そして、今年もよろしくお願いします!
天界の第六天。
天界の中枢機関である『ゼブル』に、二人の熾天使が並び立っていた。
金色に光る翼を持っているのが、『四大熾天使』であり、天使長であるミカエル。
ミカエルの隣にいるのは十二枚の翼を持った女性天使。
頭上には光輪があり、天使であることを証明する美しい純白の翼。長く流れるような髪は、庭園に吹く風でなびき、そのつど、プリズムのように光を反射させ、虹のように見える。
彼女こそ、天界一の美女と名高いガブリエルに並ぶほどの美しさを持ち、天使では初めての子供を産んだジブリールだ。
「ミカエルさま、このジブリールになにかご用でも?」
「ええ。先日、協会から聖剣エクスカリバーがグリゴリの幹部、コカビエルに盗まれたのを覚えていますか?」
「もちろんでございます」
忘れるはずが無いだろう。折れた破片から七本に分かれた聖剣エクスカリバー。一本一本に特殊な能力がついた悪魔には効果抜群の聖剣だ。
それが堕天使……それも幹部のコカビエルに盗まれたと知らされたときはジブリールでさへ驚いた出来事だ。
「奪われたエクスカリバーは三本。教会から、ゼノヴィアと紫藤イリナの二人が回収、それが無理なら破壊するよう動いてもらっているわけです。が、彼女たちには申し訳ないですが、二人では力不足です。いくら聖剣を持っていたとしてもコカビエルには歯が立たないでしょう」
コカビエルは先の戦争を生き残り、聖書にすら記されている実力者だ。まだ年若く、聖剣を扱いきれていない彼女たちでは傷一つ付けることはできないだろう。
かといって、ミカエルたち天使が出張るわけにはいかない。コカビエルが潜伏している場所は人間界の駒王町だ。あの場所は悪魔が領地にしており、敵対している相手の領地に天使が直接介入してしまうと悪魔との戦争になりかねない。戦争だけは絶対に起こしてはいけない。今度こそ天使も悪魔も滅んでしまう。
天使の介入をできるだけ避けて問題を解決したい。故に、教会から戦士を送り出したのだが……。
「これは他の熾天使にも聞いたことですが、こちらから十香を増援として向かわせてはどうか? と」
「……っ!?」
「彼女ももう十七歳です。私達と比べれば少な過ぎる年数ですが、彼女はもう立派な天使です」
「それは……そうですが……」
ジブリールは何か言いたそうにしていたが、結局何も言わず、口ごもってしまう。
彼女が何を言いたかったのか。ミカエルはわかっていた。簡単なことだ。親が子を心配しているのだ。どこに、まだ十七年しか生きて居ない娘を、何千年と生きてきた怪物と戦わせたいという親がいるだろうか。普段、巫山戯た態度の多いジブリールでも、顔には行かせたくないと出ていた。
「それに、そろそろ十香には表舞台に出てきてもらおうと思っています。彼女の存在は特別です。いつまでも隠し通せるものではありません。だから私は、今度行われるであろう会談で彼女を公表しようと考えています。その為に、彼女の実力を示すと同時に、十香に悪魔と堕天使がどういう存在なのかを知ってもらうつもりです」
言い方は悪いが、十香を表に出すにはふさわしい舞台が今整っている。それを利用しない手はない。ミカエルはそう考えている。
が、
「………………」
十香の母親であるジブリールは、当然頷くことはない。もし、万が一が起きてしまえばと思うと、軽く頷ける案件ではない。
ミカエルも重々の上だ。その上で、十香が表に出るのは今後の世界には必要だと思っている。
「ジブリール、あなたも知っているはずです。彼女の実力を。コカビエルは確かに強い。素の……天使だけの十香なら互角、いやそれ以上でしょう。しかし、《天使》を使えばその限りではありません。神々ですら斬る力を、十香は使いこなしています。今回はまだ天使と人間のハーフだとは隠して、《天使》の方を使ってもらうので、コカビエルが彼女に勝つ可能性は限りなくゼロです」
ミカエルが理解していて、親のジブリールがわかっていないはずがない。だが、それでも心配なのが親心というやつだろう。だからミカエルは、これならジブリールも納得するであろう言葉を言った。
「そこまで心配なら、あなたも一緒に行ってきても良いですよ。勿論、十香には内緒で、ですが」
ミカエルが提案した内容に、ジブリールが驚いた顔をしてこちらを見ていた。
ーージブリールがこんな顔をするなんて珍しい。
だが、彼女が驚くのも無理はない。天使の介入は無しだと言っているそばから、悪魔の領地に行っても良いと言っているのだ。
「ただしジブリール。あなたの介入は一切認めません。それに伴って、力は最大限まで抑え、できる限り遠く離れてでお願いします」
「かしこまりました!」
先ほどまでの憂が嘘のように明るくなるジブリール。暗くなられるよりはましだが、この切り替えの早さにはミカエルも苦笑する他なかった。
「では、十香にはあなたから伝えておいてください。私はグリゴリの動向を見張らなければなりませんから。ーーーーあ、明日十香に、夜に私のところに来るように言ってもらっていいですか? 行く前に私も少し話したいことがありますから」
ミカエルはそう言うと、金色の翼を広げて飛び立った。
☆☆☆☆☆
七星十香は、特別な存在だ。
例え本人が否定しようと、それは紛れもない事実だ。不可能と言われていた天使の子供であり、人間とのハーフだったが故に神すら殺す力を手に入れた。冗談みたいな存在というのは、十香にこそ相応しい。
そんな「奇跡の子」と呼ばれる十香は今、夕食を作っていた。
今日の献立はシチューだ。既に料理は完成していてるが、十香は母親のジブリールを待っていた。
「遅いなーお母さん。いつもならもう帰ってきてる頃なのに……。何かあったのかな?」
外したエプロンを綺麗に畳んでテーブルに置き、姿見の前まで移動する。
姿見が十香の全身を映し出す。
そこに写っていたのは、暴力的なまでの美しさを持った一人の女の子だった。
太もも付近まで伸びた闇色の髪は、日の光など浴びずとも、艶々と照り輝いており、服の上からでもわかるほど身体全体の肉付けは良く、そこから伸びる手足は見るものを惑わす艶かしさがある。
肉付けが良いだけあって、立派な双丘を持っている。
何より、女神ですら嫉妬するであろう端正な顔立ち。
人が、生物が、嫉妬を抱くことすらおこがましいほどに、七星十香は完成された美少女だった。
「服装は……着崩れてない。髪も……乱れてない。よし!」
「奇跡の子」と言われていようと十香は女の子だ。身だしなみは気にしてしまう。何より、十香にとってジブリールは母親と同時に天使として尊敬している人物なので、情けない姿は見せたくなかった。
「十香ちゃんただいまー!」
身だしなみのチェックが終わったと同時に、玄関から元気の良い声がリビングまで聞こえてきた。十香はその声に聞き覚えがあった。というより、毎日聞いている声だ。
「あ、お母さんが帰ってきた!」
十香は尊敬する母親が帰ってきたことに笑顔を浮かべる。
そして、リビングの扉がバン! と強く開き、一人の美女が現れた。十香とジブリールの目があう。
その瞬間。ジブリールはその場から消えていた。
「え? お、お母さん…………きゃっ!」
突然消えたジブリールに、困惑した十香だったがそれも刹那の間。どうやって移動したのか、背後に回っていたジブリールが十香の豊かな胸を揉みしだいていた。
「十香ちゃん、隙がありすぎよー」
「ひゃあっ! お、お母さん……や、止めてよ……」
「ごめんね? 十香ちゃんのおっぱいが気持ちよすぎて手が離れないの……それどころかもっと堪能したくて加速しちゃうわ」
ジブリールの動きが官能的に速さが増す。やられている十香はいつもの事なのだが、この感覚にはいつまでたってもなれない。
普通、ジブリールのように天使が邪な行動に出たり、邪心を持っていたなら、即座に天界に堕天警報が鳴り忠告してくるのはずなのだが……。
ジブリールの場合は、それが起きない。
本当に邪な感情なしで行っている事なのか? それなら十香は恥ずかしくても母の好きにさせる。が、ジブリールに限ってそれはないだろう。
だってーーーー、
「うぇへ、うぇへへへ。十香ちゃんのおっぱい、形も弾力も最高! その上で大きいとか反則もいいところよ」
うん。完全に邪な感情で動いている。
胸を揉みしだく指といい、それを眺める目といい。何故堕天しないのか不思議でならない。
「も、もう……! いい加減にして。そろそろ私だって怒るよ?」
「えー、そんな事言って。十香ちゃん一度も怒った事ないじゃん」
「今日の今日は本気なんだからー」
頬を膨らませ、怒っていますよアピールするが、ジブリールには逆効果だった。
「ああん、十香ちゃんの膨れた顔も最高ぉ! もう、キスしちゃう! んちゅう〜」
「頰っぺたにキスしようとしないでよ! も〜、お母さんは晩御飯抜き!」
十香はキスしようとするジブリールの顔を両手で押さえながら、我慢の限界を超え叫んだ。
すると、いきなりドンと音を立ててジブリールが床に倒れた。
「そ、そんな……十香ちゃんのご飯が食べられないなんて……」
この世の終わり見たいな、絶望した表情でジブリールは呟く。その声は震えていた。
「お母さんなんて知らない」
そう言って去っていく十香の足に、ジブリールはしがみ付いた。
「ごめんなさい! お母さんが悪かったわ。だから十香ちゃんのご飯抜きだけは勘弁して下さい!」
涙ながらに懇願するジブリール。どうやら反省はしているようだ。“今”だけだが……。
このやり取りはもう何十回と繰り返してきた。そんなジブリールが今は反省してもどうせ直ぐにいつもの調子に戻る。
十香もそれはわかっているが、母親の泣き顔を見ると、心優しい十香は良心を揺さぶられーー
「…………今回だけだからね?」
「ありがとう〜、十香ちゃん!!」
結局許してしまうのだった。
このジブリールはノーゲームノーライフのジブリールをモデルにしています。