アトロポスの鋏
「それで結局、追っ手の方は?」
「一応、見えねえが。…チリチリとした気配はずっと続いてるな」
穂群原学園から脱出し、魔力を増幅器に叩き込んだ後、惰性で飛び抜ける。
そして降下し始めた所で士郎が確認すると、モードレットは顔色を変えずに応えた。
「ということは、魔力探査ってとこじゃない? レンジ外まで一度振り切りたいんだけど」
「ただ、これ以上ぶっ飛ばすと、こっちが気が付いてると教える様なもんだからな。魔力だって本来の使い道と比べて馬鹿にならねえ」
慎が可能かと聞くと、モードレットは首を振る。
出来なくはないが、どうせ振りきるなら、他の手段を考えるべきだ。
確かにプリトヴェンは船として使える盾で、使い方によっては空も飛べる。
だが小形のまま使用して、魔力の消費を抑えたとしても、飛行は本来の機能ではない。
盾の増幅器に頼ったとしても、街を何周もする間に、霊器に蓄えた魔力すら使い果たすだろう。
「なら、せめて車が使えない場所に降りよう。どこかで合流するとして、まず使い魔の類は全部潰すこと」
「それっきゃねーな」
「じゃあ今の内にその辺の手順を決めときますか」
士郎は躊躇なく決断すると、最低限、自分がやられたら困るという手段を最初に塞ぐ事を提案した。
その案にモードレットが頷くと、慎は周囲を見渡し始める。
「なんで、なんで? 降りたら待ち構えてるかもしれないじゃない。そこを狙い討たれたら…」
「えーっとさ、そうなんだけど。このままじゃジリ貧な上に、イザと言う時に非常手段を使えない。それに、相手の方だって何でも可能とは限らないからな」
「そうそう。それに判らない? この手の駆け引きは心理戦だからさ、リソースはっとっとくべきって事」
怯えるオルガマリーを士郎が宥め、慎が挑発する事で元気を引き出す。
「判ったわよ…。私だって服くらいは欲しいし…。でも、勝手に何処か行ったりしないでよ!」
不承不承名ながら頷くと、慎が士郎に指しているのが見えた。
気に成って、力を入れないように、余計な物を触らない様にそちらを向くと…。
何やら飛んでいる物、使い魔が見える。
「ちょっと! なんで潰さないのよ! 貴方達ができないなら、私が…」
「ストップ。バロールの魔眼を使うのはちょっと待って。どうせなら、降りた時の一回目で潰したいから」
オルガマリーは慎の言葉に思わず首を傾げた。
追撃戦で敵の目を確認したのなら、即座に潰すのが鉄則ではないのか?
「私のは直死の魔眼であって、バロールの目じゃないわ。…でも、なんで潰しちゃ駄目なの?」
「心理戦って言ったでしょ? 潰した後で不自然な軌道を取れば、相手はそこで降りたと考える。実際にそこで降りても良いし、その次でも良い。そういう駆け引きってやつ」
思わずムカっとするが、オルガマリーは慎が挑発して元気付けようとしているのだと、良い方向で考える事にした。
我慢、我慢よマリーとカラ元気を出しながら。
そして一同は、モードレットを先に行かせて、街並に侵入した。
繁華街を抜けて、途中で買い物兼ねて留まったり、分散して走り抜けたり合流し足りを繰り返す。
目指すは街の人間が近づかない、いわくつきの地下水路である。
「ここは…? なんだか秘密基地みたいで、子供達とか興味ありそうだけど」
「それがさ、本当に秘密基地にした殺人犯が居たらしくて、子供は近寄らないんだよ」
…なんというか、子供を浚って皆殺しにした鬼畜らしいとは流石に教えられなかった。
どの道、此処には長逗留する気は無いので、不要だと言えなくもないが。
オルガマリーを抱っこしながら、士郎は外から見えない位置まで侵入する。
途中で慎が合流するのを待ってから、会議を再開する。
「それで、世界の危機とかどういうことなんだ? 魔眼とかも詳しくないんで、出来たらその辺も頼む」
「私にも良く判らない所があるけど…まずこの眼は、見た者を殺すのではなく。壊れ易い場所を見抜く、その中でも何処なら有効か、リアルタイムで寿命を測定するモノだと思ってちょうだい」
「英霊で言うと、ジークフリートの背中や、アキレスの踵を知らなくても見抜くって事?」
士郎の質問にオルガマリーが順を追って説明を始める。
途中で慎が例を入れると、少しだけ悩みながら、軽く頷いた。
「ソレが判り易い極端な例だけど、誰しも、どんな物にもそういう所はあるの。心臓を数cm刺せば、動脈を数cm切れば…。この眼は負担と引き換えに、強制的に引き出すみたい」
オルガマリーはそう言いながら、何かを決意して、マグロナルドの袋をそっと持ちあげた。
そして爪先を…。
「実演するのは駄目だ。負担が掛るんだろ?」
「そ、そうなんだけど…。やって見せなくても、信じてくれるならそれでいいわ。力の流れを私は他の方法で見れるし、『バロールの魔眼』というよりは、『アトロポスの鋏』ね。破滅を観測・確定する力なの…そこまでは良い?」
指を袋に這わせる前に、士郎の指がぎゅっと包み込む。
男性と手を合わせるなんて…と思いはしたが、さっきまでお姫様だっこだった事を思い出し、今更だとオルガマリーは自分を納得させる。
頬が熱い、暗くて良かった…とか思いながら、説明を再開した。
「動脈の様に触ってはいけない線が、視ようと意識すらしないのに、大聖杯があるって言う円蔵山に見えるのよ。そこに流れ込む力が、幾つかある亜種聖杯と想像される場所へも向かってる」
「大聖杯…。そんなものが一成んちに…」
オルガマリーの説明に士郎が驚いていたが、慎がたまらずに割って入った。
「ちょっとちょっと! 大聖杯の事も、亜種聖杯があるのも知ってるけど、幾つも?」
「私に判るのは、破滅する対象と、エネルギーの流れだけ。途中で留まって居るなら、そう判断するしかないもの。それに貴女…」
慎の質問に答えながら、オルガマリーは数時間前のうろたえぶりは何処へやら、冷徹な魔術師の顔を表に出した。
「貴女と言うよりは、…お前。と指摘した方がいいかしら? お前は既に死んでいる。ただの人形ごっこ、違う? まだ生きてると勘違いしてるなら、謝るけど」
「あ…」
性能の良い使い魔か何かに語りかけるような仕草。
オルガマリーの指摘に、慎は二の句が継げなかった。
いや、ここでソレを晒される気も、晒す気も無かったという表情だ。
言われたくないし、言いたくも無かったに違いあるまい。
「お前の稼働年数はせいぜい数年の急増品。それがセイバーの脱落と同時に、五年か十年かってところまで増えてるんだから、亜種聖杯だと思うしかないわ」
「そうか…。ついでにその辺も実験したってわけだ。あのクソ女…」
急に物扱いされながらも、慎は否定できなかった。
それだけでなく、取り繕った表情が剥げて、怒りを顕わにするにする。
「もしかして慎二なのか? 置換魔術か何かで…」
「正しくは合成とかキメラの方だけどな。…ああそうだよ。ボクはとっくに死んでいて、人形として活かされてるのさ」
生きるではなく、活きる。
実験材料として扱われている事実をアッサリと肯定した。
士郎はその清々とした表情に、元居た世界での間桐慎二を思い出した。
思い返せば、主に性格面で、他人の空似にしては共通点が多すぎる。
「慎二…」
「衛宮、頼むから安い同情はよしてくれよ。ボクはこれでも満足してるんだ。魔術も使えるように成ったし、才能だってお前らが認めてくれはする。遠坂だって出し抜いたしな」
こう言っては何だが、転生者と言うしかない衛宮士郎にとっては、慎はこちらで出来た初めての友達でもある。
士郎は気が付かなかったのではなく、気が付きたくなかったのだと、自分で自分を騙していたのだろうと、今更ながらに思い至った。
「腹が立つのは、勝手に改造された事さ。せめて選択肢があって、自分で選べたら違ったのかもしれないけどな。いっとくけど、復讐とかはこっちで勝手にやるから」
慎の言葉に、二人は口を挟まない。
挟んで良い事でも無いし、大人でも無い二人に掛ける言葉などあろうはずがないではないか。
「だからさ、せめて建設的にいこうじゃないか。ボクはこの聖杯戦争を解決する。さあ! 亜種聖杯があるってこと、大聖杯がヤバイってのは判った続きはどうなんだ?」
「…六十年のサイクルが十年で再開された。思うに、エネルギーは限界まで溜まって居たのよ。もともと危険なの。それなのに、複数の亜種聖杯で、これまで以上に注ぎ込んだら、後は判るでしょ?」
慎二の境遇に、オルガマリーも同情しなかった。
土台からして、彼女も他人を同情できるような余裕は無いのだ。
直死の魔眼は依然としてコントロールしきれてないし、把握しようと集中したら負担が大きくなる事、できるだけ意識を集中しないようにするのが精いっぱいだ。
それだって、自分に暗示を掛けているので、酷く注意力が散漫になるという欠点を抱えている。
火の付いた爆弾と言うなら、彼女とて同様なのだから。
「少なくともこの街に亜種聖杯が四つ。サーヴァントや上級の使い魔を倒すと魔力に還元されるとして、どこかで使い切るか、願いで相殺しないと最悪世界は滅亡するわ」
「おおげさじゃないか? そりゃ、俺達が居るこの街が吹き飛ぶだけでも嫌だけどさ」
「衛宮。忘れてるぞ、霊脈はもともと全世界規模で繋がってるんだよ。それに、日本は竜脈の上にあるんだ」
どう考えても破滅する直前である。
仮定が正解なら、という大前提に立っているが、眼の前で慎が人形だと言うこと、サーヴァントのエネルギーが還元されたことで算出できたと言われては信じるしかない。
「なら、他の魔術士とかに相談したらどうかな? 俺達だけで解決するには大事過ぎる」
「無理でしょうね。苦し紛れとしか思われないし、昔からカサンドラは嫌われるのよ」
「そりゃ不幸を予言されて、嬉しい奴なんかいやしないよ」
どう考えても袋小路である。
それこそ聖杯に祈って、協力者でも集め居ないと仕方無いレベルだ。
「ならしょうがないな。個別に説得して、駄目なら俺達で聖杯を相殺する」
「それしかないわね。まずは冬木の御三家ってところかしら?」
「御爺様が聞いてくれると思う? 自分の寿命延ばす為に使う方にボクは賭けるね。あと…遠坂に連絡する手段なんて持ってないよ」
消去法で士郎が決断すると、二人も異論は無かった。
オルガマリーがアトラムを無視するのをスルーしながら、慎とも慎二とも付かな最後の一人は肩をすくめる。
「そういえば俺も遠坂と交流ないな。桜も知ってるか怪しいし、藤ねえに迷惑かけたくないし…。ここは学校に潜り込んで話すとして、アインツベルンから説得するしかないかな」
「でも、アインツベルンが聖杯戦争止めようって話に同意するかしら?」
やっぱり難しいかな?
士郎が愚痴りそうになった時、思わぬ助け船が入った。
文字通り、船に乗って…。
「アインツベルンなら今回の聖杯戦争がおかしいって言ってたぞ? できればてめえと話しがしたいとも言ってたな。まあ、罠の可能性もあるが」
「モードレット! 御帰り…その話は本当なのか?」
「罠じゃないの? というか、どこでアインツベルンと知り合ったのよ」
ようやく合流を果たしたモードレットの話に、士郎達は騒然となった。
なにしろ先ほどまで行き詰まって居た相談が、ここに来て、一気に進展したのである。
「ダチと飯食ってたら、向こうから話しかけて来てよ…。まあ、罠の可能性は否定できねえな」
そして…一同の話を、遠くから見守る影が一つ。
(世界が滅亡する…ね。心当たりがあり過ぎて、嫌になっちまうぜ。さて…本当ならこのまま付き合うのはヤベエなあ)
竜眼球と呼ばれる上級礼装を通して、一同の会議を伝えて居たのである。
間桐慎二、死亡確認!
今まで隠し通し、というか気が付かないフリをしていた事実が発覚しました。
また世界の破滅に関して、一同ともう一名の間だけ、共通化されます。
ところで、妙に運の良いフラグがやってくるわけですが、モードレットは運Dだけど、今回使ってるのはモーさんなので運A。
そして、慎二と組んだらへっぽこになるけど、何故か運だけは上がると言う、本家・エクストラ仕様を考えると、モーさんが幸運の使者扱いなのは仕方が無いと納得していただけると助かります(勘違いもあってアインツベルンの認識は四次+@レベルですが)。
慎二自身も、実は死んでて人形としての寿命は短いのだけど、スパさんの魂を格納したので寿命がちょっと延びてる感じです。
なお獅子GOさんは、少年たちより駆け引きに慣れてるので、使い魔を囮にさらにレンジの広い竜眼球を使って居ます。
権能:『アトロポスの鋏』
オルガマリーが持つ、直死の魔眼と千里眼コンボに焼却式ではなく、正式名称を付ける場合の名前なります。
人や物の寿命が確定し、KOEIゲームよろしく、「将星遂に堕つ」とイベントが表示されると、死亡が確定。
オルガマリーが完全にサーヴァント化したり、世界と契約して抑止の化身や女神とかと合一すると、人物や世界が剪定対象になって未来の無くなった段階で焼却されていく感じ。
こうなると世界に取り込まれ、死ぬに死ねなくなる未来がやって来る可能性が出て来るので、英雄王的には、女神嫌いだし今の内に死んでおけ…となります。