「ゲイボルクに似た臭いが強くなってるのは、この辺だと思うんだけど…」
「多分だけど、コレじゃない?」
俺は自分に穿たれた力と、同じ臭いが強い方向に慎を導いた。
さっきまで居た弓道場に近い場所にある木の一つで、別に針葉樹でも何でもないんだが…。
ただ、解析した痕跡とも似ているので、違うとは言い難い。
不思議なことに、その木の周囲から臭いが漂っているのだ。
「言われてみるとソレかな? っていうくらい」
「自然物を上手く使ったルーン文字だと思う。確かに偽装には持ってこいなんだけど…駄目ね、修復される予感しかしない」
俺が頷くのを合図に、慎は単語帳になにか書いて千切り取った。
僅かな魔力の励起を感じた後、風が通り過ぎたようなイメージがして、実際に木々がざわついて居るような気がする。
「やっぱり自己修復が働いてる。ということは、この場における意味を吸収して成り建てているのか。絡み合い緑なすケルトの螺旋、ケルティック・パターン…流石にキャスターね」
「えーと、良く判らないけど、どういう事なんだ?」
チンプンカンプンな言葉に、俺は思わず首を傾げた。
ルーン文字くらいならまだ判るが、ここまで来ると良く判らない。
まだ、ポプリやウイスキーの方が酒屋の音子さん経由で馴染みあるくらいだ。
「ようするに、プロジェクターみたいになってるの。この場所自体がキャスターが意図に近いイメージで、自然物を利用したルーンを破壊しても、自然事態が修復してしまう」
「なるほど。流石に植え替えや伐採は無理だしなあ」
慎が地面に絵を描くと、流石に理解が出来た。
科学的な説明であるが、むしろ俺にはこっちの方が判り易い。
どうやら慎自体は知識として、元をイメージしているらしいが、説明用に判り易い単語を代入しているのだろう。
「ともあれ時間も時間だし、ボクは桜と今後の打ち合わせして行くね。悪いけど、衛宮は柳…生徒会長に説明と、厄介の負担を言っといてくれる? アブナイ枝を処理しとくって」
「ああ。そういえば慎二こみで頼んどくって言ったっけ。了解。トゲじゃないけど危ない物かもしれないしな」
俺は快く頷いて、一成の居る教室に向かった。
半々の確率であるが、敵のマスターが俺らみたいな素人崩れの場合、生贄の人型ウイッカーマンを強要している可能性が高いと言う話だ。
人の形をした檻に、人間や動物を積め込んで焼却すると言う…。
ソレは飛びこんで来る相手に仕掛ける罠であり、中に居る者達を生贄に、大魔術の仕掛ける礎でもあるらしい。
ただそれだけで危険であるが、望んで檻に入る者は無理やり捧げられた者よりも、生贄として素養が高くなると言う。
学校を檻として加工し、知らない者を間違った方向に導く可能性は、確かに高いだろう。
当然ながら、まともなマスターなら一般人を危険にさらすような魔術は使わないはずだ。
そうなったら無駄足だが、もう一方の危険性を考えたら、やっておくにこしたことはない。
(もしそうなら、なんとしても防がなくちゃな)
この学校が燃え上がる。
その可能性に軽く背筋を震わせながら、俺は生徒会室に向かった。
完全な嘘を付くのは気が引けるが、危険な枝を落とすならあながち嘘でもないので仕方無いだろう。
(とは言え、俺らの努力って、近所のガキが泥遊びしてるようなもんなんだろうな)
だからと言って放置はできない。
思わずいつもよりも強い調子で、扉をノックしてしまう。
「トイレなら満員だぞ。…っと衛宮か、すまん」
「いや、こっちが強く叩き過ぎた。悪い」
俺はいつもの調子で譲り合うと、苦笑しあって話題に移る。
「どうしたんだ? 一成が冗談っていうか、皮肉を言うなんて珍しい」
「ん? ああ。問題事項が山積みだったので、つい憂さ晴らしをな。なんと醜い我が身であるか」
それこそ珍しい…とは思うが、今回訪れた用件が用件だけに、突っ込んでみる。
「多少の事なら相談に乗るぞ? こっちの用事は後回しでいいんだし」
「衛宮にそう言ってもらえると助かるが、殆どはおいそれと離せる物でもないのだが…ふむ」
一成は少しだけ考え込んだ後、順を追って話し始めた。
おそらくは、話しても良い事、そして良くは無いがいずれ俺も知る事を選んだのだと聞いてから知った。
「1つ目は、町の飲食店やデパートでガス漏れ事故があるので、買い食いの類は控えよとの先生方のありがたいご指導だ」
「御愁傷さま。流石にそれはみんな聞かないだろうな。…それで、問題がある方は?」
最初に聞かされたのは、良くある諸注意だ。
突発的な事故の範囲なら、若い者が聞く筈は無い…という前提に出されているし、本当に危険ならば誰も近づきたがらない。
こっちが素人崩れのマスターの可能性もあるから、協力したいのは山々なのだが、俺が出来る訳でもないのもまた、同じことだった。
「他にも数名いるのだが、美綴女史が帰宅しておらん。事故かもしれんし、不埒な行為かもしれんと言う問題になっている。弓道部か教室で話が出たら、鎮火するように頼めるか?」
「美綴が? あいつに限ってどっちも無いとは思うんだが…。任せておいてくれ。それと、同じ様な話をこっちでも頼んで良いか?」
俺は思わず、淹れて居た茶を零しかけた。
確かに昨日から見てないと言う話だが、事故るとか、色恋沙汰で返ってこないとか考え難くて面食らってしまう。
この辺は良く知るからこそで、案外別の面があったりするかもしれないが…。
まあ、後で桜にでも聞いてみるか。
「そちらからその手の要請というのも珍しいな。他ならぬ衛宮の言う事だ、できるだけ力になろう」
「そう言ってくれると助かるよ。慎二が家の用事で暫く居ないのと、従兄姉が代わりに来るんだってさ。それとなくフォローしてやってくれると助かる」
言いながら、お互いに第三者に思い至った。
この手の話をまとめるのが美味いのは、実に渦中の慎二と美綴だ。
慎二は妙な話題を拾ってきたり、交渉してねじ込むのが妙に上手い。逆に美綴は、ストンと落ちる落とし所を探るのが得意だった。
「間桐の奴は何をやってるんだと思ったが、家の用事では仕方あるまいな。後で懺悔しておこう。交換留学の様な物だと言っておけばいいのだな?」
「それで頼む。…ああそうだ、校庭の木やフェンスで危ない所がな箇所かあったから、直しておいていいか? 見付けたら放置するのも気分悪くて」
合掌して祈る一成に、俺は茶を汲みつつ、もう1つの話を捩じ込んでおくことにした。
半分くらいは捏造なので申し訳ないが、念のためとはいえ、これはやっておきたかった。
「こちらこそ申し訳ない。衛宮に用務員の様な事をさせてしまう。…残りの件は改善が見られなければ相談したい問題と、衛宮とはいえ話せぬ寺の事情だけのはずだ」
「坊主に成る気は無いし、そこまで首を突っ込む気はないさ。問題の方は内容次第だけど、出来るだけ力になるよ」
俺たちは互いに顔を見合わせると、笑いあって他愛のない事を言いあってから授業に向かった。
上手く進めることが出来たかは判らないが、今はこんなものだろう。
/登場人物
柳堂一成
穂群原学園高等部の生徒会長。
お寺の次男である為か、堅物だが衛宮にとっては気の良い友達。
プリヤ時空ではないので、モーホー疑惑は無い。
呪術形式『ケルティック・パターン』
お互いに共同する、複数の術式による総合型呪術パターン。
まるで編み物のように絡み合い、あるいはプロジェクターと画像の様に関連し合う。
その特徴から、1つを破壊しても、全体像が補強して修復する為、破壊する事が困難に成って居る。
数式に例を求めると判り易いが
1:A + B =C
自然物AとBを使用した、Cという回答が
この場合のルーンであると仮定する、数式である。
ただし、一度式を組む時に置いて、大きな自然環境を利用して、次の前提が成り立つ物とする。
2:A=C - B
3:B=C - A
即ち、1の式を不成立にする為、AないしBを破壊したとしても
2と3の前提に寄って、Aを破壊したのならAが、Bを破壊したのならBが穴埋めに寄って逆算されてしまうのである。
これを破壊する為には、前提である2・3込みで1を破壊するほかなく
凛ほどの実力が無い士郎と慎には破壊することができず、逆に士郎ほどのコネクションが無い凛は、事を荒立てずに式を物理的に破壊する事が出来ない。
と言う訳で、今回は色々と行動する為のフォロー回になります。
士郎が結界を感知できたのは、今回のゲイボルクの破片が刺さっている事による親和性と、解析した結果です。
まるで場そのものに使用する超能力サイコメトリーのように、隠蔽を迂回して発見して居る形に成ります。
また、今回出て来たケルティック・パターンという呪術は捏造と成ります。
まあ、魔術的・ドルイド的なネタを入れたかった感じすね。