恥ずかしくも読専から戻ってきました。
ちょうど2年ぶり、でしょうか。
HDDやデアラの本編の方が面白いところに来て久しぶりに描きたいという熱が再発しました。
すでにこの小説のプロットは消え、どんな話を書きたかったのか忘れてしまいましたが新たに話を作り直してちまちまと更新していこうと思います。
正直今までの話すらも危ういので今後矛盾が出てくるかもしれませんが、優しく見守っていただけたらと思います。
今回の話は物語的に大きな動きはありません。
キャラクターの立ち位置などを再認識してもらうため、各キャラを少し紹介しながら話を綴っています。
あー、確かこんな感じやったな、と思い出していただけたなら幸いです。
「何ですって!? アザゼルだけでなくあの時の教会のエクソシストもこの街にいたというのっ?」
放課後の部活の時間。
校舎から離れた場所にあるオカルト研究部の一室から女性の驚きに染まった悲鳴がこだました。
女性の座る椅子の後ろに控えるようにして立っていた長い黒髪を後ろで束ねた女性、姫島朱乃が主人であるリアス・グレモリーを落ち着かせるために紅茶を目の前に置く。
「ありがとう朱乃」
装飾の施されたカップを口元に運び一口。
仄かな甘みが口内を満たし、それを味わってから喉を鳴らす。
吐息と一緒にカップをテーブルに置いた。
その様子を赤龍帝こと兵藤一誠は当事者である太陽を浴びて煌めく美しい金色の髪とクリッと開かれたグリーンの双眸が特徴の元シスター、アーシア・アルジェントと共に神妙な顔で控え見ていた。
「ぶ、部長?」
僅かな沈黙をひどく嫌ったイッセーが、恐る恐る主人の反応を伺う。
まさか偶然出くわしただけでお説教を受けることはないと思うが、それでもことは重大である。何を言われるか怯えてしまうのは仕方のないことだ。
イッセーは自分にそう言い聞かせて主人の反応を待った。
すると、目頭を指でつまんでいたリアスがその真紅の瞳をようやくこちらに向けた。
その瞳にはこちらの安否を心配する色が浮かんでいた。
「怪我は? なにもされなかった?」
「はい。俺もアーシアも無事です。アーシアが泣いている時は何かされたのかと焦りましたけど」
「……何ですって? アーシアが泣いていた?」
と、ここで真偽を問うように視線を向けられたアーシアは静かに「はい」と答えた。
その返答にリアスの眉が釣り上がる。
……あ、部長、すげぇ怒ってらっしゃる。
妹同然のアーシアが泣かされたと聞けば激情するのも無理はない。
なにせイッセーも同じだったのだから。敵は格上。戦闘になれば万が一、いや、億が一も勝ち目がなく、確実に殺されるであろう相手だったが、アーシアが泣かされたことを許せるはずなかった。
だからリアスの怒りは至極もっともであるのだが、今回はその怒りは早とちり以外の何でもない。
リアスの怒りが爆春する前に止めようとするが、それより先にアーシアが話を続けた。
「泣いてしまったのは本当です。でも、それは十香さんともう一度会うことができたからです。決して、傷つけられたわけではありません!」
「そ、そうなのね……。それより十香ってあのとき現れた女性の名前かしら?」
「はい」
アーシアが彼女を知っていても不思議はないだろう。アーシアも元とは言え『聖女』として崇められていたのだから。
故にリアスだけでなく、オカルト研究部のメンバーに驚きの反応はないーーーーー、一名を除いて。
その一名とは、ここ数日前に教会のエクソシストから悪魔に転生したという前代未聞の人物。神の不在を知り破れかぶれで悪魔に身を落とした聖剣デュランダルの担い手、ゼノヴィア・クァルタだ。
初めて会った時から危なっかしいところもあったが常に冷静で激しく感情を揺さぶられることの少ない彼女だが、今はそれも見る影がないほどに動揺して座っていた椅子から転げ落ちていた。
彼女は肘掛に手をかけて上半身だけ起こすと、震えた声でアーシアに尋ねた。
「あ、アーシア。その十香というエクソシスト、もしかしなくとも七星十香さまのことか……?」
「は、はい。その十香さんです」
「あったことがあるのか!?」
「きゃっ!」
クワッと、これでもかと目を見開いたゼノヴィアが悪魔の身体能力をフル活用し、一瞬にしてアーシアの眼前まで詰め寄っていた。あまりの早さにイッセーは口をあんぐりさせるほかなかった。
「十香さまにあったことがあるのか!? どうなんだアーシア!」
「ぜ、ゼノヴィアさん……!?」
「お、落ち着けゼノヴィア! どうしたんだよ突然。その十香って人がそんなに気になるのか」
激しい問いかけに答えられずにいるアーシアに助け舟を送る……が、グワンと顔だけを向けてくるゼノヴィアを見て早まったかもしれないと後悔が押し寄せてきた。
「気になるも何も教会にいたエクソシストならば誰しもが一度は耳にし、そして憧れる存在さ! 主である神が何千年の時をかけて生み出した最強の神器を授かったまさに神の代行者! 近い将来『天界の暴拳』とまで呼ばれたヴァスコ・ストラーダ猊下すらも超える最強のエクソシストになると確信されている。それが七星十香さまさだっ!」
「そ、そうなにか」
血走ったゼノヴィアが怖くて内容がいまいち入ってこなかった。が、そんなこと今の彼女に知られてしまえば……考えるだけで背筋が凍る思いだ。
「とても美しい容姿をしているらしくてその姿はまさに美の神、完成された美と言われほど整っているらしい! さらに美しさだけでなく天使のような優しさも叶え備えたまさに女神! ああ、一度だけでいいからそのお姿をこの目に写したかった! もはや悪魔に落ちた私では彼の方を視界に入れることすら罪深いーーーーーーーー」
「いい加減とまりなさい」
ブツブツと呪文のように呟きはじめたゼノヴィアの頭がガクンと揺れる。
リアスがどこから取り出したか不明のハリセンでゼノヴィアの頭を叩いたのだ。
スパンッ! と小気味良い音が部室に響く。
ハリセンを振り抜いた格好のリアスに、うつむいたままのゼノヴィアを心配そうに見つめるアーシアというなんともシュールな光景が出来上がっていた。
リアスがため息をこぼしながらハリセンを朱乃に渡す。
「全く、熱くなりすぎよ。まあ、けどその十香って子には私も興味あるわ。敵勢力のことは知っておいて損はないだろうし」
そう言ってリアスがアーシアに向き直る。その顔には話してほしいという意思がありありと現れていた。
「………………」
しかしそれはアーシアにとって唯一の親友である十香を裏切る行為に等しい。先日起きたことを話すのには抵抗はないが、それ以外となると話は別だった。
かといって命を救ってくれたリアスに対して不義理なことはしたくない。
親友と主人。板挟みになり頭を悩ませるアーシアに助け舟が出されたのは突然だった。
「その必要はないよ。リアス」
突然、オカルト研究部の扉が開かれたかと思うと二つの人影が入ってきた。
その人物にリアスが肩を揺らした。
「お兄さま!? それにグレイフィアまで……!」
リアスが驚きに声を震わせている刹那にその場に跪く眷属たち。新米のイッセーは当然、アーシアもゼノヴィアも疑問符を頭上に挙げたが相手が現四大魔王と知るとすぐさま膝を折った。
「お、お兄さま、どうしてこちらに?」
いつも余裕のあるリアスがしもどろになりながら兄であり魔王であるサーゼクスに問いかける。すると魔王サーゼクスはオフだから楽にしてくれと前置きして、懐から一枚のプリントを取り出した。
それは授業参観の案内。
リアスの表情がみるみると青くなっていく。
「ま、まさかお兄さま、そのプリントは」
「グレイフィアが教えてくれてね。是非とも愛し妹が勉学に励む様を見たかったのだよ」
「し、しかし! 魔王であるお兄さまが一悪魔を特別視するのはいけませんわ!」
と、ささやかな抵抗を試みる。
「いやいや、これは仕事でもあるんだよ。例の三すくみの会議、それをこの学園で行おうとおもってね。今回の授業参観はその下見も兼ねているのさ」
リアスを含めた全員が驚く中、サーゼクスは言う。
「この学園とは縁があるようだ。赤龍帝や白龍皇だけでなく《天使》すら現れた。偶然にしてはできすぎている」
「《天使》……さきほどお兄さまがおっしゃられたその必要はない、とはどう言う意味でしょうか?」
「どうやらリアスたちが出会った《天使》に選ばれた少女が今回の会議に参加すると、天使長のミカエルから私の元に連絡が来てね。おそらくアザゼルの元にも連絡が入っているはずだ」
『ーーーーーッッ!?』
これには全員が息を飲んだ。
特にアーシアはもう一度十香と会えると言うこともあり、その表情はいつにも増して輝いていた。
ゼノヴィアは……語るまい。
そこからはイッセーが泊まる所のないサーゼクスを家に招待したり、そのせいでリアスが拗ねたりと、賑やかな1日を過ごした。
そんな賑やかさから少し離れた場所ではアーシアがある決意を胸に刻んでいた。
♢
「…………はあ、どうしよう」
思わずこぼしたため息が真っ白な空間に溶けていく。
遮蔽物のない、文字通り真っ白が広がるこの場所は、天界の第三天。一般にいう天国と呼ばれる場所で、少女、七星十香は一人悩みを抱えていた。
白が広がる空間でポツリと浮かんだ夜色の髪を流し、水晶のように綺麗な瞳は憂いを帯びている。
いつもの天界を照らす笑顔はそこになかった。
しかし、たとえ悩みに揺れていようがその一挙一動は他者を魅了するだけの色気を放っている。
「はぁ」
再度ため息。
すると十香の周りに手のひらに収まる程度の光がごまんと集まってきた。
悩みに両手で顔を覆っていた十香はそれに気づかない。
ふわふわと漂う光たちが十香の四方に溢れかえったとき、ようやく違和感に気づいた十香がふと覆っていた両手を剥がしーー、
「わ、わわっ! いつのまにみんな集まっていたの?」
その数に圧倒された。
まるで十香の周りに光のカーテンがかかったみたいだ。
その光景に思わず綺麗だと目を奪われる。
「すごい……信徒の魂達が一箇所に集まるとこうなるんだ」
信徒の魂……それが光たちの正体だった。
ここは天国であるため亡くなった人の魂が行き着くのも不思議ではない。
先頭に躍り出た魂がふわふわと十香の近くまでよってくる。
それを割れ物を扱う以上に慎重に両の手のひらに迎え入れた十香は首を傾げた。
「どうしたの?」
一見、光の玉に話しかけている危ない人のように見えるが、それは違う。
理由ははっきりしないが、この天界にて十香のみは彼らと意思疎通が可能なのだ。
と言っても直接話すのではなく、漠然と脳内に流れてきた感情を十香が解釈して確認のために口で聴かせるのだ。
今の問いに帰ってきた感情は心配。
つまり彼らは十香を心配して集まったということになる。
彼らの気遣いが嬉しい反面、心配をかけたことを申し訳なく思っていると、ふいに心配以外の感情が伝わってきた。
(この感情は……いたずら…………)
「って、イタズラっ!?」
十香は流れてくる彼らの感情を読み取り、頬を膨らませた。
「私を驚かそうとしてこっそりみんな集まったって言うの。もう、みんなして意地悪だわ」
と、言ったものの、イタズラ大成功! とばかりにはしゃぎ回る魂たちを十香は母親のような気持ちで見守っていた。
そんな中、ひとつの光が十香の手に降りてきた。
「なにをそんなに悩んでいるのか……? そうだね、聞いてもらおうかな」
十香は周りの魂たちを見回しながら口を開いた。
「これから先、争いが起きるの。それも全勢力を巻き込んだとても大きな争いが。もう誰にも止められない。 敵はもう目の前にまで迫っているから」
いつのまにか、はしゃぎまわっていた魂たちは再度集い、光のカーテンへと変貌していた。
「天界でそのことを『識っている』のはきっと私だけ。お母さんもミカエルさんも知らないこと。本当ならこのことはすぐにでもミカエルさんたちに報告するべきだと思う。でもーー」
十香は争いが嫌いだ。傷つけるのも、つけられる者を見るのも嫌だった。
最近になって、あまり使いたくない『とある天使』を使い識った内容であるため確実な情報だ。
情報とはいつの時代も武力以上に武器になる。今知るのと、あとで知るのでは天と地ほど被害が変わってくる。
しかし今伝えればどうなるだろうか?
敵は悪魔、堕天使、天使の危険分子。間違いなく天界の裏切り者を炙り出そうと上は動き出すだろう。
それは十香にとって一番避けたいこと。
大好きな天界で、大好きな人たちを疑う。そんなこと十香の心が耐えられるはずがない。
『とある天使』をもってすれば裏切り者の天使を知ることは可能だったが、知るのが怖くてそれ以上先を見ることができなかった。
今、伝えれば自衛の準備が間に合うかもしれないという思いと、伝えれば大好きな天使たちとの戦闘が避けられず天界が戦場になってしまうという思い。
十香はどちらを取ればいいのか、凄まじい葛藤に頭を悩ませていたのだ。
「どうすればいいのかな、私」
全て話し終えた十香は気分を落ち着かせるためにふぅと息を吐いた。
それだけで熱が少し抜けていく感じがした。
同時に頭の中も少しクリアになった。
言葉に出したことで現状を再確認できたからだろう。
魂たちからは力になれそうにもないと悔しさが伝わってきたがとんでもない。
聴いてくれただけでも心が軽くなった。
十香はお礼も兼ねて、ひと伸びしたのちに瑞々しい唇から旋律を奏でた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪ 〜〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」
美しい歌声が奏でられる。
澄み切った音色は果てがないとすらいわれる天国を浸透して行き、ここへ行き着いた魂たちを直接揺さぶった。
歌に魂の芯の芯まで魅了された魂たちは心地好さそうに空を漂う。
くるくるとじゃれついてくる光の玉を慣れた手つきで撫でていく十香は、こちらに向かってくる気配を掴んだ。
その気配はよく知るもの。
十香はゆったりと立ち上がると、近づく気配を迎えた。
「やっぱりここにいたのね。十香ちゃん」
現れたのはゾッとするほど整った容姿をした美少女だった。
広げる翼の数は熾天使を証明する12枚。
風のない空間にもかかわらず揺れ動く髪はその都度プリズムのような光を反射させ虹色のように見える。
外見はざっと20代前半といったくらいだろうか? 服を押し上げる豊満な胸は張りがあり、シミひとつないシルクのような肌は眩しさを覚えるほど滑らかだった。
まさに天使と言う名を体現してみせる美少女だが、しかしその正体は一児の親である。
天使でありながら子を成すという前代未聞の出来事を成した女性の名はジブリール。
その容姿とは裏腹に大戦時代数多くの悪魔、堕天使を屠り、《殺戮天使》と恐れられた《天界》最強の天使でもある。
そんな女性とも少女ともとれる天使の来訪に十香は顔をひきつらせた。
しかしそれも刹那の間。
すぐに笑顔を浮かべた。
「あ、お母さん。どうしたの?」
ジブリールの子というのが何を隠そう、七星十香なのである。
「夕食の時間になっても帰ってこなかったから、またここで時間も忘れて行き着いた信徒の魂たちと遊んでいるのかもと思ってきてみたのよ。まあ、案の定だったけど」
「あれ? もうそんな時間?」
ここは天国。
空が存在しない以上朝も来なければ昼も夜もない。意識的に時間を気にしていないとつい、今の十香みたいに時間の感覚が狂ってしまう。
「ごめんなさい。すっかり夢中になっちゃって」
「いいのよ。ここの子たちも十香ちゃんと遊べて嬉しいはずだから……って、あら?」
十香の周りに集まっていた魂たちが急に十香とジブリールの間に、壁になるように再度集まり始めた。
困惑の表情を浮かべるジブリールをよそに、魂たちからおくられてくる意思を汲み取った十香は、魂たちの突然の行動の意味を知り、クスッと母に向けて笑みをこぼした。
「私を連れて行く悪い人がきたって。みんなが私をお母さんから遠ざけようとしてるんだって」
「な、何ですって……! こんなにも美しい美女を前にして悪い人だなんて、見る目がなさすぎるわ!」
「だけど、私を連れて行く悪い人には変わらない、だって」
「こ、こんのぉ〜っ生意気よっ。とっつかまえてお仕置きしてやるわよ!」
顔を赤くして魂を捕まえようと奮闘する母と一生懸命逃げ回る魂たち。熾天使から逃げられるはずもなく難なく捕まってしまう。
ジブリールから逃げようと必死にもがく魂を見て、そろそろ助け舟を出してやることにした。
「お母さん、その辺にしてあげよう。この子たちも本気でお母さんを悪者だとは思ってないよ」
「つ〜か〜ま〜え〜た〜……って、そのくらい分かっているわ。ここに行き着いた魂たちが私たち天使を軽視するはずないんだから」
ジブリールが拘束を緩めると淡い光がシャボン玉のように舞い上がっていった。
遊んでもらったお礼を行動で示したいのか、等しき十香たちの周りを漂った後、魂たちはチリジリに散らばっていった。
生まれてすぐに不運が重なって亡くなってしまった魂たち。
そんな彼らが今、少しでも走り回って楽しく過ごせてくれるなら幸いだ。
いくら天使と言われていようが、十香たちではこの程度のことくらいしかしてあげられないのだから。
光が真っ白なこの世界に溶け込んで行ったタイミングで、ジブリールが翼を広げた。
「ここにきた目的を忘れていたわ。ほら、早くもどましょう!」
年甲斐もなくはしゃいだのが恥ずかしかったのか、ジブリールがほんのりと頬を朱に染めながらそう言った。
「…………うん。わかった」
飛び立つジブリールの背中を十香は罪悪感に襲われる気持ちを必死に隠しながらポツリと言葉を漏らした。
「……ごめんなさい。お母さん」
すでに空にいるジブリールには届かないその呟きは真っ白な天国に溶けて消えていったーー。
では良いお年を