なにしおはば改   作:鑪川 蚕

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10話 装備庫

支部の敷地を上から見た時、本館を時計の針の中心、海を6時の方向と見たてると、艦娘寮が10時、グラウンドが12時の場所だ。

そして装備庫は3時の方向にある。

それの大きさはジャンボジェットが一機入るか入らないかくらい。耐震、耐火性、耐爆性いずれにも優れる重厚なコンクリート壁が中身を囲う。

正面扉は鉄を主とした合金製、厚さ60ミリの頑強な扉。ナンバーキーと生体認証の二重ロック、無数の監視カメラ、赤外線センサー。防犯対策も周到だ。

その不壊の箱に納められたものは輝く大粒の宝石でも眩い光を放つ金塊でもない。もっと武骨で鈍重で、だが宝石や金塊などより遥かに価値あるもの。この国の叡智の結晶。希望の刃。人類の最終兵器。

 

対深海悽艦艦娘専用特殊兵装、『艤装』が保管されている。

 

艦娘単体では深海悽艦に対して極一部の艦娘を除きなんの戦力にもならない。艦娘は機力というエネルギーを体内で生産、保持、使用できる以外は生身の人間とほぼ変わらない。空を飛べも水上に浮けもしない。いくら直立二足歩行ができようと、器用で知恵があろうと何も持たなければ大型犬にすら太刀打ち出来ない人間と変わらない。

 

だが、艤装を装備すれば一変する。

一騎当千。百戦錬磨。海内無双。

そんな言葉がふさわしい。艦娘1隻の投入が絶望的な戦況を逆転させる。

艦の魂を宿す戦士達が秘めし力を解放するための兵装。

それが艤装だ。

 

 

 

装備庫は主に3つのブロックに分かれる。

艤装庫、火薬庫、浮機庫の順で並ぶ。いま大鳳達がいるのは艤装庫。弾薬や魚雷を抜いた艤装が艦娘ごとに保管されている。機械油の匂いがプンと漂い、無数の傷を刻まれた艤装が立ち並ぶ。鎮守府内で一番物々しい場所だ。

 

「艤装に不足や損傷があったらすぐ言ってね」

 

遠くから陸奥が呼び掛ける。元々陸奥は午前の訓練に参加予定ではなかったが、先の一件から施設案内兼お目付け役として参加することとなったのだ。

天井からぶら下がる鎖に繋がれた自分の艤装を大鳳は念入りに点検する。

移送は丁寧に行われたようで新たに傷がついたところはなかった。陸奥に「異常がない」と伝えた後、着装の段階に入る。周りを見渡すと木曾や暁達は慣れた手つきでテキパキと準備し、もうすぐで整いそうだ。急がなくては。

まずは推進機を着ける。赤いラインの入った灰色のブーツのような見た目だ。小型高性能エンジンが内臓されていて、足裏から機力を注入することで性能が何倍にも上昇し爆発的な推進力を生む。

次は機関部。艦娘が航行、戦闘する際の心臓部に当たる。深緑色のそれには装着用のベルトとは別のベルトがついている。いわば機関部に機力を送り込むための出力用のベルトだ。背中と接着する部位には一枚の金属板とシリコンゴムが貼られていて、内部にはそれらと機関部を繋ぐコードが何本ものびる。

 

背中にきちんとフィットさせるために何回かずらした後、ベルトをきちっと止める。少しきつめにするのがコツだ。そうすることで機力の無駄な流出が減らせ、燃費が良くなる。

かなり重いが、全身に軽く広げるイメージをしながら機力を流すと全身の筋力が増し、軽く感じられる。

さらに機銃が数門ついた弾薬庫を機関部の右側と接続させて装着。現在重心が右寄りになり不安定なわけだが理由がある。

 

装甲甲板だ。

 

艦であった時の大鳳の甲板を模したそれはかなり重い。左足を壁に引っかけ、甲板を太ももの上に乗せ、歯を噛み締めながらコードを機関部と接続させる。コードは何本もあってややこしい。間違えないように、点検しながら、ようやく接続し終える。そして、左右のバランスを気にしつつ微調整。羽のような白い無線アンテナが特徴のヘッドギアを被り完成だ。

 

ふぅと息をつくと、再度機力を軽く流した。流れるほど艤装と身体が一つになるのがわかる。慣れない場所でこの慣れた重さに今は安心させられる。

最後に自分の相棒を手に取り、次の火薬庫へと急いだ。

 

**********************************

 

名前が物騒な割りに火薬庫内は静かだ。塵一つ落ちていない清潔な室内には爆薬が詰められた木箱が頑丈な棚に並ぶ。コンクリート壁には「危険」や「火気厳禁」、「慢心は禁物」などの赤字の貼り紙が何枚もあちこちに貼られていた。

 

「こっちよ。艤装が当たらないよう気を付けてね」

 

棚のむこうから手招く右手がスッと伸びた。

その手につられて走っていくと、陸奥が立っていた。

 

「…凄い」

 

一目見た瞬間大鳳は陸奥の姿に圧倒される。

目につくのはなんといっても砲塔だ。腰回りに金属製の頑強な腕のような基台をつけ、長門型の代名詞である41センチ連装砲を両方に2基ずつ搭載している。武を具現化したような存在感。他艦のことを言えないがあんなに大きなものを装着したままどうやって航行するのだろうか。しかしそれ以外は至ってスマートだ。鬼の角のような無線アンテナ兼電探、左足全体に絡み付く鎖と錨、ハイヒール型の推進機。

だがアンバランスではなく絶妙な調和の元で陸奥と一体化している。

感心していると自らの容姿を陸奥に見られていると気づいた。興味深そうに大鳳の艤装を丹念に見回している。

 

「艤装を点検した時に思ったけれど、他の正規空母とは似ていないのね」

「…はい、そうらしいですね」

「赤城や蒼龍はもっと簡素で、甲板と弓具一式ぐらいだったわね」

「……ハハッ、そうですか。どうして私だけこんなにも違うのでしょうね」

 

どこか自虐的に笑う大鳳。服師の趣向の違い。それだけに過ぎないと言いきれるが、大鳳はそうは思っていない。

 

「カッコいいじゃない」

「で、でもこれなんか」

 

自虐に関心を示さずあっけらかんとした陸奥に大鳳は相棒を見せつける。

 

「ふむ、素敵ね」

 

じっと見つめて出た率直な感想。あまりにも真っ直ぐな褒め言葉で、大鳳は何も返せずただ赤くなった。

 

「別に変じゃないわよ。もっと変わったのがここにはいるから」

「変わったもの?」

「もの?ひと?うーん……難しいわね」

「とりあえず見てみればわかるわ」

 

2隻は周りの火薬に当たらないよう気をつけつつ、急くように浮機庫へ向かった。

 

 




本当に久しぶりの更新となりました。そろそろ3章に移っている予定なのですが…
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