久しぶりに仰いだ蒼穹は、どこまでも広くて、高くて、ああ、これがオレ達の守った物なんだ、と実感した。
そっと、右手に触れる感触。
どうしたの? そう聞くと彼女は頬を染めて俯いて、ただ触れてみたかっただけです、とか細い声でそう呟いた。
その様子が何だか可笑しくって、その様子がとっても人間らしくて、ついつい笑いが零れてしまう。
オレがあんまり笑うものだから、彼女は頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。
ああ、しまった、怒らせてしまったようだ。
ごめんね、と謝っても、彼女は先輩なんか知りませんの一点張り。
どうした物かと考えたが、どうしようか、言葉が浮かばない。まぁ、だからこれは仕方の無いことだ。仕方がないから、オレは彼女の手を握った。
すると一瞬だけ彼女は硬直して、向こうもそっと握り返してくれる。
先輩にとって、この旅はどんなものでしたか?
それはもちろん、素晴らしかったよ。
素晴らしかった。色んな人に出会って、色んな景色を見て、色んな音を聞いて、色んな感情に触れて、仲間と絆を、縁を結び、共に語らい、共に笑い、共に戦い、共に歩んだ短くて長かった旅の道程は、これまでの人生で、否、これから先もきっと、これ以上の物は無いのだろうと思えるほどに、素晴らしかった。
後方からオレ達を呼ぶ声が聞こえる。
振り向けば我らがカルデアの誇る天才がこちらに手を振っている。
―――戻ろうか、マシュ。
―――はい、先輩。
先程まで仰いでいた空をもう一度見て、そしてオレ達は歩いていく。
握った手を離さないように、彼女が痛くないように優しく、けれども強く握ったまま。
カルデアの施設に入った時、ついつい、あの人影を探してしまった。
だって、あの人がもういないだなんて、そんなの実感がわかないに決まってる。
お礼を言いたかった。
ありがとうって。助けてくれてありがとうって。
一発ぶん殴ってやりたかった。
一人で抱え込むなよ、と。何で頼ってくれなかったんだよって。
一言、労いたかった。
ただ、お疲れさま、と。凄いね、と。
あんなに頼りなくて、弱々しくて、情けなくて、ヘタレで、飄々と自由で、適当で、小さく見えたあの背中を、今は無意識に探してしまう。
どうして、いないのだろうか。
あんなに頼もしくて、慎重で、誇らしくて、ヘタレで、自由を捨てて、我武者羅に突き進んだ、あの大きな背中は、もう見られない。
そんなことはわかっている。わかっているんだ。
だけど―――――
ダメだ。泣いちゃダメだ。
あの人はそれを望んじゃいない。
でも、悲しいじゃないか。
人であることに憧れ続けて、人に成ったら自由を捨てて、ただただ、いまこの平穏のみを求めて走り続けた人が、その平穏を享受できないなんて、悲しすぎるじゃないか………っ!
――先輩?
――…大丈夫だよ、マシュ。
大切な後輩の瞳を覗く。彼女の竜胆の瞳は、かつての消え入りそうな光ではなく、強い灯りを灯している。
ああ、逞しくなったね。何て頼もしいのだろう。
そう感じたら、気がつけばオレは彼女を抱き締めていた。
腕の中で彼女が慌てふためいている。それでも抱き締める腕は解かない。解いてしまえば彼女が消えてしまうような、そんな気がしてしまうから。
そっと、彼女も腕を回してくる。
耳元で大丈夫と、そう囁かれても、きっとオレのこの恐怖は消えないだろう。
当然だ。一度目の前で彼女を失ったこの恐怖は、オレの魂に深く刻み込まれた。拭える日なんか来るはずもない。
絶望があった。
絶望しか広がっていなかった。
縁を辿った
小さな光だった。
暖かな灯りだった。
覚悟の炎だった。
怖かった。
苦しかった。
けれどもそれ以上に、諦めたくなかった。
繋いでくれたんだ、あの人が。
なら、諦める訳には行かないだろうが。このオレに、そもそもそんな選択肢なんか初めから無いのだから。
そうして、オレ達は平穏を勝ち取った。否、守りきった。
あの人のお陰で、守ることができた。
ああ、どうして、一番お礼を言いたいときにいないんだよ。
どうして、共に笑いたい時にいないんだよ。
どうして、どうして、どうして―――っ!
堪えようとしたけど、堪えきれなくて、一滴、零れてしまう。
マシュがオレの頭を包み込むように抱き締めてくれる。
わかってるよ、マシュ。
オレはもう大丈夫。マシュだって辛いのに、ごめんね。
さあ、前を向こうか。
せっかくあの人がくれた平穏だ。
これから忙しくなるだろうけど、それでも、この日々はどんな宝石にも勝るから。
ありがとう、ロマニ・アーキマン。
夢見る人よ。
お疲れさま、Dr.ロマンティック。
どうか、どうかせめて安らかに。
ロマンがもうほんとロマン過ぎて衝動書き。
だもんでかなり粗めだけど、これ以上弄るのはちょっとできそうになかった。
FGO2部楽しみだなぁ。
それでは皆さん、良いお年を。