「はい、これ今日の分ね。今度は溜め込まないようにしてよ?」
白黒の対照的で対称的な館のとある一室。死神はそう言いながら大鎌を置いて、両手に魂が入った袋を机の向かい側にいる副閻魔に渡す。副閻魔は大きく
「あー、もう仕事したくねぇな。死にそうだぜ」
副閻魔は袋を机の横に置いて椅子から立ち上がる。ふらふらになりながらソファまで歩くと、そのまま倒れ込んだ。
「しばらくは休業だ。その間あいつでも呼ぶかな...」
「ちょっとやめてよ、そんなのありえない!あいつだけはやめて!」
副閻魔が呟いた呟いたつぶや瞬間に死神が叫ぶ。前にも一度副閻魔の代理で来た男がいるのだが、死神はその男がとてつもなく苦手なのだ。
頭をぶんぶんと横に振って無理を連呼する死神。それを横目で見ていた副閻魔だが、にやりと口角をあげた。ソファに座り直すと手をひらひらと振って言った。
「わかったよ、あいつは呼ばねえから。安心しろ」
それを聞いてあからさまにほっとする死神。だがすぐに顔を
そのまましばらく見つめ合う二人。
先に目を逸らしたのは死神だった。ため息をついて部屋のドアへと向かう。
ドアノブに手をかけて振り向きざまに
「ちゃんとベッドで寝なさいよ。早く再開させないと許さないから」
と言った。
そのまま館から出て
しばらく飛んでいると、大きな森が見えてきた。森の中心部からは背の高い木が一本立っていて、その太い幹や枝に支えられるようにして家がある。そこが死神の住処だ。
死神は家の右側から伸びる枝に降り立つと、枝を伝って窓から中に入る。そこで思い出した。そういえば副閻魔に窓から家に入る癖直せって言われていたのだった。まあここは自分の家だし副閻魔もいないからいいか。
副閻魔の館は窓に鍵がかかっているため気をつけているのだが家だと油断してしまう。副閻魔の館も私がいつも窓から入ってくるため閉められたのだ。
死神が入った窓は一階の窓で玄関部分になる。ここにはほとんど何も置かれておらず、二回に続く階段と下に続く階段があるだけだ。この家は四階建てで一階は玄関、二階はリビングとキッチン。三階はお風呂と手洗い場。そして最上階の四階には死神の自室になっている。
死神は階段を上ってリビングを通り抜けて、キッチンに向かった。食器も最低限にしか入っていない食器棚とひどく綺麗なガスコンロ。決して料理が出来ないわけではないが置いていない。決して料理が出来ないわけではない、決して。
冷蔵庫の扉を開けてブラックオレンジジュースが入ったペットボトルを取り出し、食器棚から取り出したコップに注ぐ。それを一気に飲み干すと息をついた。コップにジュースを半分くらいまで入れ直してペットボトルをなおした。
コップを持ってソファに座り、窓から差し込む夕日に目を細める。コップを近くのテーブルに置いて立ち上がると窓まで近づきカーテンを閉めた。
日の光は嫌いだ。明るくて、まぶしい。光り輝いていて、うっとおしいほどねっとりと光が絡みつく感覚が嫌いだった。
闇の世界にも太陽はある。もちろん月も。闇の世界といってもほとんど人間の世界となんら変わりはない。ただ、住んでいるのが人間ではなく死神や副閻魔などの闇の者たちというだけ。その闇の者達も人間のように多くはなく、五百人にも満たない。
その中でも死神は"白い死神"で有名だった。他の死神達は黒い
それに、赤黒く染まった時の感触は嫌だが、白がだんだんと染まっていく様を見るのは楽しかった。
「あ、副閻魔の家に大鎌忘れてきちゃった。でもまあ、いっか」
仕事と言っても時間が決まっているわけではない。お昼くらいに取りに行けばいいだろうと思い、4階まで上がった。お風呂は副閻魔の家で入ってきたのであとは寝るだけだった。疲れていたのもあり、ベッドに入ると死神はすぐに眠りに落ちてしまった。
******
高く昇った太陽の光が死神が寝ているベットに差し込む。それが丁度顔に当たって暑い。
「んー、眩しい…」
目を覚ました死神は寝ぼけ眼まなこを擦りながらゆっくりと立ち上がった。階段を降りて洗面所へと足を踏み入れた。鏡には黒髪が少しはねている死神の姿が映っている。
蛇口をひねって水を出すと、髪が濡れないように顔を洗った。髪を軽く梳かして、再び階段を上がった。
「今日も白にしようかなー」
死神はクローゼットを開けて、いつもの白いワンピースを取り出した。死神も一応黒い外套を持っているのだが、着ることはほとんどない。そのためクローゼットには同じ様な白のワンピースが入っている。そして同じく白のニーハイを下の
「そろそろ行きましょうかー」
脱ぎ捨てた服を拾い部屋を出て階段を降りる。洗濯機に服を入れてまた階段を降りる。
玄関から外に出て副閻魔の家に向かう。今日は少し日差しが強く、肌をじりじりと焼いた。一応光や熱への耐性は持っているのだが、焼けないということは無い。
それに何だか胸騒ぎがする。それも副閻魔の館に近づくほどに強くなっている。もしかしたら何かあったのかもしれない。もしあいつに何かあったら厄介な事になる。
そんなことを考えているうちに館に着いた。不安な気持ちを振り払うように頭を振って扉に手をかけた。
「お邪魔しまーす。副閻魔ー?」
副閻魔の館に入ったはいいが、様子がおかしい。いつもとは違う。何だか慌ただしい気がする。
副閻魔の部屋からは魂を天国、地獄、閻魔に送る音が死神のいる廊下にまで聞こえてくる。死神が部屋に近づくと男の声も聞こえてきた。どうやら胸騒ぎの原因はこれだったようだ。
「嘘でしょ…!!」
死神は
バンッ
急に副閻魔の部屋の扉が開いた。その音に驚き、足が止まった。そして聞きたくない男の声が背後から聞こえてきた。
「ちょっとどこ行くんですか!まさか帰るつもりじゃないでしょうね!!」
その声から逃れるように走り出す。逃げなければ!心がそう叫んでいた。捕まれば地獄が待っている。
「待ちなさい!逃がしませんよ!」
気配がだんだんと近づいてくるのが分かる。死神は足が速い方だが、男のはそれよりも速い。いっそ飛べたらいいのに、と思う。だが館内は狭く、飛べば翼が壁や天井に当ってしまう。
「あ!やば…!」
死神がそう言った時にはもう手遅れだった。ぐいっと引っ張られる。男に手首を捕まれていた。なんとか腕を振り払おうとするがびくともしない。
「なんで、あなたが、ここにいるのよ!」
肩で息をしながら、男に背を向けたまま言った。
「"青の副閻魔"から要請があったので、
男は短くそれだけ言うと、死神の手首を引っ張りながら歩き出した。死神は目を固くぶんぶんと
「嫌よ!絶対にいやぁぁぁ!」
死神の絶叫にも似た声が館内に響いたのだった。