「なっ…」
溢れかえる森の気配は、どこか神聖な気配さえ漂う。
針葉樹が持つ、光を閉ざす事無く、聳え立って佇むだけで周囲を隔絶するイメージだ。
「…質問。変なことを聞く様で悪いんだけど、森の気配ってまだある?」
「誰がこんな…って? こんなに濃厚なのに?」
慎さん…慎が妙なことを聞いて来た。
これだけハッキリとした異質さなのに、表情を曇らせて尋ねて来る。
「ボクはもう感じないんだけど…。おかしいんだ。三流ならともかく、一流は張ったことすら理解させない。なのになぜ衛宮く…衛宮は感知できた?」
「慎…もさっきは感知出来てたんだろ? なら、途中で向こうが気がついて結界を隠したんじゃないのか?」
彼女はゆっくりと首を振った。
下駄箱までの道のりまでは静かだったが、推測をまとめて居たのだろうか?
人が少ない弓道場の方へ移動して、ようやく口を開いた。
「陽炎や花粉と一緒で、見えたと言う認識を消すのは難しいの。一度色が付いたら、ずっと付きっぱなし。それにさっき消したなら、朝練に参加した桜から電話が来てる筈」
「あそっか。桜も養子とはいえ、魔術を習って…たんだよな」
慎が見せてくれた携帯を見て、俺はなんとなく納得した。
桜の腕前では気がつかない可能性もあるが、それなら、俺も同様かそれ以下だ。
それを考えるならば、俺たちのほうに何かあると思う方がより、正しいだろう。
「それでも、俺だけってことはないだろ?」
「ううん。昨晩から今朝に掛けて、共感魔術で衛宮とリンク張ってたから、たまたまじゃないかな? そして、結界の中に入ったことでリンクが切れた。まあ単に時間経過で減耗した可能性もあるけど」
そういえば、そんな事も言ってたな。
共感魔術というのは、片方の状態をもう片方にコピーするもんでもあだったっけ。
「だったらもう一回リンク張り直せばまた見えるんじゃない?」
そう俺が口にすると、慎は意地悪そうな笑顔を浮かべた。
「一定どこかの部位が以上接触するか、体液交換する必要があるけど…。衛宮くんはここでディープキスでもしたいわけ? 情熱的だね」
「なんでさ!?」
くん付け無しで慣れ始めた矢先なので、いくらなんでも冗談だと判る。
それでも顔が赤くなるのは止められない。くすくす笑い止まるまで、仏頂面で過ごす事にした。
そして推測に区切りがついたのか、こちらが話を切り出す前に、向こうが先に口を開いた。
「クーフーリンなら一流だから結界を隠せるとして、衛宮は探知できるんだよね? なら放課後に基点を潰して回わろうか。それはそうと、何で結界なんて張るのかな?」
「え…? それは構わないけど。なんの結界かに寄るんじゃないか? 思い付く範囲で防御?」
質問で質問に返すのは良くないが、この場合は仕方がないだろう。
そもそも言葉のキャッチボールで頭を整理する以上に、慎がこちらの返答を期待しているとは思えない。
頭の出来も違うし、まあ…異なる意見をぶつけて、片寄ったアイデアにしないくらいだろうか。
彼女は指を三本立て、説明を続けた。
「一つ目は衛宮の言う通り防御ね。でも、最初のイメージだと閉ざしている感じじゃない。それに不特定多数が出入りし易い学校だと、意味が薄い」
「そっか。誰かが結界の基点をたまたま壊す事は無いにしろ、一般人経由で色々できるもんな」
褒められた方法じゃないが、一時的な使い魔にして、偵察や置き土産し放題だ。
それこそ、タンクローリーでも突っ込んで来たら、防ぎようが無い。
「二つ目は罠、あるいはそう見せての脅しかな? この学園自体が巨大な罠、ウイッカマーン…生贄人形の腹の中なら、入り込みたい人は居ないでしょ」
「さっきより当たってる気はするけど…。この学校の人間を生贄になんてさせられないぞ…そんなの絶対…」
俺は言いながら、思わず激昂した。
もちろん可能性の問題だし、そうなる訳じゃない。
だけれども、見過ごせない物は誰にでもあると思う。炎に巻かれて死ぬなんて、デキルダケ…無い方がイイカラ。
黙ってしまった俺にかまわず、彼女は三つ目の推論に移った。
言葉を切られた感はあるが、熱くなり過ぎた俺にはむしろありがたかった。
「最後の可能性は、結界の原初。区切りの為かな。さっきの話にも被るけど…中で何かの術を使う為に、探知・防壁その他もろもろと一緒に、増幅がしたかった。あるいは、そう思わせたかった」
「中で特殊な術が使いたい…。もしくはそう思わせたいフェイクか」
古来、場所を区切って結界を為すというのは頻繁にあった。
単に区切って選別するだけの可能性もあるが、中で何かの儀式を行うというのが一般的だ。
男子が立ち入れない女子高、女子が入れない男子高でも、教育と言う片寄った知識の授与と言う儀式が行われるのだから。
「そこで、最初の疑問に戻るわけ。何の為に、そんな苦労をするのか」
「ここに逃げ込んだのは知られてる訳だよな。じゃあ、探そうと思うやつは探すわけだし、隠しきれない…。うーん降参」
ここまでの推論で、ようやく最初の疑問につきあたった。
俺に出来るのは、その推論に納得する事だけだ。
肩をすくめてお手上げだと言うと、慎は難しい顔のまま、決論を口にした。
「ここで昨日のマスターの推測が出て来る訳だけど…。悲観論ではボクらくらいの素人が、クーフーリンに無理やり生贄を集めさせてる。楽観論なら協会の魔術士が大怪我を負って動けないってとこかな」
そういえば、昨日の段階で話し合ってったっけ。
素人のマスターと、協会のマスター。
どっちも新町に居る可能性もあるし、学校に入り込んでる可能性がある。
その確率は、半々だっって。
それにしてもと、俺はつくづく思った。
「なら、放課後は地道に足で探索だな。俺には名探偵は向いて無いよ」
共感魔術を使うと、Aが視て居る光景を、Bが見る事も可能になります。
もちろん視覚のコピーではなく、リコピーで劣化していく可能性もありますが。
使い魔の感覚を借りる呪法で、鳥やネズミの目を借りたり、見た物を鏡や水鏡の上に映したりするのも、これと同じ理屈ですね。
また本家で張ったら判る結界は三流という表現があったので、今回はそれを逆用してみました。
陣営の場所の短期特定と、本家の御話に乗ったまま、術者の差、追い詰める者の味方の差を出して居る感じです。
士郎が見えて居る理屈は2つありますが、これは次回になるかと。
編集に関して、ルビにも慣れたり、字数で失敗したりしましたが…。
もうちょっと慣れたら、間に挿入して、魔術・スキル・宝具などのデータを専門ページにまとめようかと思ったり。