「ふ~ふん♪ っと、こんなものかな」
衛宮と判れ、ボクは学園の調査を順調に進めて居た。
腕にネジ込まれる様な痛みはあるが、慣れることはできる。まして衛宮が遠くに居れば感知レベルが下がるが、痛みもまた下がるのだ。
いや、正しく言えば、成功から来る高揚感で誤魔化していたと言っても良い。
だからこそ、誤魔化す事に夢中で、肝心な事を忘れて居たと言っても良かった。
「時間経過によって光線が変わり、影で別のル-ンが出来る…。まったく厄介だよ」
昼間の間、そこには別のルーンがあったはずだ。
だが、今は別のルーンが刻まれている様にも見える。
どちらかがダミーかもしれないし、両方が本物かもしれない。
どちらかであるとも過信せず、種別や詳細な場所を全て記録して情報を持ち帰って、冷静に判断すべきだろう。
把握も困難、対処も困難ではあるが…。
地図に書き込む情報と、その裏付けをくれているという事が、ボクを何より興奮させていた。
持ち帰った資料を付き合わせて、全体バランスやイメージと共に解析すれば…。
「あら、御機嫌じゃない間桐さん」
「遠坂…さん。ごきげんよう」
気が付くと階段で遠坂と出会った。
よくよく考えれば、今回の事態に対処しているのは遠坂も同じだった。
ルーンに気がつかない筈は無いので、場所を把握しきれているかは別にして、向こうも調査して居ると気が付くべきだった…。
とはいえここは学校だ、下手な手出しは…。
「せっかく人が危ないから早く帰るように忠告しようとしたのに、無視してくれるなんて、随分と自信があるのね」
「なんのことかな? ボクはせっかくできた友達と話してただけだし…。まさか人目につくところで、家の話をするわけにもいかないしね」
怒っているのを隠そうとしない辺り、どうやらボクは地雷を踏み抜いたらしい。
あるいは、元のボクのイメージに重ねて、歯向かった事が許せないのだろうか?
魔術の話は学園では止めないかと、やんわりと言ったつもりだったのだが…。
全てはボクの、時間管理ミスだろう。何かするには手遅れだった。
「へえ…。どこに人目があるっての? 他所の魔術士が、セカンドオーナーに挨拶も無く色々してくれてるのって、ホント困るのよねえ」
「ヤバっ…。もうみんな帰っちゃった?」
我ながら迂闊だが、周囲に誰も居ない。
というより、人っ子一人いないのではないかと思わせる。
あるいは遠坂が人払いの結界を築いたのかもしれない。
「何もせずに大人しく実家に戻ってくれない? なら見逃してあげるけど? ああそうそう、私時間が無いから交渉する気はゼロよ」
「せっかちなのは嫌われるんじゃない? 荒事で解決するんなんて魔術師ッポク無いと思う」
こっちは逆に時間が欲しかった。
簡易礼装の感覚強化の為に、衛宮と繋げたリンクはもう1時間くらいは持つはずだ。
なのに痛みが感じられないのは、外回り担当の衛宮が遠い位置に居るからだろう。
それが遠坂の結界か何かを挟むことで、リンクが一時的に途切れてると思われた。
つまりは、援軍の見込みは限りなく低い。
生徒が帰宅する時間を把握せずに、時間管理を怠ったボクのミスだ。
仕方無いので、スマートじゃないのは好きじゃないが、最大限の努力をすることにした。
「じゃ、三秒以内に答えを聞かせてくれる? 3…、2…」
「そうね。答えは…」
女らしい動きや、言動を参考にしているのは遠坂だ。
いつも脳裏に描いてる訳だが、まずは、それを最大限にイメージする。
次に、弓道部で部活に励んでる時の記憶から、幾つかの状態をロードした。
「1…、ゼロ!」
「答えは、ノーよ!」
幸いにも、遠坂が使おうとしているのはガンドの様だ。
病気になる呪いだから安心と思っている訳ではなく…。
視線と手の動きから、遠坂の『射』を予測する。
ガンドに重要なのは、相手を指差し、呪うという意図を伝える視線と同期させる必要があるから、それを参考に射線から身(見)を交わしたのだ。
「こんの! 避けるなっての!」
体を翻して、右に左にステップを掛ける。
階段を下へ、途中で強化魔術を使うフリして、一拍置くのではなく、逆に一足飛びで降りて行く。
「素が出てるわよ遠坂さん、男の子に聞かれたら幻滅されちゃう。猫を被り直しなさいって」
「あったまきた! ガンドガンドガンド!! チョコマカすんな!」
挑発を兼ねて忠告するのだが、精一杯の祈りでもあった。
相手の思考に共感性を持たせて回避力を上げようとしているのだが、被って居た猫を脱がれたら差分値が大きくなってしまう。
というか、いつものアレはやっぱり猫だったんだな…。
ガンドの中でも物理的な威力を伴うと、それはフィンの一撃と呼ばれる。
遠坂家の特性はエネルギー管理に関する物だったと御爺様は推測しているが、ガンドを使うのに適しているのだろう。
まさにフィンのガトリングと言うべき物が、頭の上やら脇を通り過ぎて行く。
間一髪で避けながら、衛宮と合流する為にひたすら走る。
だが、疾走しているせいか、それとも結界のせいか、あるいはガンドがかすって痛みが混乱させているのか?
あえて走るコースを意図的にしたこともあり、どれほど走っても、サッパリ衛宮の位置が掴めなかった。
もし、最大の原因をあげるのであれば…。
この期に及んで、ボクは時間管理をミスして居たと言えるだろう。
「もう袋のネズミよ! そのまま蜂の巣になるか、出てきてセルフギアス・スクロールにでも署名しなさいっての! 勿論あんたの持ちだしでね!」
「ケチくさいわね。そんなんだから桜…」
逃げ込んだ教室に閉じ込められてしまったが、気反らせるためとはいえ、桜の話は止めておこう。
最大級の地雷なのは間違いないし、桜を出しにして時間稼ぎをするつもりはない。
状況の打開に成功するにしても失敗するにしても、ボクはボクの成果として誇りたかった。
自分がこの状況で使えるのは、共感魔術と感染魔術だけ。
攻撃系どころか強化もロクに使えないとあっては、袋の鼠というのは正しいだろう。
だが、一つだけ有利な点があるとしたら、遠坂よりボクの方がキャスターの設置したルーンを把握している事だろう。
「吹っ飛びなさい!」
「貴女がね!」
遠坂がガンドを連射する為に魔術刻印へ集中した隙をついて、ボクはルーンの一つにチャンネルを合わせた。
そう、この教室にはただ追い込まれたわけじゃない。ここへのコースは意図的に決め、そのせいで追い込まれたとも言える。
幾つかのルーンが近距離に設置してあるから、ここをチェックポイントの一つとして選んだのだ。
選んだルーンは別に攻勢防壁的な物ではないが、それでも遠坂の気を反らせるには十分だろう。
組みついて抑え込んでやる!
「残念ね、資金戦はともかく、至近戦ならこっちもんよ! ふっとべ……って、え? つっきゃああー」
「離してたまるもんですか! 魔術が使えないようにしてから逃げ…え?」
組みつきに対して妙な動きを見せた遠坂だが、突如バランスを崩す。
それに対し、ボクは抑え込みながら、呆然と遠坂の変貌を眺めた。
思えば予兆はあったのかもしれない。
何故、魔術師の時間である夜に、セカンドオーナーたる遠坂の姿が、いつも見られなかったのか?
何故、先ほど遠坂は時間を気にしたのだろうか?
「そんな、まだ時間があるはず。もうちょっと元の姿で居られる筈なのに…」
「うっそ。もしかして、遠坂も誰かに何かされたってわけ?」
年のころは8歳か9歳くらいだろうか?
そこには少女と呼べる上限の年齢から、下限の年齢に変貌した遠坂の姿があった。
ボクは馬鹿みたいに黙りこくって、今の状況を推理しようとしていた。
あえて言うならば、時間管理にミスしていたのである。と三度言うべきだろう。
ボクも遠坂も、そんな偶然がある訳もないのに…。
/登場人物
ロリ凛:あかいあくまバージョンZERO
なぜかFate/ZERO時の姿に戻ってしまった、あかいあくま。
もしここに外道なステッキ型礼装があったら、狂喜して契約していたかもしれない。
魔術は問題ないが、格闘力は封印されてしまったようである。
と言う訳で、凛が主人公側でない理由がようやく出てきました。
ロリ化して夜に街で活動し難くなった代わりに、可愛さが強化されたうえ、足手まとい化したせいで英雄王が少しだけ慢心レベルが下がっております。
次回は何で、こんな都合の良い(悪い)時間管理に失敗したかの御話に成る予定。
しかし…、最初から状況を全員公開して、タグにプリヤ士郎・TS慎二・ロリ凛にした方が面白かったのでしょうか?
今更ながらに首を傾げて見たり。