ハイスクールD×D 奇跡の天使   作:瑠夏

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4話 怒り

 

 

詠唱で開かれた人間界につながる門を潜った十香は、気がつけば教会内に立っていた。

降り立った教会は、戦闘でも起こったのか、ボロボロだった。綺麗に並べられているはずの長い椅子は半分に折れたり、バラバラにひっくり返っていた。壁には刃物や銃撃の跡が無数に残っており、それなりの戦闘が起こっていたことを述べていた。

「ここは教会と呼べるのかな? 廃墟の方が合ってるような……」

 

実際、もう誰もこの教会を活用しているものはいない。荒れ放題な所を見ればそれは一目瞭然だ。天使としては見過ごせない惨状に、十香は片付けようとしたのだが、あいにくと今はそんな時間はない。

ミカエルを含む熾天使(セラフ)から『グリゴリ』の幹部、コカビエルを止めて欲しいと依頼を受けている最中だからだ。

十香は室内を一瞥してから、後ろ髪敷かれる思いで教会を出た。

 

「あ、そう言えばこの格好じゃ戦えないね」

 

十香は自身の服装を見て、言う。

薄手のチェニックにショートパンツという組み合わせ。十香には誂えたように似合っていた。半分人間の血が混じっている十香は、服装からして人と同じものにしている。が、今回に限っては明らかに相応しくない服装だ。ふざけていると言われても仕方がない。

戦闘には不向き過ぎる。今から天界に戻る事はできないし、そんな時間もない。既にコカビエルは動いているのだから。

それを理解している十香は帰るという選択肢は選ばない……と言うより、そもそも選択肢にすらない。

十香はその場で立ち止まり、集中するように瞼を閉じた。

「ーー〈神域霊装・十番〉アドナイ・メレクーー」

十香がその名を呼ぶ。

瞬間、世界が啼いた。

周囲の光景がぐにゃりと歪み、十香の身体に絡みついて、荘厳なドレスが形を取る。肩に、胸に、腰に、身体の各所を鎧う紫紺の甲冑に、淡い輝きを放つ光のスカート。そこには見るものを釘付けにさせる絶対的な美を体現した少女がそこにいた。

「よし、これなら大丈夫!」

 

これが十香の戦闘を行う際に身につけることが多い装い。この不思議なドレスは、霊装といい、十香を絶対に守る最強の盾であり、城だ。

そして、十香は地面に踵を突き立てながら言う。

 

「〈鏖殺公〉サンダルフォン!」

 

瞬間、そこから巨大な剣が収められた玉座が出現する。十香はトン、と地を蹴ると、玉座の肘掛けに足をかけ、背もたれから剣を引き抜いた。それは幅広の刃を持った巨大な剣だった。

虹のような、星のような幻想的な輝きを放つ不思議な刃。

その剣は尋常じゃない聖なるオーラを発していた。その輝きは聖剣エクスカリバーをも霞ませるほど。

それもそのはず、〈鏖殺公〉は聖書の神が何千年とかけて完成させた《天使》の一つだ。幾ら最強の聖剣と言われていようと〈鏖殺公〉とは比べるまでもなく劣る。

そしてこの〈鏖殺公〉が十香の最強の矛だ。

最強の盾に最強の矛。

両方を兼ね備えた十香は、目的地である駒王学園へと駆けた。

結界が大きく何かを覆うように貼られている。何かは間違いなく駒王学園だろう。恐らく被害を抑えるために貼っているのだろう。

しかし、コカビエル相手にあの程度の結界ではないのと同じだ。

十香は尋常ではないスピードで移動している。その速度は人の目で追えないほど。半分が天使なため、身体能力が別格に高いため出せる速度だ。

恐ろしく早いのに、物音が一つもしない。

「見えた」

 

学園の正門らしき場所に複数の悪魔が結界を貼っているのを十香の視界に入った。

一度止まって話を聞こうかと考えたが、外側いては中のことなど分かるはずもない。聞くだけ時間の無駄だ。

そのまま強引に結界内に入ると決めた。ちょうどその時になって、結界を張っていた悪魔たちが十香に気づいた。

 

「っ!? そこの貴方、止まりなさい!」

 

眼鏡をかけた女性悪魔が水を魔力を作りながら静止の声をかけてくる。

が、気づくのが遅すぎた。

十香は〈鏖殺公〉の切っ先を正面に向け、走る足を強く踏み込み、地面を蹴る。

十香の身体が少し浮き、弾丸の如く加速して悪魔たちを一瞬で追い抜き、結界の一部を破壊し侵入に成功する。

眼鏡の女性悪魔とすれ違う瞬間、十香はごめんなさいと謝罪した。

 

「え……?」

 

一瞬の事に、彼女は目を白黒させていたが、既に十香は学園内に入り、いなかった。

 

☆☆☆☆☆

 

結界内に入った十香は、力が集まっているグラウンドへ向かって歩いていく。

グラウンドに近づくにつれて、コカビエルと悪魔たちが言い合いをしているのが聞こえてくる。

平和を望む悪魔たちの話は十香は納得できた。争わなくて済むならそれが一番だから。逆にコカビエルの戦争を始めたいという話には納得はできなかった。誰が好き好んで戦争なんて始めるのか。それはコカビエルのような戦闘狂だけだろう。ましてや天使である十香が戦争などを望むわけもない。

けど、悪魔が平和を謳ったって胡散臭い……それは堕天使にも言えることだが。

グラウンドが見えた。そこには空中で静止するコカビエルと、対峙する悪魔六人と、教会の使徒であろう人間が一人いた。

しかし、予想外のことにその全員が十香を見ていたのだから、驚いてそこで足を止めてしまった。

(そ、そんな一斉に見られたら恥ずかしいよ……)

 

警戒して睨みつけているなら驚くこともなかったのだが、全員が棒立ちの状態で睨みつけるのではなく見つめてきたのだから恥ずかしくなってしまうのも仕方がない。

(え、えっと……何か言わないと)

 

誰も何も話さず、十香は見つめられ続けていることがとてつもなく恥ずかしくて、何か話そうと言葉を探る。

 

(初めてだからやっぱり挨拶? ううん。今はそんな空気じゃない。なら今すぐに隠れて出る機会をうかがう? って、もう姿見せちゃってるんだから意味ないよ! うぅぅ、どうしよう……)

 

隙を見せないよう表情や態度には一切出さないが、内心は焦りに焦っていた。

目に見えた動揺や焦りは大きな隙になるから気をつけなさい。母親のジブリールによく言われていたことだ。その教えがあったから、十香は焦る気持ちを表に出さずに抑えることができた。

 

ーーお母さん、ありがとう!

 

心の中でジブリールに感謝していると、ふと、十香はある事を思い出した。

それは、この任務が始まる数日前に教えられた言葉だ。

 

ーー確か……。

 

『いい? もし駒王なんちゃらって所で悪魔と堕天使がいて、戦闘もしくは何やら言い合いをしていたらこう言いなさい』

 

ーー確か…………こうーーーー

 

「ぎゃあぎゃあと煩いですね。ま、それが堕ちたカラスとコウモリなら納得できるかな」

堂々と放たれた、瞬間。

空気が凍った。

だが、十香は母親に教えられたことを生かすことができて満足して、空気が凍ったことにまるで気づかない。

だが、真っ先に我に返ったコカビエルによって凍った空気は霧散する。

 

「……これほどの神聖を持つ者がまさかこんな小娘だとはな、ガッカリだ」

 

コカビエルからありありと落胆、失望感が見て取れる。神聖の高さは驚愕に値するが、それを使役するものが小娘だと知ると、コカビエルは一瞬で興味を失った。

 

「消え失せろ小娘。そして協会を通じてミカエルに伝えろ。もっとマシな奴をよこせ。最低でも熾天使級をつれてこいとな!」

 

そう言うや否や、コカビエルは追い払うように光の槍を十香に放った。

悪魔が受ければ致命傷は免れない。下級、中級悪魔ならば一瞬で消滅するであろう光の槍が一直線に十香へと迫る。

 

「そこの子、危ない!」

 

コカビエルの強さを経験した兵藤一誠が叫ぶが、十香は避けるそぶりを見せない。

何故なら、避ける必要がないからだ。

光の槍が十香を貫こうとした瞬間。

ガシッと、光の槍を掴んだ。

 

「な、なに!?」

コカビエルが驚きの声を上げる。

手を抜いていたとは言え、堕天使の幹部にして聖書にすら記された自身の攻撃を、小娘とバカにした十香に、容易く受け止められるとは想像もしていなかっただろう。

しかし、霊装を纏った十香には簡単に掴めてしまう。十香は、掴んだままの光の槍を軽く握りつぶした。

そして、空に飛んでいるコカビエルを見上げる。

 

「私は出来れば誰とも争いたくない。コカビエル、ここは引いて。貴方さえ手を引いてくれたら、全て収まるの」

「……ハッ、なにを言うかと思えば、争いたくないだと? 考えが甘すぎる! いや、それ以前に、その口ぶりではお前が俺と争えるレベルに達していると聞こえるぞ? 勘違いするなよ小娘。さっきの攻撃は威嚇目的で放ったものだ! あの程度を防いだぐらいで調子に乗るなッ!」

 

コカビエルが両手を上げ、力を貯めていく。先ほどよりも遥かに威力の上がった光槍。

事の成り行きを見ていた一誠たちは、さっきまで戦っていたコカビエルが、全く本気じゃなかったことに気づく。あまりの力の差に絶望すら覚えた一誠たちだが、十香はそれでもコカビエルを見上げるだけで避けようとはしない。

 

「その余裕な態度……あの時の、忌々しいあの女を思い出す」

「あの女?」

 

思わず聞き返してしまった十香の質問に、コカビエルは吐き捨てるように言う。

 

「熾天使の一人……殺戮天使とまで言われたジブリールだ! あの女……昔も今のお前と全く同じように余裕な態度をしてやがった! 忌々しい、今度会ったらただじゃすまねぇ! 犯して犯して犯し尽くしてから、ぶち殺してやるっ!!」

「ーーーーーー」

 

コカビエルの怒りがそこにはあった。しかし、それを聞いた瞬間。十香の思考が一瞬だが停止した。今コカビエルが言ったことをすぐに頭で理解できなかったのだ。

 

ーー今、この男はなんと言った?

 

ーージブリール……私のお母さんを殺す?

 

ーー私のお母さんをあの堕ちた醜い堕天使が犯す?

 

ーーあの堕ちたカラス風情が、お母さんに触れるは愚か犯し尽くす?

 

 

 

 

 

ーー……………………。

 

 

 

 

 

 

 

「だが、まずはお前からだ、小娘ぇぇえ! お前も大人しくさせてから犯して辱めて、教会にお前の死体を晒してやる。それ程の神聖を放つからにはお前を贔屓にしている天使が必ずいる! まずはそいつから引きずり出してやる!」

 

怒りの形相を浮かべたコカビエルが、両手を十香に向かって振り下ろした。すると、巨大な光の槍が十香に向いたかと思うと、高速で放たれた。

迷いなく十香を穿たんとする迫る光の槍。だが、十香は俯いたまま動く気配がない。

既に槍は回避不可能な位置にまで達していた。仮に防御が間に合ったとしても、ダメージは確実に通る。その後ゆっくり嬲ってから……と、考えていたコカビエルの顔がニィと歪む。

ムカついた小娘とはいえ、これほどの美貌。堕ちた堕天使には最高の獲物だった。

しかし、光の槍が十香を貫こうとした瞬間ーー。

 

 

 

 

 

 

「許さないーーーー〈鏖殺公〉」

 

その言葉と同時に十香は〈鏖殺公〉を握っていた右腕を振り上げた。

 

刹那ーー。

 

巨大な光の槍は跡形もなく切り刻まれ、その余波が上空にいるコカビエルまで伸びていき、

 

「ぐっ、がぁぁぁああああっ! 俺の、俺の腕がぁぁぁぁああ!」

 

何の抵抗もなくコカビエルの左腕を切断した。更に言えば、後ろの五枚の翼も、半分から先は無くなっていた。

 

「き、木場……あの子、いま、何をしたかわかるか……?」

「……わからない、僕でも何も見えなかった……」

 

自分たちがどう足掻いても倒すことができなかったコカビエルを斬った十香に唖然とする一誠たち。

 

「許さない……汚れたカラスが、私が一番尊敬している天使に触れるなんて。身の程を知りなさい。あの人はお前ごときが触れていい人ではない」

 

尊敬し、愛している母親を辱めるといったコカビエルに十香は態度を一変させた。来た頃は、まだどこか緩かった十香の雰囲気は、瞬時に刃物のように冷たく、そして鋭いものへと変わっていく。

 

コカビエルは触れてしまったのだ。

《天使》という絶大な力を持った十香の、怒りにーーーー。

 




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