Fate/promotion【完結】   作:ノイラーテム

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限界迫りしはタイムリミット

「今ならランサーとマスターを分断出来ると判っては居たが…。くそっ、八枚舌の高笑いが聞こえるようだっ」

「お陰でやる事が一本化したと思えば良いではありませんか」

 せっかく倒したランサーの魂は、アトラムが用意した亜種聖杯の一つに格納されて居なかった。

 可能性があったのはアインツベルンの小聖杯だが、距離的に言うとマスターであるホムンクルス以外には無い。

 ライダー陣営が回収して行った為、聖ジョージが言う様に目的自体は一本化されている。

 だが片目を失い、手駒であるスパルトイも大きく減らしたアトラムが楽しいはずもない。

「ああ、そういえば。スパルトイ達は計画の第三段階に突入した個体が現われ初めました。かの征服王が呼び出した王の軍勢の中でも、そこそこの腕には当たるでしょう」

「…教育係が出来るようになったのは朗報だが、『本命』の方は?」

 竜牙兵スパルトイには段階がある。

 同じ竜牙兵のドラゴントゥースウォリアーよりは強くて知性がある従兵級、技や戦術を使える騎士級、そして上級騎士として従卒・騎士を指名できる…弱い英霊レベルだ。

 

 そう、彼らの本命とは英霊に匹敵するコンストラクトを製造する計画。

 本来の英霊に加えて用意できれば、亜種聖杯戦争を起こしても有利になる。

 そうなれば買い手は幾らでも出るだろうし、単なる護衛としても十分だ。

「魂の強度ですか? それはマスターが御調べに成った方が早いでしょう。亜種聖杯に利用できるかは私の領分ではありません。ですが、第四段階…将軍・剣豪級まで届けば確実かと」

「それを聞いて安心したぞ。ならばこの馬鹿馬鹿しい戦いにも意味があったということだ」

 そして最も重要なのは…『亜種聖杯に格納出来る』かどうかであった。

 英霊化したスパルトイが、本来の英霊の二分の一であろうが三分の一であろうが魂と魔力を有するのであれば、この聖杯戦争での勝利自体が強奪できる。

 その技術ごと売る以前に、聖杯を使って大抵の現世利益は享受できるだろう。

 失った片目を取り戻すことなど簡単だろうし、出来ずとも最高クラスの魔眼を購入する事すら難しくないに違いあるまい。

「ならば確実に数体分の魂を格納する為に、こちらの亜種聖杯を連れて戦うとするべきだな。狙い目は遠坂のアーチャーか、それともアニムスフィアとアインツベルンを連れて居るライダーか…」

「それなのですけれどね。キャスターの話では、あちらの陣営に対する『七日殺し』の呪いを解いては居ないそうですよ?」

 自分でも気が付かない内にアトラムは、一体倒して撤収すれば十分だった採算を、数体倒せば聖杯戦争に勝利できるという欲望で塗り返してしまった。

 聖ジョージはその展開に満足しつつも、やる気の無いアーチャーではなく、乗り気であり戦闘意欲旺盛なライダーに対して煽るのであった。

「では、キャスターに対して取引をするか。執行者に対する見返りと引き換えに、数日後に自害。ただし倒せば自害指定は取り消すと言う当たりで十分だろう」

「それなら誓約の範疇に収まるでしょうし、勝てば良いので承諾しそうですね」

 キャスターがライダーと相討ちでも良し、生き残って誓約を解除しても構わない。

 小聖杯を奪えば…、そして消耗したキャスターならば正面から戦っても有利であるし、マスターとも取引できるだろう。

 アトラムはそう期待し、聖ジョージはその交渉で起きるヒューマンドラマにこそ期待した。

 

 一方で、キャスターの仕掛けた『七日殺し』、宿り侵す死棘の槍(ゲイボルク)は静かにそして着実に侵攻しつつあった…。

 ゆえに、否応なく彼らは戦いに巻き込まれることになる。

 ライダーが周囲の警戒に赴き、森の一角で休んでいる時の事。

「ねえ、シロウ。そいつ何?」

「アサシンのマスターであるオルガマリーだよ。アニムスフィアって言う大きな家の娘さん」

「大きな家って…。仮にもロードに対して呆れたものね。追われてる間は何の意味も無いけど」

 胡散臭いモノを見るイリヤから、士郎はオルガマリーを庇った。

 流石に人に対して誰? はともかく何? は酷いだろう。

 その事が筋違いであるのに気が付いてはいたが、オルガマリーは士郎の心遣いに感謝した。守ってくれる気が在るのは非力な魔術士と言えどありがたい。

 そんな浅ましい計算と恐怖に埋め尽くされて、少女は自分の中にあった気持ちのヒトカケラに気が付かない。

 本当は嬉しかったはずなのだ。アニムスフィアの家系である事よりも、ただのオルガマリーとして大事に扱ってくれたことが…。

「アニムスフィアは随分な技術に手を出したのね。遥かギリシャに居たイカロスって知ってる?」

「第三魔法を追いかけてるアインツベルンに言われたくは無いわ。冒涜と無謀では現実度が違うと思うけど」

 士郎を挟んで二人の少女達が冷戦を始めた。

 チクチクと突きささる視線と皮肉の応酬に、少年はタジタジとなる。

「おいおいおい。二人とも、こんな所で喧嘩しないでくれよ。慎二、お前も何か…?」

 そんな中で士郎は、ちょっとした違和感を感じ始めた。

 

 いつも身近にあって、魔術で抑えてもらっているはずの痛みが、僅かに許容値を超えたのだ。

「衛宮…お前いい加減鈍感だな。そんなんじゃ将来に苦労するぞ? まっ、こんなチビッコに苦労するなんて、今だけの苦労だろうけどね。ハハハっ」

「なによマキリの後継者はレディにして随分と失礼なのね。前回と随分違うし、とうとう馬脚を現したってことかしら?」

「あら、人形に対して後継者扱いなんてアインツベルンは随分と寛容なのね。ああ、貴女もホムンクルスだったわね」

 冷戦が酷くなった!?

 二人の仲を仲裁するどころか、慎二は地雷を踏み抜いた。

 同時に突き刺さるカウンターの嵐に、少年のライフは次第に減って行く。

「勘弁してくれ。いい加減に次の……っ?」

 言い掛けて、士郎は大きくなる違和感と痛みに、思わず腕を抑えた。

 まるで体の中で、何かが大きくなる様な、あるいは、置き換えられていく様な痛み。

「どうしたの士郎?」

「あれ、痛み止めはまだ聞く筈だけど?」

「…っ!?」

 首を傾げるイリヤと慎二と違い、オルガマリーはハッキリと顔色を変えた。

 それが明らかな、踏み絵であると気が付かずに。

「どうしてこんなになるまで放っておいたのよ! シエロさんの腕に何が入って居るの? 古代の術者は自分に矢を撃って強化したとか言う自爆技もあるけど、まさか試したんじゃないでしょうね!?」

「まさか、クーフーリンの奴、呪いを止めてないって言うのか!? 衛宮しっかりしろ! って言うか、会った時に条件とか付けなかったワケ?」

 オルガマリーが意識した瞬間に、違和感も含めてハッキリと固定化され始めた。

 

 ギチギチと侵攻する寄生する枝先、あるいは森の木々の一つとして起き変わる寄生の呪い。

 宿り侵す死棘の槍(ゲイボルク)は即死しない場合でも、『七日殺し』として機能する呪いなのだ。

「いやさ、一時的な共闘だし、解除するならゲッシュが条件って言われて止めといたんだよ。それに集中力が増してたから、…そっかオルガマリーが言う様な修行法もあったんだな。そんなこと知ってるなんて凄い…」

「シロウ!」

 士郎が崩れ落ちると、投影した礼装は砕け散りガラスのように華やかに消えて行く。

 咄嗟にイリヤが支えようとするが、小さなその体で叶う筈が無い。

「バッカじゃないのか!? なんとか治療しないと…」

「もう無理よ。この調子ならあと二日ほどで…。話を聞く限り、心臓に届くか外に発芽して栄養を持って行かれるわね。参ったわ…」

 慎二は罵声を浴びせながらも、驚いて士郎の面倒を見る為に脈や魔力の動きを確認し始める。

 それとは逆に、オルガマリーはどこか冷静な目で現状を把握しようと努め始めた。

 本当は自分も驚いてすがりつきたいのだが、貴族として育った彼女がそんな無様を晒せるはずも居ない。

 

 むしろ状況を良くする為に、自分だけは冷静に成ろうと…。

「計算が狂ったわね。このままじゃ戦い抜け無いし、そりゃサーヴァントには劣るけど、規格外の投影は惜し…」

「なんだよソレ! お前は心配じゃないのか!? こんなになったボクらに馬鹿みたいに付き合ってたんだぞ? その言い方は無いだろう!」

「それにその魔眼は何なの? 確かにシロウのバイタルは安定して無かったけど、急に症状が確定したわ。何かしたんじゃないの?」

 オルガマリーは知らなかった。

 慎二はこう見えて友人は大切にする方だし、人形何かに改造されて、それでも平然と付き合う士郎に何より救われている事を自覚していた。

 イリヤは家族の絆を何より求めているし、会った事も無い自分を家族だと認めてくれる事を何より嬉しいと自覚していた。

 オルガマリー自身も守ってくれている事をありがたく思っていたが、致命的なことに、乙女チックな自分が士郎に惹かれて居る事にこれっぽちも自覚していなかった。

 

 だからこれは自業自得なのだろう。

 オルガマリーは自分が阻害され始めたことをハッキリと自覚し、そして自分のせいで士郎が追い詰められている事を自覚してしまった。

「あ、私…。違う、私はそんなつもりじゃ…現状を把握して少しでも良くしようと」

 慌てて意識を魔眼や患部から反らせるが、もう遅い。

 衛宮士郎の運命はあと二日と確定してしまった。

 これを覆すには…。

「そうよ、二日以内に解呪すれば…」

「神代のキャスターに対して? まあ倒せば良いんじゃない? この状況で万全に戦えると思えないけどさ」

「シロウ…」

 極めて建設的な意見。

 だからこそ、慎にはオルガマリーへの反感を抑えて検討し始めた。

 だからこそ、イリヤはオルガマリーへの反感を抑えて士郎の容体を診ることにした。

 

 どう考えても許されないと自覚して、オルガマリーは最後の踏み絵を口にする。

「方法が無くは無いわ。私が生き延びるために仕方無く使った、デミサーバント化の術式。それを使えば万全とはいかなくとも戦えるくらいにはっ」

「そんなに人体実験をしたいのかよ! そりゃいいさ、お前んちはそれで成果が出るからなっ」

「最低…っ。でも他に何も思いつけない私はもっと最低っ…シロウどうしたらいいの…?」

 ここに運命は確定した。

 ケルトに置いて、枝は剣や槍にも通じる概念だ。

 体が剣で出来て居るエミヤシロウに取って、それはあまりにも致命的なほどに相性が良過ぎた。

 植物に寄生され、置き換えられていく衛宮士郎は、順調に人間としての階段を踏み外す。

 ギチギチとギチギチと、(つるぎ)は体の中を侵攻し、どうしようもなく英霊エミヤに置き替えていく。




魔術概念『転生術式』
 能力を失いかけた術者が、矢・槍を自分に放たせ、生き残れば能力が向上し、失敗したら宿った魂を、後継者が利用するというモノ。
この概念がある為、才能のある生贄は割りと集め易いとか。
 衛宮士郎が高い集中力を発揮し、アトラムみたいに次々と礼装・アレンジの開発に成功していたのは、この為でもある。

 と言う訳で、士郎の寿命が確定しました。
放っておけば二日で死亡、術式が成功しても人間失格。もちろん普通にキャスターを倒せれば無問題ですが。
次回は教会に戻った後、キャスターに挑みに行くまでとなる予定。
 なお、この話の前ではオルガマリーの士郎への気持ちは、打算と保身と安心感が98,2%、残り1,8%くらいが乙女回路になります。まあそこまでイベント来なしてないし吊り橋効果で少しくらい。
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