「慎ちゃんとライダーちゃんの面倒をちゃんと見るのよ、信用してるからね士郎! 桜ちゃんの件も、早急になんとかするから!」
「あ、ああ。勿論じゃないか藤ねえ…」
物凄い勢いでスクーターをかっ飛ばした。
後を顧みことも無く、トラというよりはイノシシである。
絶対に突っ込まれると思ったし、誤魔化せないと思った案件が速攻で片付いてしまった。
これは信用とか信頼以前に、一応は聞いておく必要があるだろう。
「それで…どんな魔法…じゃなくて魔術を使ったのさ」
「別に…というか、割りと真実に近いッポイことを口にして、藤村先生自身に組み立ててもらっただけかな」
俺が一般人に対する魔術使用について目くじらをたてると、慎さんはアッサリと告白した。
その手腕は鮮やか過ぎて、もう一回聞いてしまうほどである。
「本当に?」
「嘘じゃないってば、心外だなあ…。間桐の家でDVぽいことがあって、少しだけスティするボクより、桜が心配だと言っただけ。そしたらこの家なら心配ないからってね」
俺の質問に、慎さんは肩をすくめてワザとらしく呆れて見せる。
「後はこの屋敷に以前、金髪の人間が出入りしていることまでは調査出来たの。だから、頼って来たらしい…と告げたら、『切嗣さんを頼って来たなら!』と自分で自分を納得させたみたい」
「あー。ジイサンのサ…傭兵仲間か。そりゃ自分のコネで調べても同じ結果なら、調べただけ返って納得するよな」
俺は切嗣も聖杯戦争に参加し、サーヴァントと契約したという可能性を考えないことにした。
いや、嫌になるほど考えはしたが、ロクな事にはならないと、目を背けたのだ。
こんな風に出口に餌が吊るされていたら、確かに飛び付いてしまうだろう。
「そういえばさ、人と人が狭い場所で争い合う。それに関わる英霊って心当たりない?」
俺は話を変えるために、自分自身に関わることを口にした。
だが、それは逃避で会った事、そして迂闊な質問だと、あっけなく見破られる事になる。
「あっきれた。中途半端と言ってたけど、サーヴァントの真名に至って無かったってわけ? まあ幾つか考えられるけど、心象は? 使命感とか」
「はは。バレバレか。…そういうのはないな。どう見ても、やりたいとかじゃなくて、イヤイヤやらされてる」
恐縮する俺に対し、慎さんは流れるように質問をぶつけて来た。
他の英霊を見たとか話題は無かったし、当たり前だけど…。
「ならレオニダスはハズレ…と。次に宗教の為だったり、薬で興奮してる? あるいは元の生活に戻りたいとか」
「いや、全然。にっちもさっちも行かなくて、常に怒り過ぎて笑うしかないって感じだったよ」
苦しい訓練に耐えて、国の為にとか言うイメージは欠片もなかった。
周囲に監視する者の感触はあったが、目の前の相手との戦いのイメージが強過ぎる。
『彼』の環境は逆境しかない。
負ければ死に、勝っても同じ環境の仲間を殺すだけの日々。
何をしようが破滅以外の未来は無く、身を砕きても浮かぶ瀬すらなかった。
「アサシン枠が埋まって居て、山の爺のソードダンサーや、楽園に戻りたい剣士の一人って路線も無さそうね。じゃ、本命はスパルタクスでしょ」
「剣闘士の? そっか。コロセウムのイメージ強かったけど、毎回そんな場所って訳でもないか」
考えて見れば、闘技場のイメージだと言える。
ローマのコロセウム以外でも、地方興業なら立派な場所でない場合も多いし、そもそも剣闘士の訓練場かもしれない。
加えてスパルタクスはローマに反乱を起こしており、コロセウムに良い記憶が無かったのかもしれない。
「凄いな、俺が先に剣闘士に気がついてたら、真っ先にスパルタクスだけか奴隷にされたなんだっけ、映画で見た人を思い浮かべてるよ。違った場合を考えると本当にすごいや」
「妙に人体管理が上手いけど、戦いを強いられてる。この辺に共通する、コーチ経験のありそうな人ピックアップしてただけだって」
一応は謙遜してるが、慎さんは満更ではなさそうだ。
とはいえ俺の言葉が推理を埋めるキカッケに成ったことから、言うほどのドヤ顔をしていない。
いや、それとも、別の考えがあるのだろうか?
「何かある?」
「…見てる宝具以外に、逸話を思い付かなかっただけ。傷や魔力の回復の失敗が心配要らないってのは良いことだけどね」
言われてみれば、妙に強化の精度や上限が上がったり、回復力の御世話になっているが…。
スパルタクスの逸話には、さほど思い当たる物が無い。
一つ目の切り札は、トレーニングの実用・魔力強化の実験が、本格的になった時代の結晶。
おそらくは肉体に関する強化や治療の難易度を引き下げる、ローマのフィジカル管理技術。
二つ目の切り札は、逆境への対抗心から来る、体力と魔力の回復(正確には回復じゃないけど)。
言われてみれば、スパルタクス
とはいえ、それらは自動的に、成功失敗の問題無しに俺を助けてくれる。
それだけでも十分にありがたいし、サーヴァントとマスターは一心同体。後は…。
「心配いらないって。慎さんの援護するには問題ないし、俺の方に欠点の多い投影があるから、むしろありがたい宝具だよ」
「衛宮くんの魔術特性か。確かにボクも同じ状況なら、霊符を山ほど作るかな」
投影で連射する為の魔力に、遠慮が要らないのは助かる。
話を聞く限り、慎さんにも似たような特技があるのだろう。
納得してくれたのはありがたいので、この話はここで切り上げることにした。
話を切り上げると、俺は登校の準備を始めた。
慎さんの方は、藤ねえが適当に準備するだろう。
「それじゃ、俺たちは学校行くけど、フランシスさんはどうする? 弁当なら作ってあるけど…」
「街の偵察ってとこかな? まずはこの辺のBUKE屋敷を探検からだけど…まあ、心細かったら呼んでくれても良いぜ」
学校にも興味があると言うフランシスさんに、弁当を押し付けておいた。
昼食はこの辺で適当に買うと言っていたが、せっかく作るなら1つより3つである。
正確には、藤ねえのも作って居るので、1つ増やすも2つ増やすも大差が無い。
そんな事を思っていると、お礼とばかりに妙な反応が返って来た。
「おっ。悪いな。あとよ、その名前は偽名だし、オレの事はライダーでいいぜ。真名はヒミツってとこだ」
「ちょっ、何勝手に……。てまあいいか。ならボクの事も慎でいい。お互いに、さんつけ、くんつけって面倒くさいしね」
二人のやり取りに、俺は思わず笑った。
偽名をばらすのは問題だろうが、クラス名があるから問題ない。
とはいえ気心触れ合った者たちの思わぬ漫才がみれて、微笑ましくなったのだ。
「まったく、勝手というかやんちゃというか、ボクらより大人のくせして子供なんだから」
「まあまあ。あのくらいはノーカンだよ。それより、学校で襲われたりはし……」
登校しながら愚痴を言う慎さん…慎をなだめながら、俺はくらりとよろめいた。
いつもの通学路なのに、不思議と気持ち悪い気がする。
この先に行きたくないような、それでいてどこか懐かしい気配を感じた。
嫌悪感に呼吸が止まりそうになるが、そのまま吸い続けて居たいような親和性を感じる。
「どうしたの? 昼間っから心配? 人が居る明るい内は大丈夫でしょ。危険なのはむしろ暗くなってから…なんだコレ」
「森の気配…まるで神社とか、そんな…場所みたいだ」
そのまま歩き続けるが、校門を越えたとろで、慎さん…慣れないな…も気がついたようだった。
溶けるような艶めかしい様な密林ではなく…。
むしろ、立ち居るのは構わないが、燦然と聳え立ち、こちらを見降ろす針葉樹のような気配で埋め尽くされていた。
「森の結界…」
その言葉を発したのはどちらだったろう?
いずれにせよ、愉快な学校生活が遠のくのを、俺たちは感じて居た。
・登場人物
真名:スパルタクス
クラス:セイバー
トラキア地方の剣闘士で、ローマに対して反乱を起こしたことで有名。
反乱軍を見事に統制し、むしろ正規軍のようであったと言われるほどに、上級市民は別として一般市民への対応は紳士的だったと言う。
ブン獲った戦利品も、略奪に走らないように公平に分配したそうで、虐げられた者たちの指導者。あるいは圧政者に立ち向かう、社会主義の先駆者とも言われている。
余談ではあるが、常勝の剣闘士たる彼もまた、圧制者であり、憎むべきローマの一員。自分の弱さに向き合って対抗するのも当然であるならば、対ローマ攻撃によって傷つくのも当然である。
という訳で、バレバレでしたがセイバーの真名スパルタクスが判明。
士郎が自覚したことで、強化に交えて投影魔術を使用して行きます。
通常なら聖杯戦争に勝ち抜ける能力ではないが、夢幻召喚によりカード化しているため、マスターの体力・魔力補給に関して非常に効率が良くなるいう感じですね(逆境にないと操られますが)。
今回のラストで学校の結界が判明したので、次回は学校調査の予定。