否を聞いてくる。
無理せず寝ていてくれと苦言を洩らすと妻は謝りながらも『今日は体の調子が良いから』と微笑んだ。
『ねぇ、お父さん…』
そんなやり取りをしていると腕の中にいる娘が苦し気な言葉を発した。見ると顔を歪めている。
どうしたんだと聞くと、
『……熱いの』
娘の言葉を聞いて風邪でも引いたのかと額に手をやるが別に熱くはない。
どこか悪いのかともう一度聞くと、
『体が…熱いの……』
そう言い終わると突然娘の体が燃えだした。あまりの事に一瞬、呆然としてしまうが慌てて火を払う。しかし払えど払えど火は消えず、娘はどんどん火に覆われてしまう。
水を、と妻へ叫びながらも振り向くがそこに妻の姿はなく、椅子が、家具が、家が燃えていた。
目を離した隙に娘すら居なくなっており燃える家の中に自分だけが取り残された。
━━━リィサ!エリナ!
喉が裂けんばかりに妻と娘の名を叫びながら家中を探す。不思議なことに炎は熱くもなく、俺を焼きもしなかった。
寝室まで駆け寄る頃には炎は無くなり、家は焼け跡となっていた。
そこでミたのは覆い被さるような姿でカタマっている炭のようなナニかと、その下にウズクマッテいる石のようなナニか。
━━━あ、……あぁぁぁ…
覚束無い足取りで、よろめきながらソレの前に座り込む。ソレ等を抱き締めようと触れた瞬間、ソレ等は骨と灰になって崩れ去ってしまった。
オレのナカでナニかがキれた
━━━━━━
叫ぶ、獣のようにハ………長……」
━━━━━━
叫ぶ、狂ったようにライ………隊…」
━━━━━━
叫ぶ、只々ライバ……隊長!」
「ライバッハ隊長!」
「っ!」
此処は。あぁ、そうだ。
額に手をやり汗を拭う。そうだ、久方振りの【夢】だ。ここ暫く見ていなかったからか、不意打ちを喰らったかのような気分を味わう。
「おはようございます。ご気分は?」
「…見りゃわかるだろ。最悪だ」
簡易の寝床から起き上がり自分の副官であるシリーエスに軽く悪態を返す。
「だが助かったよ。お前が叩き起こしてくれたお陰でこれ以上おっかない悪夢を見ずにすんだ」
「それは何よりです。随分魘されていましたからね。…どうぞ」
差し出された水を一息に煽る。テントを見回すとまだ薄暗く、外からも日が射していないことからまだ夜明け前のようだ。
「で、こんな時間にどうした?」
目に余る違反者か脱走兵でも出たのだろうか。こちらの問いにシリーエスは表情と姿勢を正し、重々しく口を開いた。
「報告します。第二中隊が敗走しました」
「………何?」
寝起きでまだぼんやりしていた頭が覚めてゆく。
「…詳細を」
「はっ。先程、第二中隊のミゲル副官補佐を含む68名が本陣に到着。話によると魔女側から奇襲を受け、立て直す間もなく敗れたとの事です」
「な……馬鹿を言え、第二中隊に加えて
それに加えて第二中隊の隊長は今回の遠征部隊の中では一番経験のある年長者で、手堅い立ち回りに定評がある人物だ。目立った功績は余り無いが手酷い敗走も無い。その為あのボンボンを押し付けられたのだが。
「ヴィトール隊長とクリフ副官は?」
「…クリフ副官は戦死、ヴィトール中隊長は殿として残ったそうです。おそらくは……」
思わず頭を抱えたくなった。ヴィトールもそうだが、ボンボンが死んだとなれば上から何を言われるか分かったものじゃない。
だが、今はそうも言っていられない。
「今すぐ本陣にいる者全て叩き起こせ。ミゲルと各隊の隊長を会議場に集合させろ。あぁ、それから付けられている可能性もある。お前を含む副官は戦闘準備が出来しだい守りを固めろ。警戒と見回りを密に」
「はっ!」
敬礼の後、シリーエスは足早にテントから出ていった。こちらも会議場に向かうため、衣服と鎧を身につけてゆく。
(ったく、魔女と関わるとロクなことがない)
そんな愚痴を心の中で溢しつつ準備を終え、会議場に向かうためテントを後にした。
「おー、もー、いー!」
荷馬車を後から一緒に押しているリンナがそんな叫び声を上げる。
「っていうか、何で、あいつが、押さないのよ!?」
同じく一緒に押しているユウキから苦情がでる。
「…」
此処からは見えないけどカイムさんは何も答えず二頭の馬の手綱を引っ張っている。
ユウキの風魔法で幾らか重さを軽減しているのだが、この斜面では気休め程度にしかならない。やっぱり欲張って、物資を積めるだけ積んで、縄で無理やり括り付けたのは間違いだったかもしれない。
「それに、こういう、力仕事は、アイスの、出番でしょ!」
ユウキの矛先がアイスにも向いたが当の本人は、
「なら、こっちを持ってくれるのかしら?」
と両肩で持ち上げてる物資を揺らした。
「………遠慮するわ」
流石のユウキも大人しくなり、それからは時折「うぅ」と唸りながら馬車を押していた。
「ユウキもリンナも、後ちょっとだから、頑張れ!」
あたしも額から汗を流しながら二人を励ます。
そんな賑やかな帰り道でも、あたしの胸の内に生まれた不安と心配は消えてくれない。
原因は分かってる。カイムさんだ。
『………なぁアイス。何で、男がもう一人いるんだ?』
空き部屋の寝台で腕を縛られ、裸のまま体の至る所を包帯で巻かれ、傷口を糸で縫合されている男。それが初めて会ったカイムさんの姿だった。
アイスから危険な奴だから気をつけてと、部屋に来る前に聞かされていたけど、目が覚めても暴れたりせず、少し根暗っぽくて物静かな印象しかなかった。
『おはよ、あたしはケイ。カイムさん、でいいんだよな?』
次の日、砦からの狼煙でハリガン姉の下へ行くとカイムさんは皆から少し離れた所に佇んでいた。身に付けているもの全部がボロボロだったけど、それが、なぜかとても様になっていた。
『持ってきたよ。はいこれ』
広場で妙に怖い剣を返したとき、鞘から抜いて状態を確めているそのしかめっ面は、どこか安心しているような柔らかさがあった。
その顔を見て、この剣は只の武器や道具じゃなくて、カイムさんにとってとても大切なモノなんだろうと漠然と思った。
『そういえばカイムさんてさ、━━━』
一の砦に向かう途中、カイムさんやナーガさんの事を聞いた。ナーガさんは記憶を失っていて殆ど何も聞けなかったけど、カイムさんは少し煩そうに一言二言ぽつりぽつりと話してくれた。
籠手が竜の皮で出来ていると聞いたときは、あたしを含めて皆が驚いた。
『これ……全部あの人が殺ったのか?』
カイムさんが一人で敵に向かって行ったと聞いて、援軍としてカサンドラ軍の夜営地に乗り込んだとき、そこで見たのは幾つもの死体と血の水溜まりだった。
斬られ、焼かれ、折られ、潰され、倒れている男たちは誰一人生きてはおらず、その殆どが一撃で殺されていた。
『待って!』
そして、つい先程だ。瀕死の敵を頭から叩き斬ったカイムさんのカオは今まで見た誰よりも怖かった。人はあんな風にワラって人を殺せるのかと思うほど。
そしてそのまま、あたし達に背を向けて歩きだした。
━━━その背中がもっと怖かった
まるで今から
だから、必死に声を上げて引き留めた。
『待って』
砦に帰ろうとするカイムさんの腕を掴んで、呼び止めた。さっきの背中を見たくなくて、でも、どうしたらいいか分からなくて、一緒に物資を運ぶのを手伝ってと頼んだ。
カイムさんを少しでも安心させたくて。大丈夫だよって伝えたくて。
「よいしょっ…と」
そして今、皆で物資を運んでいる。あれからカイムさんは何も言わず、ただ体を動かしている。
あたしにはこれ以上どうすればいいのか分からない。そもそも、会ってからまだ1日しかたっておらず、殆ど何も知らない。
(こんな時、ハリガン姉みたいに頭が良ければなぁ)
ハリガン姉ならもっと、ちゃんとカイムさんに伝えられるはずだ。ふと、相談してみようかと思ったけど、カイムさんは嫌がるだろうなと思い留まる。
じゃあどうしたら、どうすれば。
ぐるぐると、解けない問いが頭の中を巡る。
━━━ぐるぐると、ぐるぐると、ぐるぐると、
(ああああああぁぁぁぁぁぁ!)
首を振り、頭の中でごちゃごちゃしているもの全部吹き飛ばす。
(ダメだ、やっぱりちゃんとカイムさんと話そう)
頭の悪いあたしが考えた所で何もでやしない。なら、いつも通り正面から話して聞こう。
拒絶されたらその時はその時だ。今は、聞き辛いから三の砦に帰ってから。
「……あんた、何やってんの?」
「ケイが、壊れた」
いつの間にかユウキがジト目で、リンナが引きながらあたしを見ている。
「…何でもない!それより、もう砦につくよ」
上からハリガン姉や皆の声が聞こえる。残りの数ヤルドを一気に縮めようと二人に声を掛け、手足の力を振り絞った。
えー………ご覧になられた方の中で落ち龍原作ケイのファンの方申し訳ございません。
好きなキャラだからって設定を盛りすぎました。もはや誰だお前レベルです。
いやね、原作の父親の下りが実に美味しくて。はい、すみません。
できれば今年中にもう1話上げられるように頑張ります。
ではまた次回お会いしましょう。