この時期は忙しくて
「感情に任せた攻撃は……こう対処すればいい。」
俺はそう言われ下から斬られた。
咄嗟に後ろに飛んだのと鎧のおかげでざっくりとはいかなかったけど一歩間違えれば真っ二つである。
ただ問題は……
俺が飛ぶのはやめた方がいいということで……
ズン!
マシュのはるか後方の壁に俺は勢いよくぶつかる。
『飛びすぎだ!大丈夫か、大地!』
だめ、い……たい。
右の翼は衝撃で切り飛ばされている。
鎧のおかげで傷は浅いけど血がドバドバでる。
歴戦の戦士にとってこの程度はまだいけるだろうけど……
これほどの怪我も初めてな俺にはキツイものである。
それに全身が筋肉痛みたいに痛い。オメガモンの時に比べても桁違いだ。
『当り前だよ。大地が咄嗟に使ったオーバーライトは本来寿命を大きく削る力。完全体でも使えば身体が崩壊するような力だ。見ててヒヤヒヤしたよ。』
というかセイバー……ねこだましとか卑怯だよ……
そう思っていると、俺の前にマシュとぐだ子が立つ。
その顔はさっきまでマシュとセイバーの戦いを見てただけのときと違う。
かっこいいなぁ……
「構えよ。卑王鉄槌、極光は反転する。光を呑め……!」
「約束された勝利の剣エクスカリバー・モルガン !!」
それは魔竜ヴォーティガーンの息吹……黒く染まったエクスカリバーから放たれる魔力の粒子は濁流のごとく迫る。
だけど、俺とその濁流の間には……
「宝具展開します!擬似展開/人理の礎ロード・カルデアス!!」
「行くよマシュ!!」
「はい!先輩!!」
迫る濁流を防ぐのはマシュの宝具、それは具現化される白亜の壁。朦朧とし始めた意識の中で見た幻かもしれなかったけどそこにあったのは何にも汚されることのない美しい城壁だった。
って気絶するわけにはいかないよな。
『どうする気だい。傷もある、無暗に動かない方がいいよ。』
アルフォースブイドラモン、アルフォースって使えるのかな。
『すまない、オーバーライトはできても。アルフォースはまだアップロードが完了していない。あれはオーバーライトの応用だがかなり複雑な機構で……』
そっか、なら仕方ないな。
あとは任せるしかないか……
『大丈夫だよ大地。彼女たちならきっと……』
やっぱ、そう上手くはいかないっか!
「生きてるな坊主、よくやった後は少し休んどけ。」
そう聞こえたと思った瞬間、身体の痛みが少しずつ引いて行く。
そっかー、すっかり忘れてたわ。
キャスター!
「おうよ!我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社、倒壊するはウィッカー・マン! オラ、善悪問わず土に還りな!」
「灼き尽くす炎の檻ウィッカーマン!!」
セイバーの足元からそびえ立つのは無数の細木の枝で構成された巨人。
セイバーをその巨体を以て捕えると腹の檻の中に閉じ込める。
そして……
燃え盛りながら大きく倒れる。
その炎はやがて巨人の形を模る。
やがて炎ははれる。その中から姿を見せたのは仁王立ちのままぴくりともしないセイバーだった。
「私の負けか……聖杯を守り通す気でいたのだが。結局、どう運命が変わろうと、私一人では同じ運命を迎えるということか……」
セイバーの足先か光があふれる。
足先から消え始めているのだ。
「あ?どういうことだ。テメェ何を知っていやがる?」
「いずれ貴方も知る、アイルランドの光の御子よ。グランドオーダー……聖杯を巡る戦いはまだ始まったばかりだということをな。」
「オイ待て、そりゃどういうって。ッチ。お前ら後は任せたぜ!次があるんなら、そん時はランサーとして喚んでくれや。」
セイバーを倒したことで最後の勝利者となり聖杯戦争が終わったせいなのかキャスターもついには消えてしまう。
最後にお礼を言っときたかったんだけどな……
「セイバー、キャスター共に消滅を確認しました。私たちの勝利ということなのでしょうか?」
『ああ、よくやってくれたよマシュ、ぐだ子!それに大地君も!所長もさぞ喜んでくれて……所長?』
「ぶつぶつ……冠位指定グランドオーダー……どうしてその言葉がここで、ぶつぶつ……」
なにか気に障ることがあるのか所長がぶつぶつ独り言をしている。
確認もあるのでぐだ子が所長に質問するが軽く流される。
「とりあえず不明な点は多く残りましたがここでミッションは終了とします。とりあえずセイバーが持っていたと思われる水晶体……聖杯を回収します。セイバーが異常をきたしていた理由、この特異点の原因もあれにあるようですし。」
「はい、わかりました。回収しま……っな!!」
マシュが消滅したセイバーから出てきた黄色い結晶体を回収しようと近づく瞬間、突然結晶体は宙に浮き奥に飛んでいく。
なんだか嫌な予感がする
そう感じた。アルフォースブイドラモンも感じているのか言葉には出さないが険しい顔をしている。
「いやはや、まさか君たちがここまでするとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ。一般枠の48人目のマスター、魔術の魔の字も知らぬ子供だからと見逃してあげたのがこんな形で裏切られるとはね。」
言葉と共に結晶体を片手に持ちながら一人の男が現れる。シルクハットをかぶる英国紳士を思わせる風貌がにこやかに、ゆっくりと……
「れ、レフ教授!?」
『レフ!?レフ教授だって!?彼がそこにいるのかい?』
「その声はロマニ君かい?君も生き残ってしまったのか、すぐに管制室に来てほしいと言ったのに。まったく……」
「まったく度し難い!どいつもこいつも統率のとれていないクズばかりで反吐がでる。人間というやつはどうしてそう定められた運命からそれようと、ズレようと必死になる!?」
「っ!マスター、後ろへ!私の後ろに!あれは……あの人は私たちの知ってるレフ教授ではありません。」
あ~聞こえてくる話の中身的にヤバそうな感じしてるけどやっぱり敵?いかにも私悪者ですって雰囲気してるもんな。
マシュはもちろんぐだ子も警戒バリバリだし……
そう考えて俺も剣を構える。
いつでも動けるように……
『(翼半分ないから飛ぶなよ、絶対に飛ぶなよ!)』
「レフ!ああ、レフ、レフ生きていたのね!よかった、あなたがいなくなったら私、この先どうしたらいいのか分からなかった。」
って、えええええ!!?
どういうこと!?敵じゃないの!?味方なの!?わかめなの!?
「所長、いけません!その男は!」
「やあオルガ、元気そうでなによりだ。君も大変だったようだね。」
「そうなの、そうなのよレフ!管制室は爆発するし、レイシフト先は廃墟で敵だらけ、カルデアには帰れない!!変な子供にも出くわすし!」
変な子って俺のこと……俺って変!?
「もう予想外のことばかりで頭が変になりそうだった。でもいいの、貴方さえいててくれれば。今回だって助けてくれるのでしょう。いつもそうしてくれたように!」
「ああ、もちろんだとも。本当に……」
っ!レフの表情が変わる。にこやかな笑顔から悪魔のような裂けた笑顔を
「本当に予想外のことばかりで頭にくる。オルガ……君は中でも飛び切りだよ。爆弾は君の足元に設置したんだ、まさか生きているとはね。」
「え、どういうこと?……レフ?」
「いや、生きているというのは間違いか。君は以前からレイシフトの適正がなかった。だが今君は残留思念として残りこの土地に転移した。おめでとう、君は死んで初めてあれほど切望した適正を手に入れた。」
「う、嘘よ。それじゃあ、私はカルデアにもど「戻れないさ、その時点で君のその意識は消滅する。」」
「でもそれではあまりに哀れだ、せめてもの手向けだ。今のカルデアを見せてあげよう。」
そういうとレフの背後の空間が洞窟ではなくところどころ破損している管制室のような場所とつながる。
そこに見えるのは真っ赤に燃え滾る地球のような球体と、スタッフとおもわしき人達、それと通信で見たロマンの姿。
あれがカルデア、聖杯はどんな願いもかなえる夢のアイテム。時代を超えた繋がりを容易く作ってしまうその力に改めて驚愕する。
「なによあれ……虚像でしょう、レフ……虚像なんでしょう。」
「本物だよ、君のために時空をつなげたんだ、聖杯をもってすればこれぐらい簡単さ。」
「うそ、だってこんな真っ赤……身体が浮いて!」
突然所長の身体が宙に浮く。まるで聖杯をレフが手に入れたときのように
「このまま殺すのは簡単だが……それでは芸がないだろう。だから最後に君の願いを叶えてあげよう。一つしてあげよう。なに、私からの慈悲だよ。」
「な、なにを言っているの?一つにってカルデアスに!?や、やめて。お願い止めて!だってカルデアスよ!高密度の情報体、次元が異なる領域よ、そんなことしたら!」
ぐんぐんと所長が真っ赤に燃えるカルデアスに引き寄せれられる。
「そうさ人間が触れれば分子レベルで分解される地獄の具現、遠慮なくたっぷりと生き地獄を味わいたまえ。」
なぁ、アルフォースブイドラモン。もう我慢してなくていいよな!
「さっきから難しいことばかりごちゃごちゃと!そんなことやらせると思っているのかよ!!」
片翼となった翼を大きく羽ばたかせる。そして一気に加速し、レフ目掛けて右手の剣を振り下ろす!
「アルフォースセイバー!!」
蒼色に輝く必殺の剣がレフが聖杯を以て張った障壁とぶつかり火花を散らせる。
所長が止まるのを横目に力を入れる。
「うぉぉおおおおおおおおお!!」
剣先が少しずつ障壁に食い込み始める。
いける!そのまま切り裂く!
「貴様は!!私にとって一番の予想外だ、この私が存在を理解できないだと!ただの人間の子供が!だが……所詮は子供か。」
今までにない怒りに満ちた顔をのぞかせるレフ……だが唐突に落ち着いた表情へと戻る。
パリン!
障壁が割れる。突然拮抗が崩れ、前のめりになる。そして勢い余ってレフを通り過ぎてカルデアの壁に突っ込んでしまう。
「思わぬ邪魔が入ったねオルガ。では続けようか。」
「いや、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや……どうしてこんなことに!私は!私はまだ、誰にも、一度だって、認めてもらえなかったのに。ああ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
目の前で絶叫をあげながら所長がカルデアスに溶けていく。
その悲鳴は俺に人を救うことができず見殺しにしてしまったことへの罪悪感と、動かない身体への怒りで心をぐちゃぐちゃにする。
そしてそこで俺は意識を失った。
これで特異点Fは終了。
次はオルレアンです。
ドラゴン祭りです。
ワイバーンばっかです。