ハイスクールD×D 奇跡の天使   作:瑠夏

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月光校庭のエクスカリバー
3話 舞い降りる《天使》


 

結局あの後、十香は揉みくちゃにされた。委ねたのは十香なのだから文句は無いのだが、まさかあれから昼までやられようとは思ってもみなかった。

今日はまだ布団の中にしかいなかったはずなのに、十香はどっと疲れが溜まった。

逆にジブリールはいつも以上に生き生きとしている。

 

「十香ちゃん、今日はミカエルさまの説明を聞いたらそのまま人間界に送るから、それまでに準備しておいてね」

「え? 今日は話を聞くだけじゃなかったの?」

「本当ならそのつもりだったんだけど、どうやらコカビエルが今夜動くそうなの。だから説明の後、急だけど人間界に直行して欲しいの」

 

ごめんねと謝るジブリールに、十香は平気だよと返す。本来悪いのはコカビエルの方なのだから、ジブリールが謝る必要は無い。

確かに急だが、夜までにはまだ時間があるし、何よりジブリールのおかげで、もう心の準備はできている。もし、今すぐに行ってくれと頼まれても大丈夫だろう。

それ程までに、十香の精神は安定していた。

それでもと謝る母親に、十香は言った。

 

「なら、夜までずっと一緒にいてくれたら許してあげる」

「喜んでー!」

 

先ほどまで済まなそうにしていたジブリールとは一転、ハイテンションに切り替わる。

 

(もしかしてお母さん。私がこう言うようにわざと……)

 

ジブリールなら十分あり得る……が、今回は別にいいか。

昼食は既に済ませてあるので、早速十香はジブリールへと寄っていく。そして、ジブリールの太ももに頭を乗せた。

膝枕だ。

まさかの行動に、ジブリールは奇声を上げたが十香は気にせず柔らかくもっちりした太ももを堪能する。

 

(もっちりと柔らかいのにお肌すべすべで気持ち良い……。こんなの眠くなっちゃうよぉ)

 

膝枕早々、十香はその気持ちよさに眠気に襲われる。まだ起きて、この感触を味わいたかった十香は抵抗するが、その途中で頭を撫でられる感覚がした。

「寝てても大丈夫よ。時間になったら私が起こしてあげるから」

 

割れ物を扱うようにそっと撫でるジブリールの手が少しくすぐったくて、でもそれ以上に気持ちよくて……。

自然と瞼が閉じて行く。

 

(まだ寝たく無い。けど……頭まで撫でられたら……)

 

瞼が完全に閉じて少しすると、十香は眠りについた。

 

☆☆☆☆☆

 

日が暮れ、夜が訪れる。

ジブリールに起こしてもらった十香は、四大熾天使であり、天使長でもあるミカエルに、話を聞きに行っていた。

「来ましたね」

 

天界の第六天にある中枢機関『ゼブル』。そこには既に、ミカエルが待っていた。

 

「遅くなってごめんなさい、ミカエルさん」

 

地に降り立った十香は、先にいたミカエルに謝る。天使たちは皆、例外なくミカエルさまと呼ぶのだが、十香の場合子供の頃から遊んでもらっていた頃からの呼び方なので、それが身についていた。

ミカエルも嬉しそうなので問題はない。

 

「いいですよ。私も今来たところですから」

 

そう言ってミカエルは十香の頭を撫でた。

母親とは違うがまた別の気持ちよさがあった。

「それで、ミカエルさん。話って何ですか?」

「実は、話なんてものはありません」

「え?」

「ジブリールには話があると言いましたが、実際は行く前にあなたの顔を見ておきたかったのですよ」

 

爽やかな笑顔を浮かべるミカエル。本当にただ顔が見たかっただけのようだ。

 

「十香、あなたは天界の宝です。《天使》に選ばれたこともそうですが、それ以上にいつも笑顔な姿が、天界全土に癒しを与えているのです」

「私が…………癒しを?」

 

まったく自覚のない十香はどう反応すればいいか困った。ただ楽しいから、嬉しいから笑っていただけなのに、それが結果的に天界に癒しを与えているなんて誰が想像できようか。

「ええ。十香は知らなくて当然ですが、我々は悪魔と堕天使との戦争の処理で疲弊していました。それが終わってもまだ悪魔と堕天使とは冷戦状態、休む暇もなく、我々は疲弊していく一方でした」

 

その話はジブリールから聞いたことがある。十香が生まれる前までは天界中が殺気立っていたと。

 

「ですが、あなたが誕生してから天界は変わりました。赤ちゃんなど縁のないものが生まれ、その愛くるしさに日々の疲れは吹っ飛ばされるようでした。それは私だけでなく天界に住まう天使全員がです。そして、日々成長していく十香に癒されていき、そして今ではここにも笑顔が戻りました」

「…………」

 

まさか自分の生まれがそんな劇的な変化を天界に与えていたなんて思いもしなかった十香は、唖然とした。

そんな十香の頭をまたミカエルは撫でるが、十香は反応できずにいた。

 

「十香。あなたは天界にとって必要不可欠な特別な存在なのです。…………だから、無事に帰って来てください」

 

ミカエルの手が離れる。そこでやっと十香は反応を示した。

余計な言葉はなく、一言の意思表示をーー

 

「はい!」

「よろしい。では、今から人間界に送りますが準備はいいですか?」

 

ミカエルの最終確認に十香はうんと、頷く。

そして周りを見れば、何人かの天使たちが十香たちを取り囲んでいた。

十香が疑問に思っていると、ミカエルが答えた。

 

「彼らが天界と人間界を繋ぐ門を作ってくれる者たちです。すぐに完成するでしょうから私たちは少しだけズレて待っていましょう」

 

十香はミカエルについて行くように脇にそれる。

すると、天使たちが詠唱を始めた。聞いた限り聖書の一節に違いない。

「十香、転移先は今回向かう駒王学園の近くにある教会です。直接学園に送ってもいいのですが、それだと天界が介入してきたと誤解を招いてしまいますから」

「わかりました」

 

ミカエルと話していると、ちょうど両開きの門が現れた。白亜で出来ていそうな見事な門構えだ。扉が音立てて開いていく。

 

「さぁ、この門の先は人間界です。全てが終わり次第、教会に戻ってください。確認次第こちらから門を開きます」

「はい……それでミカエルさん、その……」

「どうしました? …………ああ、そういう事ですか。大丈夫ですよ、もう来てますから」

 

ほらと、ミカエルが横に避けると、そこから十香が行く前に会いたかった人物が飛び込んできた。

 

「お母さん!」

 

驚きと歓喜が入り混じった声で、飛び込んできる母親のジブリールを受け止めた。

ジブリールの顔が豊かな胸に埋もれて、くすぐったい。でも、今はそれが心地が良かった。

出発前にいつものジブリールが見れるだけで、元気が溢れ出てくる。

 

「十香ちゃん。無事に、怪我一つなく帰って来てね」

 

胸から顔を離したジブリールが真剣な眼差しで十香の瞳を除く。その雰囲気は普段のジブリールからは想像もできないくらい、引き締まったものだった。

だが、十香は何度かこのジブリールを見た事があり、こういう時はどうすれば一番効果的かわかっていた。

 

「安心して、お母さん。私には主の加護があるから大丈夫。必ず無事に帰ってくるから」

 

主の加護とは、十香が生まれ持った《天使》のことだ。

神々を屠る事のできる《天使》が、たかだか堕天使程度に通用しないなんて事はありえない。

だから大丈夫と、十香はジブリールを強く抱きしめる。

 

「もう時間だから…………行ってきます」

「……ええ、行ってらっしゃい」

 

名残惜しいが、十香は離れる。

最後にジブリールと一言の交わし、そして白く光る門の中へと歩き、そして消えていった。

 

☆☆☆☆☆

 

人間界では、既にコカビエルが動いていた。

教会から送られた紫藤イリナはコカビエルの根城で返り討ちに遭い、聖剣を奪われた。

そして、コカビエルは紫藤イリナをこの町一帯を管理しているリアス・グレモリーと、その下僕である兵藤一誠とアーシア・アルジェントに投げ捨て、宣戦布告を行った。

二天龍の片割れ赤龍帝ドライグの所有者である兵藤一誠を筆頭に駒王学園に向かうが、そこにはこの町を簡単に崩壊させられる準備が既に始まっており、同時に四本のエクスカリバーを一つにする儀式も始まっていた。

止めようと動く兵藤一誠たちの前に、地獄の番犬の異名を持つケルベロスが現れる。

無事、倒す事はできたが、さらに追加でもう一匹現れた。途中で加勢に来たゼノヴィアと、赤龍帝の能力である力の譲渡で強化されたリアス・グレモリーと姫島朱乃によって消滅した。

一本になったエクスカリバーをデュランダルを解放したゼノヴィアと、禁手(バランスブレイカー)に至った木場裕斗により破壊され、エクスカリバーを扱っていたフリード・セルゼンは切り捨てられた。

そこで漸く腰を上げたコカビエルと戦闘になるも、一誠たちでは手も足も出ず苦戦する一方。さらには、聖書の神の死をも告げ、神を崇拝していたアーシアはその真実に気絶してしまい、ゼノヴィアは一時戦闘を行えないまでに動揺したのだった。

 

☆☆☆☆☆

 

神の死を暴露し、嬉々としているコカビエルは顔を邪悪に歪め、更に言い放つ。

 

「これからそう遠くない日に、俺の求める戦争をはるかに凌駕する出来事が必ず起きるだろう。歴史の終わりか、それとも転換点か……証拠に《天使》が所有者を選んだのだからな!」

 

何のことなのかさっぱり分からなかった一誠は隣にいるオカルト研究部の部長であり、キングのリアス・グレモリーに聞いた。

 

「部長、《天使》ってなんですか? 天使は天使じゃないんですか?」

 

一誠は最近悪魔になったばかりで、こっち側のことはあまり詳しくなかった。それをわかっていたリアスは一誠に説明する。

 

「《天使》というのはイッセーのもつ神器のようなものよ。人間にしか扱えない代物。でもその《天使》というのは十三種の神滅具を遥かに超えた力を持つものなの」

「神滅具(ロンギヌス)を超える!? そんなのが本当にあるんですか!?」

 

一誠はあまりの衝撃に絶句した。何せ、一誠の持つ神器はその神滅具の一つなのだ。その力は強大で、すべてを解放すると神すらも倒すことができると言われている。まだ一誠は神滅具を使いこなせてはいないが、それでも《赤龍帝の籠手》ブーステッドギアが強力である事は理解している。その驚きは他人とは比べ物にならない。

一誠の驚愕の声に応えたのはコカビエルだった。

 

「実在する。そして神滅具を凌駕するのも本当のことだ。何せ、聖書の神が何千年とかけて仕上げたものだからな。力を全て解放して漸く神を殺せるロンギヌスに対して、《天使》は素の状態で神を容易く屠る力を有している。…………今はどこのどいつが担い手に選ばれたかまだ分かってはいないようだがな」

 

少し落胆した様子を見せるコカビエル。様子から見るにどうやら戦いたいらしい。

一誠は呆れる。神を簡単に殺すことのできる相手と戦いだなんて、狂ってると。だがこれは、戦闘狂であるコカビエルに言っても無意味なことだろう。

そんな一誠の様子も君することなくコカビエルは続ける。

 

「俺が今回動くことにしたのはその《天使》の担い手を呼ぶためのものでもある。現れないなら俺が世界を崩壊させるような争いを起こして引きずり出してやるってなっ!」

 

高々に言うコカビエルに、一誠は我慢できずに叫んだ。

 

「お前の勝手な都合で俺たちの平和を壊そうとしてんじゃねぇぞ!」

「ふん、下級悪魔風情がよく吠える。ならば守ってみせろ! 貴様はかりにも今代の赤龍帝なのだろう?」

 

ニヤリときみ悪く笑うコカビエルに、一誠は拳を強く握っていた。

赤龍帝と言われても、一誠の場合は歴代最弱だ。満足に力を引き出すことができない。そんな状態では聖書に記された怪物には倒すはおろかかすり傷すら負わせられない。

いくら神滅具を持っていようと、所有者である自身が未熟であれば意味がないのだ。一誠はそれが悔しくて歯噛みする。

 

「赤龍帝といっても、所有者がこのザマでは所詮その程度だな」

 

侮蔑の視線で見下すコカビエルに、一誠は戦いが始まる前に、相棒のドライグが言っていたことを思い出した。

 

(『いざとなったら、俺がおまえの体の大半をドラゴンにしてでも打倒してやるさ。倒せないまでも一時間動けないぐらいのダメージは残してやる』)

(もう、これしかないッ! あいつを倒さないと母さんや父さん、松田や元浜たちがみんな死んじまう!)

 

「ドライグ! さっき言ってたこと本当なんだな?」

『本気か、相棒?』

 

一誠の左手にある《赤龍帝の籠手》から渋い音声が発せられる。

 

「ああ! そうでもしないとあいつは倒せねぇ!」

『そうか……だがな、相棒。その必要はないかもしれんぞ』

「は? 何言ってんだよドライグ。それ以外に勝つ方法なんてーーーーッ!?」

 

ゾクッ! 一誠の体に強烈な悪寒が走った。

 

『気づいたか、相棒』

 

周りを見れば、コカビエルも含めた全員が固まっていた。恐らく一誠と同じように悪寒を感じたのだろう。

強烈な聖なるオーラが、結界内の駒王学園中に広まっていた。悪魔にとって光、すなわち聖とは毒そのもの。肌が焼けるような感覚には覚えがあった。

 

「これは、エクスカリバーを前にした時と同じ……」

 

ーーだけど、

 

「この聖なるオーラ……エクスカリバーのときの比じゃないわ!」

 

リアスが両腕を抱きながらありえないと叫ぶ。

そう、エクスカリバーのレベルではない。例えるなら、エクスカリバーは火だが、この聖なるオーラはマグマだ。比べることすら無駄なこと。

誰もが恐れる中、一人だけ笑っているものがいた。

 

「ハハハハ! ミカエルもやっと本腰を入れたか? こんなオーラを発した天使をよこすとは! 間違いなく熾天使(セラフ)級っ! 誰だ? ラファエルか? ウリエルか? サンダルフォンか? 誰でもいい、早く俺の元へ来やがれ!」

 

(セラフ級!? セラフって言ったらーー)

 

『天使の中でも最上級な奴らだ。その中でもさらに強力なのが四大熾天使と呼ばれる者たちだ。悪魔で例えるなら四大魔王と一緒だな』

 

(魔王様と同じ!? でも、それならこのオーラは頷けるぜ……)

 

一誠は冷や汗を流しながらそう思うが、ドライグが違うと指摘してきた。

 

『これは四大熾天使のものではない。俺も昔に戦った事はあるからわかるが違う。ーーだが、このオーラ……奴に…………まさか』

 

ドライグはそれっきり黙ってしまった。

相棒の様子には気がかりだったが、それよりもこのオーラの主のほうが気になった。

極大な聖のオーラが近づいてきているのがわかる。それに連れて一誠の身体が拒絶反応を起こすように震える。いや、この震えは生命の危機に対する警報に近い。

「ぶ、部長……このオーラやばくないですか?」

 

リアスに言う一誠の声ははっきりとわかるくらい震えていた。そして、一誠の言葉はコカビエルを除いた全員の意見を代弁したものであり、皆がリアスの指示を待っていた。

「みんな、戦闘態勢はといちゃダメよ。一瞬も気を緩めちゃダメ。もし、相手に敵対心があればいつ攻撃が来るかわからないのだから」

 

リアスの指示は現状維持だった。だが、それに反対するものなどなく自分たちの主を信じてただ従う。一誠も例外なく、リアスを守るように《赤龍帝の籠手》を構えた。

そしてーーーーーー

 

『ーーッッッ!?!?』

 

この場にいる全員が硬直した。そして、その全員はある一点を見つめていたーーいや、見惚れていた。

何故ならそこには、冗談と思えるほど、美しい美少女が奇妙な光のドレスを纏って立っていたからだ。

不思議な素材で構成されたドレスも目を引いた。そこから広がった光のスカートも、気を失うほど綺麗だった。しかし、彼女自身の姿容は、それすらも脇役に霞ませる。肩に腰に太ももに絡みつくような長い闇色の髪。

そして何より誰もが目を奪われたのは、女神さえ嫉妬を覚えさせるであろう端正な顔だった。

視線を、心を一瞬にして奪い去られた。尋常でなく、暴力的なまでに美しい。

その姿に、誰もが動く事はおろか口を開くことができず、時間が止まったと錯覚してしまう。

あまりの美貌に畏怖さえ抱かせる少女は一誠たちとコカビエルを一瞥してからゆっくりと口を開き、言った。

 

「ぎゃあぎゃあと煩いですね。ま、それが堕ちたカラスとコウモリなら納得できるかな」

 

まさかの両者に罵倒を浴びせる言葉に、違う意味で場が凍った。

見た目とのギャップに誰もが付いていけなかったのだ。

 

 

ただ、目の前の美少女は凍った空気など知らんとばかりに、太陽より眩しい微笑みを浮かべていたーー。




最後、十香が何故ああ言ったのか、次回わかります。と言ってもそこまで重要なところではありませんが。
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