Fate/promotion【完結】   作:ノイラーテム

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この世、全ての破滅

「え…うそ?」

 ガタンと、少女…オルガマリーが手に掛けた壁が破損する。

 最初は目に傷が残り、飛蚊症になっているだけかと思ったナニカ。

 そこに指が触れ、疵の様だと把握した時、音を立てて壊れたのだ。

 

 そして、嫌な予感がして下を向いた時、足元の床に亀裂が入った。

 確かそこにも、疵のようなナニカがあったような…。

 

「なに、なに? 何が起きてるの? 腐ってた? それとも魔術で…? 誰か教えてよ!」

 ヒステリックに叫び、思わず力を使ってしまう。

 どうやら体力と判断力が落ちて居るのだろう、こんな所で無意識に魔術を使ってしまった。

 彼女として魔術の名門、低位の攻撃魔術とは言え、癇癪で力を振るわないように教育されているはずなのだが…。

 

 だから、それはただの偶然。

 半死半生のままウロウロしなければ、起きえなかった悪夢だ。

 オルガマリーの意図した通りに魔力の矢が何本か発生し、うちの一本が、あちこちにある疵の一つに刺さってしまった。

 

 ゴン! と鈍い音を立てて、けた外れの大きさで壁が崩れる。

 そして弓道場…彼女は知らなかったが、その壁が崩れて外の景色が完全に見えた。

 先ほどまでは、ただの勘違いで済ます事の出来たモノが見えてしまう。

 

 そう、世界を大きな疵が覆っていたのだ。

 重要だと聞かされた円蔵山の辺りにとりわけ大きな疵が一つ、そして、あちこちに火種の様に幾つか。

 それらに向かって伸びる火は…もしかしたら、失われ逝く生命なのかもしれない。

 ソレはもはや、死の河としか言いようがなかった。

 

 見れば近くに在った蔦は見るだけで枯死始め、崩れかけた竜牙兵は朽ちて行く。

 ただ疵だらけだな、近くに流れている魔風が直撃したら…と想像しただけなのに。

 

 判る。いや判ってしまった。

 この疵は形ある物の終わりを呼び起こすモノ。

 根源からなる存在を切る力ではなく、やがて来る終わりを視る力だ。

 即ち…。

「まさか…直死の魔眼? ウソでしょ? こんな時に? 今更? どうして必要な時になんの力も無くて、今更こんな力が押し付けられるのよ!」

 これほどの力があるなら、怯える事も無かった。

 上手く使いこなせれば、父親や取り巻きは褒め、あるいはライバルでさえ羨望の眼差しで見ただろう。

 交渉の時に襲われ、危く死に掛る事も無かったはずだ。

 

 本当に?

 本当にこんな力が素晴らしいのか? 素晴らしいと思って憧れた自分が情けなくなる。

 世界の終わりが近いだなんて、理解する力など欲しくは無かった。

 触るだけで人が死に、気をつけて歩かねば物が壊れるなど耐えられそうもない。

 

「教えてよシオン! 私たち友達でしょ? 貴女が世界の見方を教えてくれたんじゃない。世界を救いたいって…」

 オルガマリーは半狂乱で友人の名前を叫んだ。

 もっと幼いころに時計塔で出会った魔術士を、つい最近、路地裏で出会った死徒の名を叫ぶ!

 

 だが、誰も応えようとしない。

 当たり前だ、何時爆発してもおかしくない場所で、花火のように大魔術を使い続ける馬鹿どもが居る冬木である。

 気が付いて居るなら、誰も近寄りたくは無いだろう。

「だから救ってよ、私を! 世界なんかついでで良いから!」

 みっともなく叫ぶ。

 仕方があるまい、所詮は少女を抜けだせない年頃の魔術師だ。

 アニムスフィアを継いで観測所を完成させる頃ならいざしらず、今の彼女が耐えられる訳が無い。

「世界が滅ぶ、滅んでしまう。私にはまだやりたい事があるのに…誰かに褒めて貰えるほどの事を、何もしてないのに…」

 星は何でも知っている!

 だが、世界を俯瞰し千里眼で眺めたとしても、無情にも理解すればするほど袋小路だと判る。

 いつ爆発してもおかしくない大聖杯と冬木の霊脈。

 こともあろうに、小聖杯は近くにあるだけで四つ、制御する望みのある一番安定しているのは遠くロンドンに在った。

 事情を知って居てやってるなら、もう狂っているとしか思えない所業だ。

 

 もはや此処には、絶望しか存在しない。

 危険な眼を持つ女を、始末するか、封印指定のように利用する為にホルマリンに漬けるだけだ。

 

 そこまで理解してようやく、誰かの声が掛けられた。

「オルガマリー…アニムスフィア?」

 だが、掛けられた声は、望んだ人のモノでは無い。

 頼るべき友人、アトラスの魔術士のモノでは無かった。

 彼女であれば、人間に戻る技術の代わりに、デミサーバント化する技術を教えて取引もできたろうに!

 

 混乱している彼女と違い、頭脳が回る魔術師は一味違うようだ。

 ここに至るまで悩んだ結論を、過去に聞いた話題だけで思い至ったようだ。

 いや、それしか思いつく要素がないとも言えよう。

「なぜ生きている…確かに死んだはず。いやまさか、人間をサーバントに作り替える実験に成功したのか?」

「おめでとうございますマスター。と言う事は、アレを捕えることが出来れば亜種聖杯戦争の胴元ができるでしょうな」

 ニヤリと笑うアトラムと、つまらない物を眺める様な聖ジョージ。

 ああ、それも当然だろう。

 アトラムにとって、オルガマリーは降ってわいた宝の箱。

 聖ジョージにとって、悩みを解決するどころか、逃げ続けている小娘なのだから。

 

「あの娘を捕えろ! ついているぞ。アニムスフィアと取引するも良し、研究して売りつけるも良しだ」

 あえて言うなら、アトラムは退き際を誤ったと言える。

 ここで逃げかえれば、聖杯戦争を勝ち抜き、数多の礼装を開発した魔術という箔を手に入れる事が出来ただろう。

 それはかつての、ロード・エルメロイが勇戦するだけで良かった事にも似て居た。

 何が必要かを自覚し、どうすべきかと言う道筋を見誤ったことで、退くに引けなくなったのだ。

 

 最悪の事態と言えるだろう。

 彼女が気が付いた世界の危機を、苦し紛れだと言って信じないに違いない。

 どうしよう、どうしたら良いと思う前に、次々に竜牙兵が襲いかかって来た。

「い、いや?! 来ないで!」

 以外にもあっさりと彼女の小さな望みだけは叶えられた。

 その後の不幸と、引き換えにして。

 

 拒絶の意思と共に放った単純な魔力。

 魔力の矢にも、炎の矢にすら加工していないソレが、あっさりと竜牙兵を粉砕したのである。

 事情を知らぬ者には、視線だけで殺したと思われても仕方があるまい。

「ばっ、バロールの魔眼だと!? 危険だ、殺せ! 執行者に遠坂、お前達も何をしている! 死にたくなかったら協力しろ! 殺されたいのか!? 制御できなければ、世界すら滅ぼすんだぞ!」

「違う。違う…私、私じゃない! 世界何か滅ぼさない、だってもう滅びかけてるんだから、そんな必要ないじゃない!」

 半狂乱で訂正を求めるが、聞いてくれるはずもない。

 何しろ現在進行形で、建物やら竜牙兵を粉砕しているのはオルガマリーなのだ。

 

 減衰した体力と気力では、制御できないどころか、逃げる事も不可能だった。

 走って逃げて、疵を踏まずに歩くなんて無理だ。

 まして追いかけて来るのに? 視線に入る者全てを壊したら、もう誰も信じてくれないに違いあるまい。

 

 そして、信じたくない事に、不幸は上げ底だ。

 下には下がある、何しろ、アトラムの言葉に乗った者が居る。

「ふむ。雑種の言う事を聞く気も無いが、小娘が世界に追われて標本の様に晒されるのも哀れよな。死ねなくなる前に死んでおけ」

「アーチャー!?」

 ギルガメッシュを表面だけ知る者なら驚く様な、内面も知る者ならもっと驚く様な慈悲深い表情を浮かべた。

 おもむろに選定の剣を取り出し、ゆっくりと振りかざす。

 

 黄金の騎士が自らに迫る時、オルガマリーは死神の接近だと思い浮かべた。

 なにしろ、このサーヴァントにだけは疵が無い。

 竜牙兵なら倒す事は難しくも無いが、彼だけは足せないだろう。

 だから、この死は当然の…。

「待て! こんな小さな子に何をする気だ!」

『圧制者よ、それ以上の暴挙は許さぬ』

 衛宮士郎は思わず飛び出した。

 セイバー…スパルタクスは、咄嗟の動きを確かな物として補正した。

 振り降ろされる選定の剣を、英雄殺しの刀で受け止めたのだ。

 

「え…助けてくれるの? 見ず知らずなのに?」

「ああ…。俺の妹を思い出しちまってな。自分でも馬鹿だと思うんだけど、一人ぼっちの子を殺させたくない」

『虐げられる者を守り、圧制者に立ち向かうのは、当然の事だ』

 衛宮士郎は此処ではない、彼の故郷で、聖杯として使い潰されようとする義妹を思い浮かべた。

 スパルタクスは今ではない過去に、処分されようとする闘士を思い出した。

 ここに来て、二人の気持ちは一つに成った。

 だからこそ、英雄王の裁きを許せぬと、立ちあがったのだ!

 

 オルガマリーは少年の、獰猛なはずの笑顔を涙に溢れた瞳で見る。

 他の誰よりも疵だらけなのに、決して疵に負けない不器用な少年。

 この少年ならば、助けてくれるかもしれない。言う事を聞いてくれるかもしれない…。

 

「貴様らが居たか。…ヘラクレスの真似ごととはな。思いあがるな雑種」

『黒い剣だと、圧制者め! 効きはせぬ!』

 ギルガメッシュはもう片方の手に、黒い刀身の剣を呼び出した。

 咄嗟に離れようとした士郎に対し、スパルタクスは体の所有権を奪って対抗しようとする。

 もう少し押し返せば、片方だけでも切り返せるはずなのだ。

 多少の傷ならば回復出来る事もあり、あえてスパルタクスは反撃に出たのだ。

 

 だが、士郎にあの剣の本質を見抜いて慌てた。

 以前にキャスターとの戦いで見た、影の刃の原典か何かだろう。

 その意味で、スパルタクスの判断は悪手と言えた。

「駄目だ。離れろセイバー! あれはソウル…」

 黒き刃が士郎の体に潜りこむ。

 その瞬間にインストールが解除され、体の自由を取り戻すと同時に剛力が消え去った。

 選定の剣はなんとか肩で受け止めたものの、それっきりスパルタクスの反応はない。

 ポケットに入れたままのカードは、もしかしたら、何とも繋がって居ない屑カードに成ったのかもしれなかった。

 

「万事休すか? 王に逆らいしこと高くついたな雑種」

 言いながらギルガメッシュは、剣を抜き取ると士郎の体を蹴り飛ばす。

 その表情が、喜劇を眺める様な笑顔であるのは、気のせいだろうか?




/登場人物
クラス名:アサシン
真名:この世、全ての破滅
 デミサーバント化したオルガマリー・アニムスフィアであり、世界に破滅をもたらすもの。
直死の魔眼を体得してしまい、形あるモノにいつか来る終わりを測定する。
なお悪い事に、彼女はランクの低い千里眼を体得しており、巫女として受信したナニカの死をコントロールできないままに確定させる。
それは奇しくも、オルガマリーが交友を持ったシオン・エルトナム・アトラシアの避けようとした未来でもある。

スキル:
『気配遮断』
ランク:C
 死の気配を察知できるため、それなりに隠れることはできる。
だが、自身が持つ死の気配ゆえに、完全に隠すことは不可能。

『単独行動』
ランク:デミサーバントなので、このスキルは失われている

『千里眼(星詠み)』
ランク:D
 世界を見通す事ができるが、魔術や他の能力を併用しなければそれほど意味が無い。
ただし、星を介する為、自分が知らないことでも知ること、介入する事が可能な場合がある。
どちらかと言えば、巫女の神託に近い。

『直死の魔眼』
ランク:不明
 形あるモノにいつか来る終わりを測定する。
線をなぞれば分解され、穴を突けば崩壊する。また、本来はランダムであったり気力体力でブレるはずの、存在の最後を確定可能。
他の魔眼と違ってオンオフできる性質のものではないので、呪いのような厄介さだろう。

宝具:『焼却式アニムスフィア』
種別:対界宝具
 千里眼と直死の魔眼を併用する事により、存在が持つアニマの火を燃やし尽くす。
この場合のアニマとはラテン語で魂の事であり、東洋で言えば寿命蝋燭や存在意義を焼き消すモノと言えるだろう。

クラス名:セイバー
真名:スパルタクス
 魂砕きと呼ばれる魔剣の力で存在に大きなダメージを受け、最初の敗北者と成った。
彼を構成する魔力は、冬木に四つある亜種聖杯の何れかに格納されることになる。

/礼装
『小聖杯』
 現時点で、竜式、機械式など四つが冬木市に亜種聖杯が、アインツベルン産の小聖杯がロンドンとルーマニアに存在している。
冬木市で起きた聖杯戦争におけるサーヴァントや、ランクの高い使い魔達の魂を保存可能。
いずれ聖杯戦争が終わった時、大聖杯に還るだろう。

 と言う訳で、ようやく七騎のサーヴァントが出揃ったかと思うと、最初の脱落者が出ました。
所長に介入していたのは路地裏同盟で、「奇遇ね、私も世界を救いたいの!」「私達ずっともだよ!」という状況だった模様(当然出て来る事は無いが)。
プロットを考えて居た段階では、所長がマスターで、美綴サーヴァント説(織)か、葛木先生がデミ鯖(神槍先生でw流派チェンジ)とか考えて居たのですが、幾らなんでも登場人物が多い。
ということで、居なくなりカード化したセイバーともども枠を圧縮した感じです。

 此処から先はほぼ捏造ルートに入り、中盤戦は聖杯戦争を続けたいグループと、聖杯戦争を解体したいグループの戦いになる予定です。
知っている方もおられるとは思いますが、冬木の霊脈は普通に終わっても危険状態なので、アトラムが勝ち逃げしたら大爆発なため。
なお、他の人たち何してんの? ですが、魔術士=動くに動けない、クーフーリン=大神刻印の暴走を封印中、モーさん=自分が有利になる方に着こうとした…です。
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