時間の流れって早いですねぇ(白目
ということです投稿ですドン
薄暗い森林に囲まれた緑の中。
街灯は届かず太陽の日差しさえ背の高い葉に遮られたその場所に、教会はひっそりと建っていた。
建物の外装は所々が剥げており、何年も放置されていたことが窺える。
入り口に構えているはずの大きな両扉は教会の中、聖堂の長椅子や装飾品を巻き込んで派手に破壊され、みるに耐えない惨状が広がっていた。
「前も見たけどやっぱり酷いなぁ」
前回、コカビエルの一件の時に訪れたこの教会はすでに廃墟と化していた。
今日はそれの掃除に来たのだが……やはり目を覆いたくなる。
聖堂内へ足を踏み入れるとすぐに足元からパリンと何かを踏み砕いた音がした。
足をどかせるとそこにはガラスの破片が粉々に散らばっていた。視線を少し前に動かすだけで無数の破片が落ちている。顔を上に上げれば本来見えないはずの葉がこちらを見下ろしていた。まるで今更何しにきたのかと睨まれているようで落ち着かない。
廃墟になるまで何もしなかったこちら側の落ち度だ。責められたとしても言い訳のしようがない。
「これ、《刻々帝》で戻そうとすればどれだけの時間を消費しなければならないんだろう」
この教会がいつから使われなくなったのか調べてみないとわからないが、数十年はくだらないだろう。
流石に十香も《刻々帝》を使う気はさらさら無いが、この惨状を目にすれば一瞬でも思考してしまうのは仕方のないことだった。
「でも、仮に《刻々帝》が使える範囲内だったとしても、こればかりは自分たちのてでしないとダメだよね」
それが放置していた自分ができるせめてもの罪滅ぼしだと考えている。
それにこの教会を綺麗にしておくことは今後『必ず役に立つだろう』。
十香は一度教会を出ると街につながる一本道に視線をやった。
深い緑を巻くようにカーブして降る道はここからでは下まで見えない。
「もうそろそろ来ると思うんだけど……あっ」
道の切れ目から姿を見せた人物に、十香はそっと声をあげる。
その人物の左右の手には大きな袋が一つづつ握られていた。その人物も十香の視線に気づいたようで、微笑みを向けてきた。
「遅くなってすまない。人間界で買い物なんてずいぶんと久しぶりだったものでな、時間がかかってしまった」
「だから私が買いに行くよって言ったのに」
「十香に買いに行かせたらそれこそ日が暮れてしまうよ」
「むぅ、どういうことっ?」
「ははっ、言葉通りの意味だよ」
「そうやっていつもはぐらかす。ホーネストさんのそういうところ直した方がいいですよ」
「大丈夫だ。僕がこんなふうに接するのは十香だけだから」
そう言って十香の頭を撫でる男性の名はホーネスト。
十香が待っていた人物であり、今日、この教会を掃除する助っ人の一人だった。
ついさっきまで掃除に必要な道具を買い出しに行っていたのだ。
わざわざ買いに行かず天界から持ってくればよかったのだが、今後も定期的に掃除することを考え新しく買っておこうと十香が提案した。
ホーネストがしゃがみ込み、袋をあさる。
すると彼の綺麗な金髪が余すことなくあらわになる。お目当のアイテムを掴み顔を上げると、宝石のようなエメラルドグリーンの瞳に十香の姿が反射した。
吸い込まれそうになる感覚に陥りそうになり振り払うように首を左右に振ると心配そうに彼が顔を覗き込んできた。
「大丈夫か?」
女性の肌みたいな白い肌と端正な顔たちが目に入り、少し距離を取る。
「大丈夫だよ」
笑顔でそう応えると、ホーネストもうなずいて離れていく。
俗に言うイケメンと呼ばれる人種のホーネストは優男のような外見ながらも、その実、上級天使に名を連ねる強者である。
光力の扱いにたけ、その濃厚な光で数多くの悪魔を屠っていたようだ。
さらに言うならば、彼は十香にとって特別な存在である。
色恋、というわけではない。
十香にとってホーネストとは兄のような存在なのだ。
物心ついた頃から自分の面倒を見てくれた彼を十香は慕っている。
真っ直ぐで人と真髄に向き合い想う気持ちを忘れないその姿勢に、ジブリールの次に憧れている天使でもあったりするのだが、それを口にしたことはない。
何故なら、そんなことがジブリールの耳に入れば大騒ぎになりホーネストに迷惑がかかるからだ。
娘が男を尊敬している。
そんなことジブリールが黙っているはずがないのだ…………。
道具が揃ったことでやるきを見せる十香に、ホーネストがポツリと訪ねてきた。
「今日はだいぶラフな格好なんだな」
今の十香は黒のロングTシャツにカーゴパンツというシンプルな服装だった。
十香の起伏のある体つきを浮き彫りになっているその様は異性には毒である。
十香は自分の服装を見下ろしてから首を傾げた。
「変……かな?」
「変じゃない。とても似合っているが……十香。君はもう少し自分がどう見られているのか知った方がいい」
「……? どういうこと?」
意味がわらず首を傾げる十香。その仕草も大変可愛らしい。
ホーネストが額に手を当てて空を仰いだ。
ついでにため息も漏れる。
もしかして買い物で疲れたのだろうか?
最近天使の仕事が忙しそうだったため、その疲労がまだ残っているのかもしれない。
十香はホーネストが持つ箒に手をかけながら言う。
「ホーネストさんは少し休憩してて。私だけでも先に初めておくから。しっかり休んでから来てね」
「えっ? いや、僕は大丈夫……って十香っ」
箒を奪われたホーネストが抗議の声を上げるが、十香は念を押すように笑みを向け黙らせた。
「手伝ってくれるのは嬉しいし、ありがたいけれどそれでホーネストさんが倒れでもしたら大変だわ」
「僕は……」
「それに最近は天界にもいないようだし、忙しかったんでしょ? だから今は休んでて。その間は私一人で頑張るから!」
箒を動かして地面を撫でる。
様になっている。いるのだが、
「十香っ、そんな勢いよく掃いたらーー」
「わわっ!? 埃が……けほっ、けほっ……!」
「ーー埃が舞うよって、遅かったか。ほら、これをつけてからにしな」
そう言ってホーネストが取り出したのはどこにでも売られている市販のマスクだった。
あるなら先に渡して欲しかった。
箒を奪って勝手に掃いたのは自分だが……。
隙間がないようにマスクを密着させる。
あと、ガラスの破片や折れ目が鋭く尖った木材で怪我しないように軍手を装着して準備完了である。
「始めようか」
こうして十香は長きに渡る戦いへ向かったのだったーー。
☆☆☆☆☆
廃墟と化した教会を綺麗に清掃するのは流石に1日2日で終わるはずなく、一週間にわたり続いた。
ホーネストは仕事があったのと、それに伴って疲れが見えたので初日を除いて2日ほどしか参加させなかった。その代わりに他の天使や、教会のエクソシストが手伝ってくれていたため十香一人に負担がかかることはなかった。
掃除は終わった。あとは内装を飾るのみ。それについては専門の人が来てくれるそうなので、十香が手を出すのはここまでだ。
聖堂内をゆっくりと左から右に流していく。みるも無残な光景は今はもうない。
壊された扉や長椅子は撤去され、散乱していたガラスは小さな破片ひとつなく掃き出された。
「ん〜〜! すっきりしたぁ!」
圧迫されていた教会内がいまでは広々と観じられる。
空を仰げばガラスのない天井からオレンジ色が覗き込んできた。もうじき日が完全に暮れる。
日が落ちる前に帰らなければジブリールが心配していまう。そうなれば面倒なことになる。
十香は教会から出ると昨日と今日手伝ってくれた人物へ声をかけた。
「お疲れ様です。ジェズアルドさん。多忙なのに2日間も手伝ってくださってありがとうございました。おかげで予定通り終わらせることがでました」
「いえいえ、俺の方こそあの七星十香さまご一緒できて光栄でした」
そう返したのはグリーンの瞳を持つ、神父服に身を包んだ青年だった。
名をデュリオ・ジェズアルド。2番目に強いとされる上位神滅具『煌天雷獄」の所有者で「教会一やさしいすぎる青年」と称されている人物である。
彼の趣味で美味しいもの巡りで近くに来ていたところ派遣されてやってきたのだ。
そんな彼へ十香は優しく微笑む。
「十香でいいですよ。さまもいりません。同じ主を信じるもの通し、他人行儀すぎるのも寂しいですから」
「だったら俺のこともデュリオと名前でほしいな。十香ちゃん。ついでに敬語も無しだとなお良い」
最後に少しおどけていう彼にクスッと笑みを溢す。
「ふふ。わかった。これからもよろしくね、デュリオさん」
「よそしく、十香ちゃん」
お互い握手を交わしたあと、掃除で使った道具の片付けを始めた。
と言っても基本物はこの教会に置いていくので定位置が決まるまでまとめて一箇所に置いておけば良い。
それが終わると本当に終了だ。
日もだいぶ傾いており、そろそろ天界側から門が開く時間だ。
と、ちょうど教会の側で白い輝きがあたりを照らすと同時に皓々たる巨大な扉が出現した。
眩しそうに目を細めるデュリオへ十香はある提案を投げる。
「そろそろ家は夕食の時間なの。私が作るんだけど、せっかくだから貴方も一緒にどうかしら?」
ここでデュリオとはお別れだが、わざわざ貴重な時間を割いてまで来てくれた彼をそのまま返すのは気が引けた。そんな思いで出した提案だったが、デュリオは口惜しそうに首を横に振った。
「十香ちゃんの手料理…………非常に魅力的なお誘いだけど、今日は近くの施設の子供達に料理を振る舞ってあげる予定なんだよねぇ」
「そういうことなら無理はしないで子供たちを優先してあげて? きっとみんなも貴方の料理を楽しみに待っているはずだから」
実は十香はデュリオの美味しいもの巡りの本当の理由を知っていた。
彼は施設から出られず、美味しいものを食べられない子供たちのためにそれを再現して食べさせてあげているのだ。今日振舞う料理も、きっとそういった子供たちのためだろう。
飄々として掴みどころがない人物だが、その心は本物の天使のように優しい。
十香は彼を心から尊敬した。
「もし、まだこの街にいるというのならここに来てください。こちらから門を開きますのでその時にでも一緒にお食事を一緒にしましょう」
「絶対に行くよっ」
食い気味のデュリオだった。それほどまでに十香の料理を食べたかったようだ。
作る側としては期待されるのは緊張する反面嬉しい。
十香は満面の笑みを浮かべて胸の前でこぶしを作ってみせた。
「うんっ、私も腕によりをかけて作るから楽しみにしてて。それじゃあ、待ってるね?」
デュリオの姿が見えなくなるまで見送った十香は先ほどの彼の表情を思い出していた。
「顔、すごく赤くなっていたけど大丈夫かな? 風邪とかじゃなければいいんだけど……」
少し心配だが、彼は大丈夫だと言っていたのでそれを信じるしかない。
後日顔を出すと言っていたので、その時にでも体調を伺って、悪そうなら休ませてあげよう。
彼が来る日を密かに楽しみと一抹の不安を抱きながらも白亜の扉を潜るため足を浮かせーーーー、
「ーーーー見つけた。未知の力の持ち主」
「っーーーー!?」
突然現れた気配に全速力で後退した。
十香は今し方自分のいた場所に目を向ける。
人がいた。
小さな人型のシルエット。
気を緩めていたとはいえ、全く持って気配を感じることができなかった十香の背筋に冷や汗が伝った。
相手に殺す気があれば終わっていた。
まるで存在が感じられない。
そこにいたのはゴスロリ衣装を身につけた幼い女の子だったーーーー。
今年一年お疲れ様でした。
来年も大変でしょうが、頑張っていきましょう。
今年は2、3話は投稿したい(遠い目)